大日本帝国空軍遂ニ勝ツ   作:要塞

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北欧戦線1980②

1980年 ロシア・ソビエト連邦社会主義共和国 ブスコフ州

 

 巻島大尉は隼弐型を駆り、北欧の空を飛んでいた。

隼弐型は今年から生産が開始された隼の改修型だ。

細かな設計の変更やソフトウェアの更新はこれまでに何度も行われてきたが、フレーム構造にまで手を加えたため改修型として扱われることになったのだ。

構造が合理化され軽量で強靭になったフレームは機体性能にさまざまな良性の影響を与えていたが、このような改修が制式化後わずか数年で現れてしまうことが、隼の設計がいかに急拵えのものであったかを示してもいた。

 

 巻島大尉は彼が指揮する1個飛行中隊を率いていた。

現在では隼が中隊規模で行動することは珍しかった。

パレオロゴス作戦に投入された当初は戦術機を参考に飛行中隊や飛行戦隊(戦術機甲部隊で言えば大隊に相当)規模での戦闘も行われていたが、戦場までの往復はともかく襲撃を行う段階になるとより小規模な部隊で行動することが多くなっていた。

 

前衛としてBETAの攻勢を受け止めることや梯団内部での戦闘を要求されることも多く、火力を集中してBETAを素早く撃破することで安全を確保する必要がある戦術機に比べ、隼の場合は優速を利してBETAとの接触を避け、距離をおいたまま攻撃を行うことが一般的だったから、部隊を小規模にすることで目標の重複を避け、多少の撃ち漏らしが出ても攻撃の効率を高めた方が有利だった。

 

この違いは両者の兵器としての運用法に起因していた。

一方的に相手を攻撃することが前提で攻撃の効率を高めることだけを考えれば良い隼とは違い、運用が陸戦兵器に近い戦術機はまず己の生存のために火力を用いる必要があるのだ。

 

巻島大尉の中隊は300kmほど進出して、防衛線に向けて侵攻中の軍団規模のBETAを攻撃する予定だった。

戦術機では考えられないような長距離攻撃だが、機内燃料だけで500kmを大きく超える戦闘行動半径を持つ隼にとっては珍しくもないことだ。

長駆進撃してくるBETA梯団に対し航続距離を活かして反復攻撃を行う運用は、隼の設計段階から想定されていたものだった。

 

そういった意味では中隊が今回行う襲撃もこれまでの任務と根本的に異なるわけではなかった。

ただ目標と攻撃方法が変わるだけだ。

これまで隼による攻撃は、梯団前衛の突撃級を最優先目標としていた。

重防御と高速を活かした突撃で防衛線を崩壊させかねない突撃級の数を、容易に側背からの攻撃が可能な隼によって削っておくことは合理的な判断だった。

しかしこの戦術には限界があった。

 

なにか致命的な問題が生じたわけではない。

戦場に投入される隼が多くなると、その攻撃によって前衛を構成する突撃級のほとんどが撃破され、密度が大きく低下して攻撃の効率が著しく悪化するようになったのだ。

このためある意味で余剰となった隼は消去法的に、ほぼ同一の戦術を用いることができる要撃級に対する攻撃に振り分けられていた。

 

突撃級ほど脅威度は高くないが、要撃級に対しても側背からの攻撃が有効だったから、隼を要撃級の撃破に回すことも無駄ではなかった。

しかし一方で攻撃対象を比較的自由に選択できる隼の特性を生かしてより脅威度の高い目標に対する攻撃を行うことも検討されていた。

その対象となったのは光線属種、なかでも小型で耐久性の低い光線級だった。

 

ただし、隼で光線級を攻撃することには大きな問題があった。

光線級が、多くの場合ほかのBETAに守られるように梯団の奥深くに位置していることだ。

梯団の外周や梯団から外れた位置にまれに存在する光線級が隼によって撃破されたことはあったが、梯団内部奥深くまでわけいって光線級を攻撃したことはなかった。

隼は梯団内部での戦闘を行わない前提で設計された兵器だったからだ。

 

隼は既存の固定翼機とは隔絶した低空運動性を誇ってはいたが、それはあくまで光線属種の射界に入らないようにBETAに接近するためのもので、梯団内で戦闘を行う戦術機が行うように狭い範囲での鋭い機動を長時間続けるような性質のものではなかった。

能力的には不可能ではなかったが、そのような機動を取れば翼に受ける揚力ではなくロケットの推力で自重を支えることを強いられ、短時間で大量の燃料を消費してしまうはずだ。

また近接戦闘を考慮していない隼に梯団内部での戦闘を行わせることで大きな被害が生じることも懸念されていた。

 

そのため隼による光線級への攻撃は、東欧諸国の戦術機部隊が行う光線級吶喊(レーザーヤークト―)のような近接戦闘を前提とした戦術ではなく、梯団外部から内部の光線級に対して攻撃を仕掛けられる戦術である必要があった。

巻島大尉の中隊はそのような前提で立案された戦術の一つを実行しようとしていた。

 

 

 中隊はいつものようにBETA梯団に対して側面から接近している。

梯団を構成するBETAは中隊に対して特にこれといった反応を示していない。もう少し接近するか攻撃を加えれば、いつものようにスイッチが切り替わるような反応を見せるはずだが、中隊の攻撃目標は視界内のBETAではなかった。

 

巻島大尉の機体のFCSによって設定されたタイミングに従い、中隊各機の翼下に抱かれた大量のロケット弾が発射される。

大きな仰角を掛けられたロケットはようやく中隊に対して反応を見せようとしたBETAの頭上を飛び越え梯団内部へ向けて飛翔していった。

そのうちのいくつかが唐突に空中で爆発する。光線級による迎撃だった。

だが数百発のロケットを撃墜しきるにはあまりにも迎撃に参加した光線級の数が少なすぎた。

大半のロケットは撃墜されることなく目標の上空にたどり着き、所定の高度で内部に収められた子弾を散布した。

 

理屈としては砲兵によって行われる対光線級射撃と同じだった。

光線級集団の予想位置に向けて大量のロケットを投射したのだ。

継続的な射撃は不可能で精度も落ちるが、比較的近距離から発射されるため飛翔高度が低く目標到達までの時間が短いので迎撃を受けづらかった。

 

大雑把な攻撃になるため光線級吶喊で求められるような全光線属種の排除は達成できないが、砲兵の射撃に先んじて光線級の個体数を減らしておけば、光線級による砲弾撃墜数が低下する分、より少ない投射弾数、短時間の射撃で光線級の撃破が可能になると期待されていた。

 

もちろんこの戦術の有効性は実際に戦場で確認される必要があった。

巻島大尉の中隊を含むいくつかの部隊によって実行された今回の攻撃の結果もその有効性を判断するための一つの材料になるだろう。

 

攻撃の後、即座に避退に移った中隊が直接戦果を確認することはできない。

戦果の評価はUAVや偵察衛星の情報から行うことになっていたから、巻島大尉が結果を知るのは今回の戦闘が終了した後になるのではないか。

にもかかわらず巻島大尉は今回の攻撃が大きな成果をあげていることを確信していた。

もちろん確固とした根拠があるわけではなく、経験から来る直感に過ぎない。

 

───だが、どちらにせよ今日の戦闘を生き延びなければ結果を知ることもできない

梯団からの距離を十分に取ったことを確認した巻島大尉は低空飛行を行っていた中隊の高度と速度を徐々に上げていく。

中隊は基地に帰投したあと、再出撃を行うことが予定されていた。

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