黒き希望を手繰り寄せて   作:みりんはお酒

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過去に縛られた者たちよ

蓮太郎が目を覚ましたときはもう大絶滅の終盤に入っていった。

グリムの大群は規模が縮小の一歩を辿っている。

この調子なら1週間以内には終わりにできるとのこと。

たしかに戦闘の音が聞こえてこない。

ということは戦線を押し戻ることができたのか。

その安堵からもうひと眠りしようかと思ったが、自分の現状を確かめなければならない。

数分後、医者がやってきて説明を受けた。

医者によると、手術は成功したとのこと。

リハビリは必要だが、車いす生活は避けられた。

 

「ありがとう」

 

蓮太郎は医者に深々と頭を下げて感謝を示した。

医者は他にも仕事があるのか、そのまま駆け足で病室を出ていった。

とにかく、まだハンターになることを諦めなくていい状況はいい。

この生き方が性に合ってる。

 

そのまま誰も来ない日々が続いた。

テレビのニュースは終わりに近づいている大絶滅に対して、報道し続けている。

ヘリコプターで現地の状況が映し出されており、もしかするとルビー達が出てくると期待していたが、流石に出てこなかった。

もう少しでまたみんなと話せる。

それがすごく楽しみだ。

 

さらに数日後、大絶滅は終結した。

被害総額はかなり大きくなると思われる。

各国から支援は届いているため、ここは復興するだろう。

だが、人命は戻らない。

この戦火で民間人やハンター、軍関係者が数多く死亡した。

その被害は凄まじく、それらが回復するのは時間がかかるだろう。

 

「やぁ蓮太郎」

「体の調子はどうだい?」

 

オスカーがやってきた。

見ると服の上からでも怪我をしているのがわかる。

だが歩いているため、そこまで深刻にならなくてもいい。

 

「大丈夫だ」

「手術も成功したしな」

 

「よかった」

 

沈黙が流れる。

この数日間、地獄が具現化したといわれてもまったくの比喩ではない状況が続いた。

確実に楽しい記憶にはならない。

 

「そういや、他のみんなは?」

 

「みんな無事だよ」

「だけどヤンとブレイクが…」

 

ここで嫌な感じになる。

もしかすると重大な怪我をしたのか、もしくは…。

 

「生きてるよ」

「だけど、怪我がね」

「ヤンは右腕を切られ、ブレイクは脇腹にけがをしたんだ…」

 

ショックだった。

戦場にいる以上、怪我をしないでいるというのは難しい。

誰しもがどこかにけがを負ったとしても不思議ではない。

なんなら全員死亡の可能性さえあった。

だが、やはり友人がけがをしたという知らせに思うところはある。

 

「他のみんなは無事だから。安心して」

 

「そうか」

 

他のみんなが安心なのはいい。

今すぐにでもブレイクとヤンのところへ行きたい気持ちがある。

だが、術後の影響で今すぐには歩くことができない。

ならば今すぐにでもリハビリを始めたい。

 

「それじゃ、僕は帰るから」

 

「ああ、ありがとな」

 

そのままオスカーの後姿を消えるまで見続けた。

みんなはどうしているだろうか。

それが気になるが、今から確認することはできない。

そのまま何もせずにゆっくりと過ごした。

 

朝になった。

今日からリハビリとなっている。

リハビリといっても手術がうまくいったのか、かなり歩くことができた。

義足をし続けていた影響でそういったことに慣れたのか。

理由はどうであれ、回復が早いのはいいことだ。

今更だが、手術の内容はこうだ。

修復不可能な骨を入れ替え、調整する。

その後いろいろ調整する。

これだけだ。

以前いた世界ではこんな手術は不可能だろう。

足が残っていてよかった。

医者によると、戦闘にも影響はないらしい。

 

「蓮太郎~」

 

リハビリの帰りにルビーとワイス、ノーラ、レン、ジョーンがわざわざ会いに来てくれた。

5人が一度に来たため、病室は狭くなったが構わない。

 

「みんな!怪我とかしてない?」

 

「それは蓮太郎だよ!」

「怪我は大丈夫そうだね」

 

「ああ。リハビリも始まったし、すぐに復帰できる」

 

「よかった!」

 

みんな明るい。

無理して明るくふるまっているというようなことは感じない。

意外だった。

少し暗くなっているのかと思っていたから。

 

「そういや影胤の件は残念だったね」

 

「突然裏切るなんて、どうかしたのか」

 

ここでまさかのノーラからその話題が出てきた。

そこに違和感を感じているのは自分だけなのか。

ジョーンが普通に返答している。

 

「まったくわからないですわ」

「蓮太郎、なにか聞いていますの?」

 

「少し話した」

 

蓮太郎は影胤との会話を覚えている限り話した。

影胤がこの世界を正そうとしていること、ファウナスの差別をなくすために動いたこと。

それらをすべて話し終えたときにはここにいる全員疑問しかなかった。

 

「影胤は現状を変えたいのはわかりました」

「しかしこのやり方がどう影響するのかわかりません」

 

実際そこだ。

ファウナスの差別をなくすためにグリムを呼び、一体何をするのか。

まったくわからない。

まさか自分で呼んで自分で処理するなどとするのか?

 

「さらにファウナスの差別を助長する事件もありましたからね」

 

「あれだろ?ファウナスが水や食べ物に毒を入れただのこのタイミングで反乱を起こすうわさのことだろ」

 

「それです」

 

レンの指摘通り、戦後にファウナスがそういった行為をしているとのうわさが飛び交った。

ニュースなどでただのうわさだと公表されるまでに何人ものファウナスがリンチや私刑によって死亡した。

このような混乱は災害や戦後に起こりうる問題だ。

例えば、関東大震災での噂、熊本地震での動物脱出のうわさなど、思い当たる節があるだろう。

こういった問題は技術がどんなに発達しても起こり続けるだろう。

 

「あぁぁもう!暗い話ばかりだと雰囲気まで暗くなる」

「みんな無事なんだし、いったんはそれでいいんじゃない?」

 

ルビーがしびれを切らした。

確かに暗い話をし続けるとこちらまで暗くなる。

 

その後、ヤンとブレイクの様子を見てくるといって病室から出ていった。

にしてもヤンとブレイクにけがを負わせるくらいに強い相手だと誰がいるだろうか。

もしくはグリムに囲まれて、物量で押されたのだろうか。

気になるところだが、本人に聞いたところでおそらくは答えないだろう。

 

次の日。

また朝からリハビリだ。

リハビリが順調にいっているため、正直問題はないだろう。

あとは退院の日を早めるだけだ。

そのため、リハビリにはまじめに取り組んだ。

とにかくやり続けた。

その帰りだ。

 

「君が里見蓮太郎君か」

 

「ええーっと、アイアンウッド将軍?でしたっけ?」

 

「そうだ」

 

以前あったときと変わらない。

筋肉質で腰に銃を準備している、相変わらず油断も隙も無い男だ。

 

「君は勇敢に戦ったと聞いている」

「だから私からの気持ちだ」

「受け取ってほしい」

 

箱が手渡しで渡された。

それを右手で抱え、頭を下げる。

感謝の言葉を送り、その後は世間話となった。

それはクロウが到着するまで続いた。

 

「おお!蓮太郎」

「元気になったか」

 

「おかげさまでな」

 

「そいつはよかった」

 

クロウと簡単にだが言葉を交わし、アイアンウッドと一緒にどこかへ行った。

と思ったら、近くの人に贈与品を送り続けている。

案外いい人らしい。

そのまま病室に帰っていった。

 

戻ったら早速、貰った箱を開封した。

見てみると、中には拳銃が一丁あった。

今更だが、銃を紛失していることに気付いた。

てっきり、誰かが回収してくれたと思っていたが、違った。

その銃をよく見ると、どこか見覚えがある。

数分間その銃を見続けてようやく気付いた。

その銃は以前、試してほしいといわれ使ったときに銃に似ている。

そこにXD拳銃の要素がある。

スペックを見ても、銃弾の規格は変わらずに相談数が倍増している。

最新技術を詰め込んで作られたであろうその武器をすぐに試したかった。

 

「にしても暇だな」

 

蓮太郎の持ち物には娯楽用のものが少なく、それもすぐに飽きてしまった。

入院中にこんなにもやることがないとは思っていなかった。

暇だ。

昼寝でもしようかと思ったが、ここで寝ると夜に寝れずに地獄を見そうだ。

そう考えていると、ブレイクが無言で入ってきた。

 

「蓮太郎。ちょっといい?」

 

「?どうしたんだ?」

 

ブレイクが神妙な顔でこちらを見ている。

おそらく重大なことを話すのだろう。

 

「私とヤンはね、影胤にやられたの」

 

大体予想していた。

だが影胤の影響がここまで響いているとは…。

 

「彼はね、アダムと敵対したときに一緒に戦ってくれたの」

「それでね、自分に自信がついた」

「もう昔の自分じゃないって」

「でも、現実は違っていた」

 

ここでブレイクの声が詰まる。

目には涙を浮かべている。

 

「だけどね、影胤と戦った時、幻覚を見たの」

「アダムと重ね合わせてしまったの」

「それでね怖くなって、逃げ腰になったの」

「それでこうなっちゃった」

 

自虐気味に話している。

かなり辛そうだ。

なんて声をかければいいのか。

迷い続けている。

 

「ねぇ、どうすれば強くなれるの?」

 

ブレイクの目から顔を背けた。

この疑問にはすぐには答えられない。

自分もスクルドには勝てなかった。

そんな自分は果たして強いのだろうか。

 

「わからない」

「生きるためにがむしゃらにやり続けただけだ」

 

自分でもわからないが、今まで話すのに抵抗していたことを話そうと思った。

 

「この体はね、化け物を殺すために作られた、いわば人間兵器なのさ」

「だが、俺は復讐のために動いた」

「つまり、過去に縛られた人間だ」

「過去に縛られることは悪いことじゃない」

「なら、自分の過去を受け入れてみたらいいんじゃないか」

 

果たしてうまく伝えられたのだろうか。

言葉にするのは難しい。

だが、言葉にしなければ伝えられない。

 

「そう。ありがとう」

 

そう言ってブレイクは病室を去っていった。

あの足取りだと、すぐに退院するだろう。

ならば、なるべく早く追い付かなければならない。

その後は自分の過去について振り返り続けた。

いまだ思い出せない部分はあるが。

これは決して暇つぶしのためにおこなったわけじゃない。




ここまで読んでいただきありがとうございました。
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