トンヌラ、リュカと   作:117

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久しぶりの更新を失礼します。
電撃小説大賞に投稿完了しました。良い結果を期待したいです。

しばらくは気ままに創作活動やその他を楽しみたいと思っていますので、どうかよろしくお願いします。


015話 レヌール城の冒険・2

 

 015話 レヌール城の冒険・2

 

 喜怒哀楽。

 オレが読んだとある書籍には、冒険者に不要であると書かれていたものだ。

 曰く、モンスターは人の苦痛を快楽にする存在である、と。

 だからこそモンスターは人間の感情を揺さぶろうとする。嫌悪を与え、憎悪を与え。その心の揺らぎを楽しむのだと。

 そんなモンスター共に対抗するに一番手っ取り早いのは感情を封印することだと。怒りを持たず、哀れみを持たず。冷徹に冷静に、そして無感情にモンスターを駆逐するべし。

 オレはその言葉に感銘を覚え、その通りにしようと思った。オレは精神が成熟している方だし、比較的そう出来た。

 だがしかし。

 眼前の光景を見て哀れみを表に出す少女を非難する事は出来なかった。

「ひどい……」

 

 ――やめてやめて、もう止めて。

 ――疲れた、疲れたんだ。もう踊りたくないぃぃ……。

 ――足が、足が勝手に……。

 

 空中庭園から入った、城の大広間。

 そこの最上階の渡り廊下を歩くオレたちは必然、その下を見ることになる。

 眼下に映る、かつては煌びやかなダンス場だっただろうそこは今、悲哀と悲痛の声が満ち満ちた絶望のダンスパーティーが開催されていた。

 泣きながら踊っているのは半透明の男女たち。ダンスというのは存外に体力を使う。5分も踊れば慣れていない人は汗だくになるだろうし、慣れた者でも30分も踊れば疲労困憊になるだろう。一流のダンサーでも1時間も踊るのは無理だ。

 それなのに、おそらくは一晩中。この哀れな幽霊達は踊らされ続けている。苦痛に喘ぐ自分たちを周囲でゲラゲラと嗤いながら見物するモンスター達を楽しませる為だけに。

 これをむごいと思わない程にオレは冷血ではない。しかし冷静さを失ってはいけないとも自制を効かす事は出来た。

 しかしビアンカと、そしてリュカは感情を隠せなかった。リュカは珍しく嫌悪と憤怒、それから僅かに戸惑いが混じった表情を浮かべていた。初めて見るモンスターの悪意に人間として当然の反発心と、それと何故こんな事をするのかという事が理解できずに現状を消化しきれていないのだろう。モンスターにさえ善意を求めるのは、魔物使いとしての才覚故か。

 ビアンカはというと、ただひたすらにモンスターの慰み者になっている幽霊達を悲しんで哀れんでいる。それほどまでにあまりに辛いダンスをさせられていることを、好きだっただろう踊りを侮辱されている事をむごいと考えているのが透けて見える。

「・・・・・・行こう」

 この蛮行を止める為に。オレがそんな意思を込めて言うと、リュカとビアンカは力強く頷いて答える。こんな上空からではなにも出来ない、まずは1階にある大広間まで降りなければ話が始まらない。

「フシャ!」

 足下でペロペロと自分の肉球を舐めていたチロルが、やる気満々に息を吐く。そしてくるりと立ち上がると、率先して先を歩き始めた。

 オレたちは大広間の壁に沿うように作られた道を歩き、階段を降りていく。途中にある扉には目もくれず、ひたすらに下を目指す。

 そして辿り着く、大広間の1階。幽霊達が絶望と悲哀のダンスを踊る会場へ。そして乱入者がいれば、当然に見つかるというもの。それは当然、オレたちも折り込み済だが。

「なんだぁ? 人間の子供、しかも生きてるじゃねぇか!」

 ゲラゲラと下品に笑っていたおばけキャンドルがオレたちに気がつき、品のない視線で睨め付けてくる。

 その視線を受けて、オレもリュカも。そしてもちろんビアンカも一切の揺らぎはない。義憤といった感情が恐怖を押さえつけている。許されない行為をしている相手との対峙という覚悟が、オレたちから怯えを消していた。周り一面、モンスターだらけの敵ばかり。それがどうしたと気炎を吐ける。

 ちなみに先頭でキリッとした顔をしているチロルは多分何も分かっていない。何か良く分からないけど、みんなが頑張っているから自分も頑張る。そんな雰囲気が届いている。かしこさが足りないようだ。

「ケッヒッヒ。煮て食うか、焼いて食うか。それとも生きたままかぶりつくか」

 それはともかく。シルクハットをかぶったモンスター、ゴーストが空中をぐるぐる回りながらそんな言葉を投げかけてくる。明らかにオレたちの恐怖を煽り、その感情を楽しもうという風情だった。もちろん、言葉自体に嘘もないのだろう。

「どうします、おやぶん?」

 骨の蛇といった外見をしたモンスター、スカルサーペントが背後にいるやや大ぶりなモンスターに声をかけた。かつては王のみが座れたであろうその玉座にどっかりと腰掛けた、ローブを纏った人型のモンスターが存在している。

(!)

 息を呑む。威圧感が明らかに違うそのモンスターは、スカルサーペントの言葉通りに間違いなくこのモンスター群のおやぶんなのだろう。

 ふんぞり返りながらジロリとオレたちを見たおやぶんゴーストは、配下に向かって声をかける。

「いいぞ、お前らの好きにして」

 その言葉に、オレたちの周囲を取り囲んでいたモンスターたちから歓声があがる。

「ただし」

 その歓声を聞きながらおやぶんゴーストは指を1本、ビアンカに向けて指し示す。

 びくりと反応をしたビアンカ。それと同時、リュカがその指先からビアンカを隠すように割り込む。

 それをニタニタと見ながらおやぶんゴーストは口を開いた。

「その柔らかそうな女のガキはワシが食う。捕らえて献上せよ」

 とたんにブーイングが響くが、おやぶんゴーストは意に介さない。素知らぬ顔で手を上げて攻撃の合図を出そうとして、

「フシャァァァァァァァ!!」

「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 先手をとったチロルの爪を、その大腿部に食い込ませる痛撃を受ける羽目になっていた。

 地獄の殺し屋と言われるキラーパンサー、その幼体であるベビーパンサーは奇襲もお手の物だという事を証明した。()()()()獲物である人間の子供たちにモンスターたちの視線が集まった隙をついて、敵の視界から姿を消して。そして小さな体を駆使して潜り込み、敵の大将であるおやぶんゴーストに先制攻撃を与える。

 本能的に優れ、狩りの能力が高い事を証明した一撃だった。

『おやぶん!?』

 オレたちの周囲を囲んでいたモンスターたちが動揺する。ざらっと見たところ、敵の数は25体から35体といったところか。先ほどあげたモンスター以外にも、ドラキーやバブルスライムといった種族が目についた。

「神より賜りし文明の祖よ。その姿をここに現し、我が敵に炎熱の報いを与えたまえ! メラ!」

 チロルの奇襲は好都合。敵の指揮が崩れたのを好機と見たオレは、まず真っ先にバブルスライムの群れの中にいた1体を狙って呪文を放つ。とにかく長期戦では毒が厄介であり、まず真っ先に倒さなければいけないモンスターがバブルスライムだった。

 オレの放った火球に包まれて声もなく燃え尽きていく1体のバブルスライム。獲物とみていた人間の子供からの攻撃を受けて、なおもモンスターたちの動揺が広がっていく。

「天空より舞い降りし太陽の光よ。閃熱となりて敵対するものに裁きを加えたまえ! ギラ!」

 そしてビアンカも動く。オレの攻撃先の意図を汲んでくれたのか、呆然と仲間が燃え尽きているの見守る事しか出来ていなかった他のバブルスライムたちに閃熱の呪文を放つ。範囲攻撃で威力が足りなかったせいか、身をよじらせながら苦痛に耐え、そこでようやくオレたちを睨み付けるバブルスライムたち。そしてそれに合わせてオレたちに敵意を持ち始めた他のモンスターたち。

「やあぁぁぁぁぁ!!」

 だが、先制攻撃を成功させたオレたちには、まだ1人攻撃をしていない者が残っている。我が双子の兄、リュカがダメージを受けたバブルスライムたちに銅の剣で連続の斬撃を与えてトドメを刺していく。ギラを耐えたとはいえ体力を消耗していたバブルスライムたちは、リュカの攻撃に耐えきれずにその形を崩して床のシミとなって消えていく。

「しゃらくさいわぁ!!」

「キャン!」

 おやぶんゴーストの怒声と共にチロルが弾かれる。一撃をくらったチロルは悲鳴をあげつつ飛ばされ、しかし中空でくるりと体勢を立て直したベビーパンサーはオレたちの側に着地すると周囲の敵に向かって牙を剥く。

「ぐるるる!!」

 ダメージは受けたがその闘志は変わらず。チロルが頼もしい事この上ない。

 そんなチロルとオレたちを忌々しげに見たおやぶんゴーストは、今度こそ手を振り下ろして配下に命令を下す。

「かかれぃ!!」

 雄叫びをあげながらオレたちに襲いかかってくるモンスターたち。

 おばけキャンドル、ゴースト、スカルサーペント、ドラキー。そういったモンスターたちが4体~6体ほど居るか。

「背中合わせになって迎撃するぞ!」

 オレの言葉に頷く暇も惜しいとばかりにオレとリュカ、ビアンカが三角の形で背中合わせになる。周囲を囲まれている以上、これが最適解だろう。

 チロルはまたしても小さな体をいかして敵の足下に潜り込み、姿を消す。

「ぎゃあ!!」

 と思ったら奥の方で悲鳴があがった。やはりチロルは細かい作戦に従ってもらうより、その本能に任せた戦いをして貰う方がいいのだろう。

 とにかく今はチロルの心配よりも自分の心配だ。オレの眼前には蝋で出来た体で頭に灯火を宿したおばけキャンドルが、やはり蝋でできたナイフのような武器を振りかざして襲いかかってくる。

「甘い!」

 だが、オレの武器はカシの杖。射程の長さはナイフよりもずっとある。正眼に剣のように構えたカシの杖を、真っ直ぐに振り上げて、そして振り下ろす。

 防御することもできなかったおばけキャンドルの、その狙ってくれと言わんばかりに明るい頭部を叩き潰す。火によって熱された頭部はやはり柔らかいのだろう。ぐにゃりと形を失った頭部に続き、その体も崩れていくおばけキャンドル。

 ちらりと周囲に一瞬だけ視線を流せば、リュカは銅の剣を横に振り抜いてスカルサーペントの背骨を両断し、ビアンカは空を飛ぶドラキーを的確に捕らえて妖精のナイフで突いていた。

(よし!)

 問題ない、オレたちのレベルは着実にあがっている。それを確信したオレは眼前にいる自分の敵に意識を戻す。

 そこにはゴーストが口元に手を当て、叫ぶような格好でオレに向かって飛びかかってきた。

「っ!」

 それが攻撃の予兆でないと思うほどにオレは楽天的ではない。カシの杖を横に構えてガード、身を守る体勢に入る。

「きゃわわわわ~~!!」

「ぅ、ぐぅ・・・」

 腹の底、臓腑をかき回されるような不快感。声による音波の攻撃に、めまいがして一瞬だけ平衡感覚が損なわれる。

 右膝ががくりと下がったと同時、ドラキーが左側から牙を剥いて襲いかかってきた。

「キラァァァァァ!」

「な、んのぉ!!」

 右下から掬い上げるようにカシの杖を振るい、近づいてきたドラキーを弾き飛ばす。そのまま下がった右膝を上げる勢いを利用して飛び上がり、その場で左回りに一回転。

 遠心力をたっぷりと乗せた一撃で、音波攻撃をくれやがったゴーストに反撃をくれてやる。

「お返しだぁ!!」

「ごぶぇおろ!」

 汚い悲鳴を上げながらゴーストは左側の頭を思いっきり叩かれて、きりもみしながら飛んでいく。遠くにどさりと落ちると同時、すぅと透明度を上げて消えていく。問題なく撃破できたと確信し、右手でカシの杖を握って前に構える。

「ハッ!!」

 鋭く息を吐き、かかってこいと気炎をあげたオレ。それにたじろぎ、スカルサーペントともう1体のおばけキャンドルは一歩下がった。

 その位置は安全圏でないと、先ほど見せたはずなのだが。

「神より賜りし文明の祖よ。その姿をここに現し、我が敵に炎熱の報いを与えたまえ!」

 距離を取ってくれたのだ、遠慮無く呪文を詠唱させてもらおう。しまったと言わんばかりに慌てて距離を詰めようとする2体のモンスターが、二重の意味でそれは不用心が過ぎる。

「ガルァ!!」

「ぐわっち!」

 少なくなった敵の背後に忍び込んだチロルがスカルサーペントの背骨に飛びかかり、噛み砕く。

 頭に繋がる背骨を失ったスカルサーペントはなすすべなくそのしゃれこうべを地面に落とし、パキンという音と共に砕け散った。

「メラ!!」

 残るのはいかにも燃えやすそうな素材でできたおばけキャンドルのみ。火球を生み出す呪文をもろにくらったモンスターな引火してドロドロと消えていく。

 オレとチロルの勝利であり、にやりと小さな相棒に笑ってやると。黄色い毛玉もわふぅと勝利の声を漏らした。

 そして背後でも勝負が決まるところであり、オレはそれを一切疑っていない。

「神が授けし無色の刃よ。渦となりて眼前にたむろう怨敵を切り刻み給え! バギ!」

「天空より舞い降りし太陽の光よ。閃熱となりて敵対するものに裁きを加えたまえ! ギラ!」

 リュカの呪文とビアンカの呪文が混じり合い、合成される。

 真空の刃に炎熱が宿り、吹き込まれる風でなおも輝きを増すギラ。

 そしてギラの熱量をその身に受けて、なおもヒートナイフのように切れ味を増すバギ。

 合成されたその呪文は、残り数体となったモンスター共を全滅させるのに十分な威力を持っていた。

 それを為したことを見届けたリュカとビアンカはグータッチをして、キッとおやぶんゴーストを睨み付ける。オレは彼らの前に陣取っており、更にチロルはその前に。数十のモンスターを蹴散らして、なおも問題なく健在だったのはオレたちの方だった。

「・・・・・・使えんヤツラだ」

 言いながら玉座から立ち上がるおやぶんゴースト。そして冷たい眼差しで俺たちを見ながら口を開く。

「よかろう、ワシが直々に相手をしてやろう!!」

 言いながら右手を玉座の背もたれの上に手にかけて、スイッチのようなものを押す。

 それと同時にオレたちの足下の床が抜けて、浮遊感に包まれた。

(あ。忘れてた)

 そう、どこか他人事のように思うオレ。

 下は暗闇。前にはニタニタと笑うおやぶんゴースト。

「そこから這い上がってこれたらの話だがなぁ!!」

 喜色を浮かべた声を聞きつつ、オレたちは呆然と地下の暗闇へと落ちていくのだった。

 




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