リミィ・コマリスキーは強者を求める   作:葵莢

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15.敵の謀略と私の瞬殺

 

 

「──いやはやお見事お見事。本来ならもう少し上手く溶け込んで情報を集めるつもりだったのですが、まさかこうも容易く見破られるとは。恐れ入りましたぞ──リミィ・コマリスキー中尉殿」

 

 

 ……結論から述べると、ヨハンの姿に化けていたのは、レイゲツ・カリンと共にいたあの狐少女だった。

 

 名を、フーヤオ・メテオライトというらしい。

 

 ヨハンと全く同じ姿に変身していたのは見る限り、彼女が持つ能力によるもの──魔力の流れは一切感じなかったので、おそらくは烈核解放か。

 

 さらにフーヤオは動揺する私たちに、特大の爆弾情報をもたらした。

 

 それは──。

 

 

「レイゲツの屋敷に、ヨハン・ヘルダースの姿で火を放ちました。この意味がわかりますかな?」

 

 

 ……彼女はそれだけ言い残すと、ぼふんっ!という煙と共にまるで霞のようにその場から消えた。

 

 【転移】ではない。おそらくは幻術魔法で姿を消したのだろう。

 

 それから閣下と共に私たちはすぐに店を飛び出し、街へ出ると、事実としてたしかにレイゲツの屋敷は燃えていた。

 

 この事態が何を意味するのか、さすがに私でもわかる。

 

 ──つまりアマツ・カルラ陣営は天舞祭初日から、これ以上ないほどの窮地に立たされてしまった、というわけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ──翌日。

 

『レイゲツ家に火の手! 首謀者はガンデスブラッド将軍か!?』

 

 そんな見出しの新聞──それも捏造新聞として有名な六国新聞ではなく“東都新聞”という信憑性の高いソースからもたらされた情報により、今や東都中が騒然となっていた。

 

 事実を知っている我々からすればこんなものは完全なデタラメ記事であるのだが、残念ながらそれがデマであることを証明できるだけの材料は、今のアマツ・カルラ陣営にはない。

 

 実行犯のフーヤオ・メテオライトも見失ってしまったので、こちらにはまるで打つ手が無かった。

 

 これには聡明な閣下も、さすがに「う〜ん」と頭を抱えて唸っている。

 

 

「困りましたね。討論会で突っ込まれるネタを提供してしまいました」

 

「むぅ、フーヤオ・メテオライトめ。というかこれ完全に自作自演じゃないか。逆に冤罪だって訴えたりできないのか?」

 

「……難しいでしょうね。フーヤオ・メテオライトは他者に変身する異能を持っている、と、そう証言したとしてもシラを切られればそれで終わりですから」

 

 

 アマツ邸で朝食を摂りながら、閣下とヴィルヘイズ、そしてカルラの三人はそんなことを話し、揃って難しい表情を浮かべていた。

 

 ……あ、この味噌汁美味いな。

 

 やはり味噌汁は白味噌に限る。

 

 

「いずれにせよ、本物のヘルダース中尉を見つけ出す必要がありますね。……既に消されている、という可能性も考えられますが」

 

「こ、怖いこと言うなよ……。さすがに奴らもそこまではしないだろ。……しない、よな?」

 

「どうでしょう……。カリンさんは敵に対してはどこまでも情け容赦のない方ですから……」

 

「「「………………」」」

 

 

 その場に沈黙が訪れる。

 

 三人とも無言で固まってしまった。

 

 場が静まりかえる中、私は至って冷静な態度のまま口を開く。

 

 

「ヨハンのやつは私が探しましょう」

 

「リミィ……?」

 

「最後にあいつと一緒にいたのは私ですからね。それにヨハンは直属の部下でもありますし、私も少しは責任を感じているのですよ」

 

「そうだよな……。あいつといちばん仲が良いのはリミィだしそりゃ心配──」

 

「……せめて骨ぐらいは拾ってムルナイトの土に埋めてやらないと」

 

「速攻で諦めてんじゃねえか! 少しは心配してやれよ!」

 

「…………」

 

 

 いや……だってヴィルヘイズの言うとおり、この状況であいつが生きているとは考えにくいしな。

 

 何か使い道があるとしたら、いざというときに人質として交渉材料に使えるとかか?

 

 それならまあ、生かされてる可能性も無くはないが……。 

 

 

「ヨハンの捜索ならば我々もお手伝いしますよ」

 

 

 と、不意に廊下のほうから会話に割り込んでくる声。

 

 声がしたほうへ目を向けると、そこにはカオステルとベリウスの二人が並んで立っていた。

 

 二人はそのまま無遠慮にズカズカと客間に踏み込んできて、直立したまま閣下や私たちを見下ろす。

 

 ……こいつら無駄にデカいから見上げると首が疲れるんだよな。

 

 というか突っ立ってないでどっかその辺にでも座ればいいだろうに。せっかくの畳なんだから。

 

 

「あれ? お前らもここで寝泊まりしてるの?」

 

「はい。忍者のこはる殿から小屋を借り受けました」

 

 

 閣下の問いにベリウスが淡々と応じた。

 

 そして彼は、おもむろに中庭のほうを指差す。

 

 その指し示した先を見ると、そこにはちょうど人が数名ぐらいならギリギリ入れそうなサイズの、大きめの犬小屋が建っていた。

 

 ……そう。

 

 信じられないことだが、こいつらは昨晩、あの犬小屋で夜を明かしたのだ。

 

 ちなみに私は「女の子はこっち」とこはるに手を引かれ、閣下たちと同じ客間へと案内された。

 

 今世で女の身に生まれ変わったことを心の底から感謝した数少ない瞬間である。

 

 

「も、申し訳ありません! こはるったらお客様になんて失礼なことをしているのかしら! 今すぐお部屋をご用意いたしますので、あの子のことはご容赦いただけると……」

 

「いえいえいえアマツ殿。我々のことなどどうでもいいのですよ。それよりもヨハンですが──私の空間魔法【引力の網】を使用すればすぐにでも居場所を突き止めることが可能でしょう」

 

「おお! すごいなお前! じゃあさっそくやってくれ!」

 

「こはる〜! こはる〜! 犬だからって犬小屋はあんまりですよ〜!」

 

「それが、閣下ならば当然ご存知の事かとは思うのですが、この魔法を使用するには代償として捜索対象の髪の毛が必要になるのです」

 

「う、うむ! 当然そんなことは知っているぞ、常識だよな!」

 

「はい。しかし、我々にヨハンの髪の毛の持ち合わせなど当然ありません。ちなみにリミィ殿はお持ちではありませんか?」

 

「は? 持ってるわけ無いでしょう気持ち悪い」

 

「おい気持ち悪いとか言ってやるなよ、可哀想だろ。……まあたしかに他人の髪の毛を持ち歩いてる奴がいたらちょっと引くけどさ」

 

「そうですか。やはりありませんか……」

 

「なら、一時的に【転移】でムルナイトに帰国してヘルダース中尉の私室のベッドの枕元なり浴室なりを探ればよろしいのでは?」

 

「何を仰るのですかヴィルヘイズ中尉! このカオステル・コント、幼女の部屋は漁っても、男の部屋を漁る趣味など持ち合わせてはおりません! いったいどのような苦行ですかそれは!」

 

「いや堂々と犯罪行為を自白するなよ。ほんとなんで捕まってないんだよお前」

 

「……ではコント中尉以外が行けばよろしいのでは」

 

「はい。というわけで現在メラコンシーがヨハンの髪の毛を調達しにムルナイトへと一時帰国中です」

 

「なら最初からそう言えばよかっただろ! なんだったんだよこの一連の無駄なやり取り!?」

 

 

 ……ともかくそんなこんなで、ヨハン捜索大作戦が開始されたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ──そして。

 

 ヨハンのやつは割とすぐに見つかった。

 

 探してみれば、こいつは東都の外れにある牢獄に一人ひっそりと囚われていたのだ。

 

 しかもほぼ無傷である。

 

 拷問とかされなかったのだろうか。

 

 レイゲツ・カリンたちも意外と甘いのだな。

 

 まあヨハンが言うには「外傷ならあるだろうがっ! 狐野郎の峰打ちを食らって気絶させられたんだ!」とのことだったが、少しコブになっている程度で別に騒ぐような傷でもなかった。

 

 まあ何にせよ、無事に生きていたのだからとりあえずは一安心だ。

 

 さらに本日執り行われた大神候補者同士による公開討論会も、閣下やカルラの巧みな弁舌能力により見事に切り抜け、最終的にはカルラ陣営優勢のまま幕引きとなったらしい。

 

 運営委員会の事前調査でも現在はカルラ陣営が大きくリードしているらしく、このまま行けばカルラが大神に即位するのは確実のように思われた。

 

 

 

 ──けれど、事件が起きたのはその日の夜である。

 

 カルラの祖母である“地獄風車”こと──アマツ・カヤ氏が何者かの手によって胸を刃物で貫かれ、意識不明の重体となってしまったのだ。

 

 駆けつけたサクナ(閣下のことが心配になったとかで有給を使って天照楽土まで押しかけてきたらしい)の回復魔法を使っても傷は癒えず、犯人はおそらく神具を用いたのだろうというのが彼女の見解だった。

 

 神具によって胸を貫かれてもなお未だ絶命していないのは、一重(ひとえ)に長年に渡って五剣帝や大神として君臨してきた彼女の強靭な生命力が為せる(わざ)といったところか。

 

 

「──犯人はおそらくレイゲツ・カリンあるいはレイゲツ陣営の者で間違いないでしょうね。今朝の東都新聞を見ても明らかです」

 

 

 ……東都の外れの病院。

 

 アマツ・カヤが寝かされている病室の壁にもたれながら、ヴィルヘイズは静かな怒気を孕んだ声音でそう告げ、手にしていた“東都新聞”の朝刊を閣下へと差し出した。

 

 私も壁際に立ちながら横目でその内容を盗み見る。

 

 記事にはアマツ・カヤが何者かの手によって暗殺されかけたこと、そしてその犯人は孫のカルラであるという旨のことが書かれていた。

 

 レイゲツ邸放火の件といい、全くのデタラメ記事である。

 

 さらに記事によれば。

 

 

「あの……カルラさんが指名手配されてるって書いてありますけど」

 

 

 閣下と一緒に記事を読んでいたサクナがおずおずとそう告げる。

 

 ……そう。

 

 なぜかそういうことになっているのだ。

 

 傍で聞いていたこはるは「真っ赤な嘘。すべてカリンのでっちあげ」と吐き捨てるが、ヴィルヘイズからの補足によれば指名手配になっている事自体は本当で、偵察中のメラコンシーからの報告によれば天照楽土の警察部隊も既に動き出しているらしい。

 

 また、テラコマリ閣下もカルラの共犯として現在行方を追われているという話だった。

 

 どうやら新聞社だけでなく、警察機構までもがカリン陣営によって買収されているらしい。

 

 そのせいで今や閣下やカルラを非難する声は東都中から上がっていた。

 

 そして、そんな中──。

 

 

「カルラ様! 大変でございます!」

 

 

 病室に、こはるとは別の忍装束の少女が足音も立てずに姿を現した。

 

 カルラ配下の鬼道衆の者だろう。

 

 少女はその表情を絶望の色に染めながら震えた声で告げる。

 

 

「風前亭が。燃えています……」

 

 

 忍少女の口からその報せが届けられるや、途中で第七部隊の幹部連中とも合流し、全員でカルラが営む甘味処“風前亭”へと向かう。

 

 激しく行き交う人々の波を掻き分け、私たちが現場にたどり着くと、報告通り、風前亭は本当に燃えていた。

 

 やがて店を支えていた最後の柱が焼け落ち、カルラの目の前で風前亭だった建物は見るも無残な瓦礫の山と化す。

 

 消防団も必死で消火活動を行っているが、こうなってしまってはもはやどうしようもない。

 

 風前亭は菓子職人になりたいというカルラの、大切な夢の拠り所たる場所だ。

 

 ただでさえ自身の祖母が暗殺されかけ生死の瀬戸際を彷徨っているというのに、まるで追い打ちのようなこの仕打ちである。

 

 もはやカルラにかかる精神的な負荷は計り知れない。

 

 ──そこへ。

 

 

「──アマツ・カルラとテラコマリ・ガンデスブラッドだな! そこを動くな!」

 

 

 背後から大声で、失意の只中にあるカルラたちへと無遠慮に呼びかける者たちの姿があった。

 

 見ると、騒ぎを聞きつけてきたのか、制服を着た和魂種──東都の警察部隊がいつの間にか大挙して押し寄せて来ている。

 

 そんな彼らからカルラを庇うように一歩前に出たこはるが、眼前の警察部隊へと短く告げた。

 

 

「放火。犯人を捕まえて」

 

「犯人などいない。自然発火だという報告を受けているからな」

 

 

 警官からのその返答に、閣下から「はあ……!?」という呆れたような声が上がった。

 

 見れば閣下と同様にこの場の誰もが唖然としていた。

 

 そんな馬鹿な話があるものか、と、私ですら思った。

 

 警官は「それよりも──」とさらに言葉を続ける。

 

 

「桜翠宮から逮捕令状が出ているのだ。アマツ・カルラならびにテラコマリ・ガンデスブラッドは殺人未遂及び国家転覆共謀の疑いで逮捕する」

 

「そんなことしてない! でたらめ言うな!」

 

「でたらめなわけがあるか! これは大神様のご聖断であらせられるぞッ!」

 

 

 警官の口から大神という単語が発せられた瞬間、閣下は衝撃を受けたような顔で固まった。

 

 レイゲツ・カリン陣営の賄賂の件といい、大神の動きはあからさまに不自然である。

 

 何か深い考えがあってのことなのか、それとも本当に大神はカルラのことを陥れようとしているのか。

 

 閣下やカルラの話では、当代の大神は決してそんな不正を許すような人物ではない、という話だったが、私は会ったことも無いのでいまいち判断はつかない。

 

 だがいずれにせよ、こんなところで閣下たちを連れて行かせるわけにはいかなかった。

 

 そして私と同じように、彼らもまたそう思ったのだろう。

 

 気づけば警察部隊を正面に見据え、私を含めた第七部隊の幹部全員(とついでにヨハン)が、閣下を庇うように警官たちの前に立ちはだかっていた。

 

 

「──閣下。今回ばかりは私も怒りを禁じ得ませんねぇ」

 

 

 カオステルが普段の飄々とした態度とは打って変わり、恐ろしく冷淡な声音で口火を切る。

 

 

「レイゲツ・カリン陣営の行動は目に余ります。ガンデスブラッド閣下がアマツ・カルラの祖母を殺害? 馬鹿馬鹿しいにもほどがある。我々はそういう小賢しい手は使いませんよ」

 

「カオステルの言う通りです。加えてアマツ殿に対するこの仕打ちはあまりに無道。ひとまず目の前の連中に我々の力を思い知らせてやりましょう」

 

「イエーッ! 閣下の敵はオレの敵。爆発的に飛び散る血液──死ね」

 

「許さねェ……よくも僕をコケにしてくれたなァ──────────────ッ!!」

 

「──それ以上閣下に近付けば殺す。死にたい者から前に出ろ」

 

 

 最後に私がそう言い終えると同時──メラコンシーの爆発魔法が盛大に火を噴いた。

 

 それを皮切りに私以外の幹部全員とヨハンが眼前の警察部隊へと突貫していく。

 

 例のごとく、奴らはいつもの第七部隊イズムに(のっと)り、閣下の命令を待たずして勝手に戦闘を開始してしまった。

 

 私は防衛目的だったために静観したまま出遅れてしまったわけだが、流れ的に私もあれに加わったほうがよかっただろうか。

 

 いやでも、あの中に大した使い手はいなさそうだしなぁ……。

 

 自分から戦いを仕掛けるメリットをあまり感じない。

 

 せめて五剣帝クラスでも出てくれば少しはやる気も出るのだが。

 

 

「な……何やってんだあいつらああああああ!?」

 

「魔核もないところで無謀ですね。しかし私は少しだけ救われたような気分です。彼らが警察を足止めしてくれたおかげで時間的な猶予ができましたし」

 

「ふむ。と言うと、やはりこれから本丸を叩きに行くおつもりで?」

 

 

 幹部連中の暴れっぷりを視界の端に捉えつつ、背後のヴィルヘイズへと訊ねる私。

 

 

「ええ。こうなれば大神のもとに直接乗り込むしかありません。目指すは東都中枢──大神の居城“桜翠宮(おうすいきゅう)”です」

 

「ほう、城攻めとは。なかなか胸踊る展開ですね」

 

「目的はあくまで話し合いですけれどね──と、あれは……」

  

 

 と、ヴィルヘイズとそんな会話をしていたら、警察部隊とは別口の新たな軍勢がこの場に駆けつけていた。

 

 あれは軍の連中……それも率いているのは五剣帝か?

 

 顔も名前も知らないが、警察部隊に比べれば少しは腕が立ちそうだ。

 

 

「天照楽土軍の第四部隊ですね。まともにやり合ったら捕まるのは必至です。桜翠宮へ急ぎましょう」

 

「だそうだ。行くぞカルラ!」

 

「え──きゃっ」

 

 

 閣下がカルラの手を引いて走り出す。

 

 私とヴィルヘイズ、サクナ、こはるの四人もそんな二人の後に続いた。

 

 

「─────」

 

 

 背後から飛来する五剣帝が放った魔法による光の矢。

 

 それを私は【魔弾】で撃ち落とし、ついでに【魔榴弾】を放って追手(おって)の軍勢を吹き飛ばした。

 

 【魔榴弾】はミリセントに教わった魔法だが、なかなか使い勝手が良い。

 

 やはり多人数相手なら手っ取り早く魔法で仕留めるに限るな。

 

 

「─────!」

 

「───………っ」

 

 

 前を走る閣下たちに目を向けると、閣下とカルラの二人は何やら言い合いになっている様子だった。

 

 ──あ、カルラがコケた。

 

 手を引いて一緒に走っていた閣下も連鎖的に地面に突っ伏すようにその場に転倒する。

 

 それを好機と見てか、敵の将軍が叫んだ。

 

 

「上級刀剣魔法・【神速──ゴハァ……!?」

 

「なんだ……!?」

 

 

 魔法を発動しようとしていた追手の五剣帝が突如として苦悶の声を上げながらその場に倒れ込む。

 

 敵は全身から血を噴き出して絶命していた。

 

 そして閣下はどうやらその瞬間を見ていなかったらしい。

 

 何が起こったのかわからないといった様子で困惑の声を漏らす閣下に、私は端的に事実だけを述べる。

 

 

「──たったいま私が殺してきました」

 

「は、はああ……!? こ、殺したって、今のこの一瞬でか!?」

 

「はい。あの者は不遜にも閣下に向けて魔法を放とうとしていましたからね。ムカついたので魔力を練って一瞬で接近し一瞬で体中のありとあらゆる内臓を爆散させてやりました」

 

「殺し方がこわすぎる!! というか五剣帝を瞬殺ってお前凄すぎないか!?」

 

「まあ五剣帝といっても大した使い手ではありませんでしたからね。強さ的に0.4フレーテぐらいといったところでしょう」

 

「いや0.4フレーテって何だよ! なんでフレーテが強さを測る単位みたいになってるんだよ! わかりにくいよ!」

 

「では5300ヨハンぐらいです」

 

「どんだけ弱いんだよヨハン! お前の中のあいつの評価低すぎるだろ!!」

 

 

「……何はともあれお見事でした、コマリスキー中尉。おかげで敵は司令塔を失い一時的に指揮系統に乱れが生じているようです。他に追手のいない今のうちに、一気に桜翠宮まで駆け抜けましょう」

 

 

 ──と、迅速に追手を撒いた私たちはヴィルヘイズに促され、再び桜翠宮を目指して走り始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 

 ……一方、同時刻。

 

 騒ぎに暮れる東都の街。

 

 そんな街の様子を、とある銭湯の屋根の上から悠然と見下ろす二つの影があった。

 

 

「──ふはは。折を見て手を貸してやろうかと待機していたが、どうやらその必要はなかったようだな。さすがはテラコマリ・ガンデスブラッド。配下の者も実に優秀ではないか」

 

 

 片方は厚手の冬服に身を包み、鮫のようにギザギザした歯が特徴的な蒼玉──プロヘリヤ・ズタズタスキー。

 

 白極連邦の将軍“六棟梁”の一人にして、最近なにかと話題の“六戦姫”──(テリコマリやネリア、カルラ、そして夭仙郷のアイラン・リンズといった、各国を代表する将軍たちの中でも特にめざましい活躍を見せる六人の少女たちのことを差す枠組み)──にも名を連ねている少女だ。

 

 プロヘリヤは興奮を抑えきれぬ様子でくつくつと笑いながら、傍らの人物──猫のような耳と尻尾が生えた獣人種の少女へと言葉をかける。

 

 

「なあリオーナ。お前も見ていただろう? あれは逸材だぞ」

 

「うん。……あの青髪ポニーテールの子、すごく強いね。あれで将軍じゃないなんて、ムルナイトってそんなにレベル高いの……?」

 

 

 そう答えたのはプロヘリヤたちと同じ“六戦姫”にして、ラペリコ王国の将軍“四聖獣”の一人、リオーナ・フラットである。

 

 

「少なくとも六国大戦の時に戦ったムルナイトの将軍たちに比べれば、幾らか格上に見えたな」

 

「だよね……、あんなの私でも勝てるかわかんないよ……。纏ってる魔力の量はそんなに変わらないと思うけど、でも爆発力が全然違うっていうか……」

 

「うむ。おそらくは身体強化における魔力操作の技術が異常なほどに高いのだろうな。それに見たか? 先程の五剣帝を殺ったあの技を。奴が手に触れただけで五剣帝ともあろうものが一瞬で全身から血を噴き出して死んでいた。何か特別な魔法を発動させた様子はなかったし、それにあの少女は魔核を由来とする魔力を纏ったままだった。よって烈核解放でもない。これがどういう意味かわかるか?」

 

「……えっ、じゃあつまりあれは、あの子の純粋な身体技術ってこと?」

 

「そういうことになる。考えられるとするなら、打撃の瞬間に相手の体内に己の魔力を流し込み爆裂させた、といったところか。──まさに絶技だな」

 

「…………」

 

 

 リオーナは内心で身震いした。

 

 ラペリコ王国最強の将軍である自身と同等レベルの魔力と、そしてそれを上回る魔力操作技術。

 

 さらにはそこへあの卓越した身のこなしと触れただけで相手を内側から爆裂させる即死技……。

 

 銃使いのプロヘリヤならまだ有利に戦えそうだが、格闘戦を主体とするリオーナにとってはこの上ないほどの脅威だった。

 

 ──明日は天舞祭の最終決戦。

 

 プロヘリヤとリオーナはレイゲツ・カリン陣営の協力者として明日、テラコマリ・ガンデスブラッドやアマツ・カルラ、それにあの謎の男装の吸血鬼少女を相手に戦争形式の殺し合いをすることになっているのだ。

 

 正直気は乗らない、とリオーナは思う。

 

 この国はどこかきな臭く、あのレイゲツ・カリン──特に彼女と一緒にいるフーヤオ・メテオライトとかいう狐少女のことはどうにも信用ならない。

 

 この風前亭の火事や、それにアマツ・カヤ暗殺だって、きっと彼女たちの仕業に違いなかった。

 

 そう確信したから、プロヘリヤとリオーナの二人はカルラやテラコマリたちに手を貸すべくこうして陰ながら様子を見て、いざというときの為に待機していたのだ。

 

 ……いっそこのままカルラ陣営に寝返ってしまおうか。

 

 少なくともプロヘリヤは既にそのつもりらしい。

 

 彼女はこれで、意外にも正義感が強いようだから。

 

 レイゲツ・カリン陣営の卑劣なやり口に怒りを燃やしているのだ。

 

 リオーナとしても、カリンたちのやり方は好きじゃない。

 

 このままカリン陣営として戦ったところで勝ち目があるようには思えないし、それにプロヘリヤも寝返るつもりなら、これは本当にラペリコの国王に陣営の変更を願い出てみたほうがいいかもしれない。

 

 桜翠宮を目指して走り抜けていくテラコマリやカルラたちの姿を眺めながら、リオーナはひっそりとそんな決意を固めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






……お読みいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。

前話でも申し上げました通り、かなり駆け足のような内容となりました。
次話までこのような駆け足展開が続きますので、どうかご留意して頂ければと思います。

それでは次話もお付き合い頂けましたら幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。
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