今日ナギサ復刻ってマジ?
「ふふっ、そうだよ。私って結構強いんだから!じゃあ、補修授業部を片付けて?」
間も無く起きるであろう蹂躙に慄いた補修授業部が一歩下がり、アリウス部隊が彼女達を追い詰めようと前進した。その瞬間━━━━地面が爆ぜた。
「何っ…!?ぐぅっ……!?」
「地雷だと!?……総員、前進止め!煙が晴れるまで、各自警戒体制をとれ!」
「焦る事はない!奴等には既に逃げ場などない!」
混戦を避け、無用な被害を抑えることが目的だろう。戦力としては圧倒的に向こうが有利だ。この場面で無理に相手取る必要はないと言う判断か。そのパターンでも特に問題ない。至る所に設置したプラスチック爆弾を早速起爆する。
「ポチッとな」
「ぐあぁっ……!?」
「ぎゃあー!?」
「計算通り、かんぺき〜」
「ブフッ……真顔で変な事言うの止めてくださいっ」
「あ、今冷酷な算術使いの事をバカにしましたね?これでトリニティは、ミレニアムとの全面戦争ルート不可避です。ヒフミさんのせいです。あーあ」
「えぇ!?なんでですか!?」
「そんな事ばかり言ってるから、ユウカにいつも怒られるんだよ」
「ミレニアムの会計など恐るるに足らず……今度ケーキでも持ってこ」
「恐れてるのかそうじゃないのかどっちなのよ…?」
「くそっ!あの間抜け面、馬鹿にしやがって!」
「間抜け面……」
「あらあら、敵ながら的を射た表現ですね」
「落ち着けっ!もうすぐ煙が……消えない?」
不適切な表現なんだが?的から大きく外していますが?お手製の煙玉はそれなりに長持ちするので、今の内に事前に壁や床に組んだ術を起動させる。満遍なく構築するには、体育館が無駄に広大過ぎたので骨が折れたが、その甲斐あって1メートル先も見えない程にまで、それは充満した。
「……こんなもんですかね。よし、手筈通り行きましょう」
「はい、どうかご無事で」
「トマリも無理はしないでね」
「あ、じゃあちょっとお腹が痛いので帰りますね」
「アンタはこんな状況でもブレないわね……」
「何故だろう?ここまで来ると、逆に頼もしく思えてくるから不思議だ」
「あはは……戯言を吐いていないで、しっかりしてください。…………流石に心配ですし」
さて、ここから自分は、先生達とは別行動だ。敵兵にある程度被害を出して、尚且つ先生達の行方を眩ませる所までは成功した。後は先生達が、上手く敵の包囲から抜けてくれる事を祈るしかない。まあ先生なら自分が心配せずとも、どうにかしてくれるだろう。
そして俺の方はと言えば、相手方の注意を引いて、先生達が脱出するための時間を捻出する必要がある。そのための準備時間は十分あった。だからいつも通り、怪我しない程度にやれば問題ないだろう。
対するアリウス生達も、このままでは埒が明かないと判断したのか、指揮官らしき敵兵が遂に声を上げ始めた。
「チッ…!一旦、集合せよ!そのまま……「男女平等!」ぐはっ!?」
「昨今の情勢に配慮しております故」
「キヴォトスには必要ない配慮だろう!?」
視界の悪さを利用して、手にした得物で殴り込む。銃を使わないのかって?脳筋と言う勿れ。キヴォトス人は撃たれ慣れているのか、やたら耐性があるので、何故かこっちの方が有効だった。それだけの話である。……銃傷に耐性とか言う概念があるのか?接近戦で臨むのは、その他にも理由があった。
「がっ…!?」
「どこから…っ!?」
「よっ…!」
銃社会だからなのか、戦闘訓練をしているであろうアリウス生徒であっても、割と近接戦闘に穴があるのだ。それこそ視界不良で銃を扱いにくい今なら、正直あまり驚異とは成り得ない腕前である。そこはまあ、殴るより撃った方が早いから、近接戦がそこまでなのも納得はできる。
こっちは剣と魔法の
「は、早いっ…!?」
「くそっ、どこ行きやがった!?」
「がっ!?」
「そこか!」
「うわぁ!?」
「なっ!?味方だとっ!?」
「一体いつからそこに俺がいると錯覚していた?」
まあ普通にさっきまでいたし、咄嗟に敵兵を盾にしただけなんですがね!余裕そうな態度だが、結構危なかったのはここだけの話である。
「これは……お前に撃たれたアイツの分だァー!」
「それはお前が原因だろう!?ぐへっ!?」
「うわぁ……痛そうっすね」
殴られた上に味方にまで撃たれるなんて可哀想。だから俺が代わりに、君を撃った奴も殴っておいてあげよう。喧嘩両成敗。これで二人とも仲良死ですね!
「居たぞ!あそこだ!」
「上から来るぞ!気をつけろ!」
「は…?ぶへっ…!?」
「足元の警戒を疎かにしろとは言っていない。退散退散っと」
「小癪な真似を…!」
「逃げるな卑怯者!」
大騒ぎしてて笑える。これは逃げではない。戦略的撤退と言ってくれ給へ。まあゲリラ戦が正しいと思うが。大体、銃弾一発で致命傷になり得るのだから、卑怯も何もあったものではない。マトモに相手していたら、インチキ耐久力と数の差で蜂の巣にされてお仕舞いじゃん。
不明瞭な視界の中で戸惑う敵兵を、時折仕掛けた爆弾を起爆しつつ、マジカルステッキで殴打して周る。やっぱり魔法(物理)の力は偉大である。
「もー、服も髪もびしょびしょなんだけど?これ煙じゃなくて、霧でしょ?どうやって発生させてるのかは分からないけど。最悪だよ」
「それは大変ですね。風邪を引く前に帰って、シャワーでも浴びましょう。そのまま帰って来ないで貰えると助かります」
「あはは!女の子にその言い草はないんじゃない?もしかして緊張してる?」
「もう真夜中ですからね。女の子を自称するなら、早く帰った方がよろしいかと」
「そうだね☆じゃあナギちゃんと一緒に帰るから、私のところに連れて来て?」
「ナギサ様は既に
「なるほどー、あくまで白を切るつもりなんだね。わかったよ。……これならどうかな☆」
そう言った聖園さんは壁際まで歩を進めた。そして徐に手を振りかざし…………体育館にまた一つ大きな横穴が空いたのだった。せめてこう、爆弾とか使うんじゃないのか?
「ウッソだろお前」
「どんどん行っくよー☆」
「おい馬鹿やめろ」
「んー?聞こえなーい☆」
宣言通りに壁を破壊して回っていく聖園さん。悔しいが、破壊神の座はアンタのものだ。予想外の方法で霧払いされてしまったが、目的は達成したので問題ないだろう。残りは先生達が何とかしてくれるはず。後は相手に捕まらないように、上手い事逃げ切ればミッションコンプリートだ。その辺りの算段は最初からついている。
「これで隠れられないね!無駄な抵抗お疲れ様!高々棒切れ一本で戦ったにしては、頑張った方じゃない?」
「ゴリ……聖園さ「ねえ待って?今なんて言い掛けた?」……」
「♪♪〜」
「誤魔化すの下手すぎない?無駄に口笛上手いのが、余計にムカつくなぁ……」
ドスの効いた声で威圧されたが、事実じゃん。中々酷い言われようだ。そう言えば、何かを誤魔化す時に口笛を吹く文化は、何処からやってきたんだろう?
さて、霧が完全に晴れる前に、ちょっとした準備に取り掛かる必要がある。無駄話を繰り返す聖園さんへ適当に返事をしながら、周囲の警戒も怠らないようにする。そして、全ての用意を済ませた頃には、すっかり視界も良くなってしまった。
「あー……。薄々察しているかもしれないですけど、ここにはナギサ様どころか、先生も補修授業部もいません。只の足止め役にそんなに構っていていいのですか?」
「えー?トマリが本当の事言ってる保証なんてないじゃん。霧も晴れたことだし、ここからどうするかな?」
「そうっすね。では、この体育館を心置きなく探せばいいんじゃないですか?まあ無駄な「ターゲットを確保した!」「うぐっ…!?」……あ?」
思わず声の発生源の方を振り返った。そこで目にしたのは、その言葉通りアリウスの生徒に捕えられたナギサさんの姿が……。何故?全員で退却した筈では?ナギサさんがいるこの場に、先生も補修授業部も何故いない?何故?
「何故…?」
分からない、分からない。有り得てはならない状況に陥り、思考放棄しかけた脳が、それでも自身の危機的状況に警鐘を鳴らした。突如、何かが風を切るような音が聞こえ、思わず我に返った頃には既に手遅れだった。
「げっ……しまっ!?」
「嘘吐きには、お仕置きだねっ!」
「カハッ…!?」
「トマリさんっ!?」
余所見による事故って怖いっすね