リミィ・コマリスキーは強者を求める   作:葵莢

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18.聖都の街と私の潜入

 

 

 ……あの後、血濡れの間で起こった出来事を順を追って説明すると。

 

 まず、閣下やフレーテたちが会談の場に訪れた時点で、既に教皇ユリウス6世こと、スピカ・ラ・ジェミニという少女はたいへんご立腹の様子だった。

 

 事前に会談の場所も日時も申し合わせていたというのに、その会談相手である皇帝が不在だったのだから当然だ。

  

 けれどもスピカは何とか気を取り直しながら、今回このムルナイトにて会談の場を設けるに至った理由を語った。

 

 彼女がムルナイトへと訪れた理由。

 

 それは、“神聖教をムルナイトの国教として定めよ”、というこのあまりにも無茶苦茶すぎる要求を、一方的に押し通すためであったらしい。

 

 当然、皇帝不在の場でそんな無茶な要求が通るはずもなく、閣下やフレーテはやんわりとこれを拒否しようとした。

 

 ──が、それでもスピカは食い下がった。

 

 これを断るというのなら、それは神に対する反逆も同義である、と。

 

 かくなる上はムルナイト帝国を異端国家とみなし、神罰を下すことも辞さない、と、彼女はそこまで言ってのけた。

 

 つまりは、『この要求が呑めないなら聖都の軍を動かして戦争を起こしちゃうけどいいの?』というような意味合いである。

 

 実際、そうやって神聖教の軍隊によって滅ばされた都市は歴史上いくつも存在するらしい。

 

 ──だが、我らが閣下はそれでも拒否した。

 

 いきなり宗教勧誘だなんて礼儀がなっていない、まずはもっと友好を深めてからにしろ、と。

 

 閣下のこの主張にスピカは「確かに」と頷く。

 

 ならばまずは聖典を百万冊ほど寄贈するのでこれを国民に配り、法整備を進めてほしい。

 

 そんな提案をするスピカだったが、対して、次に反発したのは閣下の側に控えていたヴィルヘイズとカオステルの変態コンビであった。

 

 やれそんなもの漬物石のかわりに使ってやるだの、ちょうど寒くなってきたから暖炉に薪として()べてやるだのまさに言いたい放題にスピカのことを煽り散らかす二人。

 

 結託した変態二名のせいでスピカの顔はみるみる険しくなっていった。

 

 そんな中、閣下の隣に座っていたフレーテは青い顔をしながら、何とかその場を取り繕おうとスピカに紅茶のおかわりを勧めた。

 

 ……だがそこで、満を持してあの男が登場する。

 

 

 ──“イエーッ! ご機嫌ナナメなユリウス6世、それを(なだ)める方向性。笑顔のほうが望ましい、それがオレの至上のポリシー。みんなでお茶会楽しいかい?”

 

 

 ──第七部隊幹部の一人。金髪サングラスの奇人、メラコンシー大尉である。

 

 彼はティーポットを片手に颯爽とテーブルの上に飛び乗ると、そのまま、高速でタップダンスを踊りながらスピカの目前へと歩みを進める。

 

 「な……なんですかこの狼藉者は!?」──そのあまりの奇行に激しく狼狽するスピカ。

 

 メラコンシーはそんな彼女のティーカップに狙いを定めると、次の瞬間、テーブルの上に立ったままの状態、つまりは遥かな高所から……、

 

 

 ──じょぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ!!

 

 

 と、一切の躊躇なく。凄まじい勢いで紅茶のおかわりを注ぎ落とした。

 

 当然、周囲はティーカップから飛び散った汁でびちゃびちゃ。勿論スピカの顔や服もびちゃびちゃ。

 

 この時点でスピカは完全にブチギレていた。

 

 どう見ても目が据わっていた。

 

 場がこれ以上ないほど最悪の空気に包まれる中、次いで、そんな状況にさらなる追い打ちをかけるように突如、宮殿の外から激しい爆発音が響き渡る。

 

 いったいなんの騒ぎだ、と、慌てて現場に急行する閣下やスピカたち。

 

 そこで彼女たちは、信じられない光景を目の当たりにする。

 

 ……先日ムルナイトに寄贈されたばかりだという、高さ30メートルにも及ぶ神聖教の“神”を象ったシンボル、巨大神像。

 

 それが、跡形もなく倒壊していたのだ。

 

 無論、自然に壊れたわけではない。

 

 第七部隊(バカども)が神像を目掛けて魔法をぶっ放しまくり、木っ端微塵に粉砕したのだ。

 

 理由は、閣下の巨大立像(32メートル)を建立するのに邪魔だったから。

 

 そういえばカオステル率いる広報班の連中が少し前からそんな計画を話していた気がするな、と私はその時になってふと思い出す。

 

 曰く、神聖教の神なんかよりよほど絶対的な神である閣下の威光を世に知らしめるためのシンボルを作る、とかなんとか。

 

 その建設費については隊員のポケットマネーから(まかな)うとか言って、私も給料一ヶ月分は持っていかれた。

 

 それに関しては私も承諾したため別に文句は無い。

 

 そう、文句は無い……のだが。

 

 ……まさか、既に建っている神像を破壊してその上から建てるつもりだったとはなぁ。

 

 神をも恐れぬ所業とはまさにこの事である。

 

 「あれは……私が……神聖教を広めるために……ムルナイト帝国に贈った神像なのに……それを……あんなガラクタを扱うかのように……」──目の前で起きた惨状を呆然と見つめ、スピカはもはや怒りを通り越し、絶望の表情を浮かべていた。

 

 そのままスピカは閣下の胸ぐらを掴み、どう責任取ってくれんじゃワレぇ!みたいな勢いで詰め寄る。

 

 ごめんごめんごめん! 本当にごめん! 冷蔵庫のプリンあげるから許して!と精一杯謝罪する閣下。

 

 そんな閣下にスピカはとある条件を突きつけ、それを呑むのならひとまずは怒りを収める、と告げた。

 

 その条件というのは。

 

 

 ──“あなたがもっとも大切に思っているモノを私に差し出しなさい”。

 

 

 そしてスピカは、閣下にとってのソレは専属メイドのヴィルヘイズではないか、という結論を出した。

 

 ヴィルヘイズの身柄をこちらに引き渡さなければ、このまま戦争を起こす。

 

 スピカからのそんな要求に、当のヴィルヘイズは閣下の意見を聞くこともないままあっさりと承諾。

 

 ……こうして。

 

 ヴィルヘイズはスピカと共に、聖都へと旅立ってしまうのだった。

 

 

 

 

 ……しかし、その四日後。

 

 事態は急激に動き出す。

 

 突如として、帝都で暴動が起こったのだ。

 

 暴動の主犯は、聖都から派遣されてきたという神聖教の司祭。

 

 さらにこの司祭が実はテロ組織、“逆さ月”の一員であったことが明らかとなり、それとほぼ同時に、神聖教教皇スピカ・ラ・ジェミニが突然、ムルナイト帝国に対して宣戦を布告した。

 

 ……そう。最初からスピカは、ムルナイトのことを許すつもりなど無かったのだ。

 

 閣下からヴィルヘイズを奪ったのもただの嫌がらせに過ぎず、そのことを知った閣下はすぐに我々第七部隊全員を招集すると、聖都への侵攻およびヴィルヘイズ奪還作戦の開始を大々的に宣言した。

 

 

 

 ──そして、現在。

 

 

「──すごい場所ですね。神聖教の人たちでいっぱいです」

 

 

 真っ白な雪が降り積もる聖都レハイシアの街を眺めながら、私の少し後方を歩くサクナが物珍しそうに呟いた。

 

 我々は今、聖都レハイシアの街へとやってきている。

 

 目的はヴィルヘイズ奪還と教皇の説得。

 

 それが私たち“聖都潜入グループ”へと課せられた任務だった。

 

 今この場にいるのは私、閣下、サクナ、そして新任の第五部隊隊長の計四名。

 

 

「…………」

 

 

 物珍しそうに街を眺めるサクナと、それに同調するようにしきりに辺りを見回すテラコマリ閣下。

 

 そんな二人を現在の第五部隊隊長である彼女──ミリセント・ブルーナイト将軍は、ぴしゃりと棘のある声で窘めた。

 

 

「あんまりきょろきょろしないほうがいいわ。聖騎士団が潜んでるかもしれないから」

 

「ご、ごめん」

 

 

 閣下がぎこちない口調で謝罪する。

 

 ……まあ、そりゃ気まずいよな。

 

 隣を歩くミリセントと、その後方の閣下の顔を交互に見比べながら、私は小さく苦笑を漏らした。

 

 まさか閣下も、あのミリセントが自分の同僚になろうとは夢にも思っていなかっただろう。

 

 私もずっと口止めされていたし、軍内部でも彼女の七紅天入りのことを知っていたのは第五部隊の隊員の他には一部の高官たちだけだったらしいからな。

 

 だが、これは紛れもない事実だ。

 

 彼女、ミリセント・ブルーナイトは皇帝からの勅命(ちょくめい)により、七紅天へと就任していた。

 

 こうなった経緯は色々と複雑ではあるのだが、まあ一言で言ってしまえば利害の一致、というやつである。

 

 このあたりの事情はどうにも当人たちにしか知り得ない部分が多いようで、私も正確にすべてを把握している訳ではない。

 

 ただ表向きには、かつての罪を清算する為、ミリセントは皇帝の(めい)に従い、将軍として国のために尽くすことを決意した、ということになっているらしい。

 

 

「まったく。あんたには緊張感ってものがないのよ」

 

「十分に緊張してるよ。心を解すために“Δ”の字を掌に書いて呑み込んでたんだけど、何個食べても落ち着かないんだ。そのせいでお腹がいっぱいな気分になってくるし……」

 

「やっぱり緊張感がなさすぎる。そんなだからメイドを奪われるのよ」

 

「…………」

 

 

 ミリセントからそんな一言が放たれると、閣下は途端に気落ちしたように目を伏せ、押し黙ってしまう。

 

 ……はぁ、まったくこの姉は。

 

 少しは言い方というものを考えられないのだろうか?

 

 私はすかさずフォローを入れる。

 

 

「そういえば、姉さんも昔よくやってましたよね、ソレ」

 

「はぁ? いきなりなんの話よ」

 

「ですから“Δ”の文字を飲み込むおまじないです。覚えていませんか? ほら、初めてピアノの発表会に出たときなんかずっと緊張しっぱなしで──」

 

「覚えてないわね、そんな昔のこと」

 

「へぇ……! ミリセントさんにもそんな可愛らしい時代があったんですね!」

 

 

 私の話に、後方にいたサクナが興味津々といった様子で食いついた。

 

 その隣で閣下も意外そうに目を丸くしている。

 

 

「だから覚えてないって言ってるでしょ。あんたの記憶違いじゃないの?」

 

「いえ、そんなことはありません。姉さんとの昔の思い出はよく覚えています。たとえば姉さんが初めておねしょをしたのは──」

 

 

 ──ヒュンッ。

 

 瞬間、私の目と鼻の先を銀色の軌跡が通過していく。

 

 反射的に背を反らして躱していなければ、今の一撃は確実に私の顳顬(こめかみ)を貫いていただろう。

 

 それぐらい鋭い殺意を秘めたナイフの刺突が、右隣のミリセントから放たれていた。

 

 

「──おい、こんな往来の場でいったいなんてことを口走ろうとしているのかしら?」

 

「お、落ち着いてくださいミリセントさん! おもらしした経験ぐらい誰にでもあると思います……! 何も恥ずかしいことじゃありません! ──というわけでリミィさん、続きをどうぞ」

 

「承知しました。あれはそう、とある寝苦しい夏の日でした……」

 

「『というわけで』っていったいどういうわけだサクナ・メモワールッ! ──ってかあんたも平然と続けてんじゃないわよッ!」

 

 

「あはは……」

 

 

 そんな私たちの一連のやり取りを見て、閣下は困ったように苦笑──って、あれ? なんかドン引きしてないか……?

 

 ミリセントの微笑ましいエピソードを聞かせて元気を出してもらうはずが……いやまあ、これはこれで結果オーライかもしれない。

 

 ちなみにミリセントが初めて漏らした日は実は私も同時に漏らしていた。

 

 全ては幼児期の膀胱ダムの決壊レベルの甘さを考慮できていなかった私の敗北である。無念。

 

 

「ちっ……ほら、バカなことやってる間に着いたわよ。ここが目的地」

 

「バカなことをやってたのは主にお前らだと思うんだが……って、え? ここがそうなのか? 普通のレストランじゃないか」

 

「手筈通りなら、もうじきカオステル・コントがここにやってくることになってる。そこで情報共有」

 

「……そうなの?」

 

 

 キョトン、とまるで何も知らなかったとばかりに首を傾げる閣下。

 

 

「あんたは自分の部下と連絡も取れないの? これまで七紅天として何をやってきたの? まったくこれだから温室育ちの吸血鬼は使えないわね」

 

「ごめん」

 

「……謝んじゃないわよ」

 

 

 言って、ミリセントは眉をひそめながら閣下に背を向けると、そのままずかずかと店の中へ入っていく。

 

 そんな彼女に続く形で、閣下、サクナ、私の順で入店した。

 

 そうして人気(ひとけ)のあまりない一番奥のテーブル席につくと、きっとお腹が空いていたのだろう、閣下は真っ先ににテーブルに備え付けられていたメニュー表へと手を伸ばす。

 

 しかしそれを一通り眺め終わると、閣下はまるで、この世の終わりのような表情を浮かべた。

 

 

「どうしようサクナ……! オムライスがない」

 

「あ……本当ですね。聖都で有名な『神の光で浄化されたオムライス』がありません」

 

「そうなんだよ! 楽しみにしてたのに……こないだ読んだ雑誌には『食べた瞬間に口の中が神の国になる』って書いてあったんだ」

 

「ここってたぶん、聖職者以外をターゲットにしたレストランなんだと思います。メニューを見た感じだと宗教チックな料理はありませんね」

 

「いまから別の店に変えたら失礼かな」

 

「ふざけんな。失礼どころか計画が破綻するわよ。その程度のこともわからないの?」

 

「……そこまで言われる筋合いはないな」

 

 

 ピクリ、とミリセントの眉が動く。

 

 見れば閣下は腕を組み、ミリセントに対してムッと抗議の眼差しを向けていた。

 

 

「意見を言うくらい別にいいじゃないか。私はオムライスが食べたかったんだ」

 

「無駄話は無駄でしかない。声で正体がバレたらどうするのよ」

 

「そんなこと言って、お前も実は食べたかったんじゃないか?」

 

「は?」

 

「半年ちょっと前、私と地下の教会で戦ったときのことを思い出してみろ。お前は確かオムライスが好きだって言ってたよな。後で一緒に食べに行こうじゃないか」

 

「あんまり戯言が過ぎると小指の骨を折るわよ」

 

「そ……そうやってすぐに暴力的な行為に及ぶのはよくないぞ! お前も知っていると思うけど私が小指一本で五百人の吸血鬼を殺したっていうのは本当なんだからな! 過去に私の小指を折ろうとした愚か者で天寿を全うできたヤツは一人たりともいない」

 

「このガキ──」

 

「落ち着いてくださいミリセントさんっ! 喧嘩はまずいですっ!」

 

「そうですよ姉さん。いくら大好物のオムライスが無いからってなにもそこまで機嫌を悪くしなくても──」

 

「誰がその程度のことで機嫌を悪くしたって言うのよ誰がッ!!」

 

「あうぁあぁぁうぅ」

 

 

 激昂したミリセントに首根っこを引っ掴まれ、右へ左へぐわんぐわんと身体を揺すられる。

 

 ……あ、でもこれ意外と楽しいかも。

 

 

「ちっ……」

 

 

 ひとしきり私を揺さぶり尽くすと、ミリセントは盛大に一つ舌打ちをこぼしてそっぽを向いた。

 

 そして、ぼそりと一言。

 

 

「変わってないわね。そのムカつく態度」

 

「こ、こう見えても変わったぞ。最近は早寝早起きができるようになったんだ」

 

「その腑抜けたセンスも変わっていない。賢者を自称してるくせに頭は五歳児のようね」

 

「はあ!? 私は十五歳児だぞ!?」

 

「コマリさんも落ち着いてくださいっ! ミリセントさんはこう見えてもコマリさんのことを尊敬してるんですよ。こないだ会ったときもコマリさんのことばっかり話してたし……」

 

「え? そうなの?」

 

「そうですよ閣下。私と二人でいるときも話す内容はいつも閣下についてのことばかりですし」

 

「それは聞いてもないのにあんたがベラベラ喋ってくるからでしょうがッ!!」

 

「おい大声を出すなよ……、声でバレるとか言ってたのお前だぞ……」

 

「うっさい、私はいいのよ! 顔も声も割れてないんだからッ!!」

 

「えぇ……」

 

 

 そもそも目立ってはいけないという話なのだが、ここにきて色々と理屈がめちゃくちゃな事になってきているミリセントである。

 

 

「え、えっと。ミリセントさんは、以前の罪を償うために七紅天になったんです。コマリさんにはこんな態度ですけれど、たぶん、心の底では申し訳なく思っているんじゃないかなあって……ご、ごめんなさいっ! なんでもありません忘れてくださいっ!」

 

 

 話の途中でミリセントに鋭い眼光を向けられ萎縮してしまうサクナ。

 

 しかし閣下はそんなサクナの言葉を聞いて、無言でミリセントの顔を見つめた。

 

 対してミリセントは「なに? ジロジロ見ないでくれる?」とぶっきらぼうに告げる。

 

 閣下は少し言いにくそうにしながらも、けれどやがて決心がついたような顔でミリセントに問いかけた。

 

 

「……お前はもうテロリストじゃないんだよな?」

 

「当たり前でしょ。人は変わっていくものよ。……これからは自分のために生きると決めた。逆さ月を打倒してブルーナイト家を再興すると決めた。──まあ、差し当たっては七紅天として働いてあげようかしら。もちろんムルナイト帝国なんかには恩も義理もないけれど」

 

「ってことは私やヴィルのことはどうでもよくなったのか?」

 

「どうでもよくはない。あんたは私の人生を狂わせたから。──でもまあ……」

 

 

 そこまで言ったところで、ミリセントはカップに口をつけ、閣下から視線を逸らすように目を伏せる。

 

 そして──。

 

 

 

「──あんたには悪いと思っているわ。これはその罪滅ぼしでもあるのよ」

 

 

 

 ……と、まるで謝罪とも取れるような言葉を口にしたのだった。

 

 

「ぇ……」

 

 

 閣下の口から思わずといった様子で動揺の声が漏れ出る。

 

 私もまた驚いていた。

 

 まさかあのミリセントが、自分からこんなことを言うだなんて……。

 

 そのあまりの衝撃からか、閣下は若干言い淀みながらも「あの。えっと……じゃあ」と訊ねる。

 

 

「じゃあ私に復讐する気も失せたのか?」

 

「いずれ殺してやるから覚悟しておきなさい」

 

 

 台無しだった。

 

 無論、これが彼女なりの照れ隠しのようなものであることはわかる。

 

 あるいはいずれあんたを超えてやる、といった宣戦布告のような意味合いもあったのかもしれない。

 

 しかし、それにしたってもっとマシな言い方があっただろうに。

 

 ……我が姉ながら、本当にめんどくさい性格だ。 

 

 ──と、そんなふうに私が胸中で溜め息をついたところで、不意に何者かの気配が近づいて来るのを感じた。

 

 見ると、どうやらカオステルが到着したらしい。

 

 彼だけでなくその隣には犬頭の獣人、ベリウスの姿もあった。

 

 

「──閣下。ご無事のようで何よりです」

 

「────」

 

 

 彼らの登場により、その場の空気が一気に引き締まる。

 

 

 ──かくして、ヴィルヘイズ奪還および教皇説得の作戦会議が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 






……お読み頂きありがとうございます。
いかがだったでしょうか。

申し訳ありません……今話はどうしても見直しが間に合わず、昨日中に投稿することができませんでした。

次話の投稿もおそらく明日以降になるかと思われますが、見直しが終わり次第すぐに投稿致します。

それでは、また次話もお付き合い頂けましたら幸いです。
今後ともよろしくお願い致します。

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