切り札の男   作:古野ジョン

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第三十九話 観戦

 打球がバックスクリーンに消えた瞬間、センターの牧原が足を止めてその場にうずくまった。リョウは左手を突き上げ、一塁を回っている。大林高校のベンチから一斉に選手が飛び出し、喜びを爆発させていた。

 

「よっしゃあ!!」

 

「ナイバッチー!!」

 

「決勝だー!!」

 

 雄大もリョウの方に拍手を送り、その打撃を讃えている。外野フライでも内野ゴロでもサヨナラが決まる場面で、リョウはホームランという最高の結果を残してくれたのだ。

 

(アイツ、あんなバッティングも出来たんだなあ)

 

 まさかサヨナラ本塁打を打つとは思わず、雄大はぽりぽりと頭をかいていた。一方で打たれた金井はその場に膝をつき、目に涙を浮かべている。百球以上の熱投も及ばず、彼は準決勝で散ることになった。エースとして最後まで投げ抜いた姿に、多くの観客が拍手を送っていた。

 

「よく投げたぞ金井ー!!」

 

「頑張ったぞー!!」

 

 藤山高校のナインはただただ悔しそうにうなだれ、その敗退に涙を流している。しかし全員が前を向き、整列のために本塁へと向かっていった。大林高校の選手たちも列をなし、審判が試合終了を告げる。

 

「三対六で大林高校の勝ち。礼!!」

 

「「「「ありがとうございました!!!!」」」」

 

 改めてスタンドから拍手が巻き起こり、観客がその熱闘に敬意を表していた。両校の選手は握手を交わし、互いの健闘を讃え合っている。雄大は金井に話しかけ、三年間の高校野球生活を労っていた。

 

「三年間お疲れ様、金井くん。ナイスピッチング」

 

「ありがとう。二年前に先輩たちが負けてから、必ずやり返したいと思ってたんだ。けど、久保くんたちの勝ちだね」

 

「いやいや、金井くんは本当によく投げたよ。八回に同点に追いついてなければ、どうなっていたか」

 

「済んだことだよ。それより、あと一つだね」

 

「ああ。絶対に甲子園に行くよ」

 

「頼むよ、久保くん。俺たちの分も頑張って!」

 

「もちろん!」

 

 二人は改めて握手を交わし、各々のベンチに戻っていった。依然として、大林高校の応援席からは雄大たちに大きな声援が飛んでいる。

 

「決勝も頑張れよー!」

 

「ぜったい甲子園行けー!!」

 

 雄大たちは応援席前に一列に並ぶと、脱帽して感謝の意を表していた。大林高校野球部、史上初の決勝進出。野球部員でない生徒たちにとっても、大きな喜びとなった。

 

 その後、選手たちはベンチから引き上げスタンドに向かった。この後行われる、準決勝の第二試合を観戦するためだ。この試合では、自英学院高校と牧野第三高校が決勝進出を懸けて争うことになっている。まなと雄大は隣の席に座り、試合が始まるのを待っている。

 

「お、スタメンが出たな」

 

「先発は森山くんで、やっぱり四番は松澤くんだね。三番の竹内くんも気になるね」

 

 今年の自英学院は、三番竹内、四番健二、五番森山というクリーンナップで大会に臨んでいる。打線の総合力では悠北に劣るが、クリーンナップの破壊力という点では自英学院も引けを取らない。

 

「まあでも、打線よりやっぱ森山だよ」

 

「そうだね。この試合でどうなるか」

 

 この大会において、森山は圧倒的なピッチングで自英学院を引っ張っている。その快投が今日も見られるのか、二人は注目していた。その近くの席では、試合前練習を行う自英学院のナインを雄介がじっと見つめている。

 

(健二、お前は本当に自英学院の正捕手なんだな)

 

 選手たちの中心にいるのは、もちろん健二だ。彼は先輩たちにも遠慮することなく指示を飛ばしている。強豪校の扇の要として、既に立派に役割を果たしていた。そんな彼の姿を見て、雄介にも思うところがあったのだ。

 

 間もなく挨拶も終わり、試合が開始されようとしている。先攻は牧野第三高校で、一回表のマウンドにはもちろん森山が立っていた。

 

「プレイ!!」

 

 審判がコールして、森山が投球動作に入った。集まった観客たちも、その一挙手一投足に注目している。森山は足を上げ、力強く第一球を投じた。バシン!! という大きな捕球音が響き、スコアボードに「155」の数字が表示された。

 

「ストライク!!」

 

「うわ、速い!!」

 

「これは凄いな」

 

 観戦している大林高校の選手たちも、口々に投球に対する感想を述べている。雄大とまなは、真剣な表情でマウンドを見つめていた。森山は足を上げ、第二球を投じる。今度は「156」と表示され、観客席が大いに盛り上がった。

 

「ストライク、ツー!!」

 

 打者は手を出すことすら出来ず、打席の中で目を丸くしている。一方で、雄大は剛速球を受けている健二に注目していた。

 

「あの健二ってやつ、森山の球をちゃんと捕ってるぞ」

 

「うん、あれはピッチャーが気分の良い捕り方だね」

 

「あんな速い球を捕れるなんて大したもんだな」

 

「……雄大は私と芦田くんにもうちょっと感謝した方がいいよ」

 

 雄大が頭に疑問符を浮かべている中、森山は三球目に高めの釣り球を投じた。打者が見逃し、カウントがワンボールツーストライクとなる。森山は健二のサインに頷き、第四球を投じた。打者は打ちにいったが、ボールは本塁手前でストンと落ちた。バットが空を切り、球審が右手を突き上げる。

 

「ストライク!! バッターアウト!!」

 

「ナイスピー!!」

 

「いいぞ森山ー!!」

 

 森山が投じていたのは、フォークボールだった。去年の夏には投じていなかったが、今年に入ってから積極的に用いるようになっている。

 

「あれが森山のフォークか。すごい落差だな」

 

「真っすぐと混ぜられたらかなり大変そうだね。健二くんもよく止めてるよ」

 

 雄大とまなも、初めて見る森山のフォークに驚きを隠せていなかった。森山は速球にスライダー、そしてフォークを組み合わせて次々に打者を打ち取っていく。あっという間に一回表が終わり、森山は飄々とマウンドを降りていった。

 

「圧巻だな」

 

「さすが森山くんだね」

 

 実力通りのピッチングに、スタンドで眺めている二人も感心していた。だが、本当に凄まじかったのはここからだ。一回裏、自英学院の攻撃。一番と二番があっさり打ち取られ、牧野第三の先発も上々の立ち上がりを見せたかに思われた。しかし――

 

「うわ、またいった!」

 

「三者連続だ!!」

 

 森山がバットを放り投げ、ゆっくりと一塁に向かって歩き出した。ツーアウトとなってから、竹内、健二、そして森山が連続でホームランを放ってみせたのだ。観戦している大林高校の部員たちも、唖然としてグラウンドを見つめている。

 

「すげえ……」

 

「やっぱやべえよ、コイツら」

 

 牧野第三の先発投手は心を折られたのか、この回さらに連打を許していきなり六失点を喫することとなった。強豪らしく相手を圧倒する自英学院の姿を見て、観客たちは彼らが王者たる所以をひしひしと感じていた。

 

 その後、森山と健二は完璧に相手打線を抑えて付け入る隙を与えなかった。打線はさらに得点を重ねていき、牧野第三を突き放していく。結局、六回裏に十点差がついてしまい、自英学院はコールドで決勝進出を決めることとなった。

 

「〇対十で自英学院の勝ち。礼!!」

 

「「「「ありがとうございました!!!」」」」

 

 観客たちがが選手たちに声援を送り、大林高校の部員も拍手している。観戦を終えた皆は帰り支度をして、球場を後にした。学校に戻る途中、雄大とまなは二人で話し合っていた。

 

「やっぱり投打共に隙がない。流石は自英学院だ」

 

「そうだね。森山くんと健二くんが中心になって、良いリズムを生み出してる」

 

「健二には驚いたよ。ホームラン打つわ牽制で刺すわ、ある意味森山より目立ってたな」

 

「変化球を弾いたりはしてたけど、きちんと森山くんの球を捕ってたしね」

 

 雄介は、その会話を複雑な表情で聞いていた。かつては共に戦った仲だが、今では違うチームに所属しているうえに、開会式では仲違いしてしまった。

 

(覚悟しとけよ、健二)

 

 彼は決勝での勝利を心に誓うと、足を早めた。夏の大会もいよいよ大詰め。ついに、甲子園をかけた決勝戦が始まる。雄大たちは、明日のための最後のミーティングへと向かった――

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