トンヌラ、リュカと   作:117

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うっわ。めちゃくちゃ時間あいちゃた・・・。
しかもその割には短くて申し訳ないです。
どうか楽しんでいただけたら幸いです。

遅ればせながら、あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。


018話 レヌールの夜が明ける

 

 017話 レヌールの夜の明ける

 

     ~~~~~~~~~~~~~

 

  自分は、この暁の恐怖を忘れた事は生涯ない。

    レヌールの夜が明けたこの暁を。

 

 ・グランバニア国王弟 トンヌラの手記より抜粋・

 

     ~~~~~~~~~~~~~

 

 ゴールドオーブを手中に収め、もはや幽霊の気配も魔の気配もなくなったレヌール城を通り過ぎて入り口の門に辿り着いた頃。

「わぁ・・・」

「朝、だね」

「にゃあ、ごろごろ」

 東の空に太陽の光が見え始めていた。

 見事な徹夜であり、夜のうちに帰宅してベットに辿り着き、レヌールのお化け退治をしていた事実を隠す気が仄かにあったオレはちょっとだけ残念に思ってしまう。

(まあ、半分諦めていたけどさ)

 太陽自体は見えない東の空を見ながらそう思う。本当にもの凄く上手くいったら、くらいに考えていた為に気落ちする感じはあまりない。

 一方で、これでオレたちの所業――という割には悪いことはしていないつもりだが。まあ親にとっては十分な悪さとも言えるか。

 その所業を隠す事はできなくなってしまったので、そういう意味では希望が一つ断たれたとも言える。

 覚悟していたとはいえ、やはりこの感覚は気持ちのいいものではない。

(この感覚を、オレはいったい後何回味わうんだろうな・・・・・・)

 美しい朝焼けの空を目を細めて見ながら、オレはそう思う。

 こういう時ほど転生者であり、この先の不幸を熟知している事に気が滅入ることはない。

「トンヌラ、大丈夫?」

 と、ここで敏感なる我が兄がオレの顔色をうかがって声をかけてくる。

 その隣でビアンカが不思議そうな顔をしている辺り、多くの人にバレるような陰鬱な顔をしてはいないのだろうが、リュカには分かってしまう程度には気落ちしていた事が漏れていたらしい。

(イカンイカン)

「いや、ちょっと疲れたのかもな。早く帰って、ぐっすり眠りたいよ」

「あ、それはボクも」

 無理矢理にも笑みを浮かべてオレがそう言えば、リュカもすぐに同意して頷いてくれた。

「ふぁ~あ。あたしも眠いわ。早くアルカパに帰ってベットに潜り込みたいわね」

「な~お」

 更にそれに同意するビアンカに、くしくしと前脚で顔を洗いながら声を出すチロル。

 そんな一同にオレはくすりと笑いながら、声かけをした。

「よし、じゃあアルカパに帰ろうか!」

 オレの言葉に、意気揚々と引き上げる3人と1匹だった。

 

 ◇

 

 で、だ。

 アルカパの町の入り口に辿り着いた時、全員の動きが止まった。

 父さんであるパパスや、ビアンカの母であるメーノさん。その他に見回りの戦士やアルカパ町長といった面々が入り口に陣取り、オレたちを待ち構えていたのだから。

 出迎える、ではない。待ち構える、である。大人達は険しい表情を隠すでもなく、レヌール城から降りてくるオレたちを待っていた。

「・・・・・・・・・・・・」

 思わずリュカの背後に隠れるビアンカと、オレの脚の後ろに隠れるチロル。

 矢面に立たされたのはオレとリュカだが。うん、まあこれは仕方がない。誰かがやらなければいけない役目である、仕方がないったら仕方がない。

(納得はできないけどなぁ!)

 ちょっと理不尽に怒りを覚えながら隣のリュカを見れば、我が双子の兄にしては珍しく口元が引きつっていた。

 彼としても褒められる雰囲気を微塵も感じていないに違いないらしい。

 しかしそれでもこのまま突っ立ている訳にもいかないとは気がついたのだろう。オレからの視線を感じたリュカはオレを見返して、力強く頷く。

「行こう、トンヌラ」

「おう、リュカ」

 まるで戦地に赴く覚悟である。

 気合いを入れ直したオレたちはゆっくりと厳つい雰囲気を醸し出す大人達の元に歩き出す。

 そしてその眼前に来たところで、リュカから口を開く。

「ただいま!」

 リュカの元気いっぱいの声にも反応はない。

「レヌール城のモンスター退治を完了し、帰投しました」

 オレの事務報告の声にも、返答はない。

「あ、あの。夜に抜け出してごめんなさい」

 ビアンカの謝罪の声にも、様子を動かさない。

 と、そこで父さんが静かに瞳を閉じて。そして深くため息を吐く。

 そしてその瞼を開けてオレたち双子を見据えたかと思うと。

 

 パンパン

 

 オレとリュカの頬を平手で張り飛ばした。

 何をされたのか分からないオレとリュカだが、赤くなった頬からジンジンとした痛みが広がるにつれて父さんにはたかれたという事実が伝わってくる。

 そのままガバリと抱きしめられる。右腕にリュカを、そして左腕にオレを。

「っ! 親を心配させおって、この・・・バカモノ共が!!」

 そういう父さんの声は少しだけ震えていた。

 初めて聞く、父さんの震えた声だった。

 それと同時に後ろからメーノさんが飛び出してビアンカを抱きしめる。

「無事で、無事でよかったよビアンカ! 痛いところはない? どこも怪我をしていない?」

「お、お母さん。苦しい、苦しいよ・・・・・・」

 母の抱擁を受けて、ビアンカは声に段々と涙が混じってきた。

 そのまま堰が切れたようにワンワンと泣き出す。

「ど、どこも痛くない、よ! でも、涙が、止まらないの・・・・・・!」

「全く、パパスさんの言う通りだよ! 親をこんなに心配させて、このバカ娘!」

 メーノさんも涙を流しながら、母親と娘は泣き合い抱きしめ合う。

 その声を聞いていたオレは、ぽろりと涙が一筋流れた。

「・・・・・・あれ?」

 その事実に、誰よりも意外だったのはオレ自身だった。

 心配をかけることは理解していた。それがどのくらい重いものかも、おおよそ。

 しかしそれでもこれは想像の範疇だったはずだ。天空の物語として、為さねばならぬ事だったはずだ。

 だがしかし、メーノとビアンカの涙を見て。震える父さんの声を聞いて。覚悟していなかった心のどこか、琴線に触れたが為に流れた涙。

「・・・・・・ありがとう、お父さん」

 そしてそんな声を聞いて横を見れば。そこには静かに両目から雫を落としながら、謝るでなく礼を言う我が兄。

(ああ、そうか・・・・・・)

 オレはここまで深く父さんに愛されていたという自覚がなかったのだろう。

 だからこそ、父さんの愛に涙が流れたんだ。

「ありがとう、父さん」

 故にオレも礼を言う。謝罪ではなく、愛してくれたという事実に。

 そして、想う。

 ラインハットでここまでオレたちを愛してくれる父さんを失ってしまうかもしれないという事実を。

(っ!!)

 形容のし難い恐怖がオレの背中を走り抜けた。ここまでの愛を失ってしまうというのは、あまりにも強大な恐怖に相違なかった。

 どうにかしてこの運命を変えなければならない。

 だがしかし。

(どう変えればいいのか、分からない・・・・・・)

 オレは恐怖に震えながら、ゆっくりと上りゆく太陽をただ見つめる事しか出来なかった。

 レヌール城のお化け退治をした達成感はもうない。胸にあるのは、ただただ失う恐怖に満たされた負の感情のみだった。

 

 ◇

 

 さて。

 アルカパの入り口でのやりとりが終わり。オレたちはダンカンの宿、つまりはビアンカの実家に連れ戻される事になった。

 そこで温かい食事をいただき、風呂に叩き込まれ、そのままベットに連行される。

 レヌール城から流れ込む瘴気がなくなった以上、オレたちがレヌール城のモンスターを退治したということは確定的となった。

 父さんが退治するはずだったレヌール城のモンスターを、子供たちが退治したということはそれなりに問題になる話だったが。まあそこら辺は父さんが上手くやるだろう。グランバニア国王である父さんの政治力を疑う事はない。

「大冒険だったわね!」

 そんな大人達の苦労を知らず、ビアンカはオレたちから少し離れたベットの中で興奮気味にクスクス笑いながら声を出していた。

 ただし、その表情は少しだけ眠そうだ。無理もない、ほぼ徹夜をしてモンスター退治をしたのだ。その上、レヌール城の冒険は神経を削るものばかりだった。睡魔が襲ってきてもおかしくない。

 そしてそれはオレたちも例外ではない。リュカはとろんとした顔でビアンカの声を聞いて返事をする。

「・・・・・・うん、大冒険だったね。王様と王妃様も穏やかに眠れてよかったよ」

「ご褒美も貰ったしねぇ。ふぁ~あ」

 大あくびをするビアンカ。ちなみにチロルはリュカの足下で丸くなり、既にすぴすぴと寝息を立てている。

「ねぇ、リュカ・・・・・・」

「・・・・・・うん、なに? ビアンカ?」

 半分眠りながら会話をする2人。それを聞きつつ、オレもうとうとと瞼が落ちていく。

「いつか、また、こんな冒険を、一緒に、しようね・・・・・・」

「うん、約束だよ。ビアンカ・・・・・・」

 そう言って、眠りに落ちていく両名。

 それを聞きつつ、オレも静かに睡魔に身を委ねるのだった。

 




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