リミィ・コマリスキーは強者を求める   作:葵莢

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05.姉の顛末と私のこれから

 

 

 ──“逆さ月”。

 

 曰く、『死こそ生ける者の本懐』というスローガンを掲げ、各国の魔核の破壊を目論んでいるというテロリスト組織。 

 

 あれから、国の調べでミリセントがその“逆さ月”の一員である可能性が高いことがわかった。

 

 その根拠としては、彼女が会場に残していった銀のナイフ。

 

 鑑定の結果、あのナイフが魔核の再生能力を阻害する神具であることがわかったのだ。

 

 ブルーナイト家にいたあの男、アマツが持っていた棍と同じ能力の武具。

 

 今思えば、あの男も“逆さ月”だったのかもしれない。

 

 だから心に付け入る隙がありそうなミリセントのことばかり、あれだけ集中的に目をかけていたのだろう。

 

 わざわざ私が目を離している時を見計らって、色々と吹き込んだりもしていたようだからな……。

 

 

 

 ……そして、彼女がああも容易く結界に守られていたはずの宮殿内に入り込めた理由。

 

 当初は内部に協力者でもいるのかと思われていたが、宮殿の分析班の検証と考察の結果、どうやらその原因は私にあったらしい。

 

 魔力残滓による鑑定が双子の違いを識別できないのと同じだ。

 

 要は宮殿に張られた結界魔法が、私とミリセントの違いを区別できず、彼女のことを私だと誤認してしまった、ということらしい。

 

 そのため、ミリセントによる再度の侵入を防ぐことを名目に、私は結界から弾かれることとなり、現在は宮殿への立ち入りを禁じられていた。

 

 立ち入りが許されているのは寮の自室と、七紅府の第七訓練場だけだ。

 

 テラコマリ閣下も、あれから一週間ほど姿を見せていない。

 

 ヴィルヘイズによれば、ミリセントと再会したことで過去のトラウマが蘇り、あの日から自室で塞ぎ込んでいるとのことだった。

 

 無論、この事は他の者にはくれぐれも秘密にするようにとも言い含められている。

 

 当然だ。

 

 これは閣下のプライバシーに関わる問題でもあるし、それに私も彼女の心の傷口を抉るような真似はしたくない。

 

 故に第七部隊の連中に閣下の行方をいくら訊ねられても、私は知らぬ存ぜぬを貫き通していた。

 

 

 

 ──そんな中。

 

 

「──あ」

 

「げっ……」

 

 

 気分転換に外で夕食でも食べようと下級区にある馴染みの酒場『暁の扉』を訪れた際。

 

 偶然にも、先日第七部隊を追い出された問題児、ヨハン・ヘルダースとばったり出くわしてしまったのだった。

 

 ……ヨハン・ヘルダース。

 

 階級は中尉で、年齢はたしか二十歳だったか。

 

 性格は、とにかく自信過剰で血気盛ん。

 

 この男が隊にいた頃は、歳下でありながら幹部という自分より高い地位に就く私のことがとにかく気に入らなかったようで、事あるごとに因縁をつけられては絡まれていた。

 

 具体的には、顔を合わせる度に「死ねぇ!! リミィ・コマリスキー!!」と問答無用で襲いかかられていた。

 

 私はそのたびに返り討ちにし、実力の違いをこれでもかとわからせてやっていたのだが、それでも懲りることなく、ヨハンは何度も私に挑んできた。

 

 たぶん相手との実力の違いもわからないようなバカなんだと思う。

 

 そしてテラコマリ閣下の七紅天就任が決まると、真っ先に下克上を狙って閣下に不意打ちを仕掛けたり、決闘を挑んだりもしていたのだが、不意打ちは全て失敗し返り討ちにされ、決闘の際もそれは見事な大敗を喫していた。

 

 その結果、ヨハンは第七部隊に居場所が無くなり、隊を追われることになったのだが、まさかこんなところで再会することになるとは。

 

 ヨハンはワインの血液割りを呷りながら、私と目が合うや、嫌なものを見てしまったと言わんばかりに途端に表情を歪めた。

 

 ……相変わらず失礼なやつだ。

 

 ヨハンとは一つ分の席を空け、カウンター席に腰掛けた私は、店主に「いつもの」とだけ告げ注文を済ませた。

 

 やはりこういった店でいつものと言って注文が通るのは気分がいい。

 

 まあここは普段から客も少ないし、私のように男物の軍服で狸面を被った女、という奇抜な出で立ちの者など覚えられていない方が逆に不自然ではあるのだが。

 

 私が席に着くと、ヨハンは不愛想な態度のまま口を開いた。

 

 

「……ここは酒場だぞ、お前みたいな未成年の小娘が来るところじゃない。……それとも、僕を笑いに来たのか?」

 

 

 私は静かに首を横に振る。

 

 

「勘違いしてもらっては困る。お前とここで会ったのはただの偶然に過ぎない。私は、ここのオムライスが好きなだけだ」

 

「は……? オムライス……?」

 

「ああ。しかもふわとろ系などという小洒落たものではなく、固めの薄焼き卵で包んだ王道のやつだ。ソースもシンプルにケチャップのみ。最高だ」

 

「オムライス、好きなのか……?」

 

「昔はそうでもなかった。だが、なぜか今は定期的に無性に食べたくなるんだ。不思議なことにな」

 

 

 前世ではあまり食に関心が無かった私だが、転生して肉体が変わった影響か、食の嗜好まで前世とは大きく変化していた。

 

 幼い頃の習い事の影響で紅茶を嗜むようになってその魅力にハマったり、オムライスが好物になったり。

 

 そういえばミリセントも好きだったな、オムライス。

 

 小さい頃はよく使用人に作ってもらっていたものだ。

 

 きっと彼女なら、ここのオムライスも気に入ってくれるに違いない。

 

 案外、既に来たこともあったりしてな。

 

 ……あと、酒に関しては今世ではまだ未成年で飲めないため、こういった店ではいつもぶどうジュースを頼んでいる。

 

 と、そうこうしている内にオムライスが出来たらしい。

 

 さすがは店主、いつも通り早い。

 

 実に見事な手際だ。 

 

 

「いただきます」

 

「…………」

 

 

 なぜかこちらを見て固まっている様子のヨハンに構うことなく、黙々とオムライスを食べ進める私。

 

 やがて半分ほど平らげたところで、ヨハンがぽつりと口を開いた。

 

 

「……なあ、お前はあのテラコマリとかいう小娘のこと、どう思ってんだ?」

 

「どうした藪から棒に」

 

「いいから教えろよ」

 

「部下思いで優れたお人柄の方、という印象だな。尚且つ敵に対して好戦的なあの振る舞いも、私にとっては好印象だ。上司として、尊敬に値する方だと思う」

 

「……ちっ。お前もあの小娘を盲信してる口かよ。わかってんのか? あいつは全然強くねぇんだ。僕との決闘でも、毒や落とし穴や地雷を使って勝った卑怯者だ。あいつはコネで七紅天になっただけの、ただの貴族の小娘なんだよ」

 

「だが、お前が閣下に負けたのは事実だ。何を言ったところで所詮は敗者の戯れ言にしかならない。吸血鬼社会では勝った者が正義。そんなこと、わかりきったことだろうに」

 

 「それに」と私は続ける。

 

「もし本当に閣下が、強くもなんともないただのひ弱な貴族の小娘であったとしても、戦いの場を提供してもらえるのなら私は構わない。私はただ、強い者と拳を交わしたいだけだからな」

 

 

 そう。

 

 閣下が強かろうが弱かろうが、どちらにせよ私にとっては大きな問題ではないのだ。

 

 

「……たしかに、お前は強い。正直何度挑んでも、まるで勝てる気がしなかったのは事実だ」

 

 

 ほう。

 

 それなのにあんなに何度も戦いを挑んできていたのか?

  

 もしかしてドMなのだろうか。

  

 そうか……。元とはいえ、こいつも第七部隊だものな。

 

 そりゃこういう変態もいるか。

 

 

「……なあ、お前はどうやってそれだけ強くなったんだ? どうしたらそんなに強くなれるんだよ」

 

 

 その問いに、私は「ふむ……」と僅かな逡巡のあと答えた。

 

 

「強敵と戦い、その技術をひたすら研究し自らの糧とした。そうやって生きていく内に、自然と今の実力に達していたな。故に強敵と呼べる相手がいなくなってからは、絶賛伸び悩み中だ」

 

 

 そんな私の答えに、ヨハンはつまらなそうに鼻を鳴らす。

 

 

「はん、要は才能と努力の塊って訳かよ……。そりゃ強いわけだ」

 

「いや、私は努力などしたことないぞ?」

 

「は? なんだそりゃ。努力もせずにそんなに強くなれるわけねぇだろ」

 

「本当だ。私は努力など一切したことがないし、今までの人生、自分が楽しいと思うことだけをやって生きてきた。努力とは即ち、やりたくないこと、苦痛を伴うことを自らの目標のために必死でこなすことを言うのだろう? ならばずっと好きなことだけをして生きてきた私は、努力とは無縁の人生を歩んできたと言える」

 

 

 そうなのだ。

 

 武術の鍛錬も、強者との戦いも、私にとっては等しくただ楽しいだけのことでしかなかった。

 

 それこそが私の前世における最大の娯楽だったのだ。

 

 そしてそれは今世でも変わらない。

 

 今世では身内のことで色々とゴタついてはいるものの、本来の私は他人の事なんてお構いなしで、自分さえ楽しければそれでよしといったタイプの人種なのだ。

 

 ……それでもミリセントのことを心のどこかで気にかけてしまうのは、生まれた頃からずっと一緒だったことで、情のようなものが生まれてしまったからなのだろうな。  

 

 

「……そうか。やっぱり、マジで頭おかしかったんだな、お前」

 

「喧嘩売ってるのか?」

 

「違ぇよ。……感心しちまったんだ」

 

 

 そう言ってヨハンは自嘲気味に笑ってみせた。

 

 その間に私はオムライスを綺麗に完食していた。

 

 ごちそうさまでした。

 

 

「僕は自分に才能があると思ってた。“獄炎の殺戮者”だとか、天才ルーキーだとか持て囃されて、調子に乗って色んなとこで暴れて、最終的に第七部隊に流れついた。けど僕の実力なら七紅天にだって必ずなれる。そう思い上がっていたんだ」

 

「で、それが今はこのザマか」

 

「……ちっ。そうだよ、調子に乗って思い上がって、気づけばお前やあんな小娘にも無様に負けて、今はこんな寂れた店で一人飲んだくれてる」

 

「…………」

 

 

 おい寂れた店とか言うなよ。

 

 一応私のお気に入りの店なんだぞ。

 

 ほら、店主もなんか微妙な顔してるだろ、一言謝れまったく。

 

 

「……ま、現実が見えているのは良いことだな」

 

「ふん。最初の一週間は腹の虫が収まらなくてずっとあの小娘にどう復讐してやろうか必死に考えてばっかだったけどな。……でもまあ、一ヶ月もすれば嫌でも頭は冷えてくるってもんだ」

 

「ふむ、たしかに前よりも少し生え際が薄くなった気が──」

 

「いやそういう意味じゃねぇよ! ってかハゲてねぇし!!」

 

「冗談だ」

 

 

 ──まあ、いつも人にハゲハゲ言っていたのでヨハン=ハゲのイメージが付いてるのは確かだが。

 

 

「──で? 今のお前は、これからどうしたいんだ?」

 

 

 気を取り直して私が問うと、ヨハンは固く拳を握って答えた。

 

 

「……強くなりてぇ。正々堂々はもちろん、たとえ卑怯な手を使われようが、関係ねぇ。そんなモン全部払い退けて、どんな相手も真っ向から叩きのめしてやれるぐらい、強く」

 

 

 こちらには一瞥もくれずに、まるで自らに強く言い聞かせるようにそんな言葉を絞り出す。

 

 その瞳には強い信念が宿っていたように見えた。

 

 ……なるほど。

 

 こいつはこういう奴なのか。

 

 

「まず言っておく。お前はバカだ」

 

「あぁ!?」

 

 

 激昂するヨハン。

 

 私はそこに「だが」と付け加える。

 

 

「何度打ち負かされようと、懲りずにまた勝負を挑んでくる。そういう諦めが悪くて真っ直ぐなお前のようなバカは、私は嫌いではない」

 

 

 言いながらぶどうジュースを一息で飲み干す私。

 

 

「むしろ好きだ」

 

「はっ!? す、すすす──」

 

「まあ、もしまだお前にその気があるのなら、いつでも戻ってこい。閣下には私から話を通しておいてやる。色々と、片がついた後にはなるがな」

 

「なっ、おい──!」

 

 

 それだけ言い終えると、私は自分の分の勘定を済ませ、店を出た。

 

 ……ヨハン・ヘルダース。

 

 今まではまともな交流もなく何の興味も湧かなかったが、今日こうして話を聞いて少しだけ印象が変わった。

 

 ……私も歳を重ねたということだろうな。

 

 ああいう真っ直ぐでギラついた若者を見ると、なぜだか無性に背中を押してやりたくなる自分がいる。

 

 それに隊の中にああいう威勢のいい奴がいると全体の士気も上がるしな。

 

 絡め手など一切なし、ガンガンいこうぜの精神の第七部隊にはもってこいの人材だ。

 

 私が敵将と戦うための露払いぐらいにはなってくれるだろう。

 

 もし戻ってきたなら、そういった方向で、今後の働きに期待することにしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 ──その後の顛末については、特筆すべき点はほとんどなく、驚くほどあっさりと今回のミリセントが引き起こした一件は終結を迎えた。

 

 概要としてはこうだ。

 

 ガンデスブラッド邸に侵入し、テラコマリ閣下の目の前でヴィルヘイズを攫ってラ=ネリエント街の廃城へと呼び出したミリセント。

 

 それを受け、過去のトラウマから立ち上がりミリセント討伐へと単身で赴いた閣下。

 

 我々第七部隊の面々はカオステルの空間魔法による【召喚】を受け招集され、閣下の援護に向かったが、そこであの凄まじい光景を目の当たりにした。

 

 

 ──真の実力を解放した閣下が、いとも容易くミリセントを惨殺したのだ。

 

 

 おそらく、あれが烈核解放と呼ばれる力なのだろう。

 

 桁違いの規模の魔法に、吸血鬼の肉体の限界をも遥かに超えた尋常ならざる身体能力。

 

 烈核解放とは、ひとたび行使すれば大地を穿ち星をも動かす力。

 

 なるほど、それはまさしくその通りだった。

 

 ナイフ術や魔法戦闘に関しては達人にも等しい技量を持っていたミリセントが、まるでただの木偶の坊のように何もできず、一方的に両腕を吹き飛ばされた挙句、最後には素手で首をもぎ取られて絶命していた。

 

 それは決して磨き抜かれた武の研鑽による動きではなく、桁外れな身体能力をもって振るわれる、技術もクソもないただの純粋な暴力だった。

 

 故に私でも、閣下のあの戦い方は再現できない。

 

 生き物としての性能が、次元がそもそも違うのだ。 

 

 どうやっても勝てない、勝てる訳がない。

 

 そんな風に思ったのは実に久しぶりだった。

 

 久しく忘れていた感情だった。

 

 

 ……そう。

 

 遂に私は、この世界で出会ったのだ。

 

 私が超えるべき対象──即ち、真なる“強者”に。

 

 挑みたい。挑んでみたい。

 

 そしていずれ、あの強さを乗り超えたい。

 

 どうしようもなく、そんな衝動に駆られた。

 

 

 ──ならば、挑んでやろうではないか。 

 

 

 それも閣下の言った通り、他国の将軍すべてを討ち取った後で。

 

 必ず、私は閣下に戦いを挑む。

 

 そして我が武の全てをぶつけて、あの暴力の化身を打ち負かすのだ。

 

 

 それは今世において初めて、私の心に情熱の炎が灯った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 ……そして、現在。

 

 ミリセントの神具で負った傷を癒やすため閣下とヴィルヘイズは静養期間中で、特に任務もなかった私は、ガンデスブラッド卿を通して皇帝陛下よりとある勅命を賜り、帝都外れの監獄へと足を運んでいた。

 

 そこで、件の人物と再び対峙する。

 

 

「……何よ。私を笑いに来たの?」

 

「その返し、流行ってるんですか?」

 

 

 鎖で繋がれたミリセントの第一声を聞き流し、私は預かっていた鍵で牢を開け、彼女を鎖から解き放った。

 

 

「なんの真似よ……。言っとくけど、私はあんたに謝ったりなんてしないから」

 

「構いませんよ。学院を退学に追い込まれた件も気にしてません。……ただ、さすがにテラコマリ閣下とヴィルヘイズにはきちんと謝罪した方がいいでしょうが、今の状況ではそれも難しいでしょう。今後のこともありますし、少なくとも今はまだ、ね」

 

「……何よ今後って。どういう意味よ」

 

 

 戸惑いの表情を浮かべるミリセントの目を見ながら、私は思わず笑みをこぼした。

 

 今日の私はいつもの面も被ってはいない。

 

 正真正銘、素顔での笑みだ。

 

 

「やっと目の淀みが消えましたね、姉さん。自分の中で、一旦は気持ちに折り合いがついた、ということですか?」

 

「……ふん」

 

 

 つい先日まで、あれだけ憎悪やら復讐心やら嫉妬心やらを燃やしていたミリセントの顔は、完全とはいかないまでも今は少しだけ晴れやかなものになっている気がした。

 

 ……あの夜、テラコマリ閣下とミリセントの間にどんなやり取りがあったのかはわからない。

 

 けれど、どうやら閣下に起因する何かが解決の一助となったことは確かなのだろう。

 

 私の出る幕など、最初から無かった訳だ。

 

 

「まずはこれを」

 

 

 私は皇帝陛下より預かった国章の封蝋付きの封筒を、ミリセントに手渡す。

 

 その中身は皇帝の親書だ。

 

 

「姉さん。あなたには二つの選択肢があります。一つはこのまま、何もかも諦めて、残りの一生をずっとこの監獄で過ごすこと。もう一つは、書状に書いてある通りです。後者を選べば、少なくとも帝都の範囲内においてのみ行動の自由が認められます」

 

「…………!」

 

 

 渡された書状を無言で読みながら、ミリセントはその内容を見て目を見開いた。

 

 ちなみに書状の内容自体は私も、口頭で簡単にしか聞かされていないので、詳細な部分は何も知らなかったりする。

 

 私は構わず言葉を続けた。

 

 

「もしも後者を選んでくださるなら、私はこの身の全霊を尽くして姉さんのことを支援すると約束しましょう。けれどそれは、あなたの妹のリミセント・ブルーナイトとしてではなく、あくまで軍人のリミィ・コマリスキーとしてになりますが」

 

「コマリスキーってなによ。ふざけてるの?」

 

「……苦情ならガンデスブラッド卿に言ってください」

 

「…………。ああ……。なんとなく察したわ」

 

 

 今まで改めて突っ込まれることも無かったためそこまで気にしてはいなかったが、やっぱりこの名前おかしいよな?

 

 どうにかして改名とかできないものか。

 

 まあ新しい戸籍はもう作っちゃったし無理か。

 

 いや待てよ、結婚して相手方に嫁げばファミリーネームは変えられるんじゃないか? ……あ、ダメだわ、まず相手がいないしする気もなかった。

 

 前世でも生涯独身だったしな。

 

 

「それで、どうしますか? ミリセント・ブルーナイト」

 

「私は──」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ♢♢♢♢♢

 

 

 

 結局、ミリセントは皇帝陛下が提示した条件を大人しく受け入れた。

 

 まあ、あんな地下牢で一生鎖に繋がれて過ごすことに比べたらそのほうが絶対にマシだろうからな。

 

 で、現在は旧ブルーナイト邸の中庭で、私はミリセントに武術を教えている。

 

 これは彼女からの強い要望によるものだ。

 

 曰く。

 

 

 ──“まずは牙を研ぐ。せめてあんたぐらいには強くならないと話にならないわ。そして、いつかはあのテラコマリを超えて、ブルーナイト家を再興に導く。だからあんた、私を徹底的に鍛えなさい!”

 

 

 とのことらしい。

 

 ついでに、ついこの前復隊したばかりのヨハンの奴にも声をかけておいた。

 

 前に、もっと強くなりたいとか言っていたので、ちょうど良いから一緒に稽古をつけてやることにしたのだ。

 

 思えば、前世では自分が強くなることばかりに固執して、一度も弟子なんか取ったことがなかった。

 

 だが。

 

 私は気付いてしまったのである。

 

 考えてもみれば実に単純なことだったのだ。

 

 

 ──強者がいないなら、自分で強者を育て上げればいいじゃない、と。

 

 

 どうして今までこんな簡単なことに気付けなかったのだろう。

 

 自らが弟子を取り、その技を継承させる。

 

 そしていずれ、弟子は師を超えていくものだ。

 

 そう相場は決まっている。

 

 ふふ。

 

 上等だ。

 

 ならば育ててみせようではないか。

 

 私をも超える究極の弟子を。

 

 

 

 ──こうして。

 

 そんな野望を胸に、閣下に挑むこと以外にまた一つ、人生の目標を見出した私は、本気の弟子育成へと身を乗り出したのだった。

 

 

「姉さんのほうはカラダと基礎はできていますので、私との実戦稽古から始めてもよいでしょう。──おいヨハン。お前はまずは体幹と股割りからだ。可動域があまりにも狭すぎる」

 

「……くそっ、なんで僕だけこんな」

 

「む。ならばやめるか? 別に嫌がる者に無理強いするつもりはないが」

 

「……ぐ、ぐぬぬぬぬ…………やる」

 

「ふっ、その意気だ。──姉さんのほうは、これから教える呼吸法を意識してみてください。まずは──」

 

「……どうでもいいけど、なんで部外者がいるわけ? そっちのは軍の訓練場でやればいいでしょ」

 

「まあまあお気になさらず。言ってしまえばただの雑用と賑やかし要員ですから」

 

「おぉい!! なんだその適当な扱いは!!」

 

 

 ……と、このように。

 

 少し歪な関係ながらも、私はこうして共に武の道を歩む同士を得るに至った。

 

 武の道に終わりは無いように、強さを求める心にもまた果てはない。

 

 きっとこの世界にはあのテラコマリ・ガンデスブラッドのように、私の常識を遥かに超えた桁外れな猛者たちが、まだうようよ存在していることだろう。

 

 そう考えるだけで、かつて孤独な最期を遂げた私の心は、焦がれるような期待と情熱によって満たされていくのを感じた。

 

 

 ──かくしてまだ見ぬ強者を追い求め、吸血鬼リミィ・コマリスキーの日々は続いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 






……お読みいただきありがとうございます。
いかがだったでしょうか。

投稿は朝になりますとか言っておいて、結局こんな時間になってしまい申し訳ありません。
読み直したらどうしても加筆、手直ししたい箇所が出てきまして、書いていたらこんな時間になっていました。

本二次創作におけるヨハンはミリセントにも逆さ月にも協力しておらず、国家反逆罪などには問われていません。なので原作よりもとても簡単に復隊できました。
代わりに、ミリセント戦では現場にいなかったので、依然としてコマリに対しては闘志を燃やしてる現状です。
コマリに対して絡んできたらリミィが止めるということを条件に復隊していたりします。

次話からは原作二巻部分、サクナ・メモワール及び、七紅天闘争編に突入します。
今話までで人間関係の基盤はできましたので、今後はもう少しリミィも動かしやすくなりそうです。

二巻部分のエピソードを全て書ききったら、また今回のように毎日投稿という方式をとっていきたいと思います。

それでは、しばらく期間が空くとは思いますが次話もお付き合い頂けましたら幸いです。
今後ともよろしくお願い致します。
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