アメリカの最小のウマ娘   作:SKT YKR

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日本旅行 下

「はは、いいな……!」

 

「…?どうしたの?」

 

 マルゼンスキーが私の様子が普段と違うことを案じてに覗き込んでくる。しまった、つい声に出してしまった。

 

「何でもないよ。ただ……彼女の走りを見て、少し刺激されたのさ」

 

 私と彼女はタイプが異なる。しかし、他を寄せ付けない無慈悲なまでの完勝、切れる思考と状況判断。そこだけは相似している。

 

 私はあの闇を切り裂く雷になれるだろうか。あの芸術にも似た技術を、それを上回る力で圧倒し、打ち破る。そんな皇帝に。

 

(神様がいるとすれば、愚痴を言いたい気分だな)

 

 離れたところでクラークさんと話しているミラージュさんの足を見る。彼女の足はもう戻らない。私と走ることはできない。

 今はそれが、無性に恨めしかった。

 

「怖い顔してるわよ。抑えて抑えて」

 

「おっと、失礼」

 

 マルゼンスキーに心配させてしまった。客人もいるのにこれではいけない。私は表情筋を掌でもみほぐし、普段の表情に戻す。

 そして隣にいるマルゼンスキーに目線を移す。彼女は手元のバインダーでクラークさんたちが乗る飛行機の時間を確認していた。あと15分程度でここを後にしなければならないようである。

 

 だが、私は今のうちにマルゼンスキーにも尋ねておきたいと思った。このような感想戦は時間を空けてからでもいいが、やはり見た直後の感想というのも気になるものである。

 

「君は今のレース、どう感じた?」

 

「私?」

 

 そうねぇ、とマルゼンスキーは人差し指を顎に当てる。

 

「みんなそれぞれ光るところはあったと思うけど……やっぱり一番はミラージュさんね。彼女の場合、光る、よりも飲み込む、と言った方が近いかしら。でも……真似しちゃいけないわ。あれは気合とかそういう次元じゃない」

 

 いつになく険しい表情のマルゼンスキー。彼女は楽しく走りたい、というタイプだ。そんな彼女からすれば、あの破滅的な走りは遠いところにあるのだろう。

 

「経験故、だろうな」

 

 ミラージュさんの経歴については少し調べたので知っている。議員の殺害事件による混乱、三冠ボーナスの廃止、母親の状態と父親の闘病、そして本人のケガとトレーナーの不調、周りのウマ娘とのすれ違い。

 全てが彼女にそうあれと運命づけているような連鎖。それだけのことに晒されていながら今の性格になっている方が不思議なくらいである。

 

「彼女の走りを全肯定はしないけど、ああいうのもあるんだ、ってことを知れたのは収穫ね」

 

「なるほど」

 

 私は頷き、マルゼンスキーの考えを咀嚼するように頭に入れた。確かにミラージュさんのような走りを誰かがしようと思っているのであれば、私は止めるだろう。精神的に苦しいのは勿論、単純にケガにつながる危険がある。

 

「それより!そろそろ声掛けに行きましょ?あんまりゆっくりもしてられないわよ」

 

 考え込む私の肩を叩き、マルゼンスキーは歩き出した。少し考え込みすぎてしまったようだ。

 私はマルゼンスキーの後に続き、談笑している二人のもとへ向かった。

 

◇  ◇  ◇

 

「お疲れさまでした!」

 

 目を開けるとそこには佐藤さんとクラークの顔があった。私はゆっくりと椅子から体を起こし、傍らに置いてある杖を手繰り寄せて立ち上がる。

 

「何か調子が悪いとかありませんか?」

 

 私は手を閉じたり結んだり、首を回したりしながら体の調子を確かめる。特に悪いところはない。

 

「大丈夫です。貴重な体験をさせて頂きありがとうございます」

 

「いえいえ、楽しんでいただいたみたいで良かったです」

 

 佐藤さんは私の返事を聞くと、他5名のウマ娘の体調チェックを行うため移動していった。ルドルフさんとマルゼンスキーさんは少し離れたところで何か話している。これからの打ち合わせだろうか。

 

「あの、ミラージュさん……走り、最高でした」

 

 なんか戸惑ったような言い方だ。クラークにしては珍しい。

 

「ありがとう。あー、もしかしてモニター越しのあなたたちの方が感じ取っちゃった?」

 

 何かあるとすればレース中の私の様子だろう。クラーク達ほどの実力者であればモニター越しであっても私の変化を強く感じ取ったのかもしれない。

 

「いや、でも走りが最高だったのはその通りですよ!ただ……メディックさんたちが言ってたことがやっと分かった気がして」

 

 クラークからは私のことを心配するような雰囲気が感じ取れる。

 

「昔のことだよ。私にも尖ってた時代があったってだけ。ていうか私からも何回か話したでしょ。現役時代とその後のこと」

 

「話で聞くのと見るのでは全然違いますから!」

 

 クラークが突っ込んだところで、ルドルフさんとマルゼンスキーさんがこちらに近づいてきた。どうやら話し合いは終わったらしい。

 

「お疲れさまです。これで予定していた行程は全て終了しました」

 

「車の準備はできていますが……どうしますか?帰りも電車使いますか?」

 

 私はクラークと顔を見合わせた。多分、クラークも私もどっちでもいいという思いは一緒だ。だとすれば、せっかく用意してもらった車を断るというのも申し訳ない。

 

「ありがとうございます。せっかくなので、用意していただいた車で帰ろうかなと思います」

 

「勝負服だから目立ちますしねー」

 

 クラークが勝負服の端をパタパタとさせながら言う。確かにこの後の飛行機の時間を考えると着替えの時間は取れないな。もっと余裕を見ておくべきだった。

 私たちの返事を聞いたルドルフさんたちはそれではこちらへ、と施設の出口まで案内してくれる。

 

「あのー、すみません」

 

 佐藤さんと5名のウマ娘たち、そしてマルゼンスキーさんにお礼を言い、立ち去ろうとしたとき、あるウマ娘が私たちに近づいてきた。何か忘れものでもあっただろうか、と私は自分のポケットを触る。

 

「もしよければサインいただけませんか?」

 

 たどたどしい英語でそう告げるウマ娘。勿論断る理由はない。結局私たちは5人のウマ娘全員から差し出された色紙に一つずつサインをし、朗らかな雰囲気のまま施設を後にした。

 

「私サイン慣れてないからなぁ……あんまりうまくできなかったよ」

 

「いいんじゃないですか?個性があって。私はサインしすぎでゲシュタルト崩壊ですよ」

 

 クラークはそうだろうな。腱鞘炎で通院していた期間もあるくらいだ。

 会話をしながら車に乗り込み、ふかふかの座席に身を任せる。学園に来てからずっとふかふかの椅子に座ってる気がする。飛行機の座席が物足りなく感じそうだ。

 

「それでは、空港までお送りします。本当にお疲れさまでした。……出してくれ」

 

 ルドルフさんの声に運転手と助手席のSPっぽい人が小さく頷き、少しの振動もなく車が発進する。私たちは車の後ろで手を振っている5名のウマ娘たちに窓越しに手を振りながら、学園の中を進んでいった。

 

◇  ◇  ◇

 

 車窓は東京の街を映し出す。そんな車の中で、シンボリルドルフは考えていた。

 

(……当機立断。この機を逃さず尋ねるべきか)

 

「……クラークさんとミラージュさん。唐突ですが、お尋ねしたいことがあります。これは公務とは関係なく、私の個人的なものですので身構えることなく聞いて下さい」

 

 運転手の後ろの席で窓の外の景色を見ていたクラーク、そして後部座席中央に座るミラージュが左側のルドルフの方を向く。

 

「私には、全てのウマ娘が幸せに暮らせる世を創る、という夢があります。愚かで甘い夢であることは百も承知です。ですが、私はどうしてもこの宿願を達成したい。そのために私は誰しもが認める頂点に立つ。……この私の方針に対して、話を伺いたいと思いまして」

 

 ルドルフの話を聞き、クラークは腕を組んで瞳を閉じた。ミラージュも話を整理しようと頭の中で何度もルドルフの言葉を反芻させる。

 車の中には道路とタイヤがこすれる音だけが小さく響いていた。その沈黙を最初に破ったのはクラークだ。

 

「何というか……壮大な話ですね。確かに、叶えたい願いのために実績を積むのは良いと思います。前のビッグレッドさんはそんな感じでしたし。ただ……すべてのウマ娘の幸福ですか」

 

 クラークはその過程を肯定した。人に話を聞いてもらうためには実績やそこから生まれるカリスマ性が必要だ。ルドルフは既に天性のカリスマを持ち合わせているため、それを磨くとともに実績を携えることができれば誰しもが彼女を認めるだろう。

 しかし、それだけで叶う夢ではない。金、人、モノはどうやって揃えるのか。人やウマ娘の感情は付いてくるのか。

 

 そもそも、何を幸せとするのか。

 

「ルドルフさんなら理解していると思いますが……正解は無い夢だと思います。それを理解していながら追いかけるのは茨の道です」

 

 幸せの形は個人の思い、時代の変化に大きく左右される。千差万別で千変万化。ルドルフの中でさえ、その形は変わっていくだろう。

 

「ええ、茨の道を歩く覚悟はしています」

 

 ルドルフはその瞳に確固たる決意を宿らせ、クラークを見据える。クラークは少したじろくが、それなら、と笑って組んでいた腕を解いた。

 

「まあ、具体の話が無いから何とも言えませんが、ルドルフさんなら大それたことはしないでしょう。取りあえず私は、無法ではない自由を目指して頑張ります。幸福が何かは分かりませんが、それぞれが幸せを見つけるためには自由が必要だと思いますから。自由に学んで、自由に運動できて、自由に悩んで、そんな環境を用意してあげられたらなと」

 

 グッと親指を立てるクラーク。その砕けた雰囲気にルドルフもフッと口角を上げる。

 各々が自分の幸せを考えられる環境を整えるのは必要だろう、とルドルフはクラークの言葉を心に留める。今の日本には海外遠征のノウハウや指導者等、足りないものが多い。もっと大きく世界を巻き込み、人や知識を確保する必要がある。

 その火付け役、既にハイセイコーなどがいるが、まだ足りない。さらに手段を考えていく必要があるだろう。

 

「……ルドルフさんはまだデビューも迎えられていないので、このような意見は時期尚早かもしれませんが、まだ仲間、手足となる者たちが足りていないと思います」

 

 沈黙を保っていたミラージュが話し出す。ルドルフはその言葉に耳を傾けた。

 

「今後活躍される中で、ルドルフさんの志に感化される人、ウマ娘の輪も広がるはずです。そういった方をいかにして取り込み動かすのか、どういった方を仲間にしたいのか、そして後継をどう育てるか。全てを一人ではできません。仲間を集める人材も必要です」

 

 確かに、今、最も足りていないのは人なのかもしれない、とルドルフは考える。ルドルフの夢を理解する者は生徒会メンバーとその他数名だ。ルドルフの夢を知っている者はそれなりにいるが、その多くは傍観者である。共に歩んでくれと言っても頷いてくれない。

 

「すべてのウマ娘を幸せに、という目標は素晴らしいと思います。また、ルドルフさんはそれを叶えてしまうのでは、と期待されるだけの器もお持ちです。集めた仲間にどの役を担ってもらうのか、今のうちに考えておくといいのかもしれません」

 

 ルドルフの考えに同調する人は今後増えていくだろう。その仲間をどうすれば生かすことができるのか。ルドルフは腕を組んで考える。

 

「例えばミラージュさんは大きなこと、ってよりも局所的な動きの方が合ってるので、そう動いてもらってますしね」

 

 クラークがミラージュを見て言う。実態はクラークが役を割り振っているのではなくミラージュがやりたいことをやっているわけだが、やりたいことができている、というのは間違いなくクラークの成果だろう。

 

「そうね。私は大きく局面を動かすのは苦手だし、今の仕事をさせてもらえてありがたいよ」

 

 ルドルフやクラークのような働きをミラージュはすることができない。逆にミラージュの働き方をクラークやルドルフが真似できるわけではない。適材適所というやつである。

 

「ミラージュさんの言う通り、仲間を集めないといけませんね。今はマルゼンスキーとミスターシービーに頼りきりになっているとことがあるので。アメリカでは生徒会のメンバーはどうやって決定するのですか?」

 

「基本的には会長が必要だと思う人を選んでますね。会長は……何だろう、世間の総意?時代が認めた人が会長になるって感じです」

 

 生徒会の加入条件のようなものは特にない。入りたいと言えばよほどの問題児でない限り加入できる。

 

「生徒会でなくても個人で活動をしている人もいますしね。メディックさんがその辺は顔が広いので連携して色々やってるみたいです」

 

 アドミラルやアソールトも今は生徒会メンバーではないが、各地のイベントに顔を出したり後輩に話しかけたりしている。そういう人からしか入ってこない情報もあるため、公的でないつながりも無視できない。

 

「なるほど……そのようなつながりをより多く持つためにも生徒会メンバーの補充、そして局所的な問題に対応できる人材の育成、把握は大切ですね。ありがとうございます。参考になりました」

 

 ルドルフは頭を軽く下げ、二人に礼を示す。

 

(すごいなぁルドルフさん。この若さでそこまで考えてるなんて。私が同じ歳の頃何してたっけ)

 

 ミラージュはルドルフの秀逸さに感嘆していた。彼女であれば、夢に縛られ、使命に押しつぶされることはないと、根拠もないのに思ってしまう。

 

 そう感じるのはマルゼンスキーを見ていたことも大きいだろう。ルドルフが使命に雁字搦めになる前に、彼女のような存在が手を差し伸べてくれるはずだ。加えていつか、彼女の隣に立ち、同じところを見てくれる人も現れるかもしれない。ミラージュはそう考えていた。

 

「ルドルフさんはクラークより、前のビッグレッドさんに似ています。必要であれば前ビッグレッドさんにも繋ぎますので、遠慮なく言ってください」

 

「あ、確かに。そっちの方がいいかもしれませんね」

 

 クラークがポンと手を叩き、ルドルフは苦笑する。

 

「はは、ありがとうございます。ですが、彼女と対面するのは私が実績を積んでからにしたいと思っています」

 

 ルドルフはまだデビューすらしていない。同年代と比べ圧倒的な実力があることは分かっているが、それでもまだ只の一介のウマ娘である。

 実績も経験も、何もかもで上回るビッグレッドの前に立つには足りないものが多すぎる。ルドルフはそう考えていた。

 

「うーん、あまり気にしなくてもいいと思いますが……ルドルフさんにはルドルフさんなりの考えがあるんですねぇ」

 

「それ、あなたが気にしてないだけだからね?コホン、まあビッグレッドさん、結構フットワークも軽いので言えば応えてくれると思います」

 

 ミラージュは今でも偶にビッグレッドと連絡を取り、年に一回くらいは旅行に行ったりしている。忙しくはあるが、バートン卿と連携しているため適度に休めるようだ。

 

 そんな話をしていると段々空港も近づいてきた。遠くで高度を下げている飛行機が見える。

 

「騏驥過隙。時が過ぎるのは早いですね」

 

 ルドルフは姿勢を正し、降車位置を運転手に確認する。まだまだ聞きたい話はあるが、これ以上の会話は時間が許してくれない。

 

「あ、そうだ!ひとつ言い忘れました」

 

 ルドルフが黙っていると、急にクラークが声を出した。ミラージュも何事かとクラークの方を見る。

 

「すべてのウマ娘の幸せ、と言いましたね?」

 

「……?ええ、そうですが」

 

 クラークはニコッと笑いながらルドルフを見る。意図が分からないルドルフは混乱した表情のままだ。

 

「そのウマ娘には、あなたも含まれているんですよ、ルドルフさん。それは忘れないでくださいね」

 

 余りにも唐突な一言。しかし、ある意味、ルドルフが見落としていたことだ。

 

「あなたも私の自由の内です。夢によってあなたが不自由になる必要はありません。自由に幸せを目指してください。お手伝いできることがあればいつでも頼ってください!」

 

(なるほど。これが二代目ビッグレッド。時代が認めたウマ娘か)

 

 青天白日、光風霽月。どこまでも澄み渡る心は相手を選ばず、その本質を見通す。悪意に付け入られる余地はあるが、ここまで突き抜けるとそれはもはや究極の武器である。

 

「……約束します。いつまでも覚えていますよ」

 

 答えに満足したクラークは拳をルドルフの方に突き出す。ルドルフはその意味を理解し、同じように拳を作るとクラークの拳に軽くぶつけた。

 

◇  ◇  ◇

 

(良い感じだけど……)

 

 大きな2つの拳を見上げながらミラージュは考える。

 

(前が見にくい……)

 

◇  ◇  ◇

 

 空港の降車場所に止まった車はゆっくりとその扉を開ける。私たちは車から降り、ルドルフさんの案内の下、国際線乗り場へ向かう。その途中でいくつかの店に寄り、両手でも抱えきれないほどのお土産を買ってしまった。ルドルフさんから日本トレセンで用意したお土産ももらったが、もはや飛行機に持ち込める量は大幅に超過している。結局いくつかのお土産は後で郵送してもらうことにした。

 

「楽しかった日本ももう終わりですね。一泊はやっぱり短いですよ」

 

 荷物の山からひょっこりと顔をのぞかせるクラーク。私はその山に埋もれないよう抵抗するので精いっぱいだ。

 

「確かにね。でも、これから何度か来れると思うよ。来る理由をルドルフさんたちが作ってくれるはずだから。更なる技術の進化、そしてウマ娘たちの成長を。……ルドルフさん自身も、ね」

 

 私は期待を込め、ルドルフさんの方を見て静かに言った。それに気づいたルドルフさんは目を見開いた後、深く頷く。

 

「必ず。また進化したものをお見せします」

 

 きっと彼女の下で日本の競争文化はさらに成長する。彼女は初代ビッグレッドのように強力なリーダーシップで時代を創っていくだろう。時代は動き出せば一瞬だ。アメリカもここ10年で大きく変わった。私がティアラ三冠を達成し、メディックファーガーが絶対的な記録を残し、そして二代目ビッグレッドが現れた。

 変化の兆しはまだまだ現れている。煌めく星はどこからともなく湧いてくる。

 

「楽しみにしてます。私たちももっと頑張らないとね。クラーク」

 

「ですね!」

 

 決意を新たに、私たちは搭乗口へ向かった。既にアナウンスは何度もされているし、そろそろ行かないと怒られてしまう。

 ルドルフさんと別れた後、無事に座席に着いた私たちはほっと胸をなでおろしていた。

 

「どう?今でも来るんじゃなかったって思ってる?」

 

 私はいたずらな笑みを浮かべ、クラークを見る。クラークはそんな私の表情に気づくそぶりも見せず、あっけらかんと言い放った。

 

「そんなこと言いましたっけ?」

 

 ズコー、っという感じだ。流石に飛行機の座席でそんなことにはならないが。

 

「次は1週間くらい泊まりますか」

 

「あなた最低でも4日は自由時間にするでしょ」

 

「むッ、ミラージュさん甘く見てますね。公務の日も1日は観光しますよ」

 

「誇るとこじゃないからね」

 

 飛行機はゆっくりと動き出し、滑走路に向かう。

 さらば日本、また来る日まで。

 

◇  ◇  ◇

 

 飛び立つ飛行機を展望デッキで見送る。そんな私の横に、あとから合流すると言っていたマルゼンスキーが並んだ。

 

「あーん、まいっちんぐね。渋滞に巻き込まれちゃったわ」

 

 マルゼンスキーは少し乱れた制服を正しながら、空高く上がっていく飛行機を目で追った。

 

「心配ないさ。再会は思っているよりも早いだろう。いや、そうさせてみせる」

 

「……いいことあったみたいね」

 

「ああ、夢について話してね」

 

 自分でも分かるくらい声に感情が乗っている。今日彼女たちと話したことで夢への思いはさらに強まった。

 

「でも、それだけじゃなさそうよ?」

 

 マルゼンスキーが楽しそうな声で言う。……どうやらミラージュさんだけではなくマルゼンスキーにも見破られているらしい。

 

「さて、私たちの場所に戻ろうか。私も励まなくてはな」

 

 足早に展望デッキを去る。来たばかりのマルゼンスキーには悪いが、今はこの足を止められそうにない。私の心は既にレース場にある。

 

「久しぶりに模擬レースでもやってみる?」

 

「ああ、お願いしよう」

 

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