破壊って聞くと、どうしても環境破壊ってワードが頭を過ぎります
精神的な疲労が大きかったのか、ヒフミさんを一目見たナギサさんは、途端に意識を失ってしまった。そのまま地面に衝突させるのは忍びないので、倒れる前に支えておく。流石に俺もそこまで鬼ではない。道中で色々あったのだから、そうなっても仕方ないだろう。ここはしっかり休んでおいて貰おうではないか。基本的に戦闘では役に立たないし。
「これは……少し困ったことになりましたね。ナギサさんから正義実現委員会に連絡して貰おうと思っていたのですが……」
「別に誰が通報してもいいのでは?」
「それは間違ってはいないのですが……やっぱりティーパーティー直々に命令を下していただいた方が確実なので」
「成る程。……お嬢ー!!起きろください!出番ですよー!」
「ちょっ、雑!?アンタ、何やってるのよ!?トリニティのトップの扱いが雑すぎるわよっ!?」
「少なくとも、依頼を引き受けた護衛対象の扱いじゃないよね…?」
「でも全然起きないっすね。……よーし、手洗い場って何処にありましたっけ?」
「待って!?待ってください!?ナギサ様に何する気なんですか!?正義実現委員会にはコハルちゃん経由で連絡できますから!ねっ!?コハルちゃん!?」
「わ、わかったわ!私がハスミ先輩に連絡するから!ハナコっ、それでいいわよね!?」
「私としてはトマリさんがナニをするか興味があるのですが…♡それでも構いませんよ?」
補修授業部が思ったよりも、ナギサさんに優しかった。正直もっと不満があるのかと思っていたんだが。寧ろ俺が責められている流れなのが誠に遺憾である。そもそもの話、誰がナギサさんを気絶させたのかを考慮するべきであろう。
「やはり諸悪の根源はヒフミさんか……」
「だからなんでそうなるんですか!?」
「相変わらず、トマリがいると雰囲気が全部破壊されていくよね……」
「アンタって、ずっとこんな調子なのね……」
「ふっ、破壊神と言ってくれてもいいんですよ?」
「トマリさんは改心する必要はありますよね」
「ぬかしおる」
最近は慣れてきたのか、ヒフミさんも割と辛辣な物言いをするようになってきた気がする。これも悪い大人の仕業か?大人になるって言う事は、汚れていく事と同義なのかもしれない。それ即ち、先生は汚いってことだな。
「絶対また余計な事を考えてる顔ですよね」
「大人になるのって、悲しい事なんですね……」
「ほらやっぱり……」
「アンタがいると、ホンット話が進まないわね!?」
「トマリも一歩、成長したんだね」
「先生も話に乗らないでくださいっ」
さて、誰が悪いかなんて考えても仕方ないので、
「その通りです」
「寝ているナギサ様はどうしますか?」
「えっと、確かこっちに隠れていてもらうのよね、ハナコ。……ハナコ?」
「浦和さんなら、結構前に出て行きましたよ?」
「なん、えっ?いつの間に……」
「本当だ。いないね」
「気付きませんでした。……トマリさんって、意外と周り見てますよね……」
「『意外』は余計なのでは?」
一言付け加えるだけで褒め言葉が真逆の意味と化す。言葉選びって難しいよな。普通に体育館から出て行く浦和さんと目が合ったし、何なら奴はウインクまでして行ったぞ。まあ一言ぐらい声を掛ければ良かったのでは?とは思うけど。悪戯のつもりか?
暫くして、アズサさんを伴って浦和さんが体育館に戻ってきた。手筈通り、アリウスの敵集団を引き連れて。
「……なるほど、逃げたのではなく待ち伏せだったと。だが、たった4人でどれだけ耐えられると思っているのだ!大人しくターゲットの居場所を吐け!」
「言うと思うか?」
敵数はおよそ40……いや、50人近くはいるか?人数だけで見れば、ざっと10倍ほど。普通に考えれば、大ピンチである。普通に考えれば。
「こんばんは。待ってたよ」
「シャーレの先生と……ターゲットの護衛のイレギュラーか」
「こちら、補修授業部の担当兼、シャーレの顧問の先生とおまけの護衛です♡」
「どうも、おまけです」
先生と比較すれば、俺の存在は誤差みたいなもの。その度合いは食玩に付いてくるガムより小さいだろう。あれは名目上では玩具の方がおまけ扱いらしいので、その実態に反して中々重要な役割があるのだ。
「探す手間が省けてちょうどいい。あの護衛はサブターゲットとして、ここで確保する」
「どっちにしろ、おまけじゃないですか」
「関係ない。先生、指示を」
「わかった。それじゃあ補修授業部、行こうか」
現場を指揮していた最後のアリウス生が、アズサさんの射撃によって倒れた。戦力差を物ともせず、それどころか危なげなく勝利した補修授業部。終わってみれば、ものの10分も掛かっていない。素晴らしい戦果である。
圧倒的な劣勢にも関わらず、当然のように敵勢力が軒並み床に伏せる結果になったのは、一重に先生の功績が大きいだろう。何せ先生の指揮に掛かれば、相手の攻撃はほぼほぼ通らないのに対して、味方の射撃は面白いように命中する。その精度は未来予知ができると言われても、冗句と笑い飛ばせないレベルである。
「全員戦闘不能。味方に目立った損傷は……なし」
「みんな、お疲れ様。私達の勝ちだね」
「あうぅ……先生の指揮がなかったらどうなっていたことか……」
「まあ……間違いなくボコボコにされてたでしょうね」
「怖いこと言わないでよっ!?」
アズサさんを除く3人は一般生徒であるのに対して、相手は戦闘訓練をしっかり受けているであろう専門の部隊だ。トラップや地の利を十全に生かしたとしても、撤退成功できれば御の字だっただろう。定石ならまず戦う事より、無事に逃げ切る事を考えるべきである。
「ふぅ……では、次のフェーズに移りましょうか。この後はアリウスの増援部隊が来るでしょうが、時間を稼ぐだけで大丈夫です。目標時間は正義実現委員会が到着するまで、です」
「あ、ハスミ先輩には連絡してあるから!すぐ返事が来るはず!」
「はい、ありがとうございます。これでハスミさん達は、ナギサさんに何かがあったと気付いた筈です。……後はできることはありませんので、早く来てくれることを願いましょう」
「増援が到着するのは、絶対何ですか?」
「はい、間違いなく来ると言っていいでしょう」
「へえ」
浦和さんが断言するって事は、そうなのだろう多分。そう言えば、結局本当の裏切り者の正体は聞けていないのだが、ナギサさんがいない今なら聞いてもいいのでは?
「ところでっ!?危なっ!?」
「っ!?」
突如として、横合いの壁が破壊された事に辛くも気付けたので、近くに居た先生を背中で庇う。飛来した瓦礫が背中を叩くが、多少痛いだけで済む。大した事はない。そして、来るであろう侵入者に備えて、先生を抱えてその場から大きく離脱する。予想外の急襲に対して、補修授業部は対処しきれずにいた。
「敵襲!敵数……多過ぎて分からない!」
「増援部隊が、こんなに早く…!?」
「……数が多い、大隊単位だ。多分、アリウスの半数近くが……」
「え?えっ…?」
「ここまで騒音がして、まだ正義実現委員会が動かない…?」
壁が破壊される前から、静かな真夜中に結構な銃声が響いていたので、相当時間が経過している筈だ。それでも救援はやって来ない。いつ来るか分からない救援を当てにはできない……と言いたい所だが、数人で数百人を相手取るのは幾ら先生がいたとしても、現実的ではない。
撤退戦を図るにしても、入り口は当然として、建物の辺り一体は包囲されていると考えられる。更に言えば、撤退するにしても、ナギサさんを連れ出す必要があるので、直ぐには逃げられない。
「それは仕方ないよ」
空いた横穴から、何処かで聞いた覚えのあるような声が響いた。その声に反応してか、近くの誰かが息を呑む音が聞こえた。乱入者はこちらの反応も気にせず、もう一度口を開く。
「だってこれから、この人達がトリニティの公的な武力集団になるんだから」
「ミカ…?」
「やっ、久しぶり先生。また逢えて嬉しいな」
トリニティにおける三大派閥の一つ『パテル派』のリーダー、聖園ミカ。桐藤ナギサ、百合園セイアと同じくティーパーティーの一人である。トリニティの重鎮たる彼女は、アリウス軍と共にその姿を現し、補修授業部の前に立ちはだかった。
彼女と幼馴染らしいナギサさんがこの場にいなくて良かったのかもしれない。浦和さんの忠告した通り、正体を告げていたらどうなっていた事か。
「正義実現委員会は動かないよ。私が改めて、待機命令を出したから。ティーパーティーの命令が届く限り、色んな理由をつけて、ね?」
「…………ん?」
いきなり自分に警備の依頼が来たのは、それが理由だったのか?今回のお達しがティーパーティーからではなく、ナギサさん個人から急に指名が入ったのも説明が付いてしまう。
「まあつまり、黒幕登場☆ってところかな?……私が本当の、『トリニティの裏切り者』ってこと」
月明かりに照らされた姿は、彼女の容姿も相俟って幻想的で、神話に伝わる天使のように優美であるが……少なくとも補修授業部の立場からすれば、これから齎せられるものは決して福音ではないと言う事は間違いない。
奴が来ましたね