ゆきんこあるけみすと   作:じいて

7 / 20
23/10/31、丁度【あるけみすと】で最初のハロウィンの日の二人のお話。あの日あなたはどんなアイコンで過ごしていましたか?
(半年前の記憶が10割無いのを良い事に10割捏造して書きました。事実と違っても許してください。)



【閑話 彼が彼女になった日】

【一】

──先程まで杯を酌み交わしていた冒険者の姿が、瞬きの間に変わる。一人だけではない。酒場のあちこちで次々と。肉体変異とか変身だとかそういう次元で無く、”元々そこにその姿で居た”かの様に何の前触れも無く。

 

幻覚を見せられていると教えられた方がまだ得心が行った。だが同じ席に付いていた冒険者は伝えてくれた。若干の哀れみや優越感を含んだ目線と共に、何も知らぬ彼と少女へと。その、言葉を──。

 

【ハロウィン】。

 

カボチャやカブをくりぬいて作る「ジャック・オー・ランタン」(Jack o'lantern)を飾ったり、子どもたちが魔女やお化けに仮装して近くの家々を訪れてお菓子をもらったりする夜のお祭り(*wikipediaより抜粋)。今日は正しくその当日であり、それゆえ皆浮かれに浮かれているのだとか。

 

「???」

 

「なるほど仮装かぁ。仮装ね、ハハ……」

 

再度辺りを見渡す。なるほど確かに普段と同じ姿の冒険者はあまり居ない。仮装と言うにはそもそもの骨格から変容している気がしなくも無いが、この世界の”仮装”とはそういうものなのだろう。

 

「良かったらお前達もどうだ?50マーで”この姿”になれるぞ」

 

そう言う冒険者の姿もやはり、平素とは全く異なった姿形だった。

──宝石の如く輝く肌。はちきれんばかりに躍動する体躯。そして何より目を引くのは、愛らしい猫の頭部。一言で言うなら”猫バルク”。そうとしか言えない異様な姿で、冒険者は彼──ユタの顔を覗き込んで提案した。

 

「あ、結構です」

 

首を傾げたポーズで固まっているゆきんこをひったくり、ユタは逃げる様にその場を後にした。

 

 

【二】

メタ的な解説を挟むと、酒場の冒険者達の”仮装”はシステム上可能な事だ。このハロウィンの時点(23/10/31)であるけみすとにおける自キャラアイコンは有志による自作も含め1000以上という豊富なバリエーションの中からの選択が可能だった。それゆえにこのお祭りムードを利用して普段とは異なるアイコンを試す人も多かった…………のかもしれない。

 

ともあれ、それが彼等にとってそれが非常に衝撃的かつ奇々怪々に映ったのは言うまでも無いだろう。

 

『飲み直しだ、飲み直し!忘れる位飲まないと絶対に夢に出るからな……!!』

 

酒場を立ち去った後、ユタはそう言うと最寄りのバーへと逃げ込んでカクテルを浴びる程呑み、そして当然に潰れた。現在はゆきんこが手を引きながら宿へと向かっているところである。

 

「ゆきんこぉ~、肩も貸してくれよぉ」

 

「冗談言わないで下さい。重いし酒臭いです」

 

酒場の喧騒が嘘だったかのように夜の町中は静かだ。とうに夜の帳は落ち切り、仄かな星明りだけが足元の石畳を照らしている。

 

「…ん?」

 

冷たい夜風を浴びて少しだけ酔いから覚めた気になっていると、ユタはふと違和感に気が付いた。

 

「なぁ」

 

「何です?」

 

「お前の手、こんなにごつかったかな」

 

もみもみと少女の手を弄びながら、心底疑問そうな声色で問いかける。そんな彼の言葉に少女はなんてこと無いように答えを返した。

 

「こんなものでしょう。鉄爪なんて握り締めながら数週は過ごした訳ですし」

 

「そうか?」

 

「そうですよ」

 

静かな時間が再度訪れる。少女のヒールがかつかつと、彼のブーツがこつこつと。互いに聞きなれたリズムに身を任せながら、少し見慣れた道を歩き続ける。

 

何も不思議な事は無い。意固地に力を求めるユタに付き合うなら、ゆきんこもまた同じ道の茨に苛まれるのは必然だ。歩みを止めない為に考えない様にしていたそれが、ほんの少し垣間見えただけの事だった。

 

「もう普通に歩けそうだ、離してくれ」

 

「ダメです。さっきから何度もよろついてるじゃないですか」

 

「そっかぁ」

 

 

【三】

「ヒエッヒエッヒエッ…ちょいとそこなお綺麗様方、ちと見てかんかい」

 

「?」

 

暫く無言で歩いていると、斜め前の道端から外套で身を包んだ怪しげな風貌の男が二人に話し掛けて来た。横目に見た所露店のようだ。胡坐をかいていくつかの薬瓶、魔道具らしき物を並べている。

 

「寄り道をする気は無いです。もう眠いので」

目を擦りながらゆきんこが言う。

 

「そうかい…。そっちのお兄さんはどうだ、安くしとくよ」

 

「あぁ?魔道具はさっぱりでなぁ」

 

「効果さえ分かりゃ誰だって使えるさぁ。そうだね…これなんかどうだい」

そう言うと、男は幾つか商品を抱えてこちらに歩み寄って来た。

 

(酔っ払いと小娘ぐらいならカモに出来ると思われたんでしょうか、めんどくさいですね…)

「オマエ、さっさと行きますよ」

 

心底面倒そうな顔と溜息を隠そうともせず、ゆきんこはそのまま素通りを試みる。先ほどまで掴んでいた手をまた引いて──

 

「あれ?」

 

しかし残念かな、その手は空を切った。

 

「まぁ酒で気分良いから見てやるよ、どれどれ」

 

「オマエ?????」

 

 

結局ユタはゆきんこの静止を聞き流し、その場のノリと好奇心で一つの飲み薬を購入した。

「宴会芸にでも使うと良いぜ、旦那」と大した説明も無しに渡されたこの薬は、ちょうど50マーで買えるお手頃価格だったという。

 




タイトル通りユタくんが性転換した時のエピでした。
ちなみに薬服用前と後で二人の関係性に変化は一切無かったりします。プラトニックですね。

次:【英雄譚の終わり①】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。