※最初の方は会話パートまでスキップしてもらって大丈夫です。
メイド。それは、清掃や炊事など、家庭内の労働を行う女性使用人のことを指す言葉である。メイドと類似した職業としては、女中や家政婦などが挙げられる。就業形態や歴史的経緯の観点から見れば多少の差異はあれど、大体同じような意味を持つ。ちなみに男性の場合、よく聞く執事ではなくボーイだとかフッドマン辺りが該当するのだとか。ややこしい。
さて、ここからはメイドの文化的側面を見ていこう。メイドと言えば、典型的な服装としてカチューシャと白黒のエプロンドレスを想像することだろう。コスプレの題材として取り上げられることも多く、メイドに扮した店員が客を主人に見立てて給仕するメイド喫茶まで存在することから、その人気は根強いものだと考えられる。
また、ビジュアル的な人気と、メイドと雇い主と言う独特な関係性も手伝い、二次元作品のコンセプトとなっていたり、あるいはメイドモチーフのキャラクターとして登場したりすることも散見される。そして、創作におけるメイドの概念の一つとして、武装メイドが挙げられる。暗器を仕込んでターゲットに悟られずに任務を遂行する暗殺者のようなタイプや、従来の仕事に加えて主人の身辺警護も担うタイプなど、その種類は様々であるが共通しているのは、妙に強いこと。この前のC&Cメッチャ強かったわ。と言うか、調べた情報全然役に立たねえな。只々俺がメイドに詳しくなっただけじゃん。どこで使うんだよこの無駄知識。いや本当、どうしようか。
「と言う訳です、先生」
「何がどういうわけなの?……それにしても、トマリってメイド趣味だったんだ。へ〜」
「なんすかその人の神経を逆撫でする顔。これは俺の趣味とかではなく……」
「ねえねえアリス、見て〜。じゃ〜ん!メイド服〜!」
「ひぃっ!?」
「あはは、いい反応!」
「何してるのお姉ちゃん!もう、アリスちゃんが怯えきってるじゃん!」
「ちょっ、危ねぇ!?……このためです」
「あ〜、トラウマになっちゃったかあ」
「あ、アリス、メイド服はしばらく見たくありません!」
メイドを目にする度に後ろから突撃されてたら、俺の身が持たないんだよ。そもそも俺の後ろなんて隠れても無意味だし、隠れるならキヴォトス人の後ろにするべきだ。
「あの、建物を壊しちゃった件について、生徒会のところに行ってきたんだけど……幸いなことに、『事故』として処理してもらえたよ」
「嘘っ!?もし部が存続したとしても、部費は諦めてたんだけど……」
「わたしじゃなくて、C&Cの方で処理してくれたみたい。それとネル先輩から『また会おう』って伝言が……」
「ひぃっ!?」
「ああ……折角落ち着いて来てたのに。それと服伸びるから、上着の内側に入って来ないで」
一張羅だから普通にやめてほしい。代わりに先生が何でも言うこと聞いてくれるらしいから。あ、やっぱり駄目?
「ミレニアムプライス、始まったね」
「もし受賞したらクラッカー鳴らそっか。もし、そうじゃなかったら……」
「……考えたくないけど、荷造りしないとね。私たちはともかく、ユズちゃんとアリスちゃんは……」
「……」
「……」
何この雰囲気?廃部になるだけじゃなかったのか?その二人に何かあるのか?
テレビ画面にミレニアムプライスの授賞式会場の中継が流され始めた。司会者によると、今回の応募作品数は過去最多らしい。応募作品の例で挙げられているものは変ちくりんなものばかりだが、ゲーム開発部の作品にもブーメランが返って来るので何も言えない。今回の応募作品の内、受賞されるのはたったの7作品であり、7位から順番に発表されるようだ。説明が終わるや否や、受賞作の発表が始まった。
徐々に埋まっていく空欄、呼ばれないゲーム開発部の作品、いよいよ1位まで発表された……が、テイルズ・サガ・クロニカル2の名は呼ばれることはなかった。
「きゃあっ!本当にディスプレイを撃ってどうするの!?」
「うえぇぇん!今度こそ終わりだあぁぁぁ!!」
「うぅ……結局、こうなっちゃうなんて」
「え?次、頑張ればいいんじゃないのか?」
「それはそう!そうなんだけど!でも……」
「うん……だって、ここを追い出されたら、ユズちゃんとアリスちゃんは……」
「……心配しないで、ミドリ。わたし、寮に戻る」
「えっ?」
過去に何があったかは聞いていないから分からないが、今の会話の流れから、ユズさんがクソゲーを作ってしまったことがあることは分かった。クソゲーかぁ。クソゲーはなぁ……クソゲーにも種類があるからな、うん。話の流れからして、笑えないタイプの方作っちゃったかぁ。
「ただアリスちゃんは……」
「……え?戻る寮もないのか?うーん……先生、どうにかなりませんか?」
「……うん、私に任せて。アリス、シャーレに来る?」
「……」
流石にこう言う場面では、先生は頼りになる。そもそも戻る寮がないこと自体に違和感はあるけど。先生のお陰でとりあえず最低限、家無き子にはならずには済みそうだが……
「いえ、先生のことは信じられますから。それに、トマリもいますし」
「俺、シャーレにいないんですけど」
「えっ?と、トマリまでいなくなるのですか?そんな……もう、みんなで一緒に……いられないんですね……」
「ううん、トマリもシャーレに移住するよ」
「ごめんね……アリスちゃん!トマリ君もシャーレにいるし、私も毎日シャーレに行くから!絶対に!どこに行っても!一緒にゲームを作ろう!」
「や、やっぱり嫌!アリスは私の部屋に連れていく!ベッドも一緒に使って、ご飯も二人で分けて食べるから!」
「わ、私の分もあげるっ!」
「二人とも、先生を困らせないであげて……それに、もしそのことがバレたらモモイもミドリも……」
シャーレへの引っ越しが勝手に決まってて草。いや、俺としては移住するつもりは更々ないが、本当に必要そうならまあ。これ、ユウカさんに言ったら融通してくれそうだけどな。あの人ちょろ……優しいから。
悲愴感漂う部室から一時退避しようとドアノブに手を掛けたその瞬間、目前にドアがあった。
「ゴハッ!?」
「モモイ!ミドリ!アリスちゃん!ユズ!……あ、トマリいたんだ。ごめん」
「俺の扱いが段々軽くなってない?」
「まあいいでしょ!今はそんなことより……」
「ちょ、ちょっと待って!そんなすぐになんて!」
「悪魔め!生徒会に人の心は無いわけ!?」
俺の怪我をそんなことって言った?いや何か君、ちょっと興奮しすぎじゃないか?
「おめでとう!」
「え、え?」
「あ?受賞を逃したのに?」
「何言ってるのトマリ?結果、見てなかったの?」
「私たち、7位以内に入れなくて……」
「はぁ?今も放送中なんだからちゃんと見てみなさいよ……ほら、見てみて。私もスマホで見てて、途中で走ってきたの」
「だからあんな痛ましい事故が……」
「そんなふざけた言い方ばかりしてるから、対応が雑になるのよ」
「誠に遺憾であります」
「──った点を評価して、この作品に今回、ミレニアム『特別賞』を授与します」
「マジかよ。やったじゃん」
「え……あ……」
「本当におめでとう!私もプレイしてみたんだけど、まあ決して面白いとは言えなかったけれど……良いゲームを遊んだ後の、あの独特な感覚が味わえた」
「モモ、ミド!あたしもやってみたよ!すごい面白かった!ネットでも大騒ぎで、有名アイドルの名前よりも検索数が多くなってるってさ!」
なるほど、それは素晴らしい報告だ。ところで君、突然現れたけど誰?いや、ここにいる誰かの友達なんだろうけどさ。あまりにも自然にいるものだから。
アリスさんによると……えー、ダウンロード数もコメント数もめっちゃ増えたらしい。具体的な数値をほとんど端末も確認せずに暗記していたが、俺は覚えていない。若い子の記憶力は凄いな!
「えっと……っていうことは、廃部にならないんだよね!?」
「ええ、そうよ。あくまで、臨時の猶予だけど。正式な受賞ではないけど、生徒会としては来学期まで、ゲーム開発部の部室の没収及び廃部を保留する事にしたの」
「おお……そう言えばユウカさんってこれで生徒会だった」
「コイツっ……トマリは後でしばくとして」
「痛い痛い痛い!暴力は駄目だろ暴力は!」
「あはは……ユウカを怒らせるから……」
「フンっ……その、ごめんなさい。ここにあるゲーム機のこと、ガラクタって言って……」
ああだこうだ言っても、素直に自分の非を認めて謝罪ができるのはユウカさんの美徳である。出来ない人は全くしないし、立場が上になるほどしなくなることだから。それはそれとして暴力は駄目です。……待てよ、銃器を使わないだけ、キヴォトスでは相当マシな気がしてきた。
「ありがとう。それじゃあ、手続きは必要だから、落ち着いたら生徒会室に来てね!じゃ、また後で!」
そう言うと、ユウカさんは部屋を小走りで出て行った。そう言えば、ゲーム開発部の友人らしき赤髪の子もいなくなっている。何時の間に?
「やったあぁぁっ!」
「良かった!」
「おめでとう!」
「え、えっと…………つまり……アリスはこれからも、みんなと一緒にいて、良いのですか?」
「うんっ!これからもずっと一緒だね!」
「私も……私も嬉しいです!これからも、よろしくお願いします!」
ゲーム開発部の4人+1人で互いに抱き合って感涙している光景は、正しくハッピーエンドに相応しいスチルだと言えるだろう。
トマリ君?円の外です。異物混入はなかった。