リミィ・コマリスキーは強者を求める   作:葵莢

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16.天舞祭の終結と私の不満

 

 

 ──桜翠宮に辿り着く。

 

 宮城(きゅうじょう)内は、不自然なほどの静けさに包まれていた。

 

 見回りの兵士たちの姿はどこにもなく、こはるに先導されるまま、私たちはやがて謁見の間のような、巨大な広間へと足を踏み入れる。

 

 

「──────」

 

 

 ……そこには、とある女性の姿があった。

 

 太陽の意匠が施された(かんざし)に、高雅な雰囲気の和装を纏ったたおやかな女性。

 

 けれどもその素顔は巨大なお(ふだ)によって覆われており、表情までを窺うことはできない。

 

 

 ……事前に聞いていた特徴と一致する。

 

 あれが天照楽土の当代の大神(おおみかみ)か。

 

 彼女のことを直接目にするのはこれが初めてだが、気のせいだろうか。

 

 その全く隙の無い立ち姿には、なぜだがどこかで見覚えがあるような、そんな気がした。

 

 否、気のせいなどではない。あれは、まさか──。

 

 

「──あら? 皆さんどうされたのですか?」

 

 

 大神が口を開く。

 

 それとほぼ同時に、「大神様っ!」とカルラが(せき)を切ったような様相で彼女へと駆け寄っていった。

 

 

「どういうことですか!? 何故私が軍や警察に追われているのです? どうして私がお祖母様を殺そうとしたことになっているのです!?」

 

「貴方がやったのではないという証拠はあるのですか?」

 

 

 冷たい声でそう問い返され、カルラは一瞬、怯んだように息を呑んだ。

 

 

「しょ──、……証拠なんてありませんけれど! でも私があんなことをするはずがない! それは大神様もよくわかっているでしょう!?」

 

「わかりませんね。まったくもってわからない」

 

「な、何故……」

 

「何故なら──私は大神ではないのですからな!」

 

 

 ──ぼふん!

 

 突如、大神の身体を覆い尽くすように、どこからともなく大量の煙が噴き出した。

 

 そうして煙が晴れると、そこにはもう大神の姿はなく──代わりに、先日のあの狐少女、フーヤオ・メテオライトが姿を現していた。

 

 ……立ち姿や纏う雰囲気に既視感があると思ったが、やはり先程の大神は彼女の変身体であったらしい。

 

 フーヤオはその場で揚々と名乗りを上げると、次いで、くすくすと悪意の込もった笑みを浮かべる。

 

 カルラは信じ難いものを見るようにして声を震わせながら、眼前の狐少女へと問いかけた。

 

 

「大神様は……どこへ行ったのですか……?」

 

「大神様なら消えてもらったよ」

 

 

 と、そう答えたのはフーヤオではない。

 

 見ると、御簾(みす)(そば)にあった柱の影から、見覚えのあるサムライ少女がぬらりと姿を現していた。

 

 ──レイゲツ・カリン。

 

 天照楽土の五剣帝の一人にして、カルラの対抗馬たるもう一人の大神候補だ。

 

 

「あの方はカルラを贔屓している。このままでは天照楽土のためにならないと思った。だから私は強硬手段に出たのだ」

 

 

 ……そう言って、カリンは全てを語った。

 

 フーヤオ・メテオライトの、他者に変身するという能力を持った烈核解放・【水鏡(みずかがみ)稲荷(いなり)権現(ごんげん)】。

 

 それを使ってフーヤオを大神に成り代わらせることにより、カリンはその権限を用いて天舞祭で自分たちが有利になるよう様々な働きかけを行っていた。

 

 カリン陣営のみの賄賂の合法化や、東都新聞の偏向報道、そして風前亭の放火に、警察や軍の不自然な介入。

 

 わかっていたことだが、それらは全てこのカリンと、そして大神に成り代わっていたフーヤオの謀略によるものであった。

 

 さらにはカルラの姿に化け、彼女の祖母であるアマツ・カヤに近付き神具で暗殺を図った張本人もまた、この目の前の狐少女であるという。

 

 そこまで語るとカリンは、今度はカルラに対する激しい嫉妬や怒りの感情を(あらわ)にした。

 

 その内容は私にはあまり理解ができないものだったが、きっとこの二人には昔から当事者同士にしかわからない深い因縁があったのだろう。

 

 カルラに対して身勝手な激情をぶつけるカリンの姿は、テラコマリ閣下に対して一方的な憎悪を燃やしていた頃のミリセントとどこか重なって見えた。

 

 ……だが、この女はミリセントではない。

 

 ゆえに私が情けをかける理由も、同情を抱く余地も全くない。

 

 私にとっては彼女の事情の全てがどうでもいいことだった。

 

 そうやって私がカリンの話を聞き流していると、やがてカルラを庇うようにしてテラコマリ閣下が彼女たちの会話に割って入る。

 

 その瞬間だった。

 

 

「────っ」

 

 

 ──ずょん。

 

 何かが切り替わる気配と共に、カリンのすぐ後ろに控えていたフーヤオが凄絶な笑みを浮かべ、隠すこともなく殺気を振りまきながら腰の刀に手をかけるのが見えた。

 

 間違いない。

 

 奴は閣下に斬りかかるつもりだ。

 

 カルラもこはるもヴィルヘイズやサクナも、フーヤオの動きがあまりにも速すぎてこの時点ではまだ気づいていない。

 

 閣下ですら、話に熱中しているのかフーヤオに対して意識が向けられていない様子だった。

 

 この場で奴を止めに入れるのはおそらく私だけ。

 

 だがあの速さで動こうとする者を止めるには、私も、手加減無しで動かなければならない。即ち──。

 

 

 ──殺すしかない。

 

 

 僅か0.1秒にすら満たない加速された思考の中で、私はほぼ無意識のうちにそう判断し、全身から全力の魔力を放出しながら貫手を構える。

 

 ……けれど、結果として私がその場から動くことはなかった。

 

 おそらく刀を抜く直前で、私の本気の殺意を感じ取ったのだろう。

 

 フーヤオは目を見開き、尻尾の毛を逆立たせながらまるで時が止まったかのように硬直した。

 

 やはり獣人種らしく、他者から向けられる殺気や害意にはかなり敏感らしい。

 

 彼女が殺気を鎮めたことで、私もまた戦闘態勢を解く。

 

 しかし、私と狐少女がそんな駆け引きを行なっている最中(さなか)にも、カリンと閣下の問答は続いていた。

 

 そしてその問答の末、カリンは自らの刀の柄に手を添えながら、眼前の閣下へと向けて言い放つ。

 

 

「──最終決戦まで待ちきれないな。さあテラコマリ。殺し合おうではないか」

 

「な、何を、」

 

 

 ──銀色の軌跡が閃いた。

 

 初日の演説の時と同じく、カリンが放ったのは居合の構えからの抜刀斬り。

 

 しかしあの時と決定的に違うのは今回はカルラではなく、閣下を狙った攻撃であるということ。

 

 無論、閣下ならばこの程度の斬撃を躱すことなど造作もあるまい。

 

 その速度についても将軍として相応しいレベルに達してはいたが、それでも、フーヤオに比べればまるで児戯にも等しいものだった。

 

 

「────ッ!!」

 

 

 カリンの放った高速の居合。

 

 だがこの程度なら、充分に手加減した状態で対応できる。 

 

 私は掌の先にだけ魔力を込めると、手刀を作り、それを──。

 

 

 ──横薙ぎに居合を振るうカリンの刀の腹へと、真上から垂直に振り下ろした。

 

 

 

「なっ……!?」

 

 

 カリンから漏れ出る驚愕の声。

 

 閣下の身体に刃が触れようとした寸前、魔力を纏った私の手刀がカリンの刀を真っ二つに叩き折る。

  

 面食らったように固まるカリン──その首を、私は容赦なく片手で鷲掴み、気道を塞ぐように締め上げた。

 

 「うぐっ……!?」というカリンの呻き声を聞きながら、私は極めて冷淡な声音で告げる。

 

 

「──何が殺し合いだ。まさかこの程度の技で、閣下に傷を付けられるとでも思ったのか? つけあがるのも大概にしておけ。──いっそ、ここで死んでみるか?」

 

「……ぅ……ぁが……」

 

「お、おいやめろリミィ! なにしてんだよ!?」

 

「そうです……! さすがにここでカリンさんを殺してしまうのは色んな意味でまずいです! 冷静になってください!」

 

 

 このまま握り潰さんばかりの勢いでカリンの首を締め上げ続ける私を、閣下とカルラが必死な声音で制止する。

 

 ……まあ、閣下の命令ならば仕方ないか。

 

 

「ふん。閣下の寛大な御心に救われたな」

 

「……がッ──」

 

 

 そう吐き捨てて、無造作にカリンの身体を放り投げる私。

 

 それを、傍で静観していたフーヤオが無言で受け止めた。

 

 

「──で、お前はどうするんだ? 私としてはお前とは是非ともここで一戦交えてみたいものだが」

 

 

 私が問うと、フーヤオは「いえいえ、滅相もありませぬ」と掴みどころのない笑みを浮かべながら、即座に首を横に振って否定した。

 

 そして彼女はカリンが完全に意識を失ったのを確認すると──ずょん。

 

 何かが切り替わる気配と共に、先程までとはまるで異なる、鋭利で冷徹な表情を浮かべながら言うのだった。

 

 

「──正直侮っていた。【孤紅の(とむらい)】以外は何ら私の障害になり得ぬ、取るに足らない者らだと。……だが、どうやら貴様だけは別格らしいな、リミィ・コマリスキー」

 

 

 フーヤオはそう言い、全く感情の込もっていない瞳で私のことを見据える。

 

 ……目の前のこいつは、本当に先ほどまでの少女と同一人物なのだろうか。

 

 口調だけでなく、纏っている雰囲気までまるで別人のように変わっている。

 

 これが彼女の素なのか、それとも所謂(いわゆる)多重人格者と呼ばれるような人種なのか──フーヤオは僅かに嘆息を漏らし、おもむろに懐から何かを取り出した。

 

 

「……癪ではあるが、認めよう。今の私にはこの場で【孤紅の恤】と貴様を同時に相手取れるだけの力はない。──決着は明日、天舞祭の最終決戦でつけるとしよう」

 

 

 それだけ言うと、フーヤオの掌中で何かが光る。

 

 あれは魔法石の光──それを知覚した次の瞬間には、フーヤオとカリンの姿は忽然とその場から消えていた。

 

 【転移】の魔法石を使って離脱したのだ。

 

 追撃を食らわせて阻止してもよかったのだが、先程閣下にやめろと止められたばかりなので、この場は見逃すしかなかった。

 

 後に残された私たちはしばらくその場で呆然としていたが、やがて軍や警察の捜査が打ち切られたという報告を受け、全員揃ってアマツ邸へと帰還し、そうしてその日はそれで終わったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ──そして迎えた天舞祭の最終日。

 

 核領域のとある戦場地帯にて行われた、大神候補者同士による戦争形式での殺し合いは、その序盤からして想定外の事態の連続だった。

 

 カリン陣営の協力者として参戦するはずだった白極連邦の六棟梁プロヘリヤ・ズタズタスキーおよびラペリコ王国の四聖獣リオーナ・フラットの、当日になっての寝返り宣言に始まり、カリン側の不正な手段を用いての地雷の大量設置。

 

 大神に成り代わることで思うままに権力を振るうことのできたカリン陣営は、(あらかじ)め戦場の場所を指定することで前日からカルラ側の陣地付近に大量の地雷を仕込んでいたのだ。

 

 それにより、開戦と同時に進軍を開始したカルラの天照楽土軍第五部隊、その総数五百のうち、半数が死亡し、残った半数もそのほとんどが再起不能の重症を負うこととなった。

 

 その結果、まともに動ける兵は大将のカルラおよびその従者のこはる、そして助っ人枠として参戦していたテラコマリ閣下、ヴィルヘイズ、サクナ、私を含めた第七部隊幹部四名と、カリン陣営からカルラ陣営へと鞍替えしたプロヘリヤとリオーナの、計十一名のみ(ヨハンはこのとき爆風と共に飛んできた木の枝によって腹を貫かれ死んでいたので数には含まれない)となってしまう。

 

 対してカリンの率いる天照楽土軍第三部隊総勢五百名はほぼ無傷のまま。

 

 カリン側に助っ人枠の将がいないとはいえ、あまりにも圧倒的すぎる兵数差である。

 

 これによりカルラ陣営の誰もが思うように動くことができず、ひたすら目の前の敵兵を駆逐する中、閣下とカルラは敵総大将であるカリン一人に狙いを付ける一点突破作戦を敢行した。

 

 敵兵の波を切り開き、カオステルの空間魔法【転送】を用いて閣下とカルラを敵の本陣へと送り込み、奇襲する作戦。

 

 【転送】で一度に送れるのは最大三名までという限りがあったため、奇襲メンバーには閣下とカルラ、ヴィルヘイズの三名が選ばれた。

 

 ──が、カオステルが魔法の発動中に敵の魔法を食らい、【転送】は不完全な形で発動。

 

 それにより敵本陣に送り込むことができたのは閣下とカルラの二人のみとなってしまう。

 

 けれどたとえヴィルヘイズがいなくとも、世界最強の吸血鬼である閣下と、宇宙最強の将軍と称されるカルラの二人であれば戦力としては全く申し分ない。

 

 レイゲツ・カリンやフーヤオ・メテオライトなど、この二人にかかれば一瞬で戦場の塵となるであろう。

 

 そう確信し、私は以降、そちらには一切目もくれることもなくひたすら戦場を駆け抜け、敵兵を殺し回った。

 

 欲を言えば私も奇襲側に加わりたかったが、此度の戦いは普段のエンタメ戦争ではなく、天照楽土の次期大神を決めるための重要な催し。

 

 即ち、私のような外部の人間がしゃしゃり出るのではなく、この戦いで活躍するのはカルラでなければならない。

 

 よって私は敵大将討伐の手柄はカルラたちに譲り、一心不乱に雑兵を殲滅していた。

 

 そのため、これ以降に起こった出来事については、そのほとんどが後から聞いた情報になる。

 

 カオステルの【転送】により敵本陣へと一瞬で到達した閣下とカルラは、カリンおよびフーヤオと対峙。

 

 しかしその時には既に、カリンは全身を神具によって切り刻まれ、虫の息だったという。

 

 フーヤオ・メテオライトがカリンに対し、突如として反旗を翻したのだ。

 

 カリンを降したフーヤオは、戦場で実況を続けていた六国新聞の記者から《電影箱》を奪い、六国中に自らが“逆さ月”の構成員であることを明かした。

 

 さらにフーヤオは、カリンから天照楽土の魔核の在り処を聞き出したと言い、これからそれを破壊しに行くと大々的に宣言する。

 

 ……だが、フーヤオのこの企みは、結果的に失敗に終わった。

 

 いや、最初から成功する筈などなかったと言える。

 

 なぜなら最初から、カリンはフーヤオに魔核の在り処など教えていなかったからだ。

 

 死の淵に立ってもなお、カリンは最後に自らの誇りを貫き、フーヤオに偽の情報を与えていたのである。

 

 そしてそんなフーヤオも、烈核解放を発動し、翠色の魔力を纏った本気の閣下と、時間を巻き戻す烈核解放・【逆巻(さかまき)玉響(たまゆら)】を発動したカルラの二人の手によって為す術もなく敗北した。

 

 ……と、こうして。

 

 テロリストの襲撃という突然の危機に晒された天照楽土は、閣下の力の余波で東都の一部を樹海に変えられながらも再びの平穏を取り戻したのであった。

 

 

「──とまあ、こうして天照楽土から“逆さ月”の脅威は消え去り、此度の一件もまた閣下のお力によって万事解決へと至った、という訳です」

 

 

 ──天舞祭の最終決戦から約三日が経った。

 

 無事にムルナイトへと帰還した私は例のごとく、ブルーナイト邸へと訪れ、ミリセントに此度の天舞祭騒動における事の顛末を閣下の勇姿と共に熱く語り聞かせていた。

 

 私の話を聞き終えると、ミリセントは「……ふぅん」と何やら思案顔で相槌を返す。

 

 

「万物の時間を加速させる力、ね。……和魂種は時間の感覚に鋭敏な種族だって聞くけれど、その特徴を【孤高の恤】で発揮したらそんな馬鹿げた力になるのね。──本当、どんだけ反則級なのよあの女の烈核解放は」

 

「ええ、さすがは閣下です。いつ見てもあの圧倒的な力には()()れしますね。……嗚呼、是非とも挑んでみたい!」

 

「あくまで烈核解放だけならね。何度も言ってるけど、素の状態なら雑魚中の雑魚よ、あの女」

 

「ははっ。またまたご冗談を」

 

「……本当だっての。なんでいつもそこだけは全く信じようとしないのよ、こいつ」

 

 

 と、辟易したようにそんな不満を漏らすミリセント。

 

 そんな姉に、私は努めて優しい顔を作りながら諭すように告げる。

 

 

「姉さんもいい加減認めましょう。閣下はいつ如何なる時も、常に最強の存在なのです。悔しいのはわかりますが、それが事実なのだから受け入れるしかありません」

 

「だ、か、らぁ……! ……はぁ、もういいわ。──それで? テラコマリにやられたフーヤオ・メテオライトはそのあとどうなったわけ? 死んだの?」

 

「いえ、それが死体が見つからなかったとかで行方不明扱いらしいのですよ」

 

「……そう」

 

 

 私が答えると、ミリセントはそんな短い返答だけをして、紅茶の入ったティーカップへと口をつける。

 

 その表情はなにか難しいことをあれこれ考えている顔だった。

 

 フーヤオの生死が不明なことで、彼女に何か不安なことでもあるのだろうか?

 

 たしかにあの狐少女は今まで出会ったどの将軍よりも強そうだと感じたが、それでも閣下の烈核解放の前では大した脅威にはなり得なかった。

 

 おそらく私も、本気で戦えば問題なく勝利できるレベルの相手だろう。

 

 まあ彼女は神具使いなので、不意打ちでも食らったらかなり厄介だとは思うが──と、ああ、そういえば。

 

 

「レイゲツ・カリンとアマツ・カヤ氏のほうは一命をとりとめましたよ。カルラ殿の烈核解放の力で、彼女たちの時間を傷つく前の状態に巻き戻したそうです」

 

「そっちは別に興味ないわ。なんの思い入れもないし」

 

「まあ、それはそうですが」

 

「…………ただ、あの狐が動いてたってことは、背後にいるのは……」

 

 

 と、まるで私のことなんか見えていないように何やらブツブツと独り言を漏らすミリセント。

 

 よくはわからないが、今の立場的にも彼女には色々と考えることが多いのだろうな。

 

 とりあえずそっとしておこう。

 

 ──それにしても。

 

 

「……今回は本当に不完全燃焼でした。大した敵とも戦えませんでしたし。特に最終日にプロヘリヤとリオーナの二人がこちらに寝返ってきたのが痛かったですね……。あれで楽しみが一気に減ってしまいましたから」

 

「……“六戦姫”、だっけ? ──まあエンタメ戦争を続けていくんなら、そのうちそいつらとぶつかる事もあるんじゃない?」

 

 

 ……ふむ。

 

 たしかにそれはその通りだ。

 

 なぜなら閣下はいずれ他国の将軍全てを降し、真の意味での殺戮の覇者となられるお方。

 

 そんな閣下の下についていれば、プロヘリヤやリオーナだけでなく、夭仙郷のアイラン・リンズなどの他の六戦姫と戦える機会もきっといつか訪れるだろう。

 

 それに将軍以外でもあのフーヤオ・メテオライトのように“逆さ月”やそれに類する他の裏社会の連中の中にも、きっとまだまだ実力者は潜んでいるはずだ。

 

 

 ……と、まだ見ぬ強敵たちとの出会いに思いを馳せながら、私は今日も今日とてこの世界の日常を過ごしていく。

 

 

 ──六国にはもうじき、冬が訪れようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 






……お読み頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか。

……今回のこの四巻部分の最後の展開ですが、本当に悩みました。
本来なら桜翠宮に到達した場面でフーヤオとリミィをぶつけるのがいちばん妥当なのでしょうが、しかしそれだと魔核の回復能力には絶対頼らない主義のフーヤオは満身創痍の状態で次の日の天舞祭の最終決戦を迎えることとなり、原作通りにコマリやカルラを覚醒させるとしたら辻褄が合わなくなりそうでしたので、今回はこういった形をとらせて頂きました。

カルラとは結局四巻部分でもほとんど絡むタイミングを見つけられず残念でしたが、ただ、フーヤオに関しては今後またどこかの場面で活躍の機会を作れたらいいな、と思っております。

そして次話からは原作五巻部分の内容に入っていきますが、五巻は原作でもミリセントがガッツリ絡んでくる巻になりますので、今から書くのがとても楽しみです。すごく妄想が捗ります……。

それでは、次話もお付き合い頂けましたら幸いです。
今後ともよろしくお願い致します。
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