ブルアカ界隈、盛況ナリ。ウレシイ、ウレシイ。
「という訳で、ナギちゃんを何処に隠したか教えてくれる?私も時間が無くってさ〜」
「…………」
「まぁ、此処に居る全員を消し飛ばしてから、ゆっくり探しても良いんだけどね。それはちょっと面倒でしょ?」
明るい調子で物騒な発言をした彼女は、まさしく天使のような悪魔の笑みを浮かべていた。そんな彼女に対して、困惑した様子で先生は尋ねた。
「ミカ、どうしてこんなことを…?」
「んー?先生になら、教えてあげるっ!それはね?……ゲヘナが嫌いだからだよ」
「ゲヘナかぁ……ゲヘナはなぁ、うん」
「トマリ、煩い」
「ちょっと黙っててくれる?」
「少し静かにしていてください」
「て言うかキモい。私は先生とお話してるんだけど?」
「そこまで言います?」
ボッコボコで草ァ!敵味方関係なく、総スカン食らったんだが?実は君達って仲良しだったりしない?共通の敵が現れると、一致団結する事例。うわっ…私のヘイト値、高すぎ…?
「とにかくっ……私は本当に、心の底からゲヘナが大嫌いなの」
「だからエデン条約を取り消そうとして、ナギサさんを襲おうと…?」
「えっと、誰だっけ?ごめんね、私あんまり顔を覚えるのは得意じゃなくって。……ってああ、浦和ハナコじゃん。礼拝堂の授業に水着で参加して追い出された人」
「えぇ……」
「一応答えてあげると、その通りかな。だってエデン条約だなんて、変な事しようとするからさぁ。……あんな角が生えた奴らと平和条約だなんて、冗談にもほどがあると思わない?考えるだけでゾッとしちゃうよ」
浦和さんの奇行はさておき。聖園さんはゲヘナに対する嫌悪感を隠そうともせずに、そう吐き捨てた。そうかそうか、つまりそう言うことだったのか。
「なあなあヒフミさん。エデン条約って何でしたっけ?」
「トリニティとゲヘナで結ばれる平和条約の話ですよ。と言うか話の流れから察してください。なんでこの期に及んでそんなことを聞くんですかっ」
「いやー、何となくでしか知らなかったからつい」
「もう、しっかりしてくださいっ」
「ふひひ、サーセン……あ痛っ」
「トマリ、ヒフミ。今はちょっと静かに、ね?」
「す、すみません先生!あうぅ……トマリさんのせいで、私まで怒られちゃいました……」
「うへへ、ヒフミさんの評価も堕ちたものですねぇ。
「あうぅ……そんな世界嫌です……」
「ちょっと待ってください。その発言、何だかイケない雰囲気がし「五月蝿い最下層」……」
「トマリって、ハナコには割と厳しいのよね……」
「でもハナコもそれで満更でもなさそうなのがね……」
だから嫌なんだよ、この変質者は。なんで冷たい態度を取ったら、悪くない反応が返ってくるんだよ。今は笑顔になる場面じゃないんだよ。恐怖と言うか、やはり天才とかそう言う奴らって、才能と引き換えに何か大事なもの失ってない?見えない所で等価交換が成立してんのか?
「…………もうっ!今、私が話してるのっ!ちょっと黙っててくれる!?」
「言われてますよヒフミさん」
「うえぇ!?私じゃないですよ!?」
「……ヒフミ。トマリの口を塞いで」
「馬鹿め……真正面から来た所でっ、浦和ァ!?」
「あらあら、逃しませんよ〜?」
「はい、邪魔者は抑えましたっ!」
避けようとした所を浦和ハナコに邪魔された結果、ヒフミさんに口を塞がれてしまった。素晴らしい連携プレーだ、やるじゃないか。邪魔者扱いは不服だが、仕方ない。ここは2人の鮮やかな手際に免じて、皆様のご希望通り、大人しくしておいてやろうではないか。……痛ったぁ!?此奴、わざと足を踏んできやがったな!?
仲間内で揉め、世の中の不条理を嘆いている間にも、聖園さんは話を続けていた。やっべ、あんまり内容が頭に入って来なかった。取り敢えず真剣そうな顔しとこ。……ヒフミさんのじと目とか、初めて見たかもしれない。
「……そう!私がティーパーティーのホストになるの。それでアリウスを含めて、新しい武力集団として再編したトリニティで、ゲヘナに全面戦争を仕掛ける。これが私の計画!」
「……っ!!」
聖園さんの発言を聞いて、顔色を変える先生。すげぇ……先生があそこまで感情的になったのは野球中継の放送延長で、特撮アニメが放送中止になって以来じゃないか?ウケる、撮っとこ。拘束されてて動けなかったわ。
「わっ、びっくりしたー……先生ってそんなに怖い顔もできるんだね。……うん、先生が凄く怒っている事はよくわかった。ごめんね?説明も急いじゃったし、雑だったよね?だからまずは、色々と邪魔なのを片付けてからにしよっか?」
「気をつけて、先生。……こうして見ただけでわかる。聖園ミカは、かなり強い」
「ふふっ、そうだよ。私って結構強いんだから!じゃあ、補修授業部を片付けて?」
聖園さんの発言を皮切りに、アリウス部隊が動き出そうとしていた。対する補修授業部は━━
月も雲隠れして、辺りはすっかり真っ暗闇の世界。体育館から今尚響く喧騒を背景に、白を基調とした服に黒の防弾チョッキ、ガスマスクが特徴の集団が人気のない物陰へ身を潜めた。
「……ふう、この辺りまで来れば一安心です。ここからは無用な誤解を招かない為にも、一旦着替えておきましょうか」
「あ、着いた?ありがとね、運んでもらって。皆んな、お疲れ様」
「後はトマリが何処まで粘れるかだ。先を急ごう」
負傷したアリウス生徒とその回収部隊に扮することで、補修授業部の子たちと私は無事に戦火から逃れられた。現在は着替えを手早く済ませ、とある目的地を目指している所だ。
「あの、本当にトマリさんは大丈夫なんでしょうか…?事前に決めていた作戦とは言え、いくら何でも敵の数が多すぎるような……」
「私も先生から聞いただけで、トマリさんが直接戦うところを目撃した訳ではありませんので、断言はできませんが……先生の判断なら、問題ないでしょう」
「先生が言うなら……けどアイツってあの戦力差で勝てるほど、強かったの?」
「いや、そんな事はないよ。弱い訳ではないけど、流石にそこまで強くはないはず。だから1人では、まあ勝てないだろうね」
「えっえぇ!?本当に大丈夫何ですか!?」
「大丈夫!勝てないだけで、
「…?」
「どっ、どう言う事よ…?」
フフン、皆んな驚いているね。実際にトマリが戦っているところを見たことないだろうし、それも無理はない。トマリは基本的に戦闘になる前に逃げるか、味方の援護以外しようとしないから、実力が不透明な所がある。そもそも真正面から戦おうとしないし。
確かに彼は戦闘支援や防御はともかく、直接的な戦闘面ではかなり厳しい立場だ。特にシールドがない時なんて、私と同じ様な耐久力でしかない。
更に言えば、トマリは銃が使えないらしい。いや、使えないと言うのは語弊があるのかな。本人曰く、一応扱えはするけど銃弾を当てても、ほとんど相手に効かなかったのだとか。銃を使うより直接殴った方が有効らしくて、本人も困惑していたっけ。本当に何でなんだろうね?それでも威力の大きい手榴弾なんかを使えば、それなりにダメージを与えられるらしいけど。
「敵を倒すことに関してはそこまでなんだけど、手段を選ばずに目標を達成することとなると、本当に頼りになるよ」
アビドスの一件でもミレニアムの騒動でも、普段の生活においても。何だかんだ文句を言いつつも、約束は守ってくれる。特に彼がいると、周囲の警戒や私自身の守りだとか諸々を任せて、生徒たちの指揮に集中できるのがありがたい。大体いつも惚けていたり、ピンチになるとさっさと逃げようとしたり、解決手法がちょっと予想が付きにくかったりはするけど。後は、私の事を舐めてるのが大いに気になるかな!
「体育館に色々と細工していたでしょ?」
「床や壁に変な模様描いてたり、見た事ないような物体を取り出したりしてましたね……」
「確か儀式がどうとか言ってたわね。……結局よく分からなかったけど」
「聞いたら面倒くさそうに説明してくれたけど、さっぱり理解できないんだよね。そもそも言語だとか、原理だとか何もかも違い過ぎる」
本人は世界規模の迷子を自称していたけど、そう言う奇妙な魔法を扱う辺り、本当の事を言っているのだろう。そう言えば、魔法も魔術も術も全部異なるものとは言っていたが、傍目から見れば違いはわからない。トマリは用途によって、それぞれ使い分けているらしいんだけど。
「本人はいつも通りの惚け顔で、『時間稼ぎ?護衛もいないなら、最悪一人で逃げればまあ大丈夫か…?』とも言ってたから……あっ」
「な、何よ急に…?」
「……護衛、つまりナギサさんって、まだ体育館にいますよね…?」
「ここに居ないと言うことは、その通りかもしれない」
「……もしかして私達、やらかしちゃいました?」
「そうだね。……みんなっ!全力で走るよ!?」
「は、はい!」
ナギサ「Zzz…」