リミィ・コマリスキーは強者を求める   作:葵莢

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04.テロリストの襲来と私の再会

 

 

 

 ──テラコマリ閣下の七紅天就任から、気づけば一ヶ月以上の時が経っていた。

 

 あれから、色々なことがあった。

 

 戦争においては閣下の快進撃が続き。

 

 ラペリコ王国、ゲラ=アルカ共和国、白極連邦、天照楽土。

 

 様々な国家の将に戦争を挑まれては、閣下はこの全てに勝利した。

 

 

 まあ、いずれの戦いも閣下が前線に出る必要もないままカタが付き、敵将は全て最終的には私が討ち取ったのだが。

 

 けれどその中に、強敵と呼べるような相手は一人もいなかったように思う。

 

 ……それもそのはず。

 

 何せ今まで戦ってきた将たちは各国でも所詮は中の下程度の、言ってしまえば取るに足らない者たちばかりなのだから。

 

 どうやら各国のエース級と呼ばれるような実力者たちは、未だテラコマリ閣下の大躍進に対して静観を決め込んでいる状況にあるらしい。

 

 つまりお楽しみはまだまだこれから、というわけだな。

 

 早く戦ってみたいものだ。

 

 

 ……ちなみにこの(かん)に、同じ第七部隊の隊員であるヨハン・ヘルダース中尉がテラコマリ閣下に決闘を挑んで大敗し、爆発四散した挙句隊を追い出されたりといった事件も起きたりしていたのだが、まあ別に大した事ではない。 

 

 第七部隊の中ではよくあることだそうだ。

 

 

 ──さて。

 

 そんな戦争漬けの毎日を送る中、私は現在、なにやらよくわからない事態に直面していた。

 

 どういう状況なのかというと、

 

 

「……は? 昨晩、私に似た人物と交戦した、ですか?」

 

 

 とある日の朝。

 

 七紅府の訓練場へと訪れた私は、同僚のカオステルとベリウスからそんな報告を受けたのだ。

 

 思わず聞き返した私に、カオステルはいつもの飄々とした態度と口調のまま答える。

 

 

「ええ。七紅府の門の前の噴水広場で遭遇しましてね。いやぁ本当にそっくりでしたよ。何しろ身長骨格及びスリーサイズがそっくりそのまま同じだったのですから。ですが、少々その言動に違和感をおぼえましたので、もしやあれは別人だったのでは、とこうして確認に参った次第です」

 

「待て、その前になぜ私のスリーサイズを知っている」

 

「ふふ。そんなもの、一目見ればわかるでしょうに」

 

「わからねぇよ」

 

 

 なんだこの変態。

 

 早く捕まれよ。 

 

 

「だが、本当によく似ていた。背格好もそうだが、声や匂いまでうり二つだったように思う」

 

「ええ。あの匂いからして歳の頃は十五か六といったところでしょう。花のような香りに微かな酸っぱさが混じっていましたので間違いありません」

 

「……ふむ」

 

 

 カオステル(へんたい)のほうはともかく、犬系の獣人種であるベリウスがそう言うのなら、その言葉は信ずるに値するかもしれない。

 

 つまり二人は昨晩、私とよく似た人物と出くわし、そして交戦した。

 

 無論、その相手は私ではない。

 

 考えられる可能性は──。

 

 

「その者は何か言っていましたか?」

 

「……皇帝を殺すと言っていたな。それから、閣下のことも狙っているようだった」

 

「……!」

 

 

 ……もし私の考えが正しければ、二人が会ったというその女は、おそらくミリセントだ。

 

 私と同じ声、同じ背格好で、そのうえ皇帝やテラコマリ閣下に恨みを持つ人物となれば、その可能性は極めて高い。

 

 だとするなら、目的は復讐か。

 

 何しろ彼女から見ればテラコマリ閣下は自分を殺した相手であり、そして皇帝陛下はブルーナイト家に国家反逆罪の濡れ衣を着せ国外追放へと追いやった張本人だ。

 

 彼女が復讐心を抱く理由は充分にある。

 

 おそらくは、そのように働きかけたガンデスブラッド卿もまた復讐の対象だろう。

 

 

「その口ぶり。やはりあれはリミィ殿ではなかったか。だとするなら何者だ? 身のこなしからして只者ではなかったが」

 

「……何者かがリミィ殿に化けていた? 他者に擬態する魔法の類いでしょうか」

 

「……ともかく、上層部(うえ)には私のほうから報告しておきます。ですがこの事は、テラコマリ閣下にはどうかご内密に願います」

 

 

 私がそう言うと、ベリウスは訝しむような視線を向けてきた。

 

 

「閣下に報告しないだと? なぜだ」

 

「それは……」

 

「ふふ、わからないのですか、ベリウス。閣下が動けばあのような不埒者など一日と経たずに捕獲されてしまいます。そうなってしまっては我々の功績になりません。閣下から『おみ足ペロペロ権』を頂くためには、我々が自発的に動いて敵を仕留める必要があるのです」

 

「しかし……」

 

「しかしも麩菓子もありません。このような些事で閣下の歩みを止めるなど言語道断。あの方が心おきなく覇道を驀進(ばくしん)できるようサポートするのが我々の仕事でしょうに」

 

「……それもそうか」

 

 

 と、私の意図とは全く違うが、どうやら都合よく曲解してくれたらしい。

 

 もし本当にその者がミリセントだった場合、閣下にお伝えするわけにはいかないからな。

 

 今の閣下がたとえどれほど強かろうとも、幼少期のトラウマというものはそう簡単に払拭できるものではあるまい。

 

 事実、閣下はミリセントや事件のことを、三年もの時を使って完全に記憶から消し去ることで再び外に出られるようになった、とガンデスブラッド卿からは聞き及んでいる。

 

 故にこの事は無闇やたらと広めたりせず、ガンデスブラッド卿にのみ報告しその判断を仰ぐことにしよう。

 

 

 ……ミリセント。 

 

 彼女が本当に復讐を企てているのだとしたら、何としても止めなければ。

 

 今度こそ、手遅れになる前に──。

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ──その後。

 

 私はすぐに、ベリウスとカオステルから聞き出した情報をガンデスブラッド卿へと報告した。

 

 報告を受けた彼は、即座に宮殿内の警備の強化を要請すると共に、私にテロリストの詳細は伏せたままテラコマリ閣下の護衛に付くことを命じた。

 

 

 ……そして、現在。

 

 テラコマリ閣下に付き添う形で皇帝陛下が主催するパーティー、その会場であるムルナイト宮殿は喝采の間へと訪れた私。

 

 そこで私は、遂にその時を迎える。

 

 皇帝陛下に連れられていく形で会場の中心部のほうへ赴き、貴族たちの相手をしていたテラコマリ閣下。

 

 そんな閣下に近づく人だかりの中に、彼女はいた。

 

 

「────」 

 

 

 黒い狐の面を被り、やや肌の露出が多くスカートの丈も短い華やかな青いドレスを纏った、私と寸分の狂いもなく同じ背格好の少女。

 

 その少女の姿が目に入った途端、私は警戒心を最大まで強めた。

 

 ──間違いない、ミリセントだ。

 

 ミリセント・ブルーナイト。

 

 血を分けた、私の双子の姉。

 

 

「─────」

 

 

 ……そうして彼女が閣下と何言か言葉を交わした後、その目の前で面を取って素顔を晒し、さらにスカートの内側に忍ばせた銀のナイフを引き抜くのが見えた、その瞬間──。

 

 

「────!」

 

 

 私は一気に飛び出し、閣下を背後へ庇うようにしてミリセントの前に立ちはだかった。

 

 そのまま、閣下を目掛けて投擲されたナイフの刃を指で挟んで受け止め、無造作に床へと放り投げる。

 

 まさか受け止められるとは思っていなかったのだろう。

 

 ミリセントから「──なっ……!?」という驚愕の声が上がった。

 

 私は構わず、背後の閣下に呼びかける。

 

 

「お下がりください、閣下」

 

「り、リミィ、これは──」

 

「大丈夫です、ここは私にお任せを」

 

 

 ミリセントの顔を見てしまったからか、唖然としたまま状況が飲み込めていない様子の閣下に一言そう告げると、私は再びミリセントへと視線を戻した。

 

 

「……ちっ。雑魚しかいないと思っていたけど、ちょっとはマシなのもいるみたいね」

 

「…………」

 

 

 私は無言で拳を構える。 

 

 対峙するミリセントは、そんな私の構えを見ると、まるで何かに気づいたように大きく目を見開いた。 

 

 

「……その構え、あんたまさか──」

 

「お久しぶりです、ミリィ姉さん」

 

 

 そう言って私は被っていた面を剥ぎ捨て、三年ぶりに人前で素顔を晒した。

 

 

「……リミセント」

 

 

 ミリセントは忌々しげに、吐き捨てるように私の名を口にする。 

 

 昔のように愛称で呼んでもらえないことからも察するに、どうやら私も、彼女からはまだ憎まれたままらしい。

 

 

「……そう。そういうこと。だからこんなにあっさり結界の中に入り込めたのね」

 

「……? ……よくわかりませんが、投降してください、姉さん。不意打ちに失敗した以上、この状況であなたに勝ち目はありません」

 

 

 周囲に目を向けると、既にほとんどの貴族たちは逃げ出し、ミリセントの周りには宮殿の警備兵たちが続々と集結していた。

 

 さらに、私の背後には雷帝の異名をとる帝国最強のカレン・エルヴェシアス皇帝と七紅天のテラコマリ閣下、そして優れた猛毒魔法使いのヴィルヘイズもいる。

 

 今のミリセントはまさに袋の鼠とも言える状態だった。

 

 だが──。

 

 

「たしかにそうね。じゃあ──少し数を減らしましょうか」

 

 

 ミリセントが右手を掲げる。

 

 ただそれだけの動作で、彼女を中心とした周囲全方位に、魔力で編み上げられた夥しい量の光の(つぶて)が豪雨となって降り注いだ。

 

 

「ぐわぁッ!」

 

 

 ──あれは初級光撃魔法【魔弾】、おそらくはその応用だろう。

 

 初級らしく、一発一発の威力は大したことはない。

 

 だがこれだけの広範囲に、これほどの速度で連射されれば並の吸血鬼には防ぎようがなかった。

 

 例えるならば、【魔弾】による全方位ガトリングガンといったところか。

 

 【魔弾】に全身をズタズタに撃ち抜かれ、彼女を取り囲んでいた警備兵たちが次々と倒れていく。

 

 

「……仕方ない」

 

 

 ぽつりとそう呟くと同時、私は自分でも【魔弾】を生成し、自らに飛来してくる【魔弾】を全て撃ち落としながら、大きく地を蹴りミリセントへと真っ向から突貫した。

 

 

「────ッ!」

 

 

 正拳を握り彼女の腹部を目掛けて打ち込む。

 

 ……が、ミリセントはスカートの内側から二本目のナイフを引き抜いて応戦の構えを取った。

 

 無理な態勢から強引に打ち込んだのも祟ってか、私の初撃は敢えなく躱され、私の引き手に合わせて肉薄したミリセントのナイフが、私の首の薄皮一枚分の隙間を隔てたすぐ真横を通り抜けていく。

 

 その一撃に終わらず、私に態勢を整えさせまいと、ナイフによる刺突は二撃、三撃と続いた。

 

 私はそれらに冷静に対処し避けながら、思わず感心する。 

 

 

「腕を上げましたね、姉さん」

 

「くっ……!」

 

 

 話しながら放った私の足払いを跳躍で躱すミリセント。

 

 そのまま浮遊魔法で遥か後方へと飛び退きながら、その間も【魔弾】をばら撒いて私の追撃を阻止してくる。

 

 私のように格闘一点特化の体捌きだけでなく、各所に魔法を織り交ぜた吸血鬼らしい実に見事な立ち回りだ。

 

 再び間合いを詰めようとする私に【魔弾】を浴びせかけながら牽制しつつ、縦横無尽に会場を駆け回って私が先程投げ捨てたナイフを回収するミリセント。

 

 

「シッ────」

 

 

 彼女はそのナイフをテラコマリ閣下を目掛け無造作に投擲し、それを私が再び打ち払うと、その瞬間──。

 

 蛇のように低く地を這うような態勢から一直線に駆け出し、一気に攻勢に転じてきた。

 

 

「─────ッ!」

 

 

 こちらの隙を衝いて動きを制限しつつ、確実に急所を狙ってくる精密さ。 

 

 無数のフェイントを織り交ぜ、相手の防御を予測しノーモーションから二の手三の手へと繋げるナイフ使い特有の高度な柔軟性。 

 

 どれを取っても一級品以上。

 

 ゼロ距離戦闘の極致がそこにあった。

 

 どうやら相当に仕込まれたらしいな。

 

 身体能力は私と同等。技量についても既に達人の域にあり、その戦闘センスは並の吸血鬼はもちろん、大抵の将軍さえおそらくは凌駕している。 

 

 ──断言する。

 

 実力の不確かなアマツを除き、この世界で今まで戦ってきた者の中では、ミリセントは間違いなく一番の手練(てだれ)だ。

 

 その技量一つにおいても前世を含めてトップクラス。

 

 だが──。

 

 

「──見るものは見た。もう終わりにしましょう」

 

 

 ──それでもまだ、私のほうが遥かに強い。

 

 

「ッ……!」

  

 

 震脚が床を叩き割り、私を起点とした揺れが波紋のように会場に広がっていく。

 

 その揺れで僅かに態勢を崩したミリセントのナイフの切っ先が、腰を沈めた私の頭上で虚しく空を切った。

 

 それと同時に彼女の腹に──私の渾身の左縦拳が炸裂する。 

 

 

「かはッ……!」

 

 

 腰をくの字に曲げて後方に吹き飛び、凄まじい勢いで壁に激突するミリセント。

 

 ……クリーンヒット、というには少し手応えが妙だった。

 

 おそらくは咄嗟に防御魔法を使って威力を軽減したか。

 

 だが、だとしても完全に衝撃を殺しきれるわけではない。

 

 もし起き上がれたとしても、しばらくはまともに動けないだろう。

 

 

 ──勝負はついた。

 

 

「……くそ……、くそ……。あんたはいつもそう……。いつもテラコマリの肩ばかり持って、私に手を差し伸べようとなんかしてくれなかった。いつもつまらないものを、可哀想なものを見るように私を見て、心の中で見下してたんでしょう……? 今だってそう、私がどんなに死に物狂いで努力しても、あんたたちみたいな天才は何食わぬ顔で簡単に超えていくんだ。ふざけてる……、間違ってるんだよ……こんな世界……」

 

「姉さん……」

 

 

 ──今まで、そんな風に思われていたのか……。

 

 ……いや、彼女の言うとおりかもしれないな。

 

 たしかに私は、烈核解放を発現させるためのアマツの修練が、全て茶番のように見えていた。

 

 決して見下していたつもりはないが、ミリセントのことを可哀想な境遇に生まれた子と、どこか哀れみの目で見ていたことも事実だ。

 

 そういう意味では、見下していたと取られても仕方がないのかもしれない。

 

 学院でのイジメに関してもそうだ。

 

 何度も説得しようとする私に対し、彼女はずっと、私はテラコマリ・ガンデスブラッドの仲間だから邪魔してくるんだ、とそう認識されていたようで、聞く耳すら持ってもらえていなかった。

 

 私の普段の態度が、ミリセントに不信感を与えてしまっていた。

 

 だから私たちの仲は拗れたのだ。

 

 その事に気づき、ミリセントに対してかけるべき言葉が見つからず、呆然と立ち尽くす私。 

 

 そんな中、私の背後に控えていた皇帝は極めて冷静に部下たちに指示を下した。 

 

 

「──言いたいことがあるなら牢屋で聞いてやる。連れて行け」 

 

 

 皇帝の(めい)により、生き残った警備兵たちがミリセントを取り囲んでゆく。

 

 しかし──。

 

 

「──こんなところで、終われるか……!! 待っていなさいテラコマリ、必ずあんたをこの手で殺してやる。魔核でも蘇れない本物の死を与えてやる……!」

 

 

 そう叫ぶと、ミリセントは満身創痍のままその場で何かを放り、次の瞬間には忽然と姿を消していた。

 

 ……どうやら逃げられてしまったらしい。

 

 

 おそらくは【転移】の魔法石を使ったのだろう。

 

 自前の空間魔法を使わなかったのは、その余力が無かったからだろうか。

 

 土壇場では魔法石のほうが発動が早い、というのも理由の一つかもしれない。

 

 

 

 ミリセント……。

 

 ブルーナイト家にアマツが来る前は、あんな子ではなかった。

 

 少し自分に厳しいだけの、努力家で優しい姉だったのだ。 

 

 もう彼女に、あの頃の優しさは残っていないのだろうか。

 

 ──また昔みたいな姉妹の関係に──というのはきっと、もう叶わないのだろうな……。

 

 

 

 

 

 

 






……お読みいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。

コマリとヨハンの決闘エピソードに関しては特に介入する必要性はないと判断しましたので、このようにカットして話を進めさせていただきました。
一応原作とは全く同じ流れで決闘イベントは発生し、その結果ヨハンは隊を一時的に去ったということになっています。

次話で一巻部分のエピソードは終わりです。
投稿は明日の朝になるかと思います。

では、また次話もお付き合い頂けましたら幸いです。
今後ともよろしくお願い致します。
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