これから頑張っていきたいと思うので、どうかよろしくお願いいたします。
009話 サンタローズの洞窟にて・1
魔物の群れが現れた!!
「行くよ、リュカ!」
「うん、頑張ろう。トンヌラ!」
サンタローズの洞窟に入って、これで都合3度目の戦闘だ。いい加減に慣れというものが出てくる。
この場にいるメンバーは、オレとリュカの男二人。そしてビアンカとフローラの女の子が二人。
必然、女性よりも男性の方が身体が丈夫である為にオレとリュカが前衛となる。戦闘が発生する度にオレら兄弟が飛び出していく。
「気を抜いちゃダメよ、フローラ!」
「もちろんですわ、ビアンカさん!」
そして後衛となった2人も気を抜いていていいわけではない。オレ達が前で戦う為に多めに荷物を持ってもらっているからして荷物を守るという意味もあるし、場合によっては魔法を含めた援護を期待することもある。
後ろにいる二人が二人共、魔法の使い手であるのは頼もしい限りだった。
それはともかくとして、オレとリュカは眼前のモンスターに気を配らなくてはならない。目の前にいるのはスライムが二匹にせみもぐらが一匹、そしてドラキーが一匹。
ぱたぱたと動き回るドラキーは目障りだが、こちらの攻撃範囲には降りてきていない。上空から隙を伺っている。ジャンプをすれば届くかも知れないが、それはすなわち地面にいる他の三匹への意識が散ってしまう。
ドラキーへの最低限の注意を残しつつ、オレは地面にいる三匹のうち、せみもぐらに向かってカシの杖を振り上げる。
「やぁぁぁぁぁ!」
狙われたと判断したせみもぐらの行動は早かった。鎌のようになっている両手で自分の頭を防御して、オレの攻撃を最小限のダメージでやり過ごそうとする。
ボゴンとした手応えと共に弾かれたカシの杖。それに僅かしかダメージを通せなかった事を悟る。
(――ちぃ)
オレの攻撃はうまく凌がれて、攻撃をした事による隙を晒してしまう。これを待っていましたとばかりに水色の軟体モンスター、スライムが二匹ともにオレに向かって襲いかかってくる。片方は牙を剥き出しにして、片方は頭からの突進で体当たり。
「トンヌラ!」
それを黙って見過ごす我が兄ではない。牙を剥き出しにして飛びかかってきた方のスライムに向かって、ヒノキの棒を振るう。それはまるでバットのようで、つまりは飛びかかってきたスライムは投げられたボールのようで。ピッチャー返しのような鋭さで、水平方向に吹き飛ばされるスライム。容赦のない反撃をくらったスライムは反対側の壁に激突し、そのままべちょりと形を崩して文字通り壁のシミとなった。
一方で体当たりをしてきた方のスライムはオレが対応しなくてはならい。とはいえ、オレの体勢は崩れている。反撃の余裕はなく、手にしたうろこの盾で受け止める。
「ぴぎ!?」
自分の攻撃がノーダメージだった事を悟ったのだろう。攻撃を仕掛けてきたスライムが戸惑ったような声をあげた。
オレやリュカは動きを止めてしまっているが、しかし後ろに控えた仲間がもう二人いる。
「やあああぁぁ!」
妖精の村で貰った、妖精のナイフ。それを手に持ったフローラがぽてんと地面に落ちて隙だらけだったスライムを、鋭く突く。
「ぴぃぎぃ!!」
妖精のナイフは思ったよりも切れ味があって攻撃力が高いのは今までで十分に理解している。スライムがそれに抗う事はできず、突き刺された傷から体液があふれ出し、グズグズと形を崩していった。
また、スライムを攻撃して頭上への注意が散漫になったフローラを狙って空から飛びかかるのはドラキー。しかし、動ける最後のモンスターを、このしっかりとした少女が見逃す訳がない。
「神より賜りし文明の祖よ。その姿をここに現し、我が敵に炎熱の報いを与えたまえ!
メラ!」
襲いかかるならここだろう。そう読み切ったタイミングに合わせて手の平サイズの火球を生み出し、そして叩き込む。
相手の隙を狙った攻撃の、更にその隙を狙われたドラキーにその火球を回避することはできなかった。ビアンカが発射したメラが直撃し、焼けながら墜落していく。
「っ!! っっっ!!」
おそらく、喉や気管に熱気が入り込み、呼吸すらできなくなったのだろう。断末魔の声もなく空気を吐き出すような音だけを立てながら地面に落ちたドラキーは、ぴくぴくと痙攣しながらメラの炎に焼かれるのみだった。
これでドラキーとスライム二匹は退治した。残るは一匹、両手で自分の頭をかばっていたせみもぐらは恐る恐る顔をあげる。
そこには、既に事切れた仲間のモンスターが三匹と、彼らを始末した人間の子供が四人いるのを確認できただろう。
「…………」
追い詰められると笑うしかないのはモンスターも共通らしい。周囲を完全に囲まれたせみもぐらは、ぴくぴくと口の端を痙攣させたように動かすことしか出来なかった。
どこか甘いリュカやこの中で一番心優しいフローラはここまで追い詰められたモンスターのトドメを刺すのに躊躇したようだが、オレやしっかりとしたビアンカは情に流されない。
仮にこのせみもぐらを見逃したとして、いつかサンタローズの洞窟に入り込んだ人を襲うかも知れないのだ。ならば人間に属する勢力として、見逃す選択肢はありはしない。
先ほどと同じように自分の頭を両手でかばうせみもぐら。先ほどと違ってどうしようもなくなったその姿に、憐憫の情がわかなかったと言えば嘘になる。
それでも一切の容赦なく。オレはカシの杖を振り上げて、ビアンカも武器としてもっていたくだものナイフを握りしめるのだった。
◇
「結構奥まで来たよね」
あれから更に三回の戦闘をこなしたオレたちは、適当なタイミングで休憩を取っていた。
ドワーフの洞窟でも自生していたヒカリゴケに照らされた中、流れていた川から汲んだ水でお湯を沸かしてお茶にしつつ、サンチョが作ってくれたサンドイッチで昼食を取る。
「ちなみにこのヒカリゴケっていうのは世界中の洞窟に自生しているらしいわよ」
えっへんとお姉さんぶりたい年頃のビアンカが胸を張りつつ教えてくれる。オレが知らなかった知識なので、素直に二つ年上の少女に感謝をしておいた。
それはさておき、ふーふーと熱いお茶を冷ましながら飲むリュカに、少しだけ疲れの色を見せたフローラが口を挟む。
「どのくらい先に行けば盗賊の技法や、お薬に使う緑の鉱石があるのかしら?」
「…………」
フローラの問いに、沈黙を以て答えるオレ。
分かる訳がない問いには、沈黙するしかないのだ。
「先が見えないのに気疲れしても仕方ないわよ。肩の力を抜いていきましょう」
そんなフローラにニカッと笑って答えるのはビアンカ。楽天的というか、ムードメーカーというか。そして彼女の言うとおりに気持ちが暗くなっても良いことは何もない。もしゃもしゃとサンドイッチを口に運びながら、オレも言葉を足す。
「ギンガさんが何日も洞窟に潜ったとか、オレは聞いたことがないし。日帰りで戻れる範囲だとしたら、目的地まで近いかもな」
「そうですね。そうだと信じましょう」
ビアンカとオレの言葉に、ふんすと気合いを入れ直すフローラ。落ち込んでいても仕方がないと割り切った声だった。
温かいお茶を口にして、弛緩した空気が流れるこの場。
それも一段落ついた時、それそろ先に進もうかと後片付けをして終わった頃だった。
「あれ?」
出発しようとなった時、リュカが先へ進む洞窟の奥へと視線を向ける。
「どうした、リュカ?」
尋ねるオレに返事をせず、じっと奥を見るリュカ。
「……リュカ?」
「――急ごう」
説明をせず、足早に奥へと向かうリュカ。いつもと全く違う様子を見せるリュカに、思わずフローラとビアンカが顔を見合わせた。
一方でオレはといえば、双子の兄への信頼は厚い。リュカが説明を忘れる程に大事に事態が起こっているのだろうと理解できた。
とはいえ、それによってリュカが近視眼的になっているのも事実。ここではオレこそが冷静にならなくてなるまい。
「リュカは冷静さを欠いているのだと思う。オレが
「わ、分かりましたわ」
「分かったわ」
ずんずんと進むリュカに、問答の時間はないと理解してくれたらしい。
フローラはやや戸惑いながら、ビアンカはしっかりと頷いてオレの指示に従ってくれる。
そしてリュカに先導されながら進むオレたち。いくつかあった分かれ道も、迷うことなく道を選ぶリュカについていくオレたち。
そしてやがて、その光景が目に飛び込んできた。その光景を見たフローラが、やや呆然とした声を出す。
「モンスター同士が、戦っている?」
それ自体はそこまで不思議な話ではない。とある場所ではモンスター同士を争わせて娯楽とするように、魔物の凶暴性は人間のみに向くものではなくてお互いがお互いに傷つけ合う事もザラである。
それよりもなによりも、驚きだったのは。奥にいる方のモンスターが、満身創痍ながらも敵に向かって牙を剥いていること。背後にいる大きな黄色い毛皮のモンスターはぴくりとも動いていない。おそらく、既に事切れている。もしかしたら親なのかも知れないその遺骸を前に一歩も引かずと、小さな小さなネコのようなモンスターは眼前に迫る五匹の敵を前に威嚇していた。
オレたちは背中しか見えないそのモンスターたち、おおきづちやとげぼうずといったヤツラからは明確な悪意を感じる。ボロボロとなったモンスターを更にいたぶろうという邪悪さだけはしっかりと伝わってきた。
そしてそれらに人一倍敏感なリュカは、いつもは穏やかな顔に怒りを宿らせて突撃する。
「やめろぉぉぉーー!!」
「オレが前に出る、二人は援護を!」
リュカに合わせて前列に出るオレ。そして遠くから攻撃をする為に呪文を唱えるビアンカとフローラ。
結論から言えば、いたぶる事に集中していた邪悪なモンスターたちは、背後からの奇襲となったオレたちの攻撃にほとんど対応できず、あっさりと退治される事となった。
そうして五匹のモンスターの死体を脇に蹴飛ばして、改めて目の前のモンスターを見る。
黄色い小さなネコのような、そのモンスターを。
(ベビーパンサー……)
間違いない。ついでに言えば、奥で息絶えている大きなモンスターはキラーパンサー。ほぼ間違いなく親子だろう。
しかしこのあたりはキラーパンサーもベビーパンサーも生息地ではないはずだ。
(群れからはぐれて迷い込んだか? そしてこの辺りを縄張りとするモンスターたちの迫害を受けたか)
ちらりと親の死体を見れば、牙も爪もボロボロだった。おそらく、ずっと子供を守って戦い続けたのだろう。いくらこの辺りのモンスターよりも強いキラーパンサーとはいえ、子供を守りながらキリのない戦いを続ければいつか力尽きる。
それがきっと、今だったのだ。
「ふしゃー! ふしゃー!」
そして新たに現れたニンゲンに対して威嚇を続ける、小さな小さなベビーパンサー。動かない親を守るべく、必死に恐怖を押し隠してオレたちに牙を剥いている。
フローラの顔が悲痛に歪み、ビアンカの瞳が悲しげに揺れる。
そしてリュカは、ベビーパンサーの前に手をかざして呪文を唱えた。
「天に居まわす慈悲ある神よ。我が身の魔力を使いてその癒しの力を具現したまえ。
ホイミ」
癒やしの魔力がベビーパンサーに降り注ぎ、モンスターに甚振られた傷が治っていく。
痛みが消えた事に気がついたベビーパンサーは、威嚇の声を潜めてきょとんとした目でリュカの事を見上げた。
そしてリュカは、そんなベビーパンサーに無造作に近づいて抱き上げる。
「…………大丈夫だよ、ボクはキミの敵じゃない」
「――くーん。くーん。ごろにゃーん」
このベビーパンサーもきっとどこかで気がついていたのだろう、親がもう亡い事を。その上で自分を助けてくれた心優しいリュカに、甘えるような懐き方をしていた。
そしてベビーパンサーが落ち着くまで待ってから、振り向いたリュカは懇願するようにオレの事を見ていた。
「……トンヌラ」
言いたいことは分かる。今までの旅の中で、きっとオレが一番苛烈だった。父さんであるパパスよりも、モンスターを倒す事にこだわっていたとも思う。
そんなオレが懐いたモンスターをどうするのか、不安に思う事はよく分かる。
だが、それでもオレはこのモンスターを始末する気が起きないのは当然だった。
「オレは、リュカを信じるさ」
「! ありがとう、トンヌラ」
双子の弟の許しが出て、ほっと安堵の息を吐くリュカ。
それはさておき、こちらはこちらで周辺の様子を探る。リュカが突撃したせいで周囲の様子を探る余裕がなかったのだ。
ここはおそらく最深部に近いのだろう。やや大きめのドーム状の空間が広がっており、その壁や上部にはびっしりとヒカリゴケが明かりを供給してくれている。
そしてもう動く事がないキラーパンサーが横たわるすぐ傍に、やや大きめの緑色の鉱石が転がっていた。薬にも使える鉱石であるからして、キラーパンサーが己の身体を少しでも癒やす為に確保していたのだろう。
「すまん」
死人から戦果を剥ぎ取るような後味の悪さを覚えつつ、しかし他に生かす誰かもおらず。オレはキラーパンサーが確保していただろう緑色の鉱石を自分の持つふくろへとしまい込む。
「ねえ、盗賊の技法ってもしかしてアレに関係しているのかしら?」
そこでビアンカが首を傾げながら左側の方を指さした。そこには苔むした石碑が建っており、遠くからでも見える大きな文字で『盗賊の技法』と彫られている。その下に小さな文字で細々とした言葉も彫られているみたいだが、それは遠すぎて読み取る事ができない。
「行ってみましょう」
フローラの言葉に頷き、今度はオレが先頭に立って歩き出す。女の子二人を間に挟み、最後尾にはベビーパンサーを抱いたリュカがつく。
そんなに大きくないドーム状の空間であり、その石碑にはすぐにたどり着いた。ヒカリゴケに照らされる石碑には、こんな文言が彫られていた。
『世界には権力に溺れ、私欲に満たす事しか出来ぬ愚物が多い。
そんなヤツラに抗う術を、盗賊の道を俺はここに残す。
力なき人々よ。正義に立て、悪に屈するな。
これがその一助になる事を、心より願う。
この石碑に手を触れさせよ。その者に盗賊の技法を授けん。
大盗賊 カンダタ』
力なき人々を想い、遺した言葉を読み上げて。
そしてオレはその石碑に手を触れる。途端に流れ込む、盗賊の技法。簡単なカギならば開けられる技術に、追っ手を撒けるような行軍方法。そういった
「これは――」
「トンヌラ?」
「――凄い」
感嘆の声をあげたオレは、背後にいるフローラに石碑の前の場所を譲り、同じ事をするように促す。
フローラはやや戸惑いながらも石碑に手を触れて、そしてビアンカとリュカも行動を同じくして。
そうしてオレたち全員が盗賊の技法を入手する事ができた。
「目標達成だな」
ニヤリと笑うオレに、他の三人も満面の笑みで答える。
「なーご」
そしてリュカの抱きかかえられたままのベビーパンサーが、勝ち鬨をあげるような鳴き声を響かせるのだった。