ゆきんこあるけみすと   作:じいて

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【英雄譚の終わり②】

【三】

(ゆきんこはもう暫くは町の外に出られないと医師に告げられた時、おれは嬉しくて嬉しくて堪らなかった)

 

(あいつの存在が単純に、”英雄”の邪魔だったんだ)

 

(ずっとずっと足りないと感じて居た。真の英雄(あのひとたち)に辿り着くにはきっと、おれの中にまだある”俺”を完全に斬り捨てなきゃいけないんだと。敵も自分も何もかも、全て斬らなきゃ至れないと)

 

(だから離れて欲しかった。間違えて斬ってしまわないように、何処か手の届かない場所に居て欲しかった)

 

(おれは一人で強くなれるんだ。おまえはおれなんぞ気にせず、ただあの時の恩を返されてくれ。どうして放って置いてくれないんだ、傍に居てくれるんだと)

 

(ずっとずっと、そう思っている)

 

 

 

 

今までユタとゆきんこは別れて探索に向かった事が無い。理由はいくつか有るが、最たるものは”ゆきんこが勝手に付いて来るから”だろう。ユタが故意に何も告げずとも、ゆきんこは彼女が町の外へ向かうのを察知してそれに同行するのだ。

 

言うまでも無く、他者と連携して行う物事は一人のそれよりも気軽さが断然に違う。命の危険を伴うなら尚更だ。”英雄”への焦燥に駆られるユタがギリギリで安全マージンを意識して来られたのは、間違いなくゆきんこの存在のお陰だった。

 

しかし今はそれも無い。

 

夜遅く、皆一様に寝静まる時間帯。鞄を背負い斧槍を担いで、ユタは隠れる様にして宿を出た。

 

 

【四】

 

 

「ん……」

 

何か物音が聴こえた気がして、夜遅くにゆきんこは目覚めた。光源は無く、窓から射す月明かりだけが手元を照らしている。

 

「何なんですか、もう。【真、第一階位の彩、再現。光、輝き──光明(ライト)】」

 

異国の言語での詠唱と共に、枕元の本が仄かな光源と化す。室内は平素と変わりなく、今朝との違いはベッドの隣の皿上から果物が消えているぐらいだ。物音の元凶と思しきものは見当たらない。

 

「……?」

 

しかし依然として物音は聴こえてくるままだ。ガサガサと何かが揺れる様な音が囁く様な音量でずっと続いている。

音だけでは無い。全身がまるで暴れ馬の馬車に乗っているかの様な衝撃もだ。実際はベッドの上に寝転がっているだけだと言うのに。

 

「何なんですか、もう!」

 

安眠を阻害された不快感への苛立ちがゆきんこの身を動かす。右腕になるべく負担を掛けない様に立ち上がり、寝間着姿のまま部屋を出た。

 

「(コンコンコン)オマエ!何か夜中に暴れて無いですか!?……【|真、第三階位の技、再現。解放、解錠──開錠《アンロック》っ】」

 

そのまま隣部屋のドアに寄りノックを三回。返事が無かったので解錠魔法をノータイムで使い開けた。プライバシーは無い。

 

……そのまま本をかざして室内を照らしたが、黒髪の女性の姿は何処にも無かった。

 

「……オマエ?」

 

”置いて行かれた”とゆきんこは直感した。ユタが一人で探索に向かう事を諦めていなかった頃、丁度ハロウィンの少し前辺り。ゆきんこは全く同じ事態を経験していたからだ。

 

「~~~~~っ、本当に、あのバカ!!」

 

揺れる音と感覚の正体は、ゆきんこが密にユタの鞄に仕込んで置いた蛇の使い魔(ファミリア)との感覚共有に因るものだった。きっと既に深層に辿り着いて居るのだろう。ゆきんこはぐっと叫びたくなるのを堪え、足早に駆け出した。

 

 

【五】

 

 

第九層、慟哭の地レガリアにて。

 

「斬る!斬る!斬る!!」

 

黒髪の斬鬼が舞う毎に血飛沫が飛ぶ。身の丈を優に超える白銀の斧槍と共に嵐の如く荒れ狂い、墜つる隕石さえも双つに斬り別って進む。

桃色の瞳は爛々と、秒毎に増えて行く切創を気に掛ける事も無くただ前/過ぎ去った過去だけを見つめていた。

 

(これだ、これだ、これだ!これこそが!!!敵も味方も無い、全てが斬るべきもの!おれの糧!!!)

 

「ははははははははははは!!!!!!」

 

狂った様な笑い声を上げるユタの元へ、魔物は虫の様に集い続ける。得物を振るえど振るえど尽きず周囲を埋め尽くす敵群を視認すると、ポーションをぐっと飲み干して更に吠えた。

 

「楽しい!楽しいな!!なあ、お前等はどうだ!?」

 

返答は無い、聴こえるのは断末魔の慟哭だけだ。それにいっそう気を良くしたユタは、更に口角を上げようとして──

 

「まっっったく!楽しくないですね!!!」

 

──鈴の音の如く響いた聞き覚えのある声に、すんと口を結んだ。

 

振り返って魔物と魔物の間から垣間見えた先に見えたのは当然、不機嫌極まり無いと言った表情で佇む薄水髪の少女。ゆきんこそのものだった。

 

「何で、お前……!」

 

ユタの頭が瞬時に冷え切る。どうして、どうやって此処に来たかどうかを考える余裕は無い。”万全でない以上、何もしなければ間違いなくゆきんこは死ぬ”という未来をどうにかするのが最優先だと思考を即座に切り替えた。

 

(接近して守れる間合いに入れる、駄目!無理に動ける状況じゃない上、乱戦に巻き込むから後が怖い。だからって放置するか?無理だろ、魔法で遠距離はともかく今のあいつに近接戦闘は出来ない。手斧で撃ち落とすにも二体以上なら手数が足りない…守り切るのは不可能!)

 

「馬鹿野郎、さっさと帰れ!死にたいのか!?」

 

「オマエにだけはそれ言われたくないんですが!?!?」

 

ゆきんこは青筋を立てて怒鳴った。魂の叫びだった。

 

「(深呼吸)……策はあります。纏めて吹き飛ばすので、自分の身だけ守って下さい!」

 

守る(信じない)信じる(見捨てる)か。逃走は破却され、ユタには二つの選択肢だけが残った。

既に一部の魔物の顔はゆきんこの方向を向いている。迷っている時間は無い、次の瞬間の行動で二人の運命は決まるだろう。

 

「~~~ッ、信じるからな!」

 

予断を許さない状況下、ユタはゆきんこの提案を受け入れた。

 

「はいっ!……【真、第十階位の攻、再げ(ブリ)

 

詠唱の完成を待たずして、幾つもの凶刃がゆきんこに迫る。ユタの投擲した手斧がうち二体の脚部を的確に刎ねるも、残る数体は止まる事無く。

 

その身体を鬼の金棒が撃ち砕き。騎士の剣が別ち。そして、魔女の火球が灼いた。

 

「ん。冷気、吹雪、嵐風──猛雪!!(ザード!!)】」

 

しかし声は淀みなく。乱戦の中央、ユタから”ゆきんこだったもの”と対称を為す位置から終の句までを読み上げた。

 

「幻術は得意です。何せ人生の半分は費やしたので」

 

そして次の瞬間、突如として辺りが吹雪に包まれた。命を拒絶する銀世界、打ち砕く氷塊の驟雨が絶え間なく敵を襲い続ける……!




以降解説の機会も無いのでネタばらしをすると、ゆきんこが幻惑の為に使用した魔法(SW2.0サプリWT記載)は次の通りです。

【インスタント・ゴーレム(囮作成)】【ディスガイズ(事前に囮ともども魔物に変装+囮を本体に偽装)】【チェンジ・ポジション(ディスガイズ直後に向かい側へ瞬間移動)】【リプレイス・サウンド(チェンポジ後も声だけ囮の位置で発生させられる)】

しっかりキャラシに載ってる技能の範囲内!実際にやれる動きだよヤッター!!!(実際は≪鷹の目≫≪魔法誘導≫持って無いと無理ですが、事前に【マジシャン】で付与してたってことでひとつ………………)
本当は【サーマル・イリュージョン(温度偽装)】も合わせれば【ブリザード】詠唱にそれっぽさが増して楽しそうだな~~~って思ったけど、非補助動作(瞬時に使えない)→【ブリザード】を使うまでで普通に囮が壊れちゃうので泣く泣く断念しました。悲しい。
ウィザードだと色々魔法使えて面白いね。

次:【英雄譚の終わり③】
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