ディエゴが向かった先の屋敷は、住人や使用人、衛兵の姿さえ見えなかった。
しかし人の気配は確かにする。
2人分、特に強い魔力を感知した彼は直ぐにそれが領主と話していた魔族とその配下である事を察する。
「近いな…上の階か?」
魔力とは別に感じる未知のエネルギーは距離が近付く毎にその強さを増していった。
―奴らとの接触は避けたいが…せめて、このエネルギーの正体は早急に確かめたい。
―見当違いならさっさと帰るだけだ。
屋敷の中に入った彼は階段を足音を極力抑えながら上がる。
予想通り、上の階に上がるとエネルギーは更に増した。
―今度は上じゃあない、向こうの部屋から感じるぞ…!
魔族達と同じ階にいるが、彼らは何やら更に向こう側の部屋まで行きそこで何をしているのかは分からないが戻る様子が無い為更に突き進み、突き当りの部屋の扉を開けた。
そこにいたのは、椅子に縛られ血塗れになってあるこの地の領主、グラナト卿だった。
あの魔族達から拷問を受けていたのだろう。
グラナトは呻き声を上げながらディエゴの方を向く。
「お…お前は…あの通りにいた…」
「グラナト、と言ったか。あの魔族は和睦の使者じゃあなかったのか―」
縛られている彼の元へ歩み寄ろうとした時、前後の扉が同時に開かれた。
「おっさん、助けに…ってアンタはあの時の…!」
「リュグナー様、鼠」
「なんてこった…!」
赤髪の少年、シュタルクと魔族達に板挟みとなったディエゴは表情を歪める。
「誰かと思えばフリーレンの付き添いと野良の魔族か。魔族の方はどうやってフランメの大結界を越えてきたのかは知らんが…まあいい。見逃してやる、ここから去れ」
「お断りだ。目的がある以上ここを退く訳にはいかん」
「俺も同じだ。お前達を倒す為にここに来たんだからな」
―どうやら展開的にはこの少年と共闘する事になりそうだな。
隣に並んだシュタルクを横目で見ながら、ディエゴは攻撃の準備をする。
「そうか、では死ね」
そう言いながらリュグナーは血の滴る右手を構えた。
「
すると、右手から滴っていた血が突如無数の棘の形を成し2人に襲いかかった。
「があッ!!」
シュタルクは咄嗟の防御で致命傷こそ防いだものの、手足に棘が突き刺さり床に磔にされた。
「無駄だ無駄ァッッ!!!」
一方ディエゴはザ・ワールドのラッシュで襲い来る全ての棘を砕いた。
スタンドの見えないリュグナー達は不可視の攻撃で自身の攻撃魔法が打ち砕かれる様子に困惑する。
「新手の防御魔法…?いや、それ程の魔力は感じなかった…」
その間に、ディエゴは懐から数本のナイフを取り出した。
「貴様らに、「再起不能」という言葉を教えてやる!!」
「っ!来るぞ、リーニエ!」
「はい」
2人は次の攻撃に備え防御魔法を展開しようとする。
しかし先手を打ったのはディエゴだった。
「ザ・ワールドッ!!俺だけの時間だぜ!!」
時の止まった世界で、彼は右手に持っていたナイフを2人に向けて投擲した。
首に2本、心臓に2本。
2人の目前まで飛び静止したナイフの切っ先は確かに人体における急所を捉えていた。
投擲を終えたと同時に5秒間が過ぎる。
「時は動き出す……!」
静止した時が動き出した。
リュグナーとリーニエは突然目の前に現れたナイフに動揺し、リーニエは致命傷を避けたもののリュグナーの方は防御が間に合わずに首と胸部にモロに受けてしまった。
大量の血を流し、呻き声を上げながら蹲ったリュグナーは一矢報いようとまたバルテーリエでディエゴを串刺しにしようとした。
だが、その棘が彼に届くことは無かった。
ディエゴの心臓に突き刺さる一歩手前で棘は形を失いただの血液となり絨毯に赤黒い染みを作る。
リュグナーは窓の外から放たれたゾルトラークによって胸部を貫かれていた。
「ば…か、な…リーニエの魔力探知をどうやって…」
リュグナーは死ぬ直前、その問いの答えを直ぐに見出した。
「そうか…貴様ら、魔力制限…を……」
何か恨み言でも言いたそうな顔をしていたが、それを言う前にリュグナーの肉体は消滅した。
彼の死を確認した後、窓の外を確認するとそこには飛行魔法で空中に滞空していた女の魔法使いがいた。
シュタルクとアイコンタクトを取っている辺り、どうやらこの戦いは概ねプラン通りということか、とディエゴは推測しつつ残りのリーニエの方に視線を移す。
3人に包囲されたリーニエは血を流しながら何も言わずに俯き、じっとしている。
「頼むから抵抗しないでくれよ……」
シュタルクが無抵抗のリーニエに歩み寄り、戦斧を振り上げる。
魔力探知でも魔法を行使する様子は無くシュタルクと魔法使いのフェルンはそのまま彼女が殺されてくれると思っていた。
―このエネルギーの出処…まさか!?
この屋敷に来る発端ともなった未知のエネルギー。
それは、彼女の「心臓」から発されていた。
「おいそこのお前!!逃げろッッ!!!」
「へっ!?」
ディエゴが警告した時にはもう手遅れだった。
周囲の音を掻き消すほどの重低音が鳴り響き、空気が激しく振動する。
これ程の異常が発生しているのにも関わらず、フェルンもディエゴも魔力の変動を捉えられなかった。
ならば、答えは一つしか無い。
「そいつは、「スタンド」を持っているぞーッッ!!!」
瞬間、部屋は下の階層をも巻き込んで粉微塵に吹き飛んだ。
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