大日本帝国空軍遂ニ勝ツ   作:要塞

1 / 11
77式軽攻撃機「隼」①

1978年 ポーランド

 

──なぜ俺は今こんなところで戦っているのか

巻島中尉は77式軽攻撃機「隼」の操縦席で、そんな益体もない思考を弄んでいた。

巻島中尉がまだ子供だった頃、空軍の花形といえば超音速のジェット戦闘機だった。

本格的にパイロットへの道を歩み始めた時もそれは同じだった。

だが現在ではそのような機体は戦場からは全く姿を消してしまっていて、巻島中尉は亜音速のプロペラ機を駆って、ヨーロッパの空で、人間でさえない相手と戦っていた。

そのギャップに奇妙なおかしみを感じたのだ。

 

とはいえパイロットになって以来隼と付き合ってきた巻島中尉には、この機体が亜音速のプロペラ機という言葉から受ける印象通りの低性能で旧式の機体ではないことがよく分かっていた。

むしろ機体を構成する技術という面で見れば幼少の頃憧れていた超音速のジェット戦闘機より遥かに高度な兵器と言っても良かった。

プロペラを駆動させる軽量で高効率なターボプロップエンジンや構造材として使われる炭素系素材、キャノピーを装甲化したことで失われた視界を補うセンサ群やインターフェースもさることながら、最も重要なのは左右の翼端に搭載された補助ロケットエンジンだ。

 

戦術機の跳躍ユニットのように本体の回転とノズルによる推力偏向で任意の方向に推力を発生させられる補助ロケットは、トン単位の兵装を抱えた上での地形追随飛行を可能とするだけの低空運動性を隼に与えていた。

小型軽量大推力で極めてレスポンスが良い高性能ロケットエンジンは、著しい発展を遂げた宇宙開発技術のスピンアウトによって開発されたものだ。

 

そんなことを考えているうちに視界内に土煙を立てながら進撃する突撃級の群れが現れた。

パレオロゴス作戦が失敗に終わった後ポーランド国内に撤退したWTO(ワルシャワ条約機構)軍が敷いた防衛線に向けて、ミンスクハイヴから侵攻する軍団規模のBETAの先鋒だ。

ただし突撃級の個体数はBETA梯団全体の規模に比べて不自然なほど少なかった。

巻島中尉の所属する飛行戦隊(戦術機甲部隊でいえば大隊に相当)による反復攻撃の成果だ。

条件によっては戦車の主砲さえ弾き返す装甲殻と最高時速170kmに達する俊足を活かした突撃で陣地防御を崩壊させる突撃級は特に脅威度の高い存在として集中的に狙われ、連日の出撃で戦力を低下させているWTO軍の戦術機部隊でも余裕を持って処理できるほどにすり減らされたのだ。

 

突撃級の分布と進撃方向を素早く確認した巻島中尉は小隊を降下させる。

航空機にとって最大の脅威である光線属種の射程は視界内全てと言っても良い。

現在の位置なら梯団後方の光線属種からは地形や他のBETAが障害となって射線が通らないだろうが、それでも万が一はあり得る。

そして小隊を高度20mまで降下させた巻島中尉は先ほど自らの目で(とは言ってもセンサー越しにだが)確かめた突撃級の位置と広域データリンクの情報を照らし合わせ、出撃前の計画を変更する必要がないことを確認した。

 

その後、小隊は突撃級集団の側面を距離を取ってすり抜けられる経路で飛行する。

小隊に与えられた任務は梯団の主力である第二波の襲撃だった。

度重なる攻撃によって密度が低下し、またWTO軍戦術機部隊と接触しつつある突撃級に対する攻撃は効果が薄いと判断されたのだ。

 

低空飛行する小隊の視界に再びBETAが現れたとき、巻島中尉の計画通り小隊はBETA梯団第二波の側面に移動していた。

小隊各機はさらに高度と速度を下げ、襲撃機動に移行し、翼端の補助ロケットが連続的に推力を発生させ始める。

速度の低下によって翼面が受ける揚力だけでは自重を支えきれなくなったのだ。

エンジンの推力によって自重を支え、ロール軸の回転(バンク)を伴わないまま進行方向を変化させる機動は、むしろ戦術機のそれに近い。

 

BETA梯団主力の側面に斜め後方から接近しながら、目についた大型種(主に要撃級)に向けて70mmロケットを撃ち込んでいく。

翼下に鈴なりにぶら下げた19連装ポッドから数発ずつ発射される70mmロケットを受けた要撃級は次々に撃破されていった。

絶命まで至らない個体も多いが、光線属種以外のBETAは機動力さえ削げばほとんど脅威にならない。

 

BETAの一部が攻撃に反応したのか旋回しこちらに向けて接近してくるが、それはもちろん織り込み済みだ。

接近するBETAと接触する前に小隊は旋回・増速して距離を取り始める。

低空飛行のために速度を抑えているとはいっても、隼は要撃級や戦車級より遥かに高速だ。

追いすがるBETAをあっさりと振り切った小隊は再び梯団主力に接近し、同様の手順で襲撃を行う。

後はその繰り返しだった。

襲撃の度に弾薬の消費と引き換えに要撃級と巻き添えになった周囲の中小型種が撃破されていく。

 

数度の襲撃で70mmロケットを使い果たした時点で、巻島中尉は小隊を帰投させることを選択した。

機首の機関砲を用いて攻撃を続けることも可能だが、それは危険で時間がかかる。

それよりも弾薬を補給して再出撃した方が合理的に戦果を挙げられるはずだった。

 

パレオロゴス作戦の失敗後、作戦に参加したNATO軍の残余が東欧社会主義諸国の軍隊を盾にして撤退を図る中、巻島中尉を含む大日本帝国空軍欧州派遣部隊は西側諸国の軍隊で唯一ポーランドの防衛戦に積極的に関与した部隊だった。

わずか1個戦隊、40にも満たない数の航空機について前線の将兵が何を思っていたのか知ることは難しいが、それでも彼らの奮戦はポーランドという国家の余命を多少引き延ばし、そして後の西側諸国の軍備に大きな影響を与えることになる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。