あの事件から2週間後。
蓮太郎は無事退院することができた。
何度も医師から体を解剖させてほしいとせがまれ、それを看護師が医師を引きはがすという日常からもさよならだ。
あの医師もくるってはいるが、室戸菫よりはましだった。
退院した日はいつもより気分がいい。
今すぐに運動したいくらいだ。
それからはヴァイタルフェスティバルのための練習がおこなわれた。
蓮太郎もすぐに感覚を取り戻すために射撃演習場を訪れたり、ヤンと格闘したりしている。
授業も少なくなり、より練習する時間が以前よりは確保されている。
その為か、一日中部屋に戻らないということも珍しくない。
それは他のメンバーも同じような感じで、チームでの練習以外で集まることが少なくなっている。
「やはり、蓮太郎とピュラは固定でいいんじゃないでしょうか」
チーム練習後、いつもは各自どこかに行っていたが、今回はメンバー選出のため全員が部屋に戻っている。
今の段階では二人しか決まっていない。
通常、4人一組で参加するが蓮太郎のチームは5人いる。
そのため、誰かが抜ける必要があった。
かといって勝ち上がったとしてもメンバー交代はできない。
そのため、出場しない=ヴァイタルフェスティバルに参加できないということになる。
「そうなると、残り2人をどうするかだよな?」
今発言したジョーンはチームリーダーのため、1回戦に参加する必要がある。
それ以外はこれといった制約はない。
その後はそのチームから2人を選び2回戦、さらにそこから1人選んで決勝トーナメントとなる。
当然だが勝ち上がるには体力がかなり必要となる。
その最後の一人をどうするか?
残ったレンとノーラはお互い譲り合いしており、収拾がつかない。
どちらも相手のほうがいいということを主張して譲らない。
それがどんどん過激になり、料理がうまいだの、優しいだのという戦闘以外の利点まで上げ始めた。
ここまでくればのろけているんじゃないか?
チームでメンバーを選んでいるはずが、のろけ話を聞かされるにいたった。
これでは埒があかない。
ジョーンとピュラを見たが、どちらも苦笑いし続けている。
なんだか楽しくなってきた。
このまま苦笑いし続ける二人をみて時間を潰そう。
ちょうど疲れが出てきたからちょうどいい。
結局、最後は耐えかねたジョーンによってくじで決めることになり、ノーラが参加することになった。
「それじゃ、練習しましょう!」
ピュラがルビー達に練習の誘いに行った。
その足取りはどこか軽い。
蓮太郎はピュラが回復傾向にあることに安堵した。
少しづつだろうが確実に立ち直り始めている。
確かに彼女は強い。
だが精神は年相応であり、人のことは言えないが不安定だと感じている。
それが回復してきたのだから部屋にいた全員が安心したに違いない。
軽快なステップを踏みながらピュラが戻ってきた。
そのままの状態で部屋に入るときにドアに頭をぶつけてしまった。
そのままその場でうずくまり、頭を押さえる。
その姿に全員笑うしかなかった。
その後落ち着いてきたピュラによると、1時間後に練習ができるとのこと。
それに向けて各自、準備することにした。
基本的な動きから装備の確認まで、滞りなくおこなう。
1時間後。
誰一人かけることなく集まることができた。
その場所には先ほどまでこの場所を使っていたであろう人らがこちらを見てくる。
相談した結果、まずは4人一組でチーム戦の練習をすることになった。
「蓮太郎とピュラで前を固める」
「ノーラは後ろで支援を」
「俺はすぐにカバーできる位置にいる」
ジョーンから作戦を伝えられた。
しっかりリーダーやってるようだ。
それに実力もついてきたから今ではもう立派なリーダーをしている。
ルビー達の作戦会議を待ち、その後練習が開始された。
レンが審判役をおこなう。
こちらは作戦通り、蓮太郎とピュラで前を抑えることにした。
相手はブレイクとヤンが対応しに来ていた。
蓮太郎の前にはヤン、ピュラの前にはブレイクがいた。
「入学試験のようにはいかないよ!」
ヤンは入学試験で蓮太郎に負けたことを言っているのだろう。
簡単には勝たせてくれなさそうだ。
ヤンが連打し始めた。
右に左に、とにかく蓮太郎の体にまんべんなく撃ち続けている。
速い
蓮太郎はそう思わざるをえなかった。
以前とは比べられないほどに速い。
さらに威力も上がっている。
何度か防御をしたがそれでも痛い。
ハンマーで殴られているような感覚を味わう。
ヤンがナックル系の武器をつけているからか、かなり痛い。
そこから銃撃や高速移動もできるから厄介極まりない。
蓮太郎は前で防御し続け、隙を見て反撃を計画した。
後ろでは、援護する人らが遠距離で戦い続けている。
ノーラがグレネードランチャーで敵後方のワイスとルビーを撃ち続けている。
それをワイスが魔方陣で氷を生成し、空中で迎撃している。
そのすべてで迎撃が成功。
空中でグレネードが爆発することで空には煙の雲が形成されている。
ルビーはノーラに向かって射撃。
それをジョーンが盾で防ぐ。
ジョーンのいた場所に煙幕ができる。
この状態なら、どちらかが崩れただけで一気に敗北する。
そう思うしかなかった。
蓮太郎は未だヤンの攻撃から解放されていない。
少しピュラのほうを見ると、こちらよりかは少しはマシだろう。
ブレイクの攻撃を盾で防ぎながら槍を入れている。
お互い、攻めと守りを入れ替えながら戦い続けている。
動き的にはそちらが派手で見ごたえがあり、こちらは永遠に打たれている。
なんだか地味な戦い方になってきたような気が…。
「どーよ!攻めれないの?」
ヤンが攻めてこない蓮太郎をあおり始めた。
攻めれないんじゃなくて攻めてないだけです~といいたいが、実際に攻めるきっかけが見つからない。
完封できていると思い込んでいるのか。
だが、それは大きな誤りだ。たぶん…。
ヤンが蹴りを入れてきたタイミングで足を掴む。
そのまま蓮太郎の後ろに引き、倒す。
ヤンから「グェ」とらしくない声が聞こえたが、気にしない。
そのままオーラを削りに行こうとした。
そこにルビーのカバー。
そのまま相手はルビーに変わり、ヤンが後ろで援護する形になった。
それができるのは強い。
この時点で相手は、全員同じ動きができることに気付いた。
そのことにジョーンも気づいたのだろう。
「ピュラ!変わるぞ」
その指示によってピュラとジョーンの位置が変わった。
ブレイクの相手はジョーンとなった。
蓮太郎は相手がルビーに変わっている。
それによって、常にルビーを追いかけ続けた。
常に可能な限り近づいて戦う。
ルビーは大鎌で近距離戦を戦うため、懐に潜り込まれると思うように戦えない。
苦しむ顔を隠すように逃げている。
蓮太郎もぴったりくっついていく。
ストーカーと呼ばれても問題ないくらいには。
気持ち悪いといわれてもいいようにこの時点で覚悟を決める。
だが、途中で止まる。
おかしい、何かがおかしい。
気づいたら、蓮太郎の前にはヤンとルビーがいた。
もしあのままストーカーをしていたら1対2になっていただろう。
流石に勝てるか怪しくなる。
「蓮太郎!こっちだよ!」
ルビーがこちらをあおってくるが無視して銃を取り出す。
銃のスライドを引き、弾丸を薬室に入れる。
弾が装填されたことを肌で感じている。
それを見たルビー達は構える。
そのまま蓮太郎は後ろにいるブレイクに向かって発砲。
ブレイクはジョーンにとどめを刺せる段階まで来ており、ジョーンに向かって刀を振り上げる。
そのため、撃たれたことに気付けなかった。
命中、オーラが削られる。
そこにピュラの射撃。
ブレイクはその場でジョーンに覆いかぶさるように倒れてくる。
オーラが削られ、死亡判定を受ける。
こうして一人削れたチームルビーはそのまま崩壊することになる。
ヤンは蓮太郎に激しい攻撃を続けたため、体力がなくなっていた。
ワイスとルビーはまだ大丈夫。
しかし、人数差と実力の差がある。
10分後、チームルビーは全員死亡判定を受け、終了した。
ルビーたちは地面に倒れており、呼吸も安定していない。
「蓮太郎、もしかして攻撃しなかったのってこれを狙っていたの?」
「ソウだヨ」
「絶対思っていないでしょ」
ヤンが蓮太郎に問いかけ、ブレイクの突っ込みに全員が笑った。
正直、蓮太郎からしてみればカウンターのために防御に徹していただけで、こうなったのは運がいいから。
ちょうど後ろに無警戒のブレイクがいた。
だから狙った、それだけだ。
ルビー達のチームも学内評価はかなり高い。
なんなら同学年の中でトップ5に入っていてもおかしくはない。
そのチームでも勝てない蓮太郎のチームがおかしい。
「すみませ~ん」
「里見さんかニコスさん貸してくれませんか~」
ルビーたちが少しづつ回復してきて立ち上がり始めたころ、遠くから声が聞こえてきた。
見ると、緑の服を着て、大きな刀を携えた男性とウサギの耳をつけたファウナスの女性がそこにはいた。
「どうも、ヤツハシです」
「ヴェルヴェットよ」
男が八つ橋で、女性がヴェルヴェットとのこと。
二人とも同じチームらしい。
その八ツ橋がお願いしてきた。
「一回、戦ってほしいんだけどどう?」
この誘いに正直困惑している。
この人らは一つ上の学年だ。
にもかかわらずこちらにお願いをしてきている。
この世界には年功序列みたいなものはないのかな?
だとしてもこの人らは自分のためになるなら後輩にもお願いをする。
そのような人は蓮太郎からしてみれば好意的な印象を持つ。
そのため無下にすることもできず、受け入れることにした。
蓮太郎はファウナスの女性と戦うことになった。
そうして、始まった。
相手は蹴り主体の人なのか、蹴りを多用してくる。
それを蓮太郎は回避と防御をして守っている。
蹴り主体の相手はなんだかやりやすい。
まるで昔に散々体験したようだ。
そのまま右足での蹴りを止め、右ストレート。
それを相手は回避して仕切り直しになった。
その後は一方的な展開になった。
向こうが攻め方を変えても、こちらは簡単に予測することができた。
それをカウンターするだけの簡単なお仕事。
そのまま蓮太郎が勝利した。
「お疲れ様。にしてもよく勝ちましたね」
「有名な人なのか?」
「蹴り主体で有名ですから」
正直レンから教えてもらえるまで知らなかった。確かに強かったが、劣化した誰かみたいな感じでやりやすかった。
一方、ピュラもいつの間にか勝利していた。
相手の攻撃を防ぎ、カウンターをし続ける。
基礎的な攻め方を徹底する。
それだけで勝てるほど、ピュラは完成されてきている。
正直、戦いたくはない。
「お疲れ」
また誰か近づいてきた。
オズピン教授だ。
すぐに全員、姿勢を正してあいさつした。
すぐに姿勢を緩めて、本題を話し始めた。
「里見蓮太郎、ピュラ・ニコス。来なさい」
二人が呼ばれた。お互い、顔を見て不思議そうな表情を見せる。
そのまま、学長室まで行った。
そこに、アトラス軍のアイアンウッド将軍がいた。
「君たちに協力して欲しいことがある。一つ目は孤児院爆破の犯人がわかった」
この報告にお互い、表情が険しくなる。
あれを引き起こした連中の正体が判明した。
そいつと今すぐにでも対面したい。
「その組織の破壊に君たちも加わってほしい」
この提案にどちらもすぐに賛成した。
やるしかない。
「二つ目なんだが里見君、席を外してくれないか?」
蓮太郎は疑問に思った。
一体、何を話すのか。
「先戻ってて」
ピュラからそう言われたら戻るしかない。
蓮太郎は来た道を戻って、みんなのもとに戻った。
戻った後には先ほどの2人に加え、追加で2人いた。
「あなたが里見?うちのヴェルヴェット、倒したんでしょ?」
派手な服装に装飾されたかばんを持った女性が話しかけてきた。
どうやらこちらをじっくり見ているらしく、正直意味が分からなかった。
そのことに相手が気付いたのだろう。
「ごめんなさいね、私はココ。ココ・アデル」
「里見蓮太郎」
「あなた、いろんな噂が飛び交っているわよ」
蓮太郎はそんなことは知らなかった。たぶんあまりいいのはないのだろう。
どうせまともなもののほうが少ない。
「露出狂でロリコンとかなんとか」
「そうはならんやろ!!」
ここまでとは思っていなかった。
周りは笑っているが、こうなっていることに困惑している。
おかしい。
似たようなことをした覚えはない。
「あなたがそんな人ではないことくらい、知ってるから大丈夫よ」
ココから弁解された。
そこまでは傷ついていないから大丈夫。
また、この人らは同じチームだとのこと。
その後ピュラが戻ってきて、3チームで合同して練習することになった。
途中からピュラの動きが悪くなっていたが、なにがあったのだろうか。
聞こうとしたが、結局聞けなかった。
読んでいただき、ありがとうございました。
あとヴェルベットのスタイルはたぶん違う気がするが気にしたら負けですから。
そういうことにしてください。