ヘイブンアカデミーには勝利の余韻に浸る蓮太郎たちがいた。
ルビー達は互いに抱き合い、互いの無事を祝っている。
時折、ワイスの怪我に対してだろうか、心配する声が見られた。
だが、オーラで回復できる範囲であると本人が話しているのを聞いた。
盗み聞きだが、そこは許してほしい。
とはいっても、蓮太郎たちも互いの無事を祝いあった。
抱き合うまではせず、握手程度に収めた。
レンとノーラは抱き合うほど祝いあっており、それをジョーンとみる。
そのジョーンと軽くこぶしを合わせ、互いの無事を祝った。
「助かったよ。礼を言う」
「それはこっちだよ」
「蓮太郎がいなければどうなっていたか」
お互いに謙遜しあっているが、蓮太郎はジョーンがいなければおそらく死んでいた。
そのことには感謝している。
流石にジョーンのセンブランスが開花するタイミングがちょうどいいのは驚いた。
蓮太郎が今生きているのは、幸運のおかげなのだろうか。
それとも、走馬灯の中に見たあの光景のおかげなのだろうか。
とにかく、今蓮太郎が生きているのは、運がいいからだ。
「蓮太郎、大丈夫?」
「ああ。なんともない」
「良かった」
蓮太郎の怪我の具合をルビー達が確認してきた。
あそこで死んでいたら、ワイスの精神にダメージが入ってもおかしくはなかった。
敵の攻撃を直接貰ったワイスと蓮太郎の両方が生きている、ただこれだけでいい。
その結果が残ればいいだろう。
その後、仮面の女やその部下、シンダーが戻ってこないところを見ると、死んだのか。
仮面の女とその部下は転移することができるから死亡したと考えるのは早い。
だが、シンダーはどうだろうか。
浮くことができるから、今戻ってきても不思議ではない。
今戻っていないということは、死亡したと考えてもいいのではないか。
ヤンによると、死体はなかったらしいがそう考えることにした。
全員疲れがたまっているので、一度宿に戻り、休むことにした。
ご飯がのどを通るかといえばそうでもないため、そのまま眠りについた。
そのまま眠り続け、気が付いたときには2日後の朝だった。
その日は蓮太郎はゆっくり起き上がり、クロウを探す。
「おう、起きたか」
「おはよう」
キッチンにクロウがいた。
返事をする気がしないため、簡単に会釈をして近づく。
「お前さんが最初だ」
「起きたのがか?」
「戦いが終わった後からだ」
他の人らも蓮太郎と同じようにあの日から眠り続けているらしい。
その間、おそらくクロウ一人で過ごし続けていたのだろう。
さらに警察からの聞き取りも…。
「すまんかった。いろいろやってもらって」
「いつものことだ。気にするな」
申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
疲れているのにいまだ動き続けている。
「そういや、影胤は」
「まだ見つかっていない」
影胤については未だに捜索が続いているが、発見されていなかった。
死んではいないだろうが、心配になってくる。
「そんなことより、机の上を見てみろ」
クロウに勧められ、いつもご飯を食べているところに向かう。
そこには、散乱されてはいるが、大量の手紙があった。
そこから一枚を取ると、「ヘイブン・アカデミーを守ってくれてありがとう」の文字があった。
その後何通か手に取り広げてみると、すべて同様の内容が書かれていた。
「すごいだろ。これ全部昨日のうちに届いたんだ」
「今日も来るらしいけどな」
こんなに感謝されれば、ここまで来たかいがあった。
その後も手紙を取り続け、読む。
こんなにうれしい手紙は今まで受け取ったことがないため、すべて読みたい。
手紙を書いた人は子供から老人まで、様々であったが、そんなことは関係ない。
すべて嬉しい。
ただ、それだけだ。
「おはよう~」
「おはよう」
ルビーが起きてきて、手紙を見つける。
この手紙は何か、それを蓮太郎に聞き、読み始める。
おそらく、自分も同じ顔をしていたのだろう、そんな顔を見せ始めた。
「蓮太郎!」
「ここまで来たかいがあったよ!」
嬉しそうに飛び跳ねる。
その姿が微笑ましい。
「すまんが片付けてくれ」
「このままじゃ、朝ご飯が食えなくなる」
それもそうだ。
そのまま近くにあった箱にひとつづつ丁寧に入れる。
その作業中にジョーンとレンが起きてきて手伝ってもらう。
4人でやって早く終わりそうかなと思ったが、そうでもなかった。
10分後、ようやくすべてしまい終わった。
ちょっとした労働をした感覚に見舞われた。
「ありがとな」
「今準備する」
クロウが朝ご飯を持ってこちらに向かってくる。
他の人らは未だ起きる気配がない。
そのため、今起きている全員で食べる。
そこには、和気あいあいとした雰囲気が流れた。
ここにいる人らが関わって、守った。
その実感を薄めるくらい、楽しい食卓となった。
だが、そんな雰囲気は終わりを告げる。
食後、全員で後片付けをしている頃、警報が鳴った。
警報は5段階あり、今回の警報はその最高レベルのものだった。
「なにこの警報?」
「なんかまずくない?」
この警報に寝ていた全員が起きてきた。
それくらいうるさい警報が狂ったように鳴り響いている。
「グリムの大群が押し寄せています」
「すぐに避難行動をしてください」
「ハンターの皆様はすぐに決められた場所に向かってください」
「繰り返します」
まさか、こんなタイミングで…。
疲れが完全に抜け切れているとはいえない。
しかし、こうなって以上、やるしかない。
すぐに全員で向かった。
到着すると、すでに説明が始まっていた。
「今までに例を見ないグリムの大群がこちらに押し寄せています」
「皆様には東側の防衛をお願いします」
「軍は他の地域を担当します」
その内容がロボットによって繰り返しおこなわれている。
とりあえず指示通りに東へ向かう。
グリムはすでに街の中に入っているようで、地獄となっていた。
少し遠くには死体が散らばっている。
道は赤く染まり、それはグリムにも付着している。
そのグリムが突き進む様子は、まさに赤い洪水。
周りにはすでに戦闘しているハンターの姿が見える。
「チーム単位で行くぞ」
クロウの合図で、すぐに戦闘に入る。
蓮太郎たちも逃げ遅れた人がいないか確認しながら進む。
その途中にいたグリムを片っ端から始末する。
だが、まだ来る。
どんなに倒してもすぐにやってくる。
きりがない。
少しでも押し込んでいると思わないとやってけない。
そんな戦闘をして数分後。
逃げ遅れた子供を発見した。
見ると、12歳くらいだろうか。
体が小さくて見つからなかったのか。
見つけられたなら、そんなことはどうでもいい。
「こっちだ!」
ジョーンが呼び、その子供はこちらに向かってくる。
早く、こっちに。
蓮太郎たちも近づき、子供の安全を確保しようとする。
あと数メートルで保護できる。
その瞬間だった。
子供の前に何かが走った後、子供は止まった。頭がなくなった状態で。
そのまま噴水のように首から血が噴き出し、グリムがその姿をあらわす。
「お前がぁぁあ!!」
ノーラがそのグリムに向かってハンマーを勢いよく叩き込む。
グリムはそのまま死亡し、消える。
ノーラは怒りで肩を震わせる。
「なんで、なんで!」
「落ち着いて、ノーラ」
少しずつ落ち着きを取り戻す。
そのまま周りを見ていると、囲まれ始めていることに気付いた。
すぐにその場を離れ、脱出する。
だが、蓮太郎だけが何者かに引っ張られ、はぐれる。
それにジョーンたちが気付くのは、数分後だった。
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「何しやがる!」
「やぁ、里見君」
「影胤?いたのか」
自分を引っ張ったのは、他でもない影胤だった。
いつも通り仮面をつけ、両手には拳銃が握られている。
特に変わらない様子だ。
隣にスクルドがいることを無視すれば。
「時間がない。単刀直入に聞こう」
「こちらの味方にならないか?」
質問の意味がわからない。
影胤はもとからこちら側だと思っていた。
影胤は寝返ったのか?
それでもこの状況下では共闘すべきではないか?
そんな疑問はすぐに吹っ飛んだ。
「このグリムの大群は私が呼んだ」
その発言で、すぐに戦闘態勢に入る。
今、この2人を相手にして勝てるかと言われれば、勝てない。
そのため、すぐに行動は起こさず、警戒する。
スクルドが戦闘態勢を取るが、それを影胤が制する。
「里見君。この世界は間違っていると思わないか?」
「グリムという共通の敵がいながら、ファウナスを差別するものがいる」
「殺してもかまわないとする組織がある、思想がある」
蓮太郎の脳内に孤児院の記憶とハイドの記憶が出てくる。
あの苦い記憶は今でも鮮明に想像することができる。
あのようなことは2度と起きてはならない。
「そんな世界を守るハンターはどうだ?」
「そいつらの中にもファウナスを嫌うものがいるではないか」
確かにアカデミーにもそんな輩はいる。
そんな奴は少なくなっていくと思いたい。
「どうだね、里見君」
「君となら、そんな世界を作り直せるはずだ!」
この世界は差別や問題を抱えている。
その世界を変えることはおそらくできないだろう。
だが、無関係の人間を巻き込むそのやり方には反吐が出る。
「お断りだ」
「そうか…」
蓮太郎は銃を構える。
影胤を二丁拳銃を構え、スクルドも二刀流で構える。
その中に不自然なまでの異様な雰囲気が作られた。
スクルドが目の前から消える。
次の瞬間には脇腹に衝撃が走った。
攻撃をくらったと認識するのが遅れた。
2撃目をくらい、空に上がった。
ダメだ、明らかに強すぎる。
何とかして防ごうとしても、もう遅い。
そのまま3撃目もくらい、地面に叩きつけられる。
立ち上がらないと死ぬ。
それを知ってはいるが、立てない。
あいつらが来る前に逃げなければ…。
そこに足音が近づいてくる。
「蓮太郎!」
クロウだ。
それに影胤とスクルドも。
「影胤!ちょうどよかった」
「蓮太郎を運ぶぞ」
だが、影胤は動かない。
そのことにクロウが苛立ち始めた。
「クロウ…かげ…たねは…うら…ぎった」
「これ…を…引きお…こした…のも…あいつだ」
なんとか伝え、意識が遠くなっている。
クロウが困惑した顔を見せたのを最後に意識が途切れた。
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「…蓮太郎!」
その声で目覚めた。
天井は白く、機械的な音が聞こえる。
腕には管が入れられている。
何とか、一命を取り留めた。
だが、すぐに戦線に戻ることは難しそうだ。
隣にはレンやノーラ、ジョーンがいた。
全員、体中にけがをしているが、大丈夫そうだ。
「よかった。みんな無事か…」
「そうだけど…蓮太郎は無事じゃない!」
こうして治療を受けるくらいだ、無事じゃないのはわかっている。
戦いなのだからある程度は覚悟している。
だが、目の前のチームメンバーはどうやらそうじゃない。
実践は乏しく、こうした大けがを負った仲間を見るのは慣れていないのだろう。
だが、そのうち慣れてくる。
「怪我の具合は?」
誰も答えてくれない。
そのまま沈黙が流れた。
近づいてくる足音に気付くまで静かな時が流れた
「里見さん」
声がしたほうに顔を向けると、そこには医者がいた。
「あなたは今、体中にダメージを受けています」
「骨は折れ、内臓にもダメージが入っています」
覚悟はしていた。
こうなると、もうハンターは無理だろう。
「おそらく、一生車いす生活となるでしょう」
「ですが、助かる道はあります」
その言葉に似たような響きを感じた。
あれは誰だったか。
そうか、あの医者だ。
室戸菫。
蓮太郎の体を変えた人物。
「もし生きて戦い続けたいなら、こちらの書類に指をさしてください」
決まっている。
もう体の一部は機械になっている。
今更戸惑うことはない。
レンやジョーン、ノーラは何か言っているが、すべて無視する。
これが自分の決断だ。
ここで戦うことを諦め、違う仕事をする。
そういった生活もあるだろう。
だがこれが俺の生き方だ。
すぐに書類に指をさした。
医者はそのままどこかに行った。
レンやジョーン、ノーラはどこか戸惑っている。
蓮太郎の判断に賛成できない、そんな表情だ。
「心配しないでくれ」
「大丈夫だ」
全員力なく頷いた。
すぐに看護師と医者がやってきて、運ばれていった。
今も戦闘は続いているだろう。
ならば早く戻らなければ…。
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「ノーラ、行きますよ」
「こんなのあんまりだよ」
「ノーラ…」
レンからしてみても理不尽だ。
蓮太郎がこんな仕打ちを受けるなど、我慢ならない。
常にそばにいたい。
だが、今は戦闘が続いている。
少しづつ押し返してはいるが、蓮太郎をあそこまで追いやった敵に会ったらどうしようか。
そんな不安はあるが、今戦わなけばどっちみち絶滅だ。
メディアはそんなグリムの大群を大絶滅と呼んでいるが、まさにその通り。
「戦い続けた先になにがあるの?」
ノーラの疑問は突き刺さる。
おそらくジョーンも同じだろう。
だが、その答えは決まっている。
「私たちはハンターだからです」
「みなを守らなければなりません」
出てきた答えは単純だった。
ハンターだから。
まだ学生の身分だからハンターというのは少し違う。
だが、そんなことはどうでもいい。
「行きますよ」
手をノーラのほうに差し出し、握る。
ジョーンが先に行き、それに続く。
そのまま戦場に向かった。
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「やぁ、里見君」
「今から麻酔をかけるから、覚悟しといてね」
「わかりました」
そのまま麻酔をかけられ、体の感覚がなくなる。
まともに考えることはできなくなる。
そのまま眠るように意識を落としていった。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
いつも通り、誤字があれば報告をお願いします。