リミィ・コマリスキーは強者を求める   作:葵莢

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12.無敵の鎧とメイドの私

 

 

 ……ネリアの話を要約するとこうだ。

 

 まずネリアは、ゲラ=アルカ共和国がまだアルカ王国と呼ばれていた時代の王女だった。

 

 そして閣下の母君、ユーリン・ガンデスブラッドは当時のネリアの家庭教師にあたり、その縁で幼い頃、国家間の親善パーティーにて閣下とも会って話をしたことがある

 

 その時の閣下との会話を通してネリアは彼女のことを気に入り、ずっと再会を願っていた。

 

 ──だが、ユーリン・ガンデスブラッドの死後、アルカ王国は激動の時代を迎える。

 

 マッドハルトによる革命が起きたのだ。

 

 その引き金となったのは当時のアルカ国王、即ちネリアの父が行っていたという核領域の自国の支配域を他国に譲渡するといった行為。

 

 戦争回避の為に前国王が行っていたこの行為を、当時アルカの将軍であったマッドハルトは、王による売国行為だとして激しく糾弾した。

 

 結果としてマッドハルトに先導された民衆の一斉蜂起により、瞬く間にアルカの王政は崩壊。

 

 以後、共和制を樹立したアルカ王国はゲラ=アルカ共和国へと名を変え、その初代大統領にはマッドハルトが就任した。

 

 けれどもこのマッドハルトという男は苛烈な人物だった。

 

 聞けば自身に歯向かう者はみな秘密警察などを用いて捕らえ、収容所送りにするなどして、完全な独裁政権を敷いているのだという。

 

 さらにその収容所には、前体制の国王であったネリアの父も捕らえられている可能性が高く、ネリアは何としてもマッドハルトを倒し、前国王や彼に虐げられているアルカの国民たちを救い出したい、と。

 

 その為に彼女は王族という身分を剥奪されながらも、己の力量のみで将軍の地位にまで昇り詰め、虎視眈々と今日まで反逆の機会を窺っていた。

 

 ……と。

 

 どうやらそういう事情であるらしかった。

 

 なるほどな……。

 

 話はわかった。

 

 要するにネリアはマッドハルトの事が気に入らないからとにかくぶっ倒したい、と。

 

 一言でいえばそういうことだな、うんうん。

 

 完璧に理解した。

 

 そして閣下もそんなネリアの頼みを聞き入れたことで、我々はネリアと協力し、前国王たちが囚われている可能性が高い夢想楽園の地下を目指し、進軍を開始することになった──のだが……。

 

 その途中のことである。

 

 夜も更け、一晩明かすために立ち寄った核領域にあるカルナートというゲラ=アルカ共和国の直轄地の街で──私は、過去最大の辱めを受けていた。

 

 具体的にどんな内容なのかというと──。

 

 

「──くっ……どうして私までこんな格好を……」

 

 

 ……私はなぜか、ネリアの指示で軍服を剥ぎ取られ、無理やりメイド服を着させられていた。

 

 屈辱に身悶える私に、ネリアは愉快そうに口の端を吊り上げながら言葉をかける。

 

 

「仕方ないじゃない。さっきも言った通り、ここはゲラ=アルカの直轄地で、コマリやカルラの手配書が既に街中に出回っちゃってるんだから。ムルナイトの軍服を着てたら目立つでしょ?」

 

 

 ……そうなのだ。

 

 これは決してそういう特殊なプレイとかでは断じてなく、変装のため仕方なく行っていることだった。

 

 しかし、だからといってなぜメイド服を着らねばならないのかは謎だ。

 

 当初私は上着を脱ぎ、“閣下Tシャツ”で街を歩くことを提案した。

 

 だがそれは閣下からの全力の猛反対に遭い、即座に却下された。

 

 ならばそれならそれで代わりの服をそのへんの店で買うなり何なりして別で見繕えばいいというものを、なぜよりによってメイド服なのだろう……。

 

 そしてなぜネリアたちは普段からこんなものを何着も持ち歩いているんだ。ストレージの無駄遣いはやめろ。

 

 ちなみに閣下は可愛らしいミニスカートタイプのメイド服だが、私のほうはクラシカルなロングスカートタイプのメイド服を着用している。

 

 着るなら着るでせめてスカートの丈だけは長くしたかった。

 

 自らの尊厳を守るため、何としてもこれだけは譲れなかったのだ。

 

 

「ふふ。よく似合ってるわよ、リミィ。それにその表情、とってもたまらないわ……。本当、このまま雇い入れたいぐらい素敵よ」

 

 

 悶える私を見つめながらネリアはなぜかうっとりと舌なめずりをしつつ、そんな世迷い言を吐いてくる。

 

 ……なぜだろう。いま殺気とはまた違った、これまで味わったこともないような正体不明の身の危険を感じたような気がした。

 

 

「ねえ、せっかくだし髪型も変えてみたら? 試しに下ろしてみるのはどう?」

 

「……いえ、この髪型は幼い頃からの私のアイデンティティーのようなものでして、余程のことがない限り変えるつもりはありません」

 

「ふ〜ん、そうなのね。ツインテールとか似合いそうなのに残念」

 

 

 そう、ミリセントが髪を下ろし、私が後ろで一つ結び。

 

 幼い頃から双子であまりにも外見に違いがなさすぎるため、そうやって私たち姉妹は周囲に違いをわかりやすくさせていたのだ。

 

 謂わばこれは昔からの習慣のようなものだ。

 

 今となってはこの髪型でなければなんとなく落ち着かない気分にまでなる。

 

 ゆえに必要がある場合以外はあまり変えたくはなかった。

 

 

「それに、どうせ街を出たらすぐに着替えますしね」

  

「だめよそんなの! だって男物の軍服なんてかわいくないもの! あなたの着替えはしばらくこっちで預かっておくわ!」

 

「えぇ……」

 

 

 ……言い分があまりにも無茶苦茶だった。これはさすがに横暴すぎる。

 

 私は助けを求めてちらりと閣下のほうへ視線を送る。

 

 ──が。

 

 

「見ろリミィ、凄いぞ! この店、オムライスが十種類以上もあるんだ! お前も好きだったよな、オムライス!」

 

 

 閣下は既に、自身がメイド服を着ていることなど完全に忘れている様子で、今や全く別のことに意識を向けられている真っ最中であった。

 

 ファミレスのメニューの豊富さに、まるで幼い子どものように目を輝かせている閣下。

 

 とても楽しそうなご様子だった。かわいい。

 

 そんな中、閣下と同じく手配書の出回っているカルラのほうはというと、全く似合っていないファンキーなサングラスをかけ、それを変装と称していた。

 

 

「………………」

 

 

 今もそのヘンテコなサングラスを掛けながら、先程からなぜか不自然なほど無言を貫きつつファミレスのソファーの上にふんぞり返っている。

 

 ヴィルヘイズはそんなカルラのことを“馬鹿みたいな格好”だと評していた。

 

 ……まあ、アレに比べたら多少はマシ(?)ということで、私も閣下を見習い今は大人しくこの格好を受け入れることにしよう……。

 

 

「──さて、そろそろ状況を整理したいのだけど、いいかしら?」

 

 

 と、ネリアが緩みかけた場の空気を一つ引き締めるように、真面目な顔を作ってそう切り出した。

 

 私から見て閣下を挟んだ左奥の席に座るヴィルヘイズが神妙な面持ちで頷く。

 

 ネリアの隣のガートルードも熱の込もった眼差しを向け、そのさらに隣のカルラは依然として背もたれに身を預けたまま、全く微動だにしない。

 

 そして私の左隣に座る閣下はまるで最初からネリアの声など全く聞こえていないかのように、ずっとメニュー表と格闘しては「う〜ん」と悩ましげに唸っていた。

 

 その表情はある意味、この場の誰よりも真剣そのものであった。

 

 

「私たちは夢想楽園の目前まで来ている。あと少し歩けば到着よ。正直言ってここまで敵の襲撃がなかったのは僥倖としか言いようがない。今後も細心の注意を払う必要があるわ」

 

「ネリア様。夢想楽園に辿り着いたら何をすればいいのでしょうか?」

 

「もちろん地下の秘密を暴くのよ。あそこにはゲラ=アルカの闇が凝縮されている」

 

「闇とはいったい何でしょう」

 

「やつらは非道な人体実験をしているのよ」

 

「ねえヴィル、本当にどれを頼んでもいいの?」

 

「お好きなものを注文してください。──人体実験ですか。そういえばアマツ殿は夢想楽園に神具が運び込まれていると仰っていました。それと関係しているのでしょうか」

 

「そうね──おそらくはそう。私には夢想楽園の地下に入る権利がなかったから正直よくわからない。でも神具を使って何かやっていることは確かよ。ねえガートルード」

 

「はい……私、何度か偵察したことがあるんですけど、聞いたことがあるんです。夢想楽園の地下から人間の悲鳴が響いてきて……とても苦しそうで……」

 

「きのこオムライスにも興味があるけど普通のも捨てがたい。ハンバーグオムライスはちょっと贅沢だよな……でもせっかくここまで来たんだし……」

 

「尋常ではないですね。そもそも神具はどこから仕入れたものなのですか?」

 

「リミィはどれにするんだ?」

 

「私はいつも通り、シンプルな薄焼き卵のケチャップオムライスを」

 

「む、さすがリミィ。ブレないな」

 

「さあね。でも非合法なテロリストグループとつながっている可能性も否定できないわ」

 

「ねえヴィル。二つ頼んでいいかな? 半分こしない?」

 

「そうですね半分こしましょう。──しかし奇妙な話ですね。マッドハルトは何故そんな国家機密の上にリゾート施設など造営しようとしていたのでしょうか」

 

「天照楽土や夭仙郷から疑いの目を向けられていたからね。観光地にしてカモフラージュしようって魂胆じゃない? 馬鹿げているとしか言いようがないけれど」

 

「はあ……」

 

「とにかくマッドハルトは畜生よ。ちょっとでも自分に反抗した者はすぐにでも楽園送りにされてしまうの。警備隊とか秘密警察とかを好き放題に操ってね。だから民衆は表立って政権を批判することができない」

 

「なるほど。ゲラ=アルカは共和制とは名ばかりの独裁国家だった、というわけですね」

 

「そう。翦劉をマッドハルトの魔手から救うためには誰かがなんとかするしかない。夢想楽園の秘密を暴いてマッドハルトを退陣させなければならない。でも私ひとりで足搔いてもどうにもならない──悔しいことに敵が強大すぎるからね。だからあなたたちの力が必要なのよ。テラコマリ・ガンデスブラッドと、ついでにアマツ・カルラの力が」

 

「決めた! きのこオムライスとシーフードオムライスだ! ヴィル、これでいいよね?」

 

 

 そこまで話したところで、閣下が満を持したようにそれはウッキウキな笑顔を浮かべてヴィルヘイズに訊ねた。

 

 それを見て、ネリアはジトっとした視線を閣下に向ける。

 

 

「……おいコマリ。私の話を聞いてたかしら?」

 

「え? ご、ごめん。オムライスに夢中で……」

 

「正直ねあなたはっ! そういうところも素敵だけれど! ヴィルヘイズ、後でコマリに説明してあげなさい」

 

「あなたに命令されるのは癪ですが承知しました」

 

「よろしい。カルラは聞いてた? 聞いてたわよね──」

 

 

 と、そこでネリアはまたも固まる。

 

 なぜならその視線の先で、先程から無言で話を聞いていると思われていたカルラが、口からだらしなくよだれを垂らしながらぐーすかと寝息を立てていたからだ。

 

 サングラスをかけていたため気づくのが遅れたが、今のカルラは誰がどう見ても完全に居眠りを決め込んでいる真っ最中だった。

 

 ──スパァン! と、たちまち隣のガートルードがそんなカルラの頭をひっぱたく。

 

 

「ふぇ!? にゃ、にゃんですか!? もう朝ですか!?」

 

「このオトボケ和菓子っ! ネリア様が大切なお話をしている最中なのに!」

 

「え? え? ──ああなるほど。本日の夕飯の話ですか。よければ私が作りましょうか? お味噌汁は濃いめで構いませんか?」

 

「待ってください、それは白味噌ですか、赤味噌ですか。私としては味噌汁は絶対白味噌派で具には──」

 

「リミィもそんな話を広げるんじゃないわよ! そもそもここはレストランだっての!」

 

「…………すみません」

 

 

 ……しまった。

 

 私としたことが味噌汁というワードに釣られ、つい条件反射的に口が動いてしまった。

 

 そのせいでネリアに怒られた。

 

 

 ……しかし、このアマツ・カルラという少女。

 

 本当にこの少女に閣下と肩を並べるほどの実力があるのだろうか。

 

 まあ閣下のように普段は素人同然の身のこなしながらも、実は超強力な魔法や烈核解放を持っているという可能性もあるのだが。

 

 ──うん、きっとそうなのだろうな。

 

 異能が存在するこの世界において、前世の常識の尺度で物事を測ってはいけない。

 

 そもそも弱い者が将軍になんてなれるわけがないし、これほどまでに周囲に持て囃されているのだからきっとカルラは本当に強いのだろう。

 

 宇宙を破壊する云々は大袈裟にしても、そう噂されるに足る物凄い力を秘めているに違いない。

 

 今回は同盟相手なので戦える機会は無いと思うが、いつかこの少女とも一戦交えてみたいものだな。

 

 私は密かにそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ──と、そんなことがあった翌日のことである。

 

 朝起きたら、宿の周りをゲラ=アルカの兵たちによってすっかり包囲されていた。

 

 ……ふむ。

 

 居場所がバレるにしても些か早すぎるような気がするが、昨夜のうちに通報でもあったのだろうか。

 

 だとしたら絶対アマツ・カルラのあの下手な変装のせいだな。間違いない。

 

 

「おいどうするんだよ!? なんでバレてるんだよ!?」

 

「不明ですが、バレてしまったものは仕方ありません。私が下りて連中の注意を引きつけますので、その間に閣下たちは脱出し、夢想楽園へと向かわれてください」

 

 

 と、端的にそう告げて窓台に手をかけようとする私だったが、閣下は慌てた様子でそんな私を引き止めた。

 

 

「いやいや! いくらリミィでも、そんな無茶なことさせられないよ! ここはムルナイトじゃないんだ、もし敵に捕まったりしたら何されるかわからないんだぞ!」

 

「ふむ。でしたら閣下、ここは閣下の御威光をもって奴らを焼き尽くして頂くしかないかと」

 

「っ……、ば、馬鹿を言うな! 私が本気を出したら街どころか核領域が吹っ飛んじゃうだろ!」

 

「……? 何か問題があるのですか?」

 

「あるに決まってるだろ!! いいから、何か別の方法を──」

 

 

「──ガンデスブラッドさん! 窓の外を見たらたくさんの敵が……!」

 

 

 と、閣下とそんな話をしていたら、突然部屋の扉が勢いよく開かれ、何やら狼狽えた様子のカルラが青い顔をして飛び込んでくる。

 

 

「わかってるよ! どうしようヴィル!」

 

「アマツ殿の圧倒的な力で蹴散らすのが最善かと思いますが」

 

「なるほど、それは名案ですね。──では参りましょうかカルラ殿」

 

「へ……? ……っ!? ちょっ、待っ──」

 

 

 事態は急を要する。

 

 ヴィルヘイズの案に即座に賛同した私は、カルラを小脇に抱えて勢い良く部屋の窓を飛び降りた。

 

 そして着地すると、すぐさま敵兵に取り囲まれる。

 

 

「な、ななな、なにしてくれてんですかあなた!? リミィさん……でしたっけ!? あなたには人の心とかないんですか!? 」

 

「? なにをそんなに怯えているのです? さあ、私もお供致しますので存分にお力を発揮されてください」

 

「っ……、そ、それはできません。なぜなら私が戦えばこの街はおろか核領域がまるごと吹っ飛んでしまうからです……!」

 

「……あなたもですか。まったく、強すぎるというのも考えものですね。──仕方ありません。ではやはり、ここは私が敵を引きつけるとしましょう」

 

 

 そう言って、私は一歩前に踏み出して拳を握る。

 

 ちなみに今の私の格好は昨夜に引き続きメイド服のままだ。

 

 閣下のことは寝ている間にヴィルヘイズが着替えさせていたが、私のほうは軍服をネリアたちに取り上げられたままだったこともあって、着替える事ができなかったのだ。

 

 いつもと違う服装のため全身の違和感は物凄いが、まあ、四の五の言っていられる状況でもない。

 

 スカート姿で戦うのは初めてだが、やるだけやってみるとしよう。

 

 とりあえず足技は封印だな。

 

 

「──アマツ・カルラに、それから青髪で吸血鬼のメイド……報告に上がっていたテラコマリ・ガンデスブラッドの従者か?」

 

 

 昨日の昼間の戦場でも見かけたトカゲ顔の翦劉……たしかレインズワースだったか? マッドハルトの腹心とかいう。

 

 宿屋を取り囲む兵たちの先頭に立っていたそいつは、私の顔を見るなり、ブツブツとそんな見当違いなことを言っていた。

 

 どうやら私のことをヴィルヘイズと誤認したらしい。

 

 

「人違いだな。私はムルナイト帝国軍第七部隊所属、特攻班班長リミィ・コマリスキーだ」

 

「そうか。しかし生憎と吸血鬼ごとき劣等種族の、それもたかが雑兵の名などいちいち覚えてやる義理は持ち合わせていなくてな。アマツ・カルラと共に貴様もここで死ね」

 

 

 嗜虐的な笑みを浮かべたレインズワースが、そう言って剣を引き抜く。

 

 対して私も、極めて挑発的な態度を崩さぬまま言葉を返した。

 

 

「ふふ。いいぞ、やってみせろ。──ただし、やれるものならな」

 

「……チッ。身の程を知らん雑魚が。いいだろう、貴様はこの俺が直々に殺してやる」

 

 

 ……ふん、一騎打ちか。

 

 望みどおりの展開になってくれたな。

 

 さすがにこの数で一斉に襲いかかられれば厄介だと思っていたところだ。

 

 それに、私がここで司令塔のこいつを抑えていれば、その間に閣下たちもこの街を脱出できるだろう。

 

 何より──。

 

 

「開戦してからまともに戦えず、ちょうど鬱憤が溜まっていたところだ。少しばかり私の憂さ晴らしに付き合ってもらうぞ、八英将」

 

「──ほざけ、雑兵!」

 

 

 吼えながら、レインズワースが動く。

 

 翦劉らしく、扱う得物はサーベルのような形状の片刃の曲剣。

 

 奴はそれを自らの体の一部のように一切無駄のない自然な動作で私の肩口を目掛け振り下ろす。

 

 ──神速で振り下ろされる片刃剣。

 

 それを私は身を翻すことで危なげなく躱し、そのままいとも容易く懐に侵入した。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 まさか躱されるとは思っていなかったのか、レインズワースの口から驚愕の声が漏れる。

 

 私は構わずその腹部に強烈な正拳を叩き込んだ。

 

 が──。

 

 

「っ……、【快刀金剛(かいとうこんごう)】ッ!」

 

「──ッ……!?」

 

 

 レインズワースの腹に突き出した私の拳が、奴の肉体に命中した瞬間、激痛を発した。

 

 まるで頑強な岩盤や分厚い鋼鉄の板にでも拳を打ち付けたかのような、鈍い痛み。

 

 もしも貫手だったなら、今ごろ指がへし折れていたことだろう。

 

 なんて堅牢な防御魔法──いや、違うな。

 

 防御魔法とは魔力の流れが異なっていたし、何より、そんなものよりも遥かに硬かった。

 

 ならばこれは魔法ではなく──。

 

 

「クク、ハハハハハハッ! どうだ、これが俺の烈核解放・【快刀金剛】だ! 貴様も少しはやるようだが、その程度の技でこの俺の究極の肉体にダメージを与えられるとは思わぬことだな!!」

 

「……ちっ」

 

 

 魔力を使っていないとはいえ、私の渾身の正拳突きだった訳だが、どうやら本当にノーダメージらしいな。

 

 これは……面白い──!

 

 

「────ッ!」

 

「っ!? こいつ……ッ!!」

 

 

 再度振り下ろされる斬撃を私はまたも易々と躱し、掌打と手刀主体の戦闘スタイルに切り替えて怒涛の連撃を放つ。

 

 胸部、腹部、背部、腰部、臀部、腕、足、頭、顎、首、さらには眼球に至るまで。

 

 全身のあらゆる部位を攻撃してみるが、やはり手応えは変わらない。

 

 どこを打っても全て鋼のような無機質な感触に跳ね返されるだけだった。

 

 ついでに金的も効かなかった。

 

 質感はよくわからなかったがたぶん小さい。

 

 

「──無駄だというのがわからんのか!! どれだけ攻撃しようが、吸血鬼ごときの矮小な力ではこの俺の無敵の鎧には傷一つ付けられはせん!!」

 

「……鎧? ──そうか、鎧か」

 

 

 言われてみれば、それはまだ試していなかったな。

 

 疾風のごとき速度と勢いで振るわれる斬撃の数々を掻い潜り、私は再び慣れた動作で敵の懐に潜り込む。

 

 そして彼の胸元、ちょうど心臓があるあたりの位置に左の掌を押し付け、その上に右の掌を重ねるようにして添える。

 

 

「──っ……?」

 

 

 私が何をしようとしているのかまるでわからないといった様子で、レインズワースの動きが一瞬呆気に取られたように固まった。

 

 その隙を見逃さない。

 

 私は一切の呼吸を乱さず、内功を練り上げ、足裏から丹田、肩甲骨のひねりを通し、肉体の内側から生じるあらゆる運動エネルギーをただ一点──掌の先へと収束させる。

 

 そうして放たれるは、武の真髄の一つたる絶招。

 

 其の名は──。

 

 

 

「──鎧通し」

 

 

 

「……ッ──!!」

 

 

 ──瞬間、確かな手応えが私の全身を駆け巡った。

 

 鎧通しはその名の通り、鎧や筋肉、脂肪に守られた相手の体内──即ち内臓機能へと直接衝撃を浸透させる技だ。

 

 技の名称については前世で初めてこの技を使ってきた相手がそう呼んでいたため私もそれに倣っているが、似たような原理の技自体は日本武術や中国拳法、或いは現代格闘術など様々な流派で用いられている。

 

 破壊力そのものは大したことないが、筋肉と違い、内臓という鍛えようのない部分へと直接衝撃が加わるのだ。

 

 たとえ僅かな力であったとしても、その威力は計り知れない。

 

 何しろ、古くは暗殺拳などにも使われる技術だからな。

 

 

「──ごはァッ……」

 

 

 レインズワースの顔が苦悶に歪む。

 

 その口からは鮮血が溢れ出し、たまらずといった様子で彼はその場に膝をついた。

 

 苦痛に喘ぎながら私を睨みつけるレインズワース。

 

 そんな彼を見下ろしながら、私は一つの事実を突きつける。

 

 

「──通ったな、ダメージ」

 

 

「……貴様……」

 

 

 ──()くして。

 

 

 無敵の鎧は崩れ去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






……お読み頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか。

三巻部分では絶対リミィにメイド服を着せて戦わせたいと思っておりましたので、念願叶ってとても嬉しい限りです。
青髪ステゴロメイド・リミィさんの爆誕回でした。

次話も明日中には投稿いたします。

それでは、次話もお付き合い頂けましたら幸いです。
今後ともよろしくお願い致します。
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