大日本帝国空軍遂ニ勝ツ   作:要塞

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77式軽攻撃機「隼」③

1975年 各務原基地

 

「これが試作機ですか」

 

格納庫の中に立つ二人の男の目の前にある機体は、遠目から見ればまだ航空機がレシプロエンジンで飛んでいた時代の、旧式のプロペラ機に見えたかもしれない。

 

「はい、パイロットの方には奇妙に機体に見えるでしょうが、制式機も外観はほとんどこのままで行くことになると思います」

 

だがその機体を近くから観察してみれば、航空機に詳しくない者ですら違和感を覚えることだろう。

 

「BETAによって奪われた空をもう一度飛ばせて頂けるわけですから文句などない、と言いたいところですがやはり自分の目で外を見れないのは違和感がありますね」

 

外観上の大きな特徴のひとつは有人機なら基本的に存在するはずの透明なキャノピーが見当たらないことだった。

可動式の乗降口となる部分は存在したがその素材は機体外板と同一であり、外見上は周囲の継ぎ目でしか区別できなかった。

 

「それについては申し訳ないのですが慣れていただくしかないかと。

従来機と同様の形式ですと光線属種のレーザーが素通しになってしまいますから」

 

「ああいえ、こちらの方こそ愚痴のようなことを言ってしまってすみません。

センサ越しの情報での操縦は試験機の遠隔操縦で体験させていただきましたが、問題にはならないかと。

それに初期照射をしのげるかどうかは大きな違いになりますからね」

 

 

 

「それと、今さらこんな質問をするのは己の不明を晒すようで気が引けるのですが、

なぜ翼端のロケットは戦術機の跳躍ユニットと同様の複合ハイブリッドエンジンではなく純粋なロケットエンジンになっているのでしょうか」

 

もうひとつの特徴は左右の翼端に搭載されたロケットエンジンだった。

戦術機の跳躍ユニットのように短いアームに取り付けられ2軸に回転出来る構造になっていることから、RATOのような離陸時もしくは上昇時に用いられる使い捨ての補助推進装置とは一線を画する役割を持つことは明らかだった。

 

「既存の航空機とはかけ離れた機体になっていますから、わからないことがあればいくらでも質問してください。

それで、質問についてですが、基本的には技術的なトラブルを回避するためです。

跳躍ユニットはロケットエンジンとジェットエンジンを単一ユニットとすることでレスポンスと燃費を両立した優れたエンジンですが、この機体のために跳躍ユニットと同様の構造を持つエンジンを新規開発した場合、開発経験のない複雑な構造に起因する技術的なトラブルが多発することが予想されました。

もちろん既存の跳躍ユニットの流用は戦術機とこの機体の重量差や、開発当初における跳躍ユニットの入手性の問題──何しろ当時は帝国に戦術機そのものが入ってこない状態でしたから──により不可能でした。

また跳躍ユニットは構造として二つのエンジンを縦に繋げたようなもので全長がどうしても長くなってしまいますから、戦術機のように十分な地上高があるならともかく、この機体の翼端に跳躍ユニットと同様の構造のエンジンを装備すると垂直離陸もしくは低空飛行の際に地面とのクリアランスが確保できなくなる恐れがあったのです。

このため、この機体では巡航用のターボプロップエンジンと瞬時に大推力を発揮できる翼端のロケットエンジンを別個に開発して搭載する形式に落ち着きました」

 

「ありがとうございます。

既存の機体からかけ離れた、というとこの補助ロケットがまさにそうですね。

空力ではなくロケットの推力で機体を振り回すというのは、戦術機の元にもなった大型MMUの技術転用と聞きましたがまさかこれほどのものとは。

大推力でレスポンス良好なロケットエンジンだけではなく、それを利用した精密な飛翔体制御の技術もここまで進歩していたなんて想像もしませんでした」

 

「我々としてもこのような機構は初めてですよ。

操縦方法の研究ではずいぶんお世話になったそうで」

 

「ああいえ、これに関しては巻島くんたち若いパイロットの貢献が大きいですよ。

私のようなロートルはどうしても既存の機体に発想が引き摺られてしまいます。

技量ではまだまだ負けませんが、こういうところでは老いを感じてしまいますね」

 

機体の周囲を回りながら言葉を交わしていた男たちの間で、ふっと会話が途切れる。

どちらも沈黙に苦を覚える質の人間ではないが、直にパイロットの男の側から会話が再開された。

 

「そういえば開発に関わったものとして、この機体はパッと見のイメージと違ってかなり高性能な機体だと感じているのですが、よくこんなに短時間で試作までこぎつけられましたね」

 

言葉を受けた男は直ぐに返答を返さなかった。

自分の中で言葉を選んでいるのだろう。

十秒ほど経ってから、ポツリと話し始めた。

 

「パイロットさんにこういうことを言うのはあれなんですが、この機体は言ってしまえば妥協の産物なんです。

この機体に宇宙開発技術を応用して開発されているというのはご存じだと思いますが、この宇宙開発技術というのが我々が今まで航空機を開発する際に使ってきた要素技術に比べると全く次元違いのものでした。

この技術があれば、本当はもっと高性能な、それこそ既存の航空機とは別次元の性能を持った機体が作れるはずなんですよ」

 

「つまり、開発期間の短縮のために性能面での妥協があると? 」

 

「ええ、その通りです。

この機体は開発上のトラブルの原因となりかねなかったり、あるいは実現可能な解を求めるのに時間がかかるような問題に対して、性能を引き下げることで対処してきました。

空軍さんの要求については最初からかなり妥協した性能で出していただいていたので満たすことはできましたが、技術者としては正直な話、大いに悔いの残る機体となっています」

 

「しかし、開発に携わったパイロットの一人として言わせて頂きますが、この機体の性能はBETAに対する『攻撃機』として十分に実用可能なものです。

いくつかの性能については要求を大きく超過していますし、特に低空での運動性についてはソフトウェアのアップデートでさらなる向上も望めるでしょう。

それに同種の機体はこれまで世界に存在しなかったわけですから、戦法の研究や要員の教育を考えると制式化の時期は早いほど都合が良い。

用兵側としてもその辺りの事情を勘案して要求を出しているわけですから、むしろ開発にかかる期間の短さも性能の一部として考えるべきではないでしょうか」

 

「ああ、いえ、すみません。

確かに使う側のことが頭から抜けていました。

今度はこちらの方が愚痴っぽくなってしまいましたね」

 

「いえいえ、こちらの方こそ差し出がましいことを」

 

二人の間に流れる気まずい雰囲気に、どちらからかこほんっと咳払いの音がした。

 

「ところで今後の予定ですが、午前の会議で頂いた通りに試験を進めて行くということでよろしいですか」

 

「ああ、その件なんですが基本的な機能の試験だけ行なって問題が発生しなければ先にデモンストレーション映像を撮らせて頂こうかと。

早く実機での映像がほしいと空軍さんの上の方からせっつかれてまして」

 

「去年のシミュレーション映像はマスコミでもかなり話題になっていましたからね。

高度10m以下の『超低空』での戦闘を固定翼機でやると言われても普通はイメージできませんから。

稜線や森林を利用したヘリ並みの地形追従飛行と攻撃をやってのけたあの映像はかなりのインパクトがあったようです」

 

「ええ、あれの効果で国会での批判をしのげたらしいです。

ただインパクトが強すぎた分、実現性を疑う声も多く上がっているようで、それを一刻も早く払拭したいようですね」

 

「なんというか、お互い大変ですね」

 

二人の男は顔を見合わせ、同時にため息をついた。

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