リミィ・コマリスキーは強者を求める   作:葵莢

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原作四巻部分
14.東都の街並みと私の直感


 

 

 季節は秋も半ばの十月中旬。

 

 天照楽土が中心都市──俗に“花の都”と呼ばれる東都は人々の熱気に包まれていた。

 

 先日、テラコマリ閣下も出席なされたという核領域のどこかで開催された各国首脳陣が一同に介した平和友好パーティー。

 

 そこで天照楽土の君主──大神(おおみかみ)より“天舞祭”の開催が宣言されてから、東都の街はまさにお祭り騒ぎのような賑わいを見せているらしい。

 

 往来に所狭しと立ち並ぶ露店の数々。

 

 私は、そんな東都の街並みを歩きながら──。

 

 

「おいヨハン、次はあっちだ。大判焼きがある。粒あんが食べたい」

 

「いやお前……どんだけ食う気だよ」

 

 

 ──ヨハンという名の荷物持ちを引き連れつつ、絶賛東都食い倒れツアーを敢行している真っ最中なのであった。

 

 イカ焼き美味い。

 

 

「うむ。我ながらはしゃぎすぎだとは思うのだが……(もぐもぐ)……しかしどうにもこの街の空気感には懐かしさをおぼえてな……(もぐもぐ)……はしゃがずにはいられんのだ……(もぐもぐ)……」

 

「食うか喋るかどっちかにしろよ……」

 

「イカが固くてなかなか噛み切れん……(もぐもぐ)……」

 

「………………」

 

 

 ──この通り。

 

 現在私たちはムルナイト帝国を離れ、天照楽土は東都へとやってきていた。

 

 といっても、決して観光目的ではない。

 

 ゲラ=アルカのリゾートの時と同じく、今回この地を訪れたのも(れっき)とした任務があってのことだ。

 

 その任務というのは、天照楽土の次期君主──即ち次の大神を決める為の天舞祭なるイベントに我らがテラコマリ閣下も参加なされるということで、そのサポートである。

 

 なんでも、次の大神候補の一人にアマツ・カルラが選出されたとのことで、閣下はその協力者として大々的に名乗りを上げたらしい。

 

 経緯はよくわからないが、我々第七部隊の幹部たちはそんな閣下の“助っ人”としてこうしてここ東都へと招集されることになった、という話だ。

 

 ちなみにヨハンは幹部ではないし別に呼ばれてもいないのだが、なぜか当然のように付いてきた。

 

 まあこいつも階級的には他の幹部たちと同じく尉官なのでほぼ幹部みたいなものと言えなくもない。それに最終的にはヴィルヘイズからの許可も下りたので特に問題はないのだろう。

 

 しかしいざこうして来てみれば、この東都という都市の街並みは私にとって、とても馴染みの深い雰囲気を醸し出していた。

 

 具体的に言うと、街の風景がめちゃくちゃ和風なのである。

 

 小江戸というか、なんとなく京都の古風な観光地っぽい街並みだ。

 

 まあ私自身は別にそういった歴史情緒の残る地方の出身という訳ではないのだが、それでも元日本人としてはどこか、特別な懐かしさのようなものを感じずにはいられない。

 

 それにこの、街を埋め尽くさんばかりの祭りの空気感。

 

 屋台で売られている商品のラインナップといい、ほぼ日本の縁日そのままだった。

 

 前々から思っていたが、やはり天照楽土は前世における日本と色々と共通した文化を持った国らしい。

 

 通貨も円だしな。

 

 無論、紙幣や硬貨のデザインは全く違うけれども。

 

 

「……ったく。他の連中は敵地の内情調査だとか言って勝手にどっか行っちまうし、お前はお前で遊んでばっかだしよ。いいのかよ、さっさとあの小娘のところに行かなくて」

 

「まだ集合予定時刻まで時間があるからな……(もぐもぐ)……。せっかくの祭りだ、楽しめる時に楽しんでおいたほうがいい……(もぐもぐ)……。──はぁ、噛み飽きた。やる」

 

「おぉい! そうやってさっきからどんだけ僕に食べ残し押し付ける気だよ!」

 

「仕方ないだろ。女の身では胃袋の容量が心許ないのだ。あまり腹に食い物を入れすぎると、いざという時に動きが鈍る恐れもあるしな。──む。珍しいから買ってみたがこの芋餡とやら、少し甘すぎてくどいな。これも一口で充分か。残りはやる」

 

「……………」

 

 

 買ったばかりの大判焼きをヨハンに押し付ける。

 

 それを無言で受け取りながら、ヨハンは呆れたような声音で愚痴をこぼした。

 

 

「だったら食いたい分だけ食って後は捨てりゃいいだろうが……」

 

「は? 食べ物を粗末にするとか舐めてるのか? そんなことできるわけないだろ常識で考えろよ」

 

「なんでそういうとこだけ無駄に律儀なんだよ。ってかそう思うなら全部自分で食えよ」

 

「まあそうカリカリするな。せっかくの祭りなのだ、お前ももっと楽しめ。ほら、この焼き鳥とか美味いぞ。タレの甘辛さ加減が絶妙だ。──む?」

 

 

 と、私はそこで気づく。

 

 先程からヨハンに食べかけの屋台グルメを押し付けまくっているせいで、もはやヨハンの両腕は他に物を持つ余地なんかまるで無いほど、完全に塞がってしまっていたのだった。

 

 ふむ、仕方ない……。

 

 

「今回だけ特別だぞ。ほら、食べさせてやるから口を開けろ。あーんだ、あーん」

 

「……っ!?」

 

 

 私がそうやってヨハンの口に串を運ぼうとすると、なぜかヨハンはギョッとした様子で固まってしまう。

 

 なんだ、私のせっかくの施しが不満なのか、こいつ?

 

 

「や、やめろばか……っ、子供扱いすんじゃねぇ、僕は歳上だぞ……!」

 

「歳上ねぇ……。ハッ……」

 

 

 思わず私の口から乾いた笑いが漏れる。

 

 

「……そうだよなぁ。お前もまだ二十そこそこなんだもんなぁ」

 

「おい待て、なんでそこでそんな返しが出てくる。そしてなんでそんなに遠い目をしてんだよ。……よくわかんねえけど悪かったよ、元気だせよおい」

 

「……っと、すまんすまん。──で? 食うのか? 食わんのか?」

 

「っ……、そ、それは。……だいたいこれじゃさっきからその……か、かんせ……」

 

 

 気を取り直して訊ねると、ヨハンのやつはなぜか私から目を逸らして何やらごにょごにょと口ごもる。

 

 そのせいで何を言いたいのか、最後のほうは全く聞き取れなかった。

 

 

「……? よくわからんがいらんということか? ……まあ、これぐらいなら一人で食うか」

 

「あ……」

 

「うむ。美味い……(もぐもぐ)……」

 

「…………」

 

 

 そうやって差し出していた焼き鳥を私が頬張ると、なぜかヨハンは途端に心残りありげな表情を浮かべ、ジッとその様子を眺めていた。

 

 ……なんだよ。やっぱり食べたかったんじゃないか。

 

 

「お前な……、そんなに食べたかったんなら変に遠慮するんじゃない。ほら、もう一本買ってやるからそんな泣きそうな顔をするな、同じのでいいか? それとも別のにするか? おいちゃんに言ってみな、ん?」

 

「い、いらねえよ! そもそも僕はそんな顔してないッ!」

 

 

 ヨハンは強がるようにそう言って、手に持っていた私の食べ残したち──イカ焼きやら大判焼きやらチョコバナナやらを、まるでヤケ食いでもするかのような勢いでがっつき始め、最後に一気にラムネで流し込んだ。

 

 

「お、おいそんな勢いで食ったら……」

 

「むぐっ……!?」

 

 

 私の忠告が届くよりも先に、ヨハンの顔がみるみる真っ青に染まっていく。

 

 そして一言。

 

 

「き、気持ち悪い……」

 

「……そりゃそうだろ」

 

 

 呆れながら呟く。

 

 見たところ、別に喉に食い物を詰まらせたとかそういう訳ではないようだが、とても具合が悪そうなのはたしかだった。

 

 食い合わせ的な問題だろうか。

 

 ……それにしてもこいつ、あんな勢いで爆食するほど腹減ってたんだな。

 

 だったら尚さら遠慮なんてする必要なかっただろうに……。

 

 トイレを探してとぼとぼ歩き出すヨハンの背中を眺めながら、私は困惑と共に溜め息をこぼすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ……それから十数分ほど待っても一向にヨハンのやつが戻ってくる気配が無かったので、仕方なく私は一人で東都の大通りを歩き出した。

 

 ヨハンも子供ではないのだし、たとえ知らない地とはいえ、一人にしてもまさか迷子になったりはしないだろう。

 

 閣下との待ち合わせ場所はヨハンにも伝えてあるし、それにいざというときのため通信用鉱石も持たせてある。

 

 何かあれば向こうから連絡してくるはずだ。

 

 

 ──というわけで、私は一人、閣下との待ち合わせ場所であるアマツ・カルラの実家、アマツ邸を目指して歩いていたのだが、その道中。

 

 前方に何やら人集りを見つけ、私は思わず立ち止まった。

 

 こんな祭りの最中(さなか)だ。なにか特別な催しでもやっているのだろうか。

 

 気になって後方からじっと人集りの中心を観察してみると、そこには広場の中央で拡声器を持ち、威風堂々たる態度で演説を繰り広げるサムライ少女の姿があった。

 

 所謂(いわゆる)街頭演説というやつであろう。

 

 天舞祭とは天照楽土の次の大神を決める()わば国家における首脳選挙に相当するものだと聞いている。

 

 最終日には有権者たちからの国民投票によって大神が決められるので、期間中、候補者たちはこうして聴衆の面前で演説を繰り返したり、公衆の場で討論会を行ったりもするという話だ。

 

 

『──。────。──天照楽土を必ずや繁栄に導いてみせましょう! アマツ・カルラになど任せてはいられません。彼女のような平和ぼけした人間は国を破滅に導くだけです!』

 

 

 と、演説を聞く限り、なぜかやたらと執拗なまでにアマツ・カルラのネガティブキャンペーンを声高々に繰り返しているサムライ少女。

 

 その顔をよく見れば、街中に貼られた選挙ポスターの一つに写っているものと全く同じ顔をしている。

 

 おそらく、あれがカルラの対抗馬であるレイゲツ・カリンという天照楽土の将軍、五剣帝の一人で間違いないのだろう。

 

 その隣には美しい金色の毛並みの狐耳に狐尻尾が一際(ひときわ)目を惹く、獣人種らしき少女の姿もあった。

 

 あれは……カリンの部下かなにかだろうか?

 

 ……だが、それにしては立ち姿にまるで隙が無い……というか、無さすぎる。

 

 ともすれば隣のカリンより遥かに格上の風格を纏っているようにも感じられるが、いったい何者なのだろうか。

 

 少なくともそこらの将軍クラスは余裕で超えてるぞ、アレ。

 

 と、私がそんなことを考えていると──。

 

 

「──こらぁ! カリンさん! そうやって人の悪口ばっかり言っていると罰が当たりますよ!」

 

 

 突如、カリンの演説に割って入る声があった。

 

 聞き覚えのある声だ。

 

 見ると聴衆の中には、先日の六国大戦でも一時的に行動を共にしていた和装の少女、アマツ・カルラの姿があった。  

 

 

『おや! ご覧ください皆さん。アマツ・カルラがご到着のようですぞ』

 

 

 と、そんなカルラの声にいち早く反応したのはカリンの隣の狐少女である。

 

 聴衆の視線が一斉にカルラのほうへと向けられた。

 

 そこへ、拡声器を放り捨てたカリンが極めて尊大な笑みを浮かべながら歩み寄る。

 

 そしてカルラと真正面から向かい合い、何やら口論のようなものを始めていた。

 

 見ればカルラのすぐ側にはテラコマリ閣下やヴィルヘイズの姿もある。

 

 まさかこんなに早く閣下たちに会えるとは僥倖だ。

 

 これで待ち合わせ場所に行く手間も省けた。

 

 私は魔力を使って聴衆を飛び越え、跳躍一つでテラコマリ閣下のすぐ傍らへと降り立つと、すぐさまその場で膝をつき(こうべ)を垂れた。

 

 

「閣下。招集の(めい)に従い、リミィ・コマリスキー中尉、此処に参上致しました」

 

「──えっ、リミィ!? なんでお前がこんなとこにいるんだ……!?」

 

 

 私の突然の登場に閣下はなぜか酷く驚いている様子だった。

 

 思わず首を傾げる私。

 

 

「……? たった今申し上げました通り、閣下からの招集命令を受けてのことですが……」

 

「? いや、私はそんな命令を出したおぼえは──」

 

「コマリ様に代わり、私が呼んだのです」

 

 

 と、そんなふうに私と閣下の会話に割って入ったのは、閣下の傍らに立っていたヴィルヘイズである。

 

 

「コマリ様は忘れているかもしれませんが、これはハンデですよ。此度の天舞祭では、レイゲツ・カリン陣営には白極連邦とラペリコ王国からの助っ人がつきますが、対してアマツ・カルラ陣営はムルナイト帝国のみ。この一国の差を縮めるために、コマリ様には部下を呼び寄せることが許可されているのです」

 

「……うーん、たしかにそんなこと言われた気もするけど……ん? ──なぁ。念の為聞いておくが、リミィがここにいるってことは、まさか……まさかとは思うが……、他の連中まで呼んだ訳じゃないだろうな……?」

 

「当然ながら、他の幹部三名にも既に招集をかけてあります。ついでにヘルダース中尉もなぜか勝手にくっついて来ました。彼らは天舞祭を勝ち抜くための第一の布石です」

 

「布石どころか爆弾じゃねえか! 初っ端から盤面を破壊してどーする!? 呼ぶんならもう少しマトモなやつにしてよ!!」

 

「マトモなやつがどこにいるんですか?」

 

「………………」

 

 

 ヴィルヘイズからのそんな返しに、閣下はまるで核心を突かれたかのように押し黙った。

 

 たしかに第七部隊は私以外、誰一人としてマトモな思考回路の者がいない。

 

 控えめにいって蛮族の集まりだ。

 

 閣下の気苦労もきっと普段から相当なものだろう。

 

 数少ないマトモな部下として、今回も私がしっかりとそんな閣下のことを誠心誠意支えて差し上げねばならないな。

 

 うんうん、と私は心の中で一人頷く。

 

 

「──潤いますぞ! 潤いますぞ! 懐が潤いますぞ! さあさレイゲツ・カリンに清き一票を! カリン様が大神になった暁には天照楽土は世界一の大国になるでありましょう!」

 

 

 と、閣下たちとそんな会話を繰り広げていると、突然、狐少女が聴衆たちに向かって何やら紙吹雪のようなものをばら撒き始めた。

 

 否、紙吹雪にしては少し大きい。

 

 これは──まさか紙幣か?

 

 レイゲツ・カリン陣営はあろうことか、有権者たちに金をばら撒いているのである。

 

 なんということだろう。早く拾わなければ。祭り屋台で散財した分を回収するのだ。

 

 

「な、なんですかこれ!? 有権者に対して賄賂を贈るなんて違法ですよ!?」

 

「それがそれが違法ではないんですよぉ!」

 

 

 狐少女が懐から何かを取り出す。

 

 そうしてカルラに見せつけるようにして一枚の文書を広げてみせた。

 

 

「大神様からの勅許(ちょっきょ)です! レイゲツ・カリン陣営に限って賄賂が許可されました!」

 

「そんなことあります!? 大神様はいったい何を……」

 

「大神様も私のほうが後継者に相応しいと思っているのだろう。だがそんなことはどうでもいいのだ。たとえ大神様に認められたとしても私は止まらない──お前を倒すまではな!!」

 

 

 その瞬間、突風と共に銀閃が走った。

 

 居合の構えから繰り出されたカリンの一刀が、カルラの頬へと吸い寄せられる。

 

 常人ならば目にも留まらぬ速さ。

 

 しかし殺気はない。

 

 筋肉の動きからして寸止め狙い──目的は威嚇か?

 

 

「え……」

 

 

 カルラの頬から赤い(しずく)が垂れ落ちる。

 

 カリンの剣閃がカルラの頬を掠めたのだ。

 

 

「な、何を──」

 

「カリン。許さない」

 

 

 呆けた様子のカルラの背後から忍装束の少女──たしか、こはると言ったか。

 

 カルラの部下である天照楽土鬼道衆の少女が、主に代わって報復をせんとクナイを手にしてカリンへと襲いかかる。

 

 それを──先程のカリンの剣速をもさらに上回る超抜級の速度をもって、カリンの隣の狐少女が、手にした刀で打ち払った。

 

 

「ぇ──ぐふっ……」

 

「カリン様に無礼があってはなりませんよ!」

 

 

 追撃として強烈な峰打ちを食らったこはるの身体が大きく後方へ吹き飛ぶ。

 

 しかしその身体は、吹き飛んだ先に立っていたヴィルヘイズによって受け止められた。

 

 

「──この程度の攻撃すら防げないとは。やはりアマツに国政は任せられぬ」

 

 

 勝ち誇った笑みを浮かべるレイゲツ・カリン。

 

 対してカルラはそんな彼女たちへ抗議の視線を送る。

 

 

「い、いきなり何をするのですか! こはるに謝りなさいっ!」

 

「いやですねえカルラ様! 先にカリン様に手を出したのはそちらの忍者ですよ? しかしまあ頼りないですな。鬼道衆はもちろんアマツ・カルラ様ご本人も頼りない。あなたの本当の実力を目にした者はいない──誰もがその才能を恐れている。しかし現実ではカリン様に手も足も出なかった。幽霊の正体見たり枯れ尾花というやつでしょうかねぇ」

 

「そんな……ことは……」

 

 

 言い淀むカルラ。

 

 周囲の聴衆たちがそんなカルラを見て、何やら口々に声を上げ始めた。

 

 「カルラ様は何故無抵抗なのだろうか」、「本当に抵抗する力がないのでは」、「そんなお方に大神が務まるのか」、「少しは言い返したらいいものを」──そんなふうに極めてわざとらしく、まるで台本でも読まされているかのような不自然さで、彼らはほざく。

 

 

「──これは買収されていますね」

 

 

 こはるを抱きかかえたヴィルヘイズが、吐き捨てるように呟いた。

 

 

「彼らはアマツ殿がレイゲツ・カリンに手も足も出なかったことを誇張して吹聴することでしょう。そうするように強いられているのです」

 

「……なるほど。要するに全て茶番、というわけですか。武人としての高潔さなど欠片もない、何とも姑息なやり口ですね」

 

 

 まあ、カルラだけでなく閣下まで相手にしようというのだから、彼女たちがこうした陰湿な手段に訴えなければならないのも仕方のないことなのかもしれない。

 

 ……が、それでもあまり好きなやり方とは言えないな。

 

 私は武人なら武人らしく、さっさと殺し合いで決めるべきだと思う。

 

 それが一番後腐れないしな、うんうん。

 

 

「──む? ガンデスブラッド殿ではないですか」

 

 

 と、つい今しがたまでカルラと舌戦──というより一方的な罵倒と嘲笑を繰り返していたカリンが、閣下の存在に気付きこちらに歩み寄って来た。

 

 そしてカルラに向けていたものとは正反対の、人当たりの良い友好的な笑みを浮かべて話しかける。

 

 

「あなたも大変ですな。あのような木偶の坊のお()りを任せられるなど。よろしければ今からでもレイゲツ・カリン陣営に鞍替えしませぬか? 私としては大歓迎──」

 

「悪いがお断りする」

 

 

 カリンが言い終えるのを待たずして、閣下は眼前の少女にキッパリとそう告げた。

 

 そんな閣下のあまりの決然とした態度に動揺してか、カリンの肩が一瞬ビクリと震える。

 

 彼女はそのまま、作り物めいた笑顔を貼り付けて閣下に問う。

 

 

「──何故(なにゆえ)?」

 

「カルラのほうが大神に相応しいと思ったから」

 

「………………、」

 

 

 カリンの表情が強張る。

 

 作り笑いは一瞬にして消えていた。

 

 無理もない。

 

 今の閣下の言葉はレイゲツ・カリンという人物に対する明確な否定と拒絶の意に他ならなかった。

 

 彼女は閣下のその真っ直ぐな眼差しを受け、たじろぐように一歩後ずさる。

 

 次いで、何とかその場を取り繕おうとしてか、「あはははは」と引き攣った笑い声を上げるのだった。

 

 

「ガンデスブラッド殿の目も曇っておられますな。どちらが大神に相応しいかは天舞祭の結果によって決まること。せいぜいカルラの応援役に勤しんでくだされ」

 

 

 カリンはそう言い残すと、「──では失礼」と狐少女を引き連れ、去っていった。

 

 今の様子から見て、やはり彼女も少なからず、自身の行い対する後ろめたさのようなものは感じているのだろうか。

 

 ……だが、レイゲツ・カリンよりも私が気になるのは彼女に付き従うあの狐少女のほうだ。

 

 先程の身のこなしや纏っている雰囲気。あれは只者ではない。

 

 警戒するならカリンよりもあの女……。

 

 ともすればあの女こそ、此度の天舞祭における最大の障害と成り得るかもしれない。

 

 

 ──私はそんな感想を抱きつつ、去っていく狐少女の後ろ姿を見つめるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 ……その後、閣下、ヴィルヘイズ、カルラ、こはる、そして私を含めた五人は本来の待ち合わせ場所であったアマツ本家の屋敷──ではなく、帝都外れにある甘味処“風前亭”の店内にて作戦会議を行っていた。

 

 カルラが言うには店の許可は取っているから大丈夫とのことだが、本当にこんな場所で作戦会議なんか行ってもいいのだろうか。

 

 そう思っていたら、カルラとヴィルヘイズらとの話の流れで、この店が実は、カルラが密かに経営する彼女の持ち店舗であることが判明した。

 

 ちなみに違法営業らしい。

 

 なぜ将軍である彼女が和菓子屋を営んでいるのか、その理由についてもカルラの口から語られた。

 

 彼女の話では、どうやらカルラの本当の夢は将軍でも大神でもなく、菓子職人になることらしい。

 

 聞けば本当は大神になるつもりも全く無いのだそうだ。

 

 それでもカルラの祖母──先代大神にして“地獄風車”の二つ名でも恐れられた元五剣帝、アマツ・カヤからの言いつけにより、仕方なく将軍を務めることとなり、今回の天舞祭にも大神候補者として無理やり参加させられた、と。

 

 どうやらそういう事情があるらしい。

 

 その話の中でカルラには兄──正確には従兄弟がいるらしいことも判明した。

 

 名前については聞かなかったが、まさか、な……。

 

 いやでも、アマツというのは天照楽土でもレイゲツ家と双璧を成す名家であり、歴代に渡って大神や五剣帝を排出してきた“士”の一族であるという情報も聞かされている。

 

 同じ名字、それにあの男もたしか、ブルーナイト家では元五剣帝として紹介されていた。

 

 これはもしや……疑いの余地もなくあの男は本当にカルラの関係者なのでは?

 

 後でタイミングがあったらこっそりとカルラに訊ねてみるか……。

 

 と、私がそんなことを考えていると──。

 

 

「──さすがですね閣下!!」

 

 

 不意にそんな耳馴染みのある声が響いてきたかと思うと、風前亭の引き戸が突如として強引にこじ開けられる。

 

 どうやらようやく到着したらしい。

 

 中に入ってきたのは見慣れたいつもの四人組だった。

 

 

「感服いたしました。ゲラ=アルカ共和国に続いて天照楽土の君主をも擁立しようとは。我々が勝利すればこの国は第七部隊の傀儡国家も同然ですねぇ」

 

 

 という何やらだいぶ思い込みの激しい犯罪計画を口走るのは先頭に立つ枯れ木のような痩躯が特徴的な男、カオステル。

 

 

「あ、あの。どちら様ですか? 今日は休業日でして……」

 

「心配することはない。我々はレイゲツ・カリンを殺害しに来ただけだ」

 

 

 と、困惑するカルラにそんな直接的すぎる犯行予告を口にするのは犬頭の獣人ベリウス。

 

 

「イエーッ! 睨みをきかせる犬男。見境のない野獣ってこと。怖がられてんだよ犬男。理解してんのかそこんとこ?──ゴベッ」

 

 

 さらにそんなベリウスを軽快なリズムでディスり飛ばし、逆に顔面を殴られて吹き飛んだのは金髪サングラスのラッパー、メラコンシーであった。

 

 そして、そんな三人に続くように、先程まで私と一緒だったヨハンも店内に入ってくる。

 

 顔色も健康そのもの。どうやら、体調は無事に回復したらしいな──って、ん……?

 

 なんかあのヨハン……立ち姿に少し違和感が……。

 

 

「誰、この人たち」

 

 

 こはるがそんなふうに、ジトっとした眼差しを閣下に向ける。

 

 その瞬間──。

 

 

「──ッ!!」

 

 

 私は即座に床を蹴り、ノーモーションでヨハンの顔面、その顳顬(こめかみ)のあたりへ蹴りを放っていた。

 

 突然の事態にその場の誰もが固まる。

 

 そんな中、私は確信と共に呟いた。

 

 

「……やはり、な。──お前は誰だ?」

 

 

 ──目の前のこいつはヨハンではない、偽物だ。

 

 その証拠に──。

 

 

「─────」

 

 

 目の前のヨハンの姿をした何者かは、あろうことか、私の蹴りを正確に見切り、交差した両腕で完璧に防ぎ切っていたのだ。

 

 いくら魔力の込もっていない、それも些か無理な体勢からの強引な一撃だったとはいえ、こんな芸当はヨハンにはできない。

 

 普段のヨハンならたとえ防げたとしても、今ごろガードした両腕ごとぶち抜かれ蹴り倒されているはずだ。

 

 それにこいつは呼吸や立ち姿にも全く隙がなかった。

 

 あいつは普段からバカみたいに隙だらけだというのに。

 

 即ち何が言いたいのかというと、お前のようなヨハンがいるか、という話だ。

 

 

「ククッ、フフフフフ……。あーあ、まさかこんなにあっさりバレちまうとはなぁ」

 

 

 ……ヨハンと全く同じ顔、全く同じ声で偽物は不敵に笑う。

 

 そうして……。

 

 

 ──ずょん。

 

 

 何かが切り替わる気配がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






……お読みいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。

四巻部分のエピソードが全て書き終わりましたので、本日から投稿開始致します。

ここからはまだアニメでは描かれていない部分になりまして、原作既読を前提として書かせて頂いております。そのため説明足らずな部分がありましたら申し訳ありません。 

……また、先に謝罪を述べさせて頂くのですが、今回の四巻部分は全三話構成となり、色々な事情も加味したうえでどうしてもリミィの見せ場をあまり捻出することができず、普段に比べてもさらにダイジェスト風味な高速駆け足のような内容となっております。申し訳ありません。
一度は四巻部分はまるごとカットし、後日談のような形で書いた上でそのまま五巻部分に突入することも考えたのですが、それではさすがに味気なさすぎるかと思い、拙いながらも投稿することに致しました。
読みにくいと感じましたら最悪、四巻部分は飛ばして頂いても大丈夫です。

次話も明日中には投稿致します。

それでは、これまでに比べかなり変則的な形にはなりますが、次話以降もお付き合い頂けましたら幸いです。
今後とも何卒よろしくお願いいたします。
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