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いっけなーい★遅刻遅刻!もう最悪っ!ピンクのゴリラに撥ねられて、二度寝しちゃうなんて!あ、自己紹介が遅れました。私はトマリ!ちょっとだけ不思議な経験をした普通の男の子です。ガスマスクを着けた不審者もいっぱいいるし、まだまだ乱闘は終わりそうにありません。このままだとナギサ様に怒られちゃう!一体私、これからどうなっちゃうの〜!?故郷のみんな、新しい世界は波乱になりそうです。
あ、はい。反省していますので、無言で見詰めるのを止めてもらっていいですか?呆れられるのは慣れてますけど、ノーリアクションは流石に気不味いと言いますか……。それとナギサ様は何故、ご自身の頬を抓っておられるのですか?
「心臓は動いてますね……」
「当たり前じゃないですか。ゾンビや幽霊ではあるまいし。ナギサ様は人の事を一体何だと思っているのですか?」
「パートナーを置いていく不忠義者です」
「失礼な、護衛としての仕事はきっちり果たしていー……ませんでしたね、はい。すみませんでした。……え、もしかして首ですか?」
「は?それこそあり得ませんが?……後で埋め合わせはして頂きますが」
「ウソダドンドコドーン!」
契約不履行だとかの損害賠償請求されるよりは……待て、よくよく考えると俺の過失なくね?一応職務を全うしてますよね?しかもちゃっかり別の形で約束聞く事になってるじゃん。すげえいい笑顔してやがるし……まあいいか。
「ちょ、ちょっとトマリさん!?お腹から血が……!?」
「へへ、叫んだら傷口が開きましたね。こう、アジの開きみたいに」
「そんな事言ってる場合ですか!?」
「確かに……開きと言うよりかはドーナツですね。お腹空きましたねー、今は甘いものが食べたい気分です」
「物理的にお腹が凹んでいるのに、何故そこまで呑気なんですか!?」
薬のおかげで、痛みが多少抑えられてるからに決まっているんだよなあ。誓って危ない薬ではございません。ちょっと効き目がお強いだけの、至って普通のお薬です。ところてんマグナム一歩手前の身体で無事と言えるかは疑問だが。
「何か目がチカチカしますね。うーん……許すまじ、花粉ども。貴様らの交配のために人に迷惑をかけるでない。ナギサ様、目薬持ってません?」
「どう考えても貧血ですよね!?もう本当に大人しくしていてください!どうかしてますよっ!?」
「道化してるとはよく言われますね」
「ちょっとー、いつまで漫才してるつもりなの?ナギちゃん達が仲良しなのはよく分かったから、続きは檻の中でしてね」
「これのどこが漫才ですか!?」
「おかしいですね、ついに幻覚が見え始めました。ゴリラが人語を喋ってるなんて。幻聴?」
「その減らず口、二度と開けなくしてあげる☆」
「どうしてこの場面で煽るんですか!?」
「ナギサ様、幼馴染でしたよね?頑張って宥めてください。やくめでしょ」
「貴方って人は……!」
あれの相手をするのは、俺には荷が重すぎる。ああ言う気難しいお姫様気質っぽい奴には、こちらが振り回されている記憶しかない。いやー、きついでしょ。
聖園さんにぶん殴られたあの場面。流石に間に合わなかったので不完全な障壁を張って、咄嗟に後ろに跳んで勢いも削いでいるはずなのに
何故、超強力な痛み止めを使っても、普通に痛みが貫通してくるんですが?と言うか、十中八九内臓も損傷しているだろうし、しばらく血尿生活になるだろう。今から憂鬱でしかない。当然応急処置はしているが、さっさと撤退したい。
「無策で来る筈なかろうて。ナギサ様、しっかり背中に掴まっててくださいね?」
「……本当に大丈夫なんですね?」
「……ヨシ、出発!『風の通い路』」
「何ですかその無言の時間は?凄く不安なのですがっ!?」
「ちょ、うわわ!?」
元々逃げる際に使う予定だった『風の通い路』を発動する。予め指定した場所に風の順路を作るだけのシンプルな術で、本来は人を飛ばすほどの威力はない。それを組み換えて出力をギリギリまで高めている代物で、手間と時間と触媒を使って、どうにか人を上空に飛ばせるように調整してある。ついでに巻き起こした風で、周囲の動きを阻害する事も期待できる。まあ緊急脱出装置みたいなものである。
「ナギサ様、出番です!飛んでください!」
「飛べるわけないじゃないですか!?」
「えぇっ!?その立派な翼は何のためにあるんですか!?これからナギサ様のこと、チキン様って呼びますね!?」
「悪意しかありませんよね、その渾名!?それよりどうするんですかこれ!?」
壁まで辿り着ければ基本的に問題ないが、今回は一人で脱出する予定だったので、このまま何もしないならば出力が足りなくなるだろう。仕方ないので、『5cm浮く魔法』を掛ける。すると若干ではあるが、落下速度が緩む。このままなら一応何とかなりそうだが、落下地点にちょうどいい人物を発見したので予定を変更する。
「えぇっ!?なんで上からナギサ様とトマリさんが!?」
「やっぱりあの暴風はトマリが起こしたんだね」
「ヒフミさん、ヘルプ!あのでかい人形をお願い!」
「えっ!?……あっわかりましたっ!ペロロ様!お願いします!」
ヒフミさんがいつも持ち歩いているバッグから、俺達が落ちてくるであろう場所に大きな鳥人形を出現させる。柔らかい素材な上に、銃弾を受けても平気な耐久性を兼ね備えているので、クッションには最適であろう。いつも思うが、一瞬であの巨体が出現するのは魔法か何かだろ。
「ぐえぇ……ナギサ様、降りてくださいよ」
「ひ、人を重い女みたいに言わないでくださいっ!?」
「ああ……普段なら大した事ないんですけど、今はちょっときついっすね」
「え……?」
「ひっ!?トマリさんから血が……出血が止まりませんっ……」
ヒフミさんが用意してくれた人形が、徐々に赤く染まっていく。あーあ、大事にしていたものっぽいのに。また今度、何かしらの埋め合わせを考えないとなあ。瑕疵なんてない筈なのに、何故か貸しばかり増えていく不思議。……大事なものをデコイには使わなくないか?
どうやら傷口が完全に開いてしまったようで、腹からの出血が治る気配はない。寒い。眠い。汗が止まらない。常備していた包帯で傷口を強引に塞ぐ。押さえ付けられた腹から、尋常ではない痛みに襲われるが気にしている暇などない。
予想以上に手酷くやられたのか、応急処置では思っていた以上に持たなかった。もっと安全な場所で使いたかったが仕方ない。とっておきのスクロールを解放した。ラストエリクサーも生命には代えられないのは身に染みている事だ。
「あ、ああぁ……」
「やっぱり大丈夫ではないじゃないですか!?先生、早く救護騎士団を呼んでください!」
「…………できないね」
「な、なぜ!?いやっ、それならどうすれば……!」
「そんなシリアスになる場面じゃないんですけど」
正直そこまで深刻に考えないで貰いたい。確かに傷は深いが、別に死ぬ訳ではないので。ただちょっと疲れたし、長めの休憩をするだけなんだから。後やる事と言ったら……。
「先生。お願いがあるんですけど」
「私にできる事なら」
「今何でもって言いましたね?これから暫くの間、俺は動けなくなります。だからナギサ様の事、よろしくお願いします」
「何でもとは言ってないけど……任せて。その他にも何か、私にできることはあるかな?」
「あー、ついでに俺も無防備になるので守っていただけるとですね?」
「もちろん」
「言質取りましたよ?絶対ですよ?大人として絶対に守ってくださいね?約束ですよ?」
「念押しが止まらないね……」
「止まるんじゃねぇぞ…」
「そのセリフは不吉だからやめて!?」
今更ですが、ナギちゃんお迎えできました。ヤッター!ウレシイナー!