旅
蓮太郎と影胤は現在、ミストラルにあるヘイブン・アカデミーに向けて進んでいる。
交通は国内は回復してきているため、国内の移動は比較的楽になった。
だが、影胤の提案で街を見ながら進もうということになり、車で向かうことになった。
国内の交通を駆使して早くヘイブンに向かいたかったが、用事があるらしく渋々承諾することにした。
「今どこに向かってんだ?」
影胤は運転できるようで車でその目的地に向かっている。
「ヒハマだよ」
なんとも懐かしい場所だ。
蓮太郎が目覚めた場所であり、アカデミーに入るきっかけとなったクロウと出会った場所。
おそらく、こんな幸運がなければそこらへんで死んでいただろう。
「ヒハマにぜひ紹介したい人物がいる」
そこまで言われたら少しは期待する。
一体どんな人なのだろうか。
そのまま車で向かうこと2時間。
ヒハマに到着した。
「早速行こうか」
車から降り、徒歩で向かう。
久しぶりにヒハマ。
町並みは前と変わっておらず、懐かしさを感じる。
そのまま酒場に向かい、目当ての人物とご対面する。
「やぁ、クローチェ。元気かい?」
「もちろんだ」
互いに手を取り合い、再会した。
仲がいいのか悪いのか、まったくわからない距離感。
そのままこちらに気付き、影胤に聞いていた。
影胤から紹介され、握手をした。
相手はジョゼッフォ・クローチェ。
ここで警察をしているらしい。
「彼もね、ここに飛ばされた人物なのだよ」
この知らせに、驚く。
当然だ。
飛ばされた人物は自分と影胤だけだと考えていたからだ。
そう簡単に何人も飛ばせるものなのか。
一体何人がこの世界に飛ばされたのだろう。
「ここに飛ばされたとはいえ、適合してここで平和に暮らしているのが普通だ」
「君みたいに物語の主人公になれるわけではない」
「さらに付け加えると、技術差で元居た世界では勝てない」
ここのことは実感している。
スクロールなる技術や義手などのメンテナンスをするなど、技術差がないとできないだろう。
本の物語のような異世界転生して俺つえーーーなどできない。
それが当然だ。
「だから、お互い圧倒的な戦力で潰されるだろう」
影胤が考えた結末は簡単に想像できるものだ。
ならば、一般市民として過ごすのも悪くはない。
「里見君、どうする?」
「ここでどこか適当な部屋を借りて生活するのもありだ」
「そうすれば、平凡なハンターとして一生を終えることもできるだろう」
「どうするかは君の自由だ」
普通なら、迷う場面なのだろう。
ここが人生の岐路。
後戻りなどできず、当然セーブやロードもできない。
死に戻りなどでリセマラをし続けることも不可能だ。
きっと、ここでの選択に後悔する日が来るのだろう。
だが、蓮太郎は迷わなかった。
「進むだけだ」
影胤は嬉しそうに声音をあげた。
「ブラボー!流石だ里見君!」
「さぁ、準備ができたら行こうじゃないか!」
まさか、用事とはこのことなのか。
だったら、無意味だ。
そのまま食料や生活必需品、弾薬などを購入し、その街を去った。
「なぁ、あの男とはどこで知り合ったんだ?」
「ちょうど倒れていたんだよ」
「そこを助け、その後も助けた」
影胤が優しくなってる。
記憶でもなくしているのか。
そうなら、そのままでいて欲しい。
「里見君」
「僕らは別世界から来た身だ」
軽く相槌を打つ。
「この世界で通用することが少ない」
「そうだな」
「なら、なぜ我々はここにいる」
すぐには答えられなかった。
古来より、外からくる人間は何かしらを伝えてきた。
例えば、稲作や文字、儒教などである。
だが、我々はなにももたらしていない。
「我々がもたらすものは一体何なんだろうね」
「バラニウムとか」
正解だといわんばかりに笑い始めた。
「おそらくそれだろう」
「では、それを使って何をするべきだ」
わからない。
蓮太郎が持ってきたバラニウムは義手と義眼、銃弾に含まれるものだけだ。
バラニウム単体で持ってきているわけではない。
「我々はこの世界に何かを伝えるものだ。渡来人と同じなのだろう」
「いいかい里見君」
「これから起きることについて、ゆめゆめ忘れるなよ」
その言葉には、いつもの様子から見られないほどの真剣さを感じることができた。
蓮太郎たちしか持っていないバラニウム。
この世界で一体どのように役立つのか。
それを考えながら、揺れる車内で蓮太郎は考え続けた。
答えを見つけるために。
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進み続けて数日がたった。
あちこちを見て回りながら進んでいるため、時間はかかっている。
影胤が運転しているため、文句は言えない。
だが、急いでほしい。
いつ襲撃されるのか。
そもそもヘイブンが襲撃されるのか。
ここは予想で動いてるため、正直わからない。
「見なよ里見君」
「あれは一体なんだ?」
そこには蓮が大量に咲いていた。
100などでは数えきれないほどにある。
その光景は美しく、日々の疲れを癒してくれる。
「ここらで、今日は休まないか」
影胤の提案を受け、今日はここで休むことにした。
一面に咲く蓮はその場にとどまっている。
「里見君、蓮の花ことばは知っているかい」
「知らん」
「蓮はね、雄弁らしい」
「君に、ぴったりだろう」
嫌味かと瞬時に判断したが、どうやら間違いらしい。
それにこの意見に素直に受け入れることができた。
「もしかすると、お互い記憶が戻ればわかるんじゃないか」
ここに飛ばされる人の特徴として、記憶があいまいになるということがある。
以前あったクローチェという男も誰かが隣にいたような気がすると話していた。
その記憶を取り戻せれば、この質問にも、以前の質問にも答えられる気がする。
だが今はこの蓮を見ながら、心を落ち着かせよう。
影胤も寝ていることだし。
そこで影胤の顔を見る。
いつも通りのピエロの簡易版のようなお面。
それをつけながら寝ているとは、一体どうしているんだ。
そのお面を今なら外せるのではないか。
その考えに至ったが、諦めた。
もしお面を外して素顔を見れば、なにが起きるのかわからなかった。
まさしく、パンドラの箱だ。
そのままそのことについて考えずに眠った。
そこから数日後。
近くに集落があるらしく、ついでに寄り道することにした。
なんのトラブルもなくその集落に着くと、よそ者を排除するような雰囲気を漂わせたところに到着した。
その中から物が崩れる音がしているが、何が起きているのだろうか。
一応待ってみたが、誰もこない。
影胤の入ってみようかの一言で中に潜入することにした。
中央の広場が見える位置まで移動し、そこでひときわ大きいテントに入っていくワイスを見かけた。
そのまま先にまで進もうとしたが、障害物が何もないため、ここで断念することにした。
一度、車のところまで戻り、先ほどのテントの裏側が見える場所まで移動。
「なんでヤンとワイスがいるんだ?」
ヤンはともかく、ワイスはおかしい。
ワイスははるか北のアトラスにある実家にいるはずだ。
どうやってここまで来たのか。
見ると、服は薄汚れていて汚い。
おそらく、逃走してきたのだろう。
そのまま車を近づけ、ヤンとワイスに声をかけた。
「ヤン、ワイス」
「蓮太郎!それに、影胤?」
ヤンとワイスと再開することができた。
それは普通にうれしい。
だが、なぜここにいるのか。
「あら、お友達」
奥から、女性が近づいてきた。
柵と顔全体を覆うようなマスクをしていたため、よく見えなかった。
「そうだけど」
ヤンがなぜか怒っている。
何があったのか知りたいが、今聞く気にはなれない。
「車ごとの移動はできないから、あなたがたは車で目的地にまで行きなさい」
移動をする?遠距離を移動できる方法でもあるのか。
どうせ車はダメらしいから、車で行くしかない。
「それじゃ、ミストラスのヘイブンアカデミー集合で」
ヤンからそう聞かされ、謎の女性が作ったポータルに入っていった。
「あなたたちも大変ね」
いうだけ言って、そのままテントのほうに帰っていった。
あれは誰なのか、影胤も蓮太郎もわからなかった。
目的地は決まったため、すぐに車を走らせ、ミストラルに向かった。
今日中に着ければ最高だったが、一度一泊することにした。
これが最後の一拍となるだろう。
思えば、ここまでいろんな場所を旅した。
ヒハマや蓮、それに先ほどの場所。
他にも多くの場所を訪れたが、この三か所が心に残っている。
こんな旅はいままでしたことがなかった。
以前やろうとすれば、お金の問題とガストレアの問題でできなかった。
それが今できていることのなんと素晴らしいことか。
一緒に旅したのが影胤なのを省いても満足した旅だった。
明日はやっと終着点、ミストラル。
そこでは一体何が待っているのだろうか。
ここまで読んでいただきありがとうございました。