オラリオで映画を作るのは間違っているだろうか   作:るい

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本日二話目(本編は一話目)です。

タイトル詐欺も良いところで、いきなりオラリオの外で映画作っています。

あと、魔法の名前考えるのって難しいですね。


お題「モンスターと仲良くなれる映画」

 

 

 

 

「メイク急いでー!」

「カーダルさんあと3……いや2分待ってください!!」

「セットここでOKですか―――?」

「もうちょい右~!ああ、行き過ぎだって!」

「ゲ!!小道具の杖折れてる!!」

「次使うシーンまでに直しときなさい!!」

「いいか!重ね撮り行くからカメラ動かすなよ!!」

「あれ?移動させながら撮るんじゃありませんでした?」

「ねえ、ホン落ちてたんだけど誰の――?」

「照明テスト入ります!」

集音器(マイク)どこ行った!?」

「レイさんメイク終了です!」

「が、頑張ります……!」

 

 オラリオから北へ進んだ先。人の手はほとんど入っていない山の中で、数十名の人員がてんやわんやと騒いでいる。

 飛び交う声には焦りと怒号が多く、現場の雰囲気はかなり殺伐としたものだった。

 

 縦横無尽に動き回るスタッフは全員がオラリオの冒険者。しかも全員一度は何かしらの冒険をくぐってきた、上級冒険者である。

 荒事を生業とする彼らの発する威圧感は凄まじい物で、『都市の憲兵』として通っている【ガネーシャ・ファミリア】の団員がほとんどだったとしても、モンスターは当然、一般人でさえ近づく気にはならないだろう。

 

 

 そんな恐ろしい空間の中心に、一匹の歌人鳥(セイレーン)がいた。

 

 一般的に悍ましいはずのその容貌は、どうしてか綺麗どころの多くなる冒険者達をもってしても美形だと言わしめるほどに()()()()()

 先端が青みがかった長い金の髪はかつて無いほどに整えられ、元は多少赤みの強かった素肌も白粉を塗られたのか色が抜けたように白い。モンスターでは目にすることもないチークやリップまで化粧されている。

 普段は女戦士(アマゾネス)が好むような()()()()()優美な金の体毛を惜しげも無く晒している彼女であるが、今はかなり露出の少ない衣装を纏い、金の脚の上にはズボンが重ねられ、人とかけ離れた鳥の足も靴で隠れているため、人への擬態はほとんど完璧。

 長い袖からはみ出る、歌人鳥(セイレーン)の最大の特徴である金の両翼にさえ目をつぶればまるでエルフの淑女のようですらあった。

 

 彼女には()()()()()

 

 ――――レイ。

 

 セイレーンから適当にもじられた名前ではあるが、当人は()()()()()()()

 

 通常のモンスターとは違う点はいくつもあるが、最大の相違点はここだろう。

 

 

 彼女には『理知』があるのだ。

 

 そのため、モンスターであれば殺意を抱くはずの、そして自分を殺せるはずの冒険者達に取り囲まれてもさして取り乱してもいない。まあ、自分がこれから担う大役に緊張してはいるが。

 

 予想よりも十分に余裕のありそうな『主演女優』にほっと安堵の息をつき、私は手元の拡声器(マイク)で撮影を開始する号令をかけた。

 

 『それじゃあシーン116の撮影を開始します。総員位置について下さい…………よーい、アクション!』

 

 

 

 

 

『貴方ハ、何のためニ戦うのですか?』

『俺は……力が欲しい、全部守れる程の、圧倒的な力が』

『それほど、お強いのニ……?』

 

 折り畳み式の小さな椅子に腰掛けながら、サングラス越しに金の翼を持つ女優の演技を眺める。

 

 私、ことシャーリー・ウォルバーグの前で繰り広げられているのは、一組の男女の語らいだ。

 カーダル演じる男は純然たる人間の英雄なのに対し、レイが演じる女は外法で人に姿を変えたモンスター。

 人とモンスター。決して交わってはいけない二つの存在が、身分を偽りながらではあるが寄り添いあう恋人のように肩を並べている。

 

 多少片言に、けれど重い口取りで男に戦う動機を尋ねるレイは役になりきっていて、顔には相容れない存在でありながら今も彼を騙して傍にいる悲壮さが。見つめる瞳にはそれでも離れられない恋慕う者への熱情が宿って見える。

 

 

()()()()()()、ねえ…………)

 

 『異類婚姻譚(メリュジーネ)』。

 本来なら精霊をヒロインとするはずのそれにモンスターを当て嵌めた物。

 それが今私たちが撮影している映画の題材だった。

 

 

 正直なところ、私は今年の『怪物祭』用の映画は失敗するだろうと考えていた。というか、今も考えている。

 

 そもそもこの『フィリア』シリーズを撮り始めたのは、ギルドに強制されてのことだ。

 

 6年前。突然ギルド……というか神ウラノスから呼び出しを喰らったかと思えば、実物を前にしながら動く骸骨に”喋るモンスター”異端児(ゼノス)の事情をペラペラと明かされ、

 

 ――――は、何、モンスターに理性?てか喋るの?地上進出ってムリじゃない?そのためにお祭りってどんだけ長い計画だよ――――

 

 と心の中とはいえつい粗暴な口調になるほど頭がごちゃごちゃと混乱しているところに企画を持ち込まれた。やらなければオラリオ追放という脅し付きで。

 訳も分からないまま流されて企画書を受け取ってしまったが最後、ことごとく私のツボを押さえてきたような友人謹製の脚本に思わず唸り、そのまま一年に一本のペースで作ってきて今回で5作目になる。

 

 けれど、そのどれもが好評とは言いづらい。

 怪物祭に乗じて撮影・上映される映画なだけあって、基本的には神ウラノスの真の目的であるモンスターと人類の友愛をテーマにした物がほとんど。去年の1回だけ、話すモンスター導入として随分とはっちゃけた映画(もの)も撮ったけど。

 

 人種どころか神も入り乱れる、ごった煮のような多様性に富んだオラリオで過ごす民衆でも、都市が推奨しているという理由だけでそれらを受け入れられるほど人類とモンスターの軋轢は浅くない。

 少ないながら創作物だと理解した上で鑑賞してくれる人はいるけれど、やはり題材を好んだというレビューは聞いたことがなかった。

 

 更に今回はついにぶっ込んだモンスターと人との『恋愛』。

 本編のほとんどは人に変装している設定、本来のセイレーンとはまるで違う美しい女優、かなりシナリオをモチーフ元から弄って悲恋に落とし込んだ結末、などなど。

 出来る限り不快感を減らす努力をしているとはいえ、都市の……いや、この世界の人間に受け入れられるわけがない。

 

『すまない、人に言うような話ではなかった』

『いえ。貴方ノことガ知れて、とても嬉しかった』

『君は……不思議な”人”だ』

『…………そう、ですか?』

 

 

(演技は、いいのになぁ…………)

 

 結ばれては、近づいてはいけないと知っていながら、恋を止められない女のいじらしいまでの執着を快演するレイを見て、一人悔恨の息を吐く。

 きっと今作に使われる彼女の演技が、私たちの映像技術が正当に評価されることはない。

 『良い』と思う前に、どこかで題材由来のフィルターが観客の脳内にかかってしまう。

 

 それだけを心底惜しみながら、私は二人の演技を目に焼き付け続けた。

 

 

 

 

 

 予定していた部分までストーリーが進んだところで『カット!』と撮影終了の令をかけると、ガヤガヤとつい先程まで息を殺して見守っていたスタッフ達が次の撮影への準備を始め出す。

 

 その様子を横目に見ながら、私は真横に置かれた小箱入りの水晶に触れて短く詠唱した(うたった)

 

 

「【開闢(かいびゃく)より終焉(しゅうえん)まで曝け出せ】」

 

「――――【ログエディット】」

 

 

 詠み上げたのは、私の背に宿った『記録魔法』。

 効果は『記録の抽出、切り取り、再生、編集可能』。

 

 都市どころか世界で唯一、見たままの動きを記録として起こせる【魔法】だ。

 

 

 

 フワリ、と『カメラ』と呼んでいる水晶をはめ込んだ小箱から白く発光する縦向きの巻物(スクロール)が飛び出してくる。

 魔法の説明欄に明確な呼び名はない。けれど業務上必要だったので、ファミリアでの育て親のセンスで『記録の光輪(フィルム)』と仮称させてもらっている。

 

 私はフィルムを指で挟むように優しく掴むと、正面に設けられた膨らみのある再生画面に場面が合うようにフィルムを回転させた。

 そろそろか、と思い手を離すと、五分ほど前に告げた『アクション』のかけ声が小さな音で流れ、主演二人の演技が映し出される。

 

「どう、出来のほどは?脚本兼助監督として納得いく?」

「うん。上々だよ」

 

 いつの間にか隣に並び立っていたアーディに尋ねると、視線は映像からよこさずに返事だけが返ってきた。仕事熱心なのは喜ばしいことだけれど、普段ああも喧しい友人がこう口数少ないと不安になる。

 まあ私も映像以外を目に入れてはいないので人のことを言える立場ではないんだけど。

 

 二人して映像チェックを行っている最中。背後に気配を感じて振り向けば、主演女優様が私達をジーッと見つめていた。きっと自分の演技を気にしているのだろう。

 カーダルさんはこのまま連続撮りだけど、レイは1シーン休憩だ。

 

 近年ようやく発達してきた映像界でも中々お目にかかれない好演技を見せてくれた女優に対して労いの声をかけてみる。

 

「良い演技だったよ。なんていうか、感情が乗ってた。恋の経験もあったりするの?」

「へ?…………な、ないですっ!ただ、憧れを想ってみて……」

「なるほど、憧れか。参考になったよ」

 

 からかいも交えた褒め言葉を捧げれば、随分とピュアな反応が返ってきて少し悪い気がしてきた。歳は近いはずなんだけど、精神的には私たちよりも少し下なのかもしれない。

 まあ、あんな迷宮(とこ)じゃあ情緒も上手く育まれることはないか。壁や魔石で増えるモンスターに恋愛観があるのかも怪しいし。と一人納得しながら魔法を解除して、レイとすれ違うように撮影現場に向かう。

 

 

 さて、ここで話題は変わるが、今私とレイは同じ衣装を着ている。

 当然、私服で双子コーデ――というわけではなく、必要に駆られてのことだ。

 必要があってヒロインの衣装を纏っている、ということは。

 

 

 

 はい、お察しの通り。私も演じなくてはいけないのだ。人に恋したモンスターを。

 

 演出上、衣装ではどうしても隠しきれないレイの美しい金の翼。

 魔法で人間に姿を変えたという設定上それを画面に残す訳にはいかず、後で映像を腕だけ切り取って上から合成するために多くのシーンを複数回撮影しなくてはならないのである。

 腕部分だけが必要とはいえ、雰囲気を保つために演者にはレイの演技に似せられる程度の演技力と、合成のために身体の位置・動作をC(セルチ)単位で重ねられるほどの記憶力と身体制御能力を必要とされる。

 

 そういった諸々の条件を考慮した結果、撮影に参加する【ガネーシャ・ファミリア】女性団員の中から見繕うよりも私自身が演じた方がよっぽど速いという結論に至った、というわけだ。

 

「あ、あ、あ!ゴブリン倒れる一階層!イグアス突っ込む下層域!」

 

 どうせ音声は使わないが、ブランクがあることも考え一応発声練習を何度か繰り返す。

 一分も経たないうちに及第点と呼べる声が出てきたところで、私はレイが最初に座っていた位置。カーダルさんが演じる英雄の隣に、恋する歌人鳥(セイレーン)として腰を落とした。

 

『あー、それじゃあ良いかな?各員撮影準備出来たらいくよー。わー、これ言ってみたかったんだ……!よーい、アクション!!』

 

 やがて、私の代わりに折り畳み椅子に腰掛けたアーディの妙に気合いの入った号令により、シーン116。合成用の二度目の撮影が開始された。

 

 

 





【ログエディット】
・記録魔法
・記録抽出、切り取り、再生、編集

詠唱文【開闢より終焉まで曝け出せ】


抽出可能量、作業持続時間、複雑さは魔力値に依存
切り取られた記録は抽出元から失われる
フィルムは縦の輪っか状で現れるが、長いわけではなく手に取って回せる程度の円周1周に収まっており、役割としてはフィルムというよりはDVD的



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