オラリオで映画を作るのは間違っているだろうか   作:るい

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やっぱりダンまちは『彼』がいないとね。


今回スタジオ制作品にパロディがあります。今後も特段ストーリーに絡まないような作品はこんな感じです。ご了承願います。


路地での再会

 

 

 

 

 エンドクレジット含め60分という短めな尺とはいえ、映画一本の外ロケを移動含め僅か7日間で終わらせるという狂気の沙汰も良いところな弾丸撮影を終えて、シャーリー達『フィリア』シリーズ制作班はオラリオへの帰路についていた。

 これほどの短期間で撮影を終えられたのは、主演たるレイやカーダルらの尽力あってのことだろう。ほとんどNGを出さずに演技をし続けた主演二人に感謝していないスタッフは存在しない。

 外での撮影終了を迎えた二人を取り囲んだのは、万雷の拍手であった。

 

 とはいえ、まだ都市外での撮影が終了してのみで、オラリオに戻ってからもしばらくはセットや建造物貸し切りでの撮影は続く上に、なにより…………編集作業は依然課題として残り続けているのだが。

 

 

「ねえ、ちょっと、休まない…………?」

「わかった。アーディも三日は寝てないしね。ゆっくりしてて」

「寝不足より……馬車での映像はちょっと……うぷっ」

「横になったら?」

「そうする…………」

 

 星々が瞬く夜空の下。舗装もされていない、ただ踏み固められただけの田舎道を進む馬車の荷台の上。

 襲い来る吐き気に顔を青くしながら必死に耐え、乙女の尊厳を守ろうとするアーディを横に、シャーリーは一人この映画とは別の作品の編集を進めていた。

 アーディに比べればその顔色は涼しい物で、激しい振動を伴うこの環境にもさして不都合を感じていないことが見て取れる。

 宣告通り力なく揺れる馬車に寝転んだ友人を見て、シャーリーは別に屋外だからいくら吐瀉物をまき散らそうとさして迷惑もかからないのに、などと思う。ただ、それが一般的な感性とは外れていることくらいは知っていた。

 

 『記録の光輪(フィルム)』を前に次々と指を横に滑らせて、水晶に残る記録から不要な部分を切り出す作業を続けるシャーリー。

 辛いとは思いながらも、シャーリーの前に映し出される『鼠人(マウスロープ)』の可愛くデフォルメされた絵を意味も無く眺めていたアーディはか細い声で問うた。

 

「それ、『マッキー』の新作?」

「そう。多分公開は……再来週の週末になるかな。作業は多いけど視点(カメラ)は一つしかないから考えなくて良いし、無になれるよ」

 

 

 

 ――――『マッキーマウス』。

 

 三年前からオラリオに綺羅星のごとく訪れた『絵物語(アニメ)』という文化の代表作である。

 

 暗黒期最大の戦いである『大抗争』を乗り越え、映像文化が都市に出始めて四年。映像という作品媒体にもすっかり親しみを覚えるようになった当時のオラリオは新たな刺激を求めていた。

 そんな時だ。シャーリーの会社で働く一人の男が、何枚もの絵を連続的に見せることで絵を動かせるということを発見したのである。

 

 唯一の記録魔法所持者であり、全ての映像作品の編集を担うシャーリーへの負担が半端ないので、初め彼女はアニメへの着手を固辞した。

 だが、自身の心身を思っての反論は、作品としての面白さを前にすぐに沈黙へと移り変わった。

 試験的にバベルで流してみても好評。新作を出さなければ今にも暴動が起こりそうな事態に発展したため、仕方なしに新事業として大々的に制作を宣言したわけである。

 その後、映像化の権利を巡って色々と騒動が起こるのだが、ここでは触れないでおく。

 

 

 過去はともあれ、今はオラリオ全域で楽しみにされている『マッキー』の未発表作。そんな特別な物を前にして、アーディはすっかり元気を取り戻したようだった。

 ヒュッと勢いよく起き上がり、シャーリーに頬を寄せ、妹パワーを全開にしてお願いする。

 

「わー!見せて見せて!」

「いいけど、音も付いてないし滑らかには動かないしで分かりづらいと思うよ?」

「それでもいーからさ!」

 

 しょうがないな、というように眉を曲げ、シャーリーはフィルムを指で挟んで巻き取り始める。

 まだ編集中のためカクカクとした動きではあるが、それでもまるで生きているかのように歩き、驚き、怒るその鼠人(マウスロープ)の絵に逐一アーディは大げさに反応した。

 

 マスコットのような容貌の”彼”の活躍を目にしてはしゃぐ姿は無邪気な子供のよう。

 アーディの純粋さと子供らしい感性が顔を出しているだけに見えるが、意外なことにこれはオラリオ住人にとって絵物語(アニメ)への当たり前の反応だ。

 

 大人だって、子供と同じようにハラハラな展開や動くイラストにワクワクしたいのだ。

 実写ではどうしても出来ることは限られるが、アニメに限界はない。腕を伸ばしたり、急激に大きくなったり小さくなったり。想像力さえ働けば無生物に人格を与えることも出来る。

 

 制作という立場にいるシャーリーは、アニメを前に騒ぎ立てる観客に多少なりの共感はあれどここまで強い反応を見せることはない。むしろ度重なる編集作業でアニメに対し少しトラウマ気味でもある。

 しかし視聴者のこんな姿を見る度に、まあ作って良かったかな、なんて思うのであった。

 

 フィルムを巻く手は止めず、一度瞼を下ろしてにこやかに告げる。

 

「じゃ、これ見終わったら作業再開だね」

「え”」

「当たり前だよ。時間ないんだから」

「うう……マッキーに勝って欲しいけど勝って欲しくない」

 

 アーディの願いむなしく、フィルムを巻き続けた末にやたらとゴツい山猫モデルの猫人(キャットピープル)に勝利してマッキーは物語を終えた。(まだ音声は入っていないため幻聴ではあるが)画面の奥で笑う彼の特徴的な『ハハッ!』という裏声のような甲高い笑い声が、彼女には地獄へ誘う声に聞こえた。

 対して、身の回りについては非情にずぼらでありながら仕事には滅法ストイックなシャーリーとの編集作業は終わらない。

 

「ここは、うーん……2カメかな?」

「えと…………3カメじゃない……?」

 

 再び自身の胃と喉を襲う吐き気と戦いながら、アーディは願う。

 

(はやくオラリオに着いて…………!!)

 

 オラリオまであと3時間半。

 路上の石に引っかかり、馬車はまた大きく揺れた。

 

 

 

 

 

「本当に大丈夫?」

「これでも第二級冒険者だよ。木箱の一つや二つくらいなんでもないって」

「いや、そうなんだけどシャーリーの場合ちょっとそれを信用するには……」

「今は私よりもレイのことを気にしなよ。バレたらまずいでしょ?」

「うーん……わかった。気をつけてね」

「ん。レイに明後日からもよろしくって伝えておいて」

 

 オラリオに着いて直ぐに、シャーリーは北の都市門で【ガネーシャ・ファミリア】と別れた。

 深い理由はない。ただ煩雑な入都市手続きに付き合うのが面倒だっただけである。

 やたらと細かい書類雑務はオラリオの治安維持ないし一般人の出入り検査さえ担当している彼ら(プロ)に任せて、シャーリーは荷物を抱えて西の編集室(エディットルーム)へと向かっていた。

 

 自らの手荷物によって視界を塞がれた彼女は、なるべく人通りの少ない道を行こうと路地を一人歩く。

 

 オラリオから容易には出られない上級冒険者という立場でありながら様々な背景を必須とする映像作家として長年活動してきたシャーリーは、オラリオの地理であればほとんど知り尽くしている。

 彼女の脳内にはあのダイダロス通りですら正確な地図を作れるほどにオラリオの景色がインプットされているのである。

 しかもこの第八区画は本来の彼女の本拠(ホーム)である『黄昏の館』をその領域内に持つ、いわば地元の道。シャーリーならば目をつむってでも歩いて目的地へ辿り着ける。

 

 更に、シャーリーが現在腕の中に抱える荷物はわずか木箱二つだ。彼女自身が口にした通り、第二級冒険者が持つには羽のように軽く、『恩恵』の昇華を果たしていない下級冒険者ですら苦とも思わない重量。

 

 この二つの要素のせいで、シャーリーは油断をしていた。

 

 

「お前みたいなナヨッちい奴はお呼びじゃねえ!!」

「あうっ!!」

「えっ?」

 

 正面斜め右。どこぞのファミリアの本拠(ホーム)から不意に飛び出してきた――――吹き飛ばされた少年を避けきれずに、シャーリーと少年は衝突する。

 

 冒険者特有の『力』で壊れないように緩く抱えていた木箱が、勢い余って前方の宙を舞った。

 中に詰まっていた水晶が飛び散って、建物に囲まれた路地の狭い空を埋め尽くす。

 

 

 瞬間。

 長らく使っていなかったシャーリーの冒険者としての超人的身体能力が目を覚ました。

 

 瞬時にして自身と木箱、そして水晶の距離を目算し、全ての水晶を回収しきる最適ルートを脳内で叩き出す。

 

(箱二つは取れない!一個で納めきるしか……!)

 

 即決即断。逡巡を一秒にも満たない時間で終え、まだ自らの足下で尻餅をついている少年を邪魔にならないように少し力を込めて蹴飛ばし、シャーリーは壁を踏み台に斜めに飛び上がる。

 彼女に空中機動の術はない。どれだけ無駄な力を使わず、着地までの時間を短縮して飛べるかが勝負だった。

 

 およそ三M(メドル)上空の木箱を掴み取り、周囲一帯の水晶を虫取り網の容量でまるで吸い込むように回収。身体を垂直にして落下速度を上げ、届かない水晶よりも先に着地。即座に石畳がひび割れ陥没するほどに力強く蹴り出し、残る水晶の下で待ち構える。

 トントントントンッ、と小気味良い音を立てながら、球という転がりやすい形をした水晶が『器用』のアビリティの力で崩れることなく積み重なっていく横で、バキィッ!という破砕音が鳴り響いた。

 彼女が手に持っていないもう一箱が落下エネルギーに従い、砕けたのだ。

 

 ガチャンッ!という硬質な物が割れる音がしないことに安堵を覚えて、「ふぅっ」と止めていた呼吸を戻し空気を吐き出すシャーリーの耳に、ポスッ、という小さな音が届いた。

 

「――――ッ!?」

「ひっ!?」

 

 まるで梟かそういう化物かのように、首だけを百六十度グルリと回転させて音の正体を突き止めようとシャーリーは勢いよく振り向いた。

 

 目を血走らせ、息を荒げ、何より人とは思えない挙動でこちらを見据えた、本当は綺麗だろうお姉さんに思わず恐怖の悲鳴を漏らした白髪の少年の手の中には、傷一つ無い水晶玉が収まっていた。

 

 

 

 

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