曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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これは難産回



13.雲隠れ

 

 

 

「──報告は以上となります」

 

「ありがとうございます。下がってもらって構いません」

 

「はっ、失礼します」

 

「……シャーレの先生、ですか」

 

 

 改めて受け取った報告書を確認する。連邦生徒会長の失踪によって、一度は空中分解しかけたエデン条約。それを何とか立て直したと思った矢先に、突然現れた不穏分子である先生という存在。報告によると、自身を生徒の味方と称し、またそのように行動していることは確認できているが、果たして。

 

 幸いにしてアビドスの一件で恩は売れたので、最大限有効活用できる場面を考えるべきである。全てはエデン条約の締結のため、引いてはトリニティのために。そして大切な幼馴染のために。

 

 

 

「あら…?」

 

 

 ふと報告書の備考欄に記載された一文に目が留まった。ヘイローを持たないが、奇妙な魔法を扱う先生の護衛の存在。『シャーレ』の所属ではないが、先生に重用されている人物。曰く、嵐と混沌を引き起こす魔法使い。曰く、どれだけ注目していても、少し目を離したらすぐにいなくなる変わり者。曰く、折角珍しい男性なら、もっとイケメンが良かったのに。……報告書に明らかに私情が混じってる。

 

 そう言えば今思い返すと、ヒフミさんからも報告があったような…?あの時はシャーレの先生に関して重点的に聞いていたために、彼についてはあまり話題に上らなかった。

 

 

「もしかすると……ヒフミさんに改めて詳細を聞きましょう」

 

 

 トリニティの諜報を以てして、所在すら掴めていない様な謎が多い人物だ。噂ではアビドスの何処かに居るらしいが……。シャーレにすら組みしていないなら、他の組織に所属しているとは考え難い。先駆けて接触して協力関係を、あわよくば自陣に引き込んでおきたいところだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ、私は補習授業部の生徒たちと会ってくるね」

 

「えぇ、案内も用意しています」

 

 

 そう言って部屋を退出する先生。ここまでは事前の打ち合わせ通りである。先生については、ひとまず話は纏まった。呑気にお茶菓子を食べていたもう一人の人物に向き直る。

 

 

「では改めまして。まずは紅茶のおかわりをどうぞ」

 

「あ、はい。ありがとうございます」

 

「あれ?まだ続く感じだっけ?私はこの後予定を入れちゃったから、先に抜けるね。バイバーイ☆」

 

 

 そう言って返事も聞かずに、早々に部屋から退出するミカさん。昔から、興味のない事にはとことん無関心な所は変わっていない。

 

 

「ミカさんったら……」

 

「えぇ……」

 

 

 呆れた様に装っているが、これも計画通りである。と言うか、一対一になる様に先生との対談時間を調整したのも、ミカさんに予定ができる様に先んじて仕組んだのも全て私である。準備は抜かりなく、舞台は整った。

 

 

「まあミカさんが居なくても問題ありませんので、私達で話を進めましょうか」

 

 

 さて、トマリさん。貴方がトリニティにとって、どの様な存在に成り得るのか、学園のトップとして見極めさせていただきます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……という訳です」

 

「…………ふむ」

 

 

 なるほど……いや、まるで話が分からない。言葉は通じているのに話が通じないような。だが、彼の人格に問題がある訳ではない。確かにトマリさん本人も多少惚けた所はあるが、十分普通の範疇に収まるだろう。

 

 

 只々彼の歩んで来た軌跡が色々おかしいと言うか、そうはならないでしょ?と言いたくなる展開が、何重にもなだれ込んで来るだけで。余りにも前例のない荒唐無稽な話が多すぎる。

 

 

 例えば、コケトリスと聞けば名前から何となく、鳥や蛇を連想するだろう。はい、あなたはこの時点で騙されかけています。注意してください。そのイメージをしたままだと、段々話が噛み合わなくなってくる。それに耐えかねて質問すると、本人は8本足の牛の化け物の事を話していたとか宣うのだ。最初からそのように説明しろ。この段階で混乱しているのに、最終的にそれを唐揚げにして食した話に帰結するのだ。色々ツッコミどころが多すぎる。

 

 

 そもそも経歴について聞いているのに、このような話題が出てくる時点で既におかしい。話が脱線ばかりするのだ。かと思えば、そんな与太話が本題に繋がっていたりする。もう少し簡潔に話していただきたい。確かに包み隠さず全部話せとは言ったけど限度がある。

 

 

 それはそれとして、彼の人格面については凡そ把握できた。概ね報告書やヒフミさんの人物評通りと言えるだろう。私の見立てでは、彼は腹芸ができないタイプである。そこは間違いないと断言できる。少なくとも政治的な嘘を吐くのは苦手としているに違いない。それを自覚しているがために、下手な嘘を吐くぐらいなら正直に話す手合いだ。

 

 

 腹芸ができないと一口に言っても、その理由は十人十色である。彼の場合は、人を陥れる嘘に罪悪感を抱く性格だから。正義感が強いと言うより、単純に本人が不快になるからしないのだろう。ああ、トリニティでは最も苦労する気質であろう。

 

 

 そして基本的に、トマリさんの様なタイプは身内に甘い。一度上手く懐に入れさえすれば、早々裏切らない様になる。その甘さこそ彼の持つ美点であり、同時に付け入られる隙でもあるのだ。

 

 

 人格面で見れば、良くも悪くも普通の少年。曲者が多すぎるキヴォトスにおいては、これでもまだ常識人の類だ。と言うか経歴の割には、奇跡的にも全く擦れていない性格である。

 

 

 彼を味方にするメリットに対して、デメリットがないも同然である。むしろ先生とのこれからの関係を考慮すると、味方につけない事がリスクに繋がる可能性がある。私自身の裁量で自由に動かすことができ、トリニティ外部の立ち位置で。そこそこの実力に加えて、先生との関係も良好である。これは予想以上の掘り出し物かもしれない。

 

 

 

「一つだけ、質問をさせてください。トマリさんは契約や約束についてはどうお考えですか?」

 

「責任を持って、守らなければならないもの。……と言う当然の解答を求めている訳ではないですよね?あー……」

 

 

 質問の内容が漠然としているので、返答に窮しているようだ。だが先生とはまた別の世界から来ているらしいので、考え方を聞いておく事は必要なことだった。まあ今までの会話から、問題ないだろうとは思っているが。

 

 

「……損得で考えるなら、やはり信用のためですかね?……え?道徳的な話ですか?そもそも約束も守れない奴に、何が守れるって言うのですか?」

 

 

 呆気らかんと言い放った。その時の表情が彼の人間性をそのまま映している様に見えた。

 

 

 

「私からトマリさんにお願いしたいのは━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁すら容易く破壊する拳が、トマリの腹部に容赦無く叩き込まれた。その衝撃により彼の身体は吹っ飛び、激しい音を立てて壁に激突。そのまま動かなくなってしまった。そして戦闘の余波により元々亀裂の入っていた壁が、打つかった衝撃により倒壊し、倒れたまま動かない少年の体を飲み込んでしまった。

 

 運命の悪戯か、トマリがつい先程まで使っていたステッキが、持ち手の部分が血塗られた状態で茫然としているナギサの目の前に降って来た。崩壊する音が止むと、先程までの喧騒などまるでなかったかのような沈黙が訪れた。呆気なく迎えた争いの終焉に、誰もが口を開かない中で、ミカは務めて明るく声を発した。

 

 

「トマリも大袈裟だな〜。ちょっと強くパンチしただけじゃん?……ほらそこの子達、早くナギちゃんを解放して」

 

「あ、あぁ……そんな…………トマリさん……」

 

「やっほーナギちゃん!先生に補修授業部の顧問を頼んだ時以来だねっ!早速だけど、ちょっと一緒に来てくれる?まあ拒否権なんてないけどね!」

 

「…………」

 

「もー、いくら何でも無視は酷くない?……ナギちゃん?」

 

「…………」

 

「…………それにしても、ナギちゃんがここまで護衛に入れ込むのも珍しいね。泣いてる姿なんて見たの、本当に久しぶりかも」

 

 

 

 俯いたまま動かなくなったナギサに対し、一方的に話し続けるミカ。呼び掛けても反応が薄いナギサの様子を見て、この場で対話することを諦めた彼女は、それならばと場所を移そうとした。その拍子に、何かが爆発する音が辺りに響く。ほぼ同時に慌ただしく現れたアリウス生がミカに報告をし始めた。

 

 

「ほ、報告です!トリニティの生徒が一部、こちらへ向かってきています!」

 

「先生と補修授業部が今更戻って来たってこと?ティーパーティーの戒厳令に背くような人達なんていないだろうし、そんな少人数で何ができるって言うの?」

 

「確認できました!大聖堂の方向から来ています!」

 

「ナギサっ!ごめんね、おまたせ!」

 

「先生達と……シスターフッド!?」

 

「けほっ……今日も平和と安寧が、皆さんと共にありますように」

 

「す、すみません、お邪魔します……」

 

「シスターフッド、これまでの慣習に反する事になりますが、ティーパーティーの内紛に介入させていただきます」

 

「はあ、はあ……どうにか戻って来れました……」

 

 

 爆音と共に現れたのは、補修授業部に加えてシスターフッドを引き連れた先生だった。包囲部隊を逸早く突破したところで、ミカ達を挟んでその奥に座り込んでいるナギサの姿を認めた。

 

 

 

「聖園ミカさん、他のティーパーティーへの傷害教唆及び傷害未遂で、あなたの身柄を確保します」

 

「……あはっ、流石にシスターフッドと戦うのは初めてだなー。これがあなた達の切り札ってこと?ホストになったら、大聖堂も掃除するつもりだったし、一気にやれるチャンスだと考える事にしようかな、うん」

 

 

 少し遅れてやって来たヒフミが、ナギサとトマリの無事を確認しようとした時、見覚えのある物が目に映った。具体的には、つい先程、ここから逃げ出す際に協力してくれた彼が、別れの間際に手に持っていた物だ。

 

 この場に彼がいないのは、護衛に失敗して一人で脱出したからだと、だからこの騒動が終わればまた冗談を言い合える、そう思い込みたかった彼女からすれば、それは嫌な想像に繋がっててしまう物だった。不穏な気配に顔を青褪めさせたヒフミは、祈るような気持ちで言葉を口にした。

 

 

 

「あ……あの、先生……ナギサ様が握っている杖って、まさか……」

 

「……………………うん。多分、ね」

 

 

 





トマリ視点以外は自分には難しいと思いましたね
後で加筆・修正するかも

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