オラリオで映画を作るのは間違っているだろうか   作:るい

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皆様アンケートへの参加ありがとうございます。

今回は幕間的な話です。

この話で書き溜めが切れるので、今後は三日~四日間隔を目安に投稿していきます。
どうかお付き合いください。


歌人鳥(セイレーン)の想い

 

 

 

 

 映像をチェックするシャーリーさんとアーディさんの背を見つめながら、私は彼女たちとの出会いを思い返していました。

 

 

 

 7年ほど前のことだったでしょうか。

 『暗黒期』?とやらの地上での混乱がようやくある程度落ち着いたとのことで、ウラノス様の計らいにより私たちに【ガネーシャ・ファミリア】の方々との対面の機会が設けられました。

 

 敵意、困惑、嫌悪、恐怖。

 

 『喋るモンスター』という異様な光景に冒険者である彼らはそれぞれ複雑な反応を見せました。

 当然でしょう、生物は異端を嫌います。

 人も、怪物でさえも。

 

 しかし、その中でアーディさんだけが一歩前へと踏み出したのです。

 

「友達に、なれるんだよね?」

 

 種族として宿敵である私達を前にして、即断で何のためらいもなくにこやかに笑いかけた彼女は、もしかすれば私達よりも異端であるかもしれません。

 

 何はともあれ、差し伸べられた彼女の手を握り返した(私の腕は羽だから触り返したが正しい)ことが切っ掛けとなり、私達とアーディさんを始め【ガネーシャ・ファミリア】の上層部の方々との間には友誼が結ばれ、その後も適宜親交は深められていきました。

 

 

 

 そして出会ってから一年も経った頃に、その日は訪れました。

 

 

「どんなに過酷でも、地上を見てみたい?」

 

 すっかり『異端児(ゼノス)の隠れ里』の顔馴染みとなっていたアーディさんは、普段とはまるで違うひっそりとした声でそう尋ねました。私たちの意思を再度確認するように。

 

 私たちは一も二もなくその問いかけに肯きました。

 グロス達のように人間を信じていない同胞でさえも、彼女の真剣な眼差しに偽りを告げることはありませんでした。

 

 私達は皆、地上に憧れを持って生まれた怪物。

 地上の記憶を持ち合わせながら地下迷宮(ダンジョン)に産まれ直した異端児。

 どうして私たちのような存在が生まれたのかは知り得ません。壁に、地面に、天井に問いかけたところで母親(マザー)は何も答えてはくれません。

 

 私たちに役割を与えないどころか排除しようと同胞に襲わせる母親(マザー)の態度を、好きに生きてもいい、という使命からの解放だと私は受け取りました。

 そうであれば望むことはただ一つ。

 

 ――――地上への進出。

 

 今も熱くこの胸を焦がす憧れを。

 地上の景色を、この目で見たい。

 

 

 私達の想いを聞き遂げたアーディさんは、持ち込んでいたリュックから一つの魔道具(マジックアイテム)と水晶玉を取り出しました。

 

「私の友達が今『コレ』を作っているの。多分言葉だけじゃ伝わらないから、取りあえず見てみて」

 

 彼女がダンジョンのガタついた壁面に映し出したのは、『映画』というものでした。

 劇を基本に『神の鏡』という能力を模倣した、一つの新しい芸術なんだとか。

 地上での芸術の詳しい事情は知りません。

 けれど、初めて見る”ソレ”に私の視線は釘付けになりました。

 

 何やらロマンスを演じる人の奥に映されている、念願の絵画ではない地上の風景――――ではなく、『映画』という媒体に。

 知らない誰かの作り上げた作品に、夢中になったのです。

 

「多分みんないっぺんには無理だし、断られるかもしれないけれど、コレの制作を手伝えるなら君達を一時的に外に連れ出すことも――」

「やらせてくださイ!!!」

 

 気づけば叫んでいました。

 

 

 

 

 

「え、なに、どういうこと……!?」

 

 残念ながら、アーディさんに連れられてやってきた彼女との間柄は直ぐに仲良く、というわけには行きませんでした。

 

(この方ガ、あの『映画』ヲ作っている方…………!)

 

 フェルズから私達の説明を聞き、混乱の極みにいるシャーリーさんを前にして、私は興奮の極致にいました。

 

 シャーリーさんに出会うまで、譲ってもらった映写機といくつかの水晶で彼女の作品を見続けました。

 流石に隠れ里の移動中や、迷宮での仕事中には見られません。しかし暇を見つけては壁に映し、彼女の作り出す世界に魅入られ、見入っていました。

 そんな憧れを超えて崇拝の域にいる創造主を前にして、どうして心落ち着かせられるでしょうか。落ち着くわけがありません。

 

(アーディさんニ聞いて想像していたよりも小さいのですネ。美しい顔と相まって可愛らしいです。なんて綺麗な髪ヲしているのでしょウ、まるで18階層大森林の深緑のよう。

 ああ、その頭の奥ニどんな考えヲ持っているのでしょウか。どんな考えデあの映画ヲ撮っているのでしょウか。知りたイ。聞きたイ。語りたイ!)

 

 多分頭の中はこんな感じだったと思います。

 胸が一杯一杯で喋ることの出来ない私に代わり、リドが私達が話し合えることの証明をしている間、私はずっとシャーリーさんを見つめていました。

 

 おそらくまだ心情の整理はついていなかった彼女は、フェルズからアーディさん謹製のストーリーを流されるように受け取りました。

 ボーッとした表情のままそれを読み進めていくシャーリーさんでしたが、次第にその顔つきが真剣な物へと変化していきます。

 交わす言葉のなくなったその瞬間、本題を切り出したのはフェルズでした。

 

「君には、彼らを起用してモンスターとの友愛をテーマにした映画を作ってもらいたい」

「起用?役者にってことで良いんだよね、えっと……」

「フェルズだ。その認識で間違いない」

「…………ムリ、かな」

「どうしても、か?ちなみに、君が断った場合管理機関(ギルド)として会社の無期限活動停止措置なども考えているのだが」

「は!?」

「何ヲ言っているノですカ、フェルズ!?」

 

 ここまで一度も言葉を発していなかった私でしたが、フェルズの情け容赦ない脅しに思わず会話に割って入ってしまいました。

 突然叫んだ私に驚いたようにのけぞるフェルズに、私は怒り心頭のまま言葉の嵐を浴びせていました。

 

「貴方ハあの映画ヲ見て何も思わなかったノですか!あれほどまでニ素晴らしい作品を作り出せる方ニ意に沿わぬ創作ヲ強制させるなどなんという侮辱ヲ!映画ヲ失うことガどれほどの損失か分からなイのですカ!私達ノ都合で彼女ノ活動ヲ止めさせて良い道理など存在しませン!!」

 

 わめきちらしたことに後悔はしていません。

 シャーリーさんの目の前で恥をかいたとは思いますが、きっと今同じ場面を繰り返したとしてもあの言葉には言い返さずにはいられないでしょう。

 

 迸る映画への熱い思いを吐き出し、息を切らす私の背にシャーリーさんは小さく問いかけました。

 

「見て、くれたの…………?」

「!…………はイ。あの、その…………素晴らしかっタです!!」

 

 もっと伝えたい言葉はあったはずなのに、何を言おうかと考えて結局出てきたのは一言だけの感想でした。

 

 しかし、私のその言葉だけでシャーリーさんはとても嬉しそうに笑ったのです。

 花が咲いたように、あどけない少女のように、笑ったのです。

 

 あまりにも綺麗なその笑顔に、私は映画を見る時のように見惚れました。

 

「そっか、ありがとう!貴方のその言葉で、また頑張れるよ。アーディ、貴方のとこは何人()()()()のことを知っているの?」

「え?うーんと、十人くらいかな」

「それじゃあ足りないかな。役者も兼業になるから最低でも二十人は欲しい。いや、都市に残す人のことを考えたらもっとか」

「じゃあ――――!!」

 

 顔を輝かせ浮き足だった声を上げるアーディさんに、シャーリーさんは力強くうなずきました。

 

「この依頼受けるよ。作品の幅が広がるのも事実だしね。人数的に難しいかなとも思っていたけれど、このセイレーンの言葉でやる気になれた」

「私、ですカ……?」

「そう。このホンじゃあまだ無理だけど、いつか貴方を主演にしてみたいと思うくらいには貴方のことを好きになっちゃった」

「ス、好き!?」

「モンスターのファンなんて貴重だしね。大事にしなきゃ」

 

 照れたようにはにかむ彼女を見た時にはもう、私の心はあの方の物でした。

 いいえ、映画を初めて見たときから、心は掴まれていました。

 

 ――――この方の役に立ちたい。

 

 地上への憧憬よりも、この想いが強くなりました。

 

 

 こうして出会ってから、私はシャーリーさんの期待に応えるために演技の勉強を始めました。

 映画とはまた種類が違うそうですが、既に何冊か書籍の出ていた歌劇や鑑賞劇の教本をアーディさんからいただき、文字を教わりながら読み進め、少し片言だった言葉もできる限り人間の方々が話す物に近づけ、次々と公開される新作の映画を運んでもらっては演技を盗み。

 

 そうして私は今、主役としてこの場に立っています。

 言葉を矯正した成果を発揮する場面はありませんでしたが、逆にかつて片言だった時期が役に立っています。

 私がモンスターであるという変えられない事実は、この翼を使った大胆なアクションに活用できています。

 主人公に恋い焦がれるモンスターの気持ちも、シャーリーさんへの想いを重ねることで共感できています。

 

 演技とは役者の人生を重ねることだと本で読みました。カメラの前で演じていて、その通りだと実感しています。

 一人では演劇は作れないと読みました。スタッフとして動いている方々の尽力のおかげで、こうして地上で演じることが出来ています。

 他人の演技を盗むことで役者は成長すると書かれていました。

 

 だから、目の前で私と同じ役を同じように演じるシャーリーさんを見つめます。

 

 この方からだって、手に入れられる技術が沢山あります。

 

 まだまだ、私は成長でいます。もっと演じて、貴方の役に立てます。

 

 だから――――もっと私を見てください。

 

 演技を終えたシャーリーさんと、目が合いました。

 

 

 

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