オラリオで映画を作るのは間違っているだろうか   作:るい

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今日は二話投稿です。

本日一話目はシャーリーの過去編です。
投稿前はここから始めた方が良いかと思ってたんですけど、それだといつまで経っても本編(原作)には入れない。かといって全く書かないのも……となった結果、こんな形で少しずつ書いていこうかと思います。

また、今回オリキャラが出てきますが舞台装置的と言いますか、設定は微量に残りますが次回で退場なので世界観の崩壊にはつながらないかと思います。オリキャラが増えすぎると読みづらい方がいらっしゃるのは重々承知ですが、どうかお付き合いください。
(だって原作に吟遊詩人のキャラがいないんだもの……)

また、過去編の投稿の仕方についてアンケートを設置するので、ご協力お願いします。


001 昔々あるところで

 

 

 

 

 これは持論なのだけれど、人生は物語だと思う。

 

 誰もが自分を主人公とした物語を作っていて、それが完結した物であっても未だ制作中の物であっても、物語を知った誰かが影響を受けてまた別の物語を描く。

 けれど、一々物語の全てを伝えていてはあまりに冗長だ。だから、物語を編纂して伝える私たちみたいな人が世界には必要となる。

 

 そういう視点を持って『私』という物語を始めるとしたら、きっとあの日からだ。

 

 

 

 

 

 

 

 九歳の誕生日、何の前触れもなく父と母が蒸発した。

 

 

 別に、特段不仲だったというわけでもない。むしろ他所の家庭より家の手伝いを多くしていた分、家族仲は良好だったと記憶している。

 とはいえ、こうして置いて行かれている以上私は気づかないうちに両親に嫌われていたのだろうし、あくまで私の所感の話だ。今となっては実際どうだったのかはわからない。

 

 ただ一つ、純然たる事実としてハッキリ言えることは”私は実の親に捨てられた”ということだけだった。

 

 両親が失踪するのと時を同じくして、村では一つの騒ぎが起きていた。

 村の貯えがきれいさっぱり無くなったらしい。

 悪質で計画的な犯行であり、村の衆は皆怒りをあらわにしていた。しかし犯人は既に行方知れず、となれば次にその責を受けるのはその血縁者である私だった。

 親の後ろ盾を失い、空想の世界で遊んでばかりで横のつながりを持たなかった私を村に置き続けようとする者は誰もいなかった。

 

 この件に関して村の人たちを恨むつもりはない。

 悪党の子をいつまでも野放しにするわけにはいかないし、かといって食べ盛りの子供一人を引き取るような余裕ある家庭はあの寒村にはどこにもなかっただろう。暴力、奴隷、慰み者、処刑。そういった結果を辿らなかっただけまだ良心的だとも今は思う。

 

 しかし、高望みを承知で一つ文句を言わせてもらうのならば、天涯孤独な僅か九歳の少女は着の身着のまま無一文でいきなり世界に放り出されても生きる術を知らないと言うことにもう少し配慮して欲しかった。

 

 

 

 

 

「……死ぬ…………」

 

 私――シャーリー・ウォルバーグは、枯れた大地の上をノロノロと亀のようにゆっくり歩いていた。

 カンカンと照りつける太陽の日射しが痛い。陽光に慣れていない真っ白な肌が次々と焼かれて色を変えてゆく。

 

 村を追い出されて丸二日。

 あまりに怒濤の展開に感情が追いつかなかったのか「立ち止まっていてもしょうがない」と自分でも驚くほど素早く気持ちを切り替えて放り出された方角に歩みを進めていたが、行けども行けども行けどころか水たまり一つ見つからず、私の身体は水分不足に苛まれていた。

 喉はカラカラに乾き息をする度に痛み、潤っていた唇はカサカサの皮すらも残っていない。一枚残らず食してしまった。

 意識せずともフラフラと頼りなく動き続けている脚も、もはや限界のようだった。

 

 前に浮かせた右足が左足に引っかかり、バランスを崩したまま勢いよく地面に倒れ込む。

 既に目はかすみ、物は見えていない。頭上をかすめる風の音と、私の死体を狙ってグルグルと天高く回る鳥の影だけを感じられる。

 

 

(ああ、死ぬのかな…………)

 

 自らの終わりを悟りゆっくりと目を閉じれば、段々と意識までも薄れてゆく。

 身体から全ての感覚が失われていく中、最後に聞こえたのは甲高い嘶きと蹄の音だった。

 

 

 

 

 

 パチパチと火のはじける音で私はゆっくりと目が覚めた。

 

 うっすらと瞼を開き、光を取り戻した瞳に映り込んだのは煌々と輝く満月と、満天の星空。

 一体今自分がどのような状況なのか。それを考えることも忘れ、私はその光景にわぁ、と子供らしく小さな感動の声を上げた。

 

 

「おや、起きたようだね」

 

 目の前に広がる無数の煌めきに見入っていた私の耳に、誰ともしれぬ男の声が届いた。

 驚き、慌てて起き上がろうとしてフワリと毛布が巻き上がる。

 少なくとも、私はこんな物は持っていなかったはずだ。困惑した顔で先程まで身体を包んでいた布をつまみ上げた私に、男は耐えきれなくなったようにプッと軽く吹き出した。

 馬鹿にされたように感じ、軽く睨み付ける。

 

「はははっ!……ああ、わるいね。あまりに小動物みたいだったものだから」

 

 私の視線に気づいたのか、バツが悪そうに頭をかいて笑うその男は、この闇夜にも輝かんばかりの銀の長髪と尖った耳を持っていた。いかにも旅人という衣装を纏い、腹ばいになって寝入っている馬の腹を背もたれにして、傍らには小さな竪琴(リラ)を一つ置いている。

 彼がどういう人物なのか、物を知らない私でも直ぐに察することが出来た。

 

「あなた、吟遊詩人?」

「ん?そうだけど、それがどうかしたかい?」

「ううん、初めて見たから」

 

 「ふーん」と素っ気ない反応を返してエルフは枯れ枝を一本焚き火に放り込む。だが、その無関心を装った態度とは裏腹に、表情はあからさまに寂しげな物へと変わっていた。

 

 何か不味いことを言っただろうか。つい先程まで大きく口を開けて笑っていたエルフが、突然どこか遠くを見て黙り込んでしまったのだ。まだ彼がどのような人物かは分からないが、それ故に何かやらかしたのではないかと勘ぐりたくもなる。

 まるで別人とすら思える急変具合を目の当たりにして、ふと考える。もしかして自分はこういったミスを積み重ねて、親に捨てられたのではないかと。

 

「その、気に障ったなら――」

「ま、数も少なくなったしそういうこともあるか。それで、君はどうしてこんなところに?」

 

 気づけば口をついていた謝罪の言葉にかぶせるように、エルフの吟遊詩人はカラッとした笑顔を見せて質問を投げかけた。

 

 喜、憂、楽、と表情と雰囲気をコロコロと変える彼に私は戸惑うばかりで、どう反応することもできなかった。

 当惑を隠せず返事を返さない私に、エルフは「ふむ」と顎に手を置くと質問のためにほんの少し前に乗り出ていた身をあっさりと退く。

 

「まあ話したくないなら構わないよ。幼子だろうと人にはそれぞれ事情がある。じゃあ、どこまで行くつもりだったのかを教えてはくれないか?」

 

 過去への追求を止め、未来への展望を尋ねたエルフに、私はまたも返す言葉を持ち合わせていなかった。

 だが、おそらくは私を救ってくれただろう恩人に無視を続けるのはあまりに無礼だと思い、ぽつり、ぽつりと口を開く。

 

「行くところなんて、ない……です。居場所、なくなったから…………」

「そうか…………君が良ければ、僕と一緒に来ないか?」

「……いいの?」

「ああ。君の行き先までは送るつもりだったけれど、行く当てがないって言うんなら一緒に旅をしてくれると嬉しい。丁度、一人旅にも飽きていた所なんだ」

 

 私たちの距離を保っていた焚き火を大股で乗り越えて、吟遊詩人は手を伸ばす。

 

 

 ――――この手を取るべきなのか。

 

 ほんの一瞬、そんな疑問が頭をかすめた。

 旅についてかなくても人里まで送ってくれるって言うし、エルフは他人に触れられるのを嫌がるって聞いたことあるし、何よりこの人どこか変な人だ。助けてくれたのはありがたいけど、機嫌が一瞬で変わったりするし、普通こんな子供を旅のお供にしようなんて思わないし、ひょっとしたら善人を演じているだけで売られるのかもしれないし…………。

 

 手を取らない理由はいくらでも思いついた。

 でも、気づいたときには、私の手は前へと伸びていた。

 

 ソロソロと前に出された私の手を半ば強引につかんで、エルフは白い歯を見せてニッコリと笑う。

 

 

 ああ、()()()()()()()()

 どう考えても悪手だった。平穏無事安寧な生活が欲しいなら、この手を取るべきではなかった。村にいる頃にぼんやりと思い描いていた未来像がガラガラと崩れていたのを、今ようやく受け止める。

 

 この選択が他人から見ればどれだけ愚かしい物なのか理解している。

 分かっているのに、これから先の未来を思い心が高揚するのを抑えられない。引きこもりを続けていたにしては、意外にも私はお転婆の気質も持ち合わせていたらしい。

 いいじゃないか。元々、世界への憧れはあったんだ。切っ掛けと、勇気が足りなかっただけ。

 踏み出したからには、このエルフに付いて世界を見てやろう。

 変な興奮を感じながらそこまで考えて、一つ疑問を覚えた。

 

「なまえ。これから一緒にいるなら、名前を教えて欲しい」

「リュミエール。吟遊詩人(バード)のリュミエールだ」

「私はシャーリー。ただのシャーリー・ウォルバーグ。これからよろしく。あと……助けてくれて、ありがと。リュミエール」

「どういたしまして。そしてよろしく、シャーリー」

 

 遅くなった感謝の言葉に、リュミエールはこれまでで一番嬉しそうな笑顔を見せた。

 

 私の人生がどうなるのかなんてまだ分からない。分かるはずもない。

 けれど、間違いなくこの出会いは、私にとって初めての、運命の出会いだった。

 

 

 

「これからどこへ行くの?」

「取りあえず、君が進んでいた方向へ真っ直ぐ行こうかなと。村があるはず」

「そう。どれくらいかかるの?」

「早馬でも七日はかかるから……君のペースも考えて三週間?」

「えっ」

「ちなみに、途中に休むような水場はないから水分大事にね」

「えっ」

 

 前途多難な旅路に、私は早くもこの手を取ったことを後悔しかけていた。

 

 

 

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