今年もどうかよろしくお願いします。
これからも投稿を頑張っていきますので、どうかお付き合いいただければ幸いです。
では、最新話をどうかお楽しみください。
007話 ビアンカとの邂逅
ザイルと友好を結んだリュカ。
これでドワーフ族の過激派を説得できた形となり、最低限だが妖精族とドワーフ族が話し合う下地ができた事となる。その証明として氷の館のカギを譲り受けたオレたちは、ドワーフの洞窟を早々に後にした。
別にドワーフ洞窟に留まる選択がなかった訳ではない。特にリュカはザイルと取っ組み合い殴り合いのケンカをした事で、大分消耗していた故にあそこで休む選択をする可能性は0ではなかった。
これは別にオレがフローラに色目を使ったザイルに危機感を持った訳ではない。断じてない。何故ならば、あそこで旅立つ選択をしたのは3人の合意だったからだ。
にこやかにドワーフの洞窟を後にし、寂びしそうなザイルを見ないフリして。オレたちは無言で歩いて、最初に休憩した地点まで戻る。そこでまだ崩れていなかった釜土を使い、薪を集めて火を熾す。水をお湯に変えつつ野生のハーブをブチこんで、行きと同じく野性味あふれるハーブティを作成。そしてそれぞれのコップに注いで、ゆっくりと喉を潤して。
「「「はぁ~」」」
全員の声が綺麗に揃った。
誰ともなしに視線を交わし合い、心が一つであることを確認して。代表してオレがしみじみと呟く。
「
うんうんと頷くリュカとフローラ。
そう、ドワーフの洞窟で出されたあの
10にも満たない子供3人が、言葉で合意を取らずに自然と。
「あれは強烈でしたわ……」
遠い目をしつつ口にするフローラ。いつもは柔らかい表情をしているリュカも、珍しく渋い表情をしつつチビチビとハーブティを口にしている。思い出したあの味を上書きしているのだろうという予想はついた。
◇
帰るまでにモンスターとの戦闘を2度ほどこなした後、妖精の村へと辿り着く。
村の入り口で心配そうに待っていたベラの友達甲斐を感じつつ、氷の館のカギを見せれば大いに喜んでくれた。
「やったわね! ポワンさまもきっとお喜びになるわ!」
そう言ってポワンさまのいる館へと案内してくれるベラ。上機嫌に踊りながら道を歩く綺麗な妖精に、オレの気分もあがってくる。
そしてそんなベラを見て、うずうずとした様子を見せていたフローラもやがて我慢できなくなったらしい。
「わたくしも!」
そう言って見様見真似でベラの踊りを踏襲しつつ、くるくると楽しそうに道を踊りながら歩くフローラ。
そんな彼女を楽しそうにニヤリと見たベラは、蒼髪の女性に向かって挑戦的な握手を求めた。
フローラは楽しそうに嬉しそうにその手を取り、2人は楽しそうな笑顔で踊りながらポワンさまの館へと向かう。
「いいなぁ。ボクもやりたい」
「やめてくれ」
リュカの言葉に思わず真剣な声を出してしまう。3人が踊りながら歩く道を、1人だけ正気で歩く自信は流石にない。
恥を捨ててオレも踊るか、恥を我慢したままついていくか。どちらにせよ、精神的なダメージが残る。なので是非ともリュカはオレの側に居て欲しかったのだ。
そんなオレの切実な声を聞き取ったリュカは悲しそうに頷き、踊る2人の後をオレと並んで歩く。
そのまま歩き続け、やがてポワンの館の前で止まる。はぁはぁと息を切らしつつ、そしてよい汗を流しつつ。ベラは満足そうな笑みでフローラに語り掛けた。
「今のは妖精族に伝わるさそうおどりよ。きっと何かの役に立つと思うわ」
「ステキな踊りをありがとう、ベラさん。わたくし、この踊りをもっと練習しますわ!」
フローラがさそうおどりを覚えた。
それはともかく。
遊んでいるうちに特技を習得したことに目眩にも似た衝撃を受けつつ、切り株の上にいるポワンさまに面会にいくオレたち。
今までの全てを見ていたとは思えない、清々しい笑顔を浮かべたままでポワンさまがオレたちを出迎えてくれる。
(あのシーンを見つつも変化がないポワンさまがある意味一番怖いよ……)
「よくぞドワーフ族との信頼を勝ち取ってくれました。リュカ、トンヌラ、フローラ。妖精族を代表してお礼を申し上げます」
「うん。じゃあコレ、氷の館のカギね」
オレの内心に関わることなく、リュカはにこにこと笑いながらドワーフの信頼をポワンさまに手渡す。
ポワンさまはそれを受け取った後、慎重にその胸に押し当てて瞼を閉じる。再び得た信頼を噛み締めるように、ポワンさまは瞳を見せないままに声を出す。
「――ああ、本当にありがとうございます」
「? うん」
「お友達の力になるのは当然ですわ」
その重さを理解できなかった2人は気軽に言うが、それを理解できてしまったオレは軽く触ることはできなかった。
ポワンさまと同じように瞳を閉じて、右手を左胸に添える初めて行う騎士の礼。オレが知る限りで最も重いソレでポワンさまに返礼する。
「その言葉、確かに受け取りました」
「再度感謝を申し上げます。リュカ、フローラ。そして、トンヌラ」
その言葉で瞳を開いたオレとポワンさまは、視線を交わして微笑みあった。
「やっぱ子供っぽくないわ、この子」
離れた場所から聞こえてくるベラの呆れたような言葉だが、この時ばかりは黙って受けるしかないだろう。
オレとポワンさまの表情が苦笑になり、その後で真面目なそれに変化する。
「さて。これでカギの1つは集まりました。続いて必要なのは、盗賊の技法。そして魔族の許可。
これらを得るに、妖精の村で出来ることはもうないでしょう」
そう言ってベラに目配せをするポワンさま。その様子を見て、待っていましたとばかりに前に出てくるベラ。
「いったん、3人をサンタローズの村へ送り返すわ。私はこの村へ来た地下室で待っているから、話が進んだらまた会いに来てくれるかしら?」
「分かった。まずはサンタローズの洞窟に眠る、盗賊の技法を目的にします」
はっきりと答えるオレに、満足そうに頷くポワンさま。
「ええ、それで大丈夫です。期待していますよ、かわいい戦士たち」
その言葉を聞いた後、スっと世界全てが白く染まった。まるで霧か雲かに包まれたように何も見えなくなる。
「わわわっ!?」
「きゃ!?」
「お、っと……」
続いて見えるのは黒。いやさ、闇。何も見えないオレは、思わず先ほどの位置にあったフローラの手を握ってしまう。
「な、なにかしら?」
「あ、スマン。オレ」
「ト、トンヌラさんでしたか……」
一瞬だけ怯えた声を出したフローラだったが、オレの声を聞いてすぐに落ち着く。握ったばかりの手は硬くこわばったが、すぐにふにゃんと力が抜くていくのを感じ取れた。
フローラに信頼されているんだと実感して、オレの胸に温かい感情が溢れていくのが分かる。
(思ったよりもヤバいかもな……)
照れた顔が見えない事に安堵しつつ、それを誤魔化すようにまだ所在の知れないもう一人に声をかける。
「リュカ、居るか?」
「もちろんいるよ、トンヌラ。ここはボクたちの家の地下かな?」
聞こえてきたリュカの声にふと思い出して上を見上げれば、そこには採光穴からほんの僅かに赤い光が差し込んで来ていた。夕焼けの色をしたそれを目にしつつ、オレの顔とどちらが赤いのだろうかとか益体のないことをぼんやりと考える。
そうした時、ガタガタと音を立てながら入り口の蓋が外された。びくりと驚きの感情が伝わってくるフローラを庇うように、オレは咄嗟に前に出てカシの杖を構える。
ガコンと音を立てながら外された蓋の先には、丸っこい顔に柔らかい笑みを浮かべたサンチョの顔があった。
「おや、皆さんここにいらっしゃったんですね。さあさあ、もうすぐサンチョ特製のシチューが出来上がりますよ!
上がって手を洗ってらっしゃいな」
どうやらオレが地下に行くと言ったのも知らないフリをしてくれたらしい。
子供社会の中で爪弾きに合う危機が去ったことに正直助かったと思い。そして3人共お互いに顔を見合わせつつ、緊張に強張った表情を溶かしていく。
「……帰って、来たね」
「やりましたのね、わたくしたち」
「頑張ったよな」
そして3人合わせてハイタッチ。
「「「やったぁ~~!!」」」
喜びを露わにするオレたちをきょとんとした表情で見て来るサンチョが印象的な、最初の冒険の終わりだった。
そしてオレたちは素直にサンチョの言葉に従い、1階にあがってから水瓶から移された水で手を洗う。
「…………」
サンチョの視線がとても痛かった。それは地下に行くまでには確かになかったリュカの防具であり、そしてオレが持っているバッグでもある。
どこで手に入れたのかといえば普通に考えて地下でしかないが、かといってそこはサンチョの管理区域である。少なくともこんな防具や財産にもなるバッグなどはなかっただろうことは覚えているだろう。
では、これらのアイテムはどこから出てきたのか? その疑問を持ったままであろうサンチョの視線だったが、パパスの召使いであるサンチョがオレやリュカ、そして客分の娘であるフローラを問いただす事も難しかったに違いない。怪訝な様子を伏せつつも、しかしオレにも透けて見える程度にはそれを隠しきれていない。
(父さんに報告して、父さん経由で詰問かな……)
どうにか上手い言い訳を必死で考えるも、そんな事がすぐに浮かぶ訳もなく。
いたずらに時間だけが過ぎて、きゃいきゃいはしゃぐリュカとフローラの声につられるように2階から父さんとルドマン氏が降りて来る。
「良い話ができて嬉しいですぞ」
「うむ。では、例のモノを見せていただく為に、明日は共にサンタローズの洞窟へ……」
「ええ。我が信頼の証と思っていただきたい」
(天空のつるぎの話、だよなぁ)
それしかないとは思いつつ、ここで父さんとルドマン氏の邂逅は元来はなかったものである。どのような約束が結ばれたのか、非常に気になるところだが。残念ながらそれを知る術はオレにはない。
そして場所が変われば即座に頭を切り替えられるのが出来る男というものでもある。1階に降りた2人は己の子供たちを見て目を細めた。
「友達と仲良くできたかい、フローラ?」
「はい、お父さま。お友達とたくさん遊びましたの!」
「待たせたな。リュカ、トンヌラ。では食事にしようか」
「ボク、お腹減ったよ! サンチョのシチューが楽しみ!」
「……そういえばオレもすごくお腹減ったなぁ」
思えば丸1日くらいの旅をしたにも関わらず、口にしたのは妖精の乾パンのみである。そりゃあ腹も減る。
(っていうか、時間経過とかどうなっているんだろ?)
一瞬だけ浮かんだ疑問は即座に頭の中から追い出した。どう考えても答えが出ない疑問であるからして、楽しい食事の時間に持ち込むものでもない。
いつか妖精たちに聞けたら聞こう、程度に割り切って。オレはみんなと共にテーブルに座る。
それぞれの目の前には、サンチョ特製のシチューがよそわれた器が湯気を立てて待っていた。更に隣には焼きたてのパンが良い香りを出しながらオレたちの食欲を誘ってくる。
ゴクリと唾を飲むオレ。口の端から涎が少しだけ見えているリュカ。く~、と可愛らしくお腹を鳴らして赤面するフローラ。そんな子供たちを苦笑して見る親たち。
「では、いただこう」
いただきます。そう声を揃えた後、リュカはシチューに木製のスプーンを突っ込み、中身を勢いよく口に運ぶ。それよりもやや上品に食事をするオレとフローラだが、大人しいと表現するよりは荒々しいと表現するような勢いであったことは認めざるを得ない。
そんなオレたちを苦笑で迎える父さん。
「こらこら、落ち着いて食べなさい。シチューは逃げないのだから」
「もぐ!もぐ!もぐ!」
「聞いちゃいないな」
リュカの様子に苦笑を深めるしかない父さん。だが、すぐにほんの少しだけ鋭い雰囲気を醸し出しつつ、オレたちの装備に目を留める。
「ところでお前たちは見慣れぬ防具をつけているみたいだが、それはどうしたのかな?」
「うむ。フローラも私が与えた覚えがないナイフを持っているようだが」
来たか、と思うしかないオレ。
正直、良い言い訳は何も思いついていないが。何かを答えねばならない。
重い口を開けかけたところで、先にリュカから元気のいい声があがった。
「友達から貰ったんだ!」
「ええ。わたくしもですわ。トンヌラさんもそうですわよね?」
にっこりと続けて笑みを浮かべて来るフローラ。
嘘ではない、嘘ではないが……。これで納得してくれる親たちではないだろう。
「ほぅ。それはワシからも礼を言わねばならないな。友達の名前を教えてくれるか?」
「うん。ベラって言う友達だよ、お父さん」
聞きなれないだろう人名に、父さんの瞳が一瞬虚空に揺れた。脳内でベラという名前を精査をしたのだろうが、サンタローズの住人はおろか当然ながら全ての記憶でヒットがしなかっただろう。
念のためと言わんばかりにサンチョに視線で確認するが、首を横に振るサンチョ。これでこの話は大分キナ臭くなったに違いない。パパスの息子たちやルドマン氏の娘に安くはないアイテムを渡す正体不明の存在。これを疑わなくては親失格だろう。
「聞き覚えのない名前だ。明日にもワシに紹介してくれないだろうか?」
「難しいと思いますわ。お父さまにも会えなかったみたいですし、大人の方々には姿が見えないのかと」
フローラの言葉に一気に父さんとルドマン氏の様子が険しくなる。親に会わず、子供にだけ姿を現す不審人物にベラが格上げされた瞬間だった。
しかし、雑に子供たちを否定しても反発するだけだという考えはあるのだろう。どうやって言い包めるか、一瞬だけ考える大人たち。
その隙を、オレは見逃さない。ここに爆弾発言をブチ込んで、場をかき乱す。
「悪いことはしていないって、誓うよ。神様と父さんに」
いつも祈りを捧げる神様と、父に誓う。子供なりのその重さを理解できない親ではなく、ルドマン氏が驚きで目を開いた。
一方の父さんは、オレの子供らしからぬ様子も多々見ている。そのオレが唐突に出したこの誓いに、むしろ心を安定させたようだった。
「……お前がそう言うということは、間違いがないと思っていいのだな? トンヌラ」
「うん。これはオレたちがやらなきゃいけない事なんだ。だから、どうか見守って欲しい」
6歳の子供の判断に大人がオールインする。その異常さは改めて言うまでもないだろう。が、それでも真剣に父さんを見つめ返すオレを見て、そして悪意に敏感なリュカがきょとんとしたままの顔をしているのを見て。父さんは深く息を吐いた。
「――いいだろう」
「パパス殿!?」
「パパスさまっ!?」
まさかの判断に、残り2人の大人が驚きの声をあげた。
まあ、普通驚く。逆の立場だったらオレも驚く。しかしそれを呑み込める父さんは、やはり器が大きすぎたのだ。
「ワシはワシの息子たちの事をとても良く知っている。そしてここまで真剣な目をしたトンヌラも初めて見る。
男の目をしておるな、トンヌラ」
そう言って父さんは鋭い眼差しでオレを見やる。
「男が誓いを立てたのだ、トンヌラ。己の信念を曲げるでないぞ」
「分かったよ、父さん」
頷くオレ。続いてリュカを見る父さん。
「リュカ。お前も分からないなりに、トンヌラの覚悟を感じたはずだ」
「……うん」
ちらりと横目で先に一歩だけ大人の階段を上った
その表情に、不敵な笑みを返してやれば。それこそオレらしいと言わんばかりに、安心してふにゃりとした笑みを見せて来るリュカ。
「ワシから言える事は1つだ、よく励め。お前もワシの息子なのだから」
「――分かったよ、お父さん」
そして真剣な父さんの言葉には真剣な声で返すリュカ。それを確認した父さんは満足そうに笑うのだった。
一方でこれに困るのがルドマン氏である。親仲間だと思っていた父さんが、まさかまさかの6歳の子供に詳しい話を聞かず完全に信頼してしまったのだ。
もう一度言うが、ここでは怪しい人物との交友を咎めるのが親としての普通である。今回の場合は父さんと、多分何よりもオレが普通じゃなかったから信用された場面だったはずだ。
さて、これはどうしたらいいのやら。困り顔で父さんの様子を伺った後、にこにことご機嫌な愛娘の顔を見る。
「あ~、フローラや」
「はい、お父さま」
「危険な事はしていないね?」
「…………」
ポワンさまの依頼は危険でないことは絶対にない。それが理解できているからだろう、フローラは愛している父に嘘をつけずに黙まってしまう。
オレの目には反射的に怒鳴りつけようとしたようにルドマン氏の唇が動いたかのように見えたが、しかしギリギリのところで踏みとどまってその怒声を響かせることは阻止することに成功していた。
そしてややしゅんとなったフローラを見て、
「――分かった。私からも今回の事だけについてはとやかく言わないようにする」
「本当!? ありがとうございます、お父さま!」
ぱぁと花が咲いたような笑顔を浮かべるフローラに、苦笑を浮かべるしかできないルドマン氏。それでも、最低限親として言わねばならぬ事は言うのが娘を心配する親らしい、というべきか。
「ただし! リュカくんとトンヌラくん、彼らと一緒に行動すること。一人で勝手にベラというお友達に会いに行ってはならないよ?」
「分かりましたわ。ベラさんに会う時はみんなで、ですわね」
微妙に的を外したことを言うフローラ。ルドマン氏としては、危険かも知れない人物に会う時は父さんが認めたオレたちと一緒にというニュアンスだっただろうが、どうもフローラとしては友達と会う時はみんなで仲良くというニュアンスになっているような気がしなくもない。
まあ、それはそれでルドマン氏としての目的を達せられる話でもあるので細かい事を言う気はないらしい。訂正せずに約束を呑み込んだフローラの頭を愛おしそうに撫でた。
それを気持ちよさそうに受けるフローラ。ふと見れば、だいたいみんなの食事が済んでいる。サンチョだけは食卓を一緒に囲んでいなかったが、これは彼が召使いの立場を誇りに思いつつも堅持しているからである。後で落ち着いてからゆっくりと食事を取るのだろう。
お腹も膨れて、やるべきこともやった。これでお開き、とそうなりそうな雰囲気になりかけたところで、ドンドンドンと玄関のドアがノックされる。
「誰だ、こんな夜に?」
やや不審の表情を浮かべる父さんは、食事の為に外して背後の壁に立てかけていた剣を手に取る。
サンチョもやや警戒して玄関に向けて歩き出すが、それより先にドアの向こうから声が聞こえてくる。
「こんな夜更けにすまないね、パパスさん。あたしは隣の町のダンカンの嫁、メーノだよ!」
「やや! ダンカンのおかみさんか。サンチョ、すぐに中に入れてくれ」
「はい、かしこまりました。旦那さま」
警戒して少しだけ重かった足取りから一転、玄関までの僅かな距離を駆け足で踏破するサンチョ。
そして彼がドアを開ければ、もうすっかり暗くなった闇夜を背景にふくよかな体をした女性と、そして輝く太陽のような元気な金髪を持って勝気な表情をしている女の子がたたずんでいた。
ややくたびれた表情をしていた2人は、室内の温かい空気とランプが灯された光を見てほっとしたように表情を緩ませる。
「本当にすまないね、パパスさん。サンタローズに辿り着いたのが日が落ちてからで、それに運悪く宿屋はいっぱい。
あたしゃ我慢するけど、娘が不憫でねぇ。ああ、それとアルカパの問題もあるし……」
「落ち着け、落ち着いて話をしてくれ。メーノ」
そう言って疲れた母娘を室内に招き入れるように身振りで示す父さん。それに忠実に従ったサンチョが2人を家の中へと入れる。
冷たい外気から完全に逃れられた2人は、先ほどよりもずっとほっとした表情を浮かべた。そしてようやく落ち着いて周りを見渡せば、そこには彼女たちにとって見覚えのない顔がいくつもあることにようやく気付く。
メーノと呼ばれたダンカンのおかみさんは、ちょっとだけ恥じ入るように咳ばらいをした。
「夜分に無作法をして申し訳ない。あたしゃ、隣町のアルカパで宿屋を経営しているダンカンの嫁のメーノってもんさ。
で、こっちが娘。挨拶なさい」
メーノによって前に押し出された金髪の美少女は、おしゃまな笑みを浮かべながら部屋にいる全員に挨拶をする。
「あたしはビアンカと申します。よろしくして下さい、みなさん」
パチリと元気よくウインクのおまけつきで、ビアンカが礼を尽くすのだった。