シド・カゲノーの許嫁   作:産業革命

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シド・カゲノーの許嫁

 物語は常に進んでいる、多くの人を主人公にして。

 

 闇は何時でも蠢いている、永遠の命を追って。

 

 魔女は飢えている、己の欲するもの求めて。

 

 世界は常に回っている、陰の主の手の上で。

 

 ――ある英雄譚の序文より抜粋――

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 僕、『影野実』ことミドガル王国の田舎貴族カゲノー男爵家の冴えない長男『シド・カゲノー』は陰の実力者であると同時に、世界中の何時でも何処にでも居るようなモブAだ。

 具体的には特段珍しくもない髪色と平均的な容姿、特に見るべきところもない程度(に調整した)成績と魔力。そんな人物である(様に見せている)。

 

 ここ最近は誘拐事件や学園襲撃事件のせいで王女様とかのネームドキャラらしき人物に――望んでもいない方向でだが――関わる事が多い気がするけど、少なくとも自分なりにモブらしくあるよう心掛けているつもりだ。

 

「――といった具合に、(全く記憶に残ってないけど)遂に俺たちはDOUTEIを卒業しちまった……って訳だ!なあ、ジャガ!?」

 

「ええ、ヒョロ君!これからはDOUTEIの道ではなく、OTOKOの道を極めるのみです!」

 

「へえーそうなんだー。がんばってねー」

 

「ああ!やはりこの俺の溢れんばかりの魅力が――」

 

 そんないつも通りのモブ発言をするモブAとしての僕に相応しい友人、ヒョロとジャガの会話をテキトーに受け流しつつ、二人と共に街で遊び惚けるというモブ&学生らしい一日を過ごすつもりだったのだが――

 

 

 

「――お久しぶりです。シドさん」

 

 街中で突然話し掛けられたその言葉に振り返ると、其処に立っていたのは僕が見知った人物だった。

 鮮やかな紫色――人によっては毒々しいと感させる程――の髪、ハイライトが少々仕事放棄気味の髪色と同色の目、そしてよく見慣れたミドガル魔剣士学園の制服を着た同年代の少女。

 簡単に言えば、正直僕の様なモブと釣り合わない位に整った容姿をした人物だった。

 

「やあ、こっちこそひさしぶり。帰ってきてたんだね」

 

「ええ、大変実りある留学でした。やはりベガルタはミドガルと全然違いますね」

 

 二人で立ち止まって会話をしていると、少し先を歩いていたヒョロとジャガが戻ってきて会話に割り込んでくる。

 

「おーい、シド。何してんだ……って誰だよこの可愛い女の子は、知り合いか?」

 

「そうですよ、シド君。こんな知り合いがいたのなら少しくらい紹介してくれてもいいじゃないですか!」

 

「紹介って……あれ?言ってなかったかな?」

 

 人の会話に勝手に割り込んできて、更に割と最低な内容を話し続ける二人。普段の細やかな仕返しとしてだが、彼らにはここで一つ残念な知らせを届けよう。

 

「彼女は『ウラノ・ラスボー』。最近までベガルタに留学してた――」

 

 そう、彼女の名は『ウラノ・ラスボー』。今世の実家であるカゲノー男爵家から少し離れた場所に領地を持つラスボー子爵家の令嬢。そして――

 

 

「――僕の婚約者だよ」

 

 その言葉と共に何故か凍り付く周囲の雰囲気。

 目の前の二人は目玉と口をあんぐりと開けて驚いており、少し遠くのカフェテラスに座っているツインテールの少女のカップが、ガチャーンと派手な音と共に割れて飛び散った。

 

「(そこまで驚く様な事かな?)」

 

 予想以上の反応にそう思いつつ「じゃあねー」という掛け声とともに僕らは去っていった。

 

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 学園では全くと言ってもいい程知られていない事だが、こんなありふれた田舎貴族のモブを演じている僕には婚約者がいる。

 まあ、これに関しては僕自身が誰かに話していないし、別に吹聴される事でもない。何より当事者である彼女が学園にいなかったから、というのも大きいかもしれないけど。

 

 さて、何故僕に婚約者がいるかだったっけ。答えは簡単、『親同士の約束』というやつさ。

 

 

 それほど昔ではない位の昔、当主兼家長なのに家庭内ヒエラルキーが底辺である僕の父『オトン・カゲノー』は、何故か僕の父と親友だった彼女の父『オモテ・ラスボー』と学生時代にこんな約束をした。

 

『嫡子より後に産まれた子供が異性だった場合、彼等を結婚させる』

 

 まるで何処かのラブコメか熱血モノの物語みたいな約束だけど、現実で約束したらしい。魔力がない時空でも信じられない話だね。

 

 そして時が経って15年前、嫡子である姉さん以降である僕と、これまた嫡子以降である彼女が産まれた。つまり産まれた時から許嫁が出来きてたってわけだ。

 ただ、その約束を知らなかった僕の母『オカン・カゲノー』(と姉さん)は子供(弟)の将来を勝手に決められて大激怒。一時は離婚の危機にまで発展したらしいけど、子供同士が嫌だと言えばすぐに解消できる様に変更されたらしい。

 

 そして現在、僕も彼女も許嫁の関係を維持している。愛もクソもない政略的なものだが、僕としては別に干渉も害もないし、彼女としても体の良い言訳として都合が良かったのだろう。

 アレクシアとの関係の上位互換ともいえるかもしれない。そう言う意味では、彼女は『どうでもいい好きなモノ』に入る。モブ貴族として丁度いい立場に成れる事間違いなさそうだしね。

 

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 モブ友であるヒョロとジャガと(一方的に)別れた僕たちは、街中をブラブラと徘徊しつつ装飾品店を物色したりカフェで珈琲を楽しんだり等、婚約者モブらしい事もしながら時間を過ごした。

 その道中は常に誰かから見られている気がしたけど、殺意とか悪意とかは感じなかったので放っておいた。

 

 

 夕暮れが過ぎて夜の帳が王都を覆う頃、僕らは王都を見渡せる展望台にいた。

 ここ最近誰かと来ることが多い気がするこの場所だが、絢爛に輝く夜景の美しさだけは誰と見ても良いものだ。

 

 そのまま備え付けのベンチに隣り合って座る僕たちだが、彼女との間で会話は基本しない。このデート自体が許嫁という名目の体裁を保つ行動でしかなく、移動中も食事中も常に最小限だ。

 しかし、それは気まずい雰囲気という事ではない。寧ろ心地よい沈黙なのだ。必要以上に干渉せず、邪魔もしない。これが僕らの今までの立場で、仮にこのまま結婚したとしても何も変わらない関係性だ。

 というより、僕の『陰の実力者』ムーブを邪魔しないならネームド以外誰でも構わない。その程度の対象だしね。

 

 でも彼女にも困った点が一つだけある。

 

 

「ねえ、何時になったら別れ「シ ド さ ん ?」……いや、なんでもない」

 

 困っている事、それは彼女が僕と別れてくれない事だ。

 こうやって直接出会う度提案しているのだけれども、その度に怒った姉さんみたいに圧をきかせてくる。誰かみたいに首とかは絞めてこないけど、星々が輝いている様な瞳でじっと見つめられるとちょっと怖い。

 

 今回もいつも通りに降参の意味で両手を挙げると、彼女は此方の肩に頭を寄せて寄りかかって来る。近くの複数の茂みからハンカチを噛み切る音や恨みがましい怨念の籠った視線を感じたが、面倒なのでこのままされるがままに徹する。

 

 

 しかし、毎回思うのだ。

 

 何故彼女は僕に執着するのだろう、と。

 

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 ――つまらない――

 

 産まれた時から強い衝動に駆られていた私にとって、この世界に抱いていた印象は『とてつもなく退屈』というものだった。

 

 魔力は存在するが、魔法が存在していないこの世界。魔力の性質から魔術師ではなく魔剣士が戦闘の花形であるが、私の中にある記憶に比べ中世特有の事情からか技術が酷く未開拓で稚拙だった。

 魔力で剣と身体を強化して、ただ速く動き、ただ力任せに剣を振るうだけ。剣術の『剣』の字で進化が終わっている戦闘であり、そこに体術とかフェイントとかの駆け引きもなく、あるのは魔力量と魔力の扱い方だけだった。

 

 一時は父や兄が弱いだけかと思ったが別にそんなわけもなく、むしろ王都で開かれたブシン祭の出場者たちよりもかなり強かった。

 その強さは家宝だとかいう『約束された勝利(ビームっぽいやつが撃てる剣)』とかいう魔剣や定期的に飲んでいる怪しい薬物のおかげでもあるのかもしれないが、それでも徹底的に鍛えて強くなった私には及ばなかった。

 気まぐれで遠出した時に狩った竜――魔竜とかいう魔力を操る魔物(?)の方が遥かに手応えがあったくらいだ。

 

 まあつまり、この世界はレベルが低い。少なくとも私の欲求は満たせない。

 

 

 

 そして余りに退屈すぎたので『この世界を滅ぼして勇者でも探そうかな』と本気で思い始めた時、私は彼と初めて出会った。

 

 父の友人だという男爵が連れてきた姉弟、その片割れである姉と比べてパッとしない外見、頼りない発言と性格。それだけしか見れなかったなら彼の事も有象無象として無視していたかもしれない。

 

 だが、彼は強かった。当時敵なしであった私を上回るかもしれない程には。

 

 私を上回る程の量が確認できる魔力量(但し、試合では何故か大幅に抑えていた)に加え、同じく隠してはいたが確かな修練の跡(それもこの世界より遥かに洗練された技術)の片鱗を感じさせる剣筋と動き。

 

 その時、私はこの世界で初めて『感動』という感情を抱いた。この世界にも私と対等に渡り合える人がいたのかと。

 

 そして思ったのだ。彼は、彼こそが――

 

 

 

 

 

 ――私を殺してくれる『勇者』だと。

 

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○ウラノ・ラスボー

 

 ミドガル王国の田舎貴族、ラスボー子爵家の長女。そして陰の組織『シャドウガーデン』の主であるシャドウ――改め、カゲノー男爵家の長男であるシド・カゲノーの婚約者。容姿にも性格にも優れ、シドとの婚約関係を知っている者からいろいろな意味でよく「婚約者と格が釣り合っていない」と言われる。

 魔剣士としても極めて優秀であり、ミドガル魔剣士学園の特待生であると同時に、最近まで剣の国とも呼ばれるベガルタ帝国に留学するほどの才能と実力を持つ。

 

 

 ……というのは表向きの話。実際は果てしない戦闘欲と破壊衝動を持つ危険人物。その危うさを自覚しており、世間一般の善悪に関しても認識と理解はしている……が、本能として割り切っている。それでも普段は魔獣との戦闘などで我慢はしているらしい。

 又、『魔眼』という対象の魔力を強制的に見抜く瞳を持っており、使用時は何処かの最強無敵アイドル張りに輝くらしいが、疲れるので封印している。

 

 自身を世界の異物であると定義しており、自分の欲を満たしつつ殺してくれる『勇者』を渇望している。

 

 




こんな駄文を読んでいただきありがとうございます。



追記:誰かこんな感じの書いて。私では無理だった……。
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