黒き希望を手繰り寄せて   作:みりんはお酒

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ツンベルギア

ルビー達が再会を祝いあっている頃、マンシュタインは未だ考えていた。

ワイス・シュニ―について本国に報告するかを。

シュニ―家の状況はある程度認識している。

そのため、気持ちとしては知らせたくはない。

だが、報告しなければ軍からの批判はないだろうがシュニ―家から追及されることは避けられない。

今本国が不安定な状況なのに、さらに不安定化させてしまう。

知らぬ存ぜぬも意味がない。

なら、どうするか…。

仕事をこなしながらそれを頭の片隅に置く。

そんなことをしていたらすでに時刻は午後10時になっていた。

明日には連絡しなければならないのでそろそろ決断したい。

そう考えているが、なにもわからない。

そんななか、1冊の本を取り出す。

最近は視力の衰えか文字を読むことさえ一苦労になっている。

そんな状態でも、いつも決断に迷いがあるときに読む本がある。

題名は「福祉公社」。

この本自体市販されていないが、彼は3年前にその本を貰っていた。

それ以降、その本を持ち続けている。

適当にページを選び、読み進めていく。

この本自体はアトラスに以前あった福祉公社についてまとめてあるものだ。

開いたページは失われた技術について。

この技術があればアトラスの義手や義足の開発力は10年進んでいたらしい。

読み、静かに本を閉じる。

 

「しない」

 

彼は決断した。

その結果を受け入れる覚悟も…。

 

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「ここに荷物を置いて~」

 

時刻は午前8時。

場所はアーガス内の訓練場。

ここは昔からピュラが利用していた施設で、今回はオーナーのご厚意で割安で貸し切りにすることができた。

荷物を置き、準備を始めると、少しづつ人が集まってきた。

何事か?と全員が怪しんだが、すぐにわかった。

見学者だ。

あの混乱から生き残ったものたちがなぜかここにいる。

そうなれば、後学のために見るのは当然だろう。

なるべく気にしないように。

 

「蓮太郎、久しぶりにやらない?」

 

「そうだな」

 

1時間ほど軽く動いた後、1対1を誘われた。

ピュラとの対決は授業のとき以来だが、それだけに胸が高まる。

そのまま訓練用のゴム弾を装填。

相手も同じように装填し、外に出る。

外にはバスケットコートが2つ入るくらいの大きさのフィールドがあった。

フェンスで囲まれ、地面はコンクリートで舗装されている。

その中にピュラと一緒に中に入り、互いに初期位置につく。

訓練場にいた見学者がその周りに集まり始め、今か今かと待ちわびている。

レンがタイマーのある場所に近づき、操作する。

タイマーをレンが設定、起動してカウントが始まる。

60秒で設定されていたタイマーがカウントし始め、1秒ずつ正確にカウントし始める。

カウント音が鳴ればなるほど鼓動が速まる。

自分でもわかるほど心臓の鼓動の音が聞こえる。

果たしてこの鼓動の正体はなんぞ。

楽しさ?威圧感?興奮?

さてどれだろうか。

自分でもわからない。

ならばと…覚悟だけを決めた。

それはピュラも同じであっただろう。

 

----------------------

 

退院後、少しづつ訓練を再開し、実力をつけてきた。

だが、実践を経験している蓮太郎と対等とは思っていない。

それなのに、感じるのはなんだ?

威圧感?恐怖?脅迫?

劣勢だと認識しているときはあったが、そのようなことはなかった。

だが、今はどうか。

立っているだけで冷や汗をかき始めた。

60秒という時間が長く感じ始めた。

1秒が2秒に感じ始め、その後3秒、4秒と長くなっていく。

時間は未だ10秒しか経過していないが体感ではものすごく経過している。

蓮太郎から声なき声が聞こえてきた。

 

『勝てると思ってねぇだろうな?』

 

幻聴だ。

ありえない!

そんなはずない!

そう頭ではわかっているが、体が追い付かない。

武器を持つ手が震え始める。

武器を持つ手に力が入らなくなる。

まずい。

早く始まらないとここにいる全員にばれる。

蓮太郎を恐れているということを…。

まずいまずいまずい。

頭の中が混乱してくる。

観客が想像している【絶対王者のピュラ】というイメージが消える。

そんなことはどうでもいいとは思えない。

全員が私に期待している。

周りから期待されている以上、勝たなければ…。

でも、体が、頭が…。

 

まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい

 

開始まで残り30秒。

蓮太郎をまっすぐ見る。

その目には私しか映っていない。

頭を冷やせ、落ち着け、目の前のことに集中しろ!!!

 

一度目を瞑る。

深呼吸。

心を落ち着かせる。

周りからの視線をシャットアウトする。

胸の鼓動をしっかりと感じる。

一度自分を冷静に分析する。

 

前回は差を見せつけられたまま敗北した。

今回もまた圧倒的な差があるだろう。

誰もが絶望してしまうような差。

素手でプロの格闘家に勝てといわれているような差。

普通ならあきらめることだろう。

だが、ピュラは違った。

このような差での戦いはあの敗北以来だ。

ならどうなる?

 

【【【【興奮するに決まっているでしょ!!!!】】】】

 

ゆっくりと目を開く。

蓮太郎の姿がぼんやりとしていたが、すぐにはっきりと見える。

覚悟を決めろ!

やれ!

やるんだ!

 

残り5秒。

 

----------------------

 

4:互いに見つめあう。

3:相手の構えを見る

2:考えた戦術のうち、実行するものを決断する。

1:勝ち方を複数考える。

0:実行する!!

 

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同時に動き出した。

互いに正面でのぶつかり合いを選択。

蓮太郎の天童式格闘術とピュラの槍が中央で輝きだす。

互いに有効打を与えることなく、その場が続く。

勝負は一瞬で決着することをお互いがこの時、察した。

そのままピュラが後ろに下がり、距離を取ろうとする。

蓮太郎はそれを追いかけ、近接戦闘に持ち込もうとする。

その刹那、蓮太郎に悪寒が走る。

 

【このまま進めばやられる】

 

それを認識し、すぐに後退。

距離を取る。

蓮太郎がいた空間にはありえない角度で空中に浮いた状態で槍があった。

 

ピュラは能力で武器を自在に動かすことができる。

なら、常識は通用しない。

それを認識し、蓮太郎は構える。

水天一碧の構え。

攻撃重視の構え。

 

ピュラはそれを見て盾を前にし、槍を持つ手に力を入れる。

互いに遠距離武器を使う気はないようだ。

ゆっくりと近づき、距離を詰める。

 

最初は湧いていた観客も、その光景に息をのんで見守る。

二人の足音以外まったく聞こえない。

そんな異様な空間に誰も口を挟めない。

 

互いの距離が攻撃できるまで接近していた。

おそらくこれが最後の攻撃となるだろう。

蓮太郎もピュラもそれは認識している。

 

まだ攻めない。

まだ。

まだだ。

 

お互いに攻めに行かない。

 

ついに動きが止まった。

静寂が生まれる。

この世に音がなくなったといわれても納得するくらいの静寂。

 

訓練場に飾ってあるツンベルギアの花が落ちる。

そのまま重力に従い、ゆっくりと落ちる。

そのまま静かに地面に落ち、場の静寂に参加する。

それが合図だったのか、はたまた偶然か。

両者の止まった時が今、動き出す。

 

「虎搏天成!!」

 

蓮太郎の右手の突きがピュラを襲う。

 

それをピュラは盾で受け流し、槍でカウンターを狙う。

狙うは横腹。

最短距離、最速の突きが蓮太郎に迫る。

 

取った!

 

ピュラは確信しながらもそれを隠す。

蓮太郎もすぐには動き出すことができない。

そのまま槍が当たる…ことはなかった。

 

蓮太郎はカウンターを読んでいたのか、体を半分だけ横に移動させ、攻撃を変化させていた。

 

「雲嶺毘湖鯉鮒!!」

 

渾身のアッパー。

横から飛んできたそれにピュラは対処できなかった。

 

ピュラの体が宙に浮く。

それをバランスを崩しながら着地したピュラに蓮太郎が迫ってくる。

 

あー、強い。

また、勝てなかった…。

もう勝ち筋が見えない…。

まずい…。

視点が定まらない。

おそらく顎に当たったのだろう、頭がクラクラする。

足もおぼつかなくなっている。

 

・・・・・・・

・・・・

・・

・   

 

 

 

それでも!!

まだあきらめる気はないわ!!

 

動きが鈍くなった体にむちを打ち、迎撃をなんとか整える。

目には蓮太郎の右ストレートが見えた。

なんとか盾を動かさねば…。

ゆっくりとしか動かせない盾を能力で補助をしながら無理やり間に合わせる。

 

蓮太郎もまた、ピュラのこの動きに驚いていた。

一応のことも考え、防がれたときは3つの方法で追い詰めることが考えていた。

だが、出番はないだろうと考えていた。

まさか防がれるとは…。

 

ピュラのこの行動は今後を左右するものだろう。

ピュラは今までたとえ傷ついたとしても、誰かを守れると信じて努力し続けていた。

未来へ行くと決断したから…。

それは今後の楽しみとして現実と向き合おう。

 

ピュラが掲げた盾は直撃を防ぐことはできた。

だが、衝撃を抑えることができなかった。

そのまま後ろに倒れ、追撃を加えられそうなところで結果が出た。

 

そのフィールドにはその場で立ち尽くす蓮太郎と大の字で倒れたピュラの姿があった。

その瞬間、誰もがその勝敗を判断することができた。

 

観客は勝者に対して惜しみない拍手が送られ、蓮太郎もまた、疲れたからだを動かし、それに応えた。

 

この勝負は一瞬で広まり、その日の夜にはどのニュースもそのことを取り上げ続けた。

ここに蓮太郎の名が広まる結果になった。

 

蓮太郎は次の日からいろんな学生から手合わせを願われ、疲れがたまる日々を送ることになる。

だが、それは今後立ちはだかる問題に比べれば些細なことであった。

 

----------------------

 

あるニュースの映像を見る仮面の男がいた。

彼ははじのほうにファウナスの少女で、知っているやつが映っていた。

ならばと、彼は立ち上がり、アーガスへと向かった。




ありがとうございました。
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