曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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夏に入ったのでホラー?回



17.幽閉の地にて

 

 

 皆さんは読書が好きだろうか?自発的には全く本を読まない者、本を読み始めると何時の間にか寝ている者、自己紹介の場に限り趣味が読書になる者など、読書に対するスタンスはそれぞれあるだろう。中でも若者の読書離れなんて話題は、今も昔も変わらずに薄ら耳に入ってくる様に思うが、個人的には何か違う気がするんだよなあ。読書する層としない層で二極化しているだけな様な、そもそも世代で分けると言う考えがナンセンスな気がする。中央図書館の盛況具合を目の当たりにして、そんな感想を抱いた。

 

 

 やって来たのはトリニティの中央図書館。ここはキヴォトスにおいても最大と言われている程の規模を持つ図書館らしい。その大きさと複雑さ故に、時々この建物の中で遭難する生徒がいるという噂があるぐらいだ。そんな在り来たりな噂に尾鰭が付いたのだろう。何でも図書館の奥深くでは、遭難者の幽霊が道連れを求めて夜な夜な徘徊しているのだとか。

 

 

 ここまで聞かされて最深部を目指さないのも武士の名折れ*1。お化けに日和ってる奴いる?いねえよなぁ!?掃除機も腕時計も必要ない。来館した当初はあった気がする目的もかなぐり捨て、気概と使命感だけを持って突き進む。その最果てを目指して。

 

 

 ツインテールのメガネ司書さんに、漫画コーナーで騒いでしばかれているスケバンを華麗にスルーして。切手の森を潜り抜け、過去のトリニティを示した地図群から離れる。何処か見覚えがある写本やら手稿のレプリカの横を通り過ぎ、前衛的であたかも鳥の巣の様なイカした髪型の肖像画達に見守られた先、入り組んだ書架の廻廊を延々と歩き続けた。

 

 

 進み続けて、どれ程の時間が経ったのだろうか。変わり映えのない景色に飽きてきた頃。旅路の終幕は、唐突に訪れた。

 

 

「ここが最果て……うむ」

 

 

 行き止まり。

 いや、その表現には些か語弊がある。一応道は続いている。STAFF ONLYと記された看板を無視すればの話だが。

 

 

 看板の先の扉には、南京錠が掛けられている事も確認した。流石に鍵は持っていないので、強行突破も不可能だろう。潔く諦めて引き返し始めた矢先に、子供の泣き声が遠くから聞こえて来た。

 人っ子一人いない筈の空間で。

 

 

 段々近付いてくる泣き声、薄暗い室内、心なしか空気も澱んでいる気がする。ここまでの道のりはほぼ一方通行だった。避けて通るのは無理がある。それに、何もしなくても向こうから近づいて来ているのだ。その場でやり過ごすことは叶わないだろう。

 

 

 比較的広めの通路に移動して、いよいよ声の主と対面する時を迎えた。

 

 

「うえーん!ママ、どこぉ!?」

 

 

 幼児がいた。

 まあ、泣き声から何となく察してはいたが。蹲ってしまっているが、髪型や服装から恐らく女の子か。歩き疲れたのか顔色が悪い。服装が若干古めかしい事を除けば、至って普通の痩せ型の幼児に見える。

 

 

 …………まあ色々気になる点こそあるが、幼気な子供を見捨てられる程、人の道を踏み外してはいない。昨今の情勢的に声を掛けるのは躊躇われるが、今回は非常事態として問題ないケースだろう、多分。……ちょっと不安になって来た。

 

 

「お嬢さん、大丈夫?どうしたのかな?」

 

「グスッ……お腹が空いたし、疲れた。もう歩けないの……」

 

「お腹が空いて力が出ないと」

 

 

 砂糖入りのコーンフレークは用意できないが、何かあった筈……ちくわしか持ってねえ!冗談、冗談ですって。ちくわも持ってないから。あ痛っ!?腕を噛まないでもらえるかな!?そんなもの食べたらお腹壊すからね!?

 

 

「仕方ない……ここは年上として、本気を見せてあげようじゃないか」

 

「お兄さん、頼りないから……」

 

「お兄さんも傷付くから、チクチク言葉はやめようねー?約束できるかな?」

 

「約束できるー!」

 

「よーし、良い子だなー。私のおじいさんがくれた初めてのキャンディ。それはヴェr」

 

「飴くれるの!?ありがとう!…甘い!」

 

「早い早い。慌てて食べて喉に詰まらせないでねー」

 

 

 飴玉一つではしゃぐ姿は、何とも微笑ましいものだ。事案だって?その言葉はマジでやめろ。勝手に洒落にならない怖い話を始めなるなよ。

 

 

「次はこれを」

 

「あ、ペロペロキャンディ!?」

 

「の棒です。噛もうとしないでもらえるかなー?うわ、力強っ!?ポケット!お嬢さんの服のポケット見ようか!?」

 

「あれ!?ペロペロキャンディがある!なんで!?」

 

 

 ビスケットはボロボロになるからやめておいた。図書館で飲食させるのは良くないが、まあ今回は見逃して頂きたい。調子を取り戻した様なので、楽しそうに騒ぐ幼女の相手を適当にしながら、出口を目指す事にした。地図?ねぇよそんなもん。一方で幼女の方はと言うと、疲れからか早々にウトウトし出したので、道中の大半を背負って歩くことになった。知ってた。

 

 

 

 すっかり誰も居なくなった図書館の入り口付近。それなりに時間は掛かったが、無事に戻って来れた。自分の知っている場所まで来たからだろう、幼女は『ありがとうございました!』と元気に挨拶をして出口に駆けて行った。めでたしめでたし。

 

 

ここから出してくれてありがとう、お兄さん!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言う訳でここから出してください」

 

「はぁ……」

 

 

 その後の話。図書館は何故か閉まっており、警報が鳴ったかと思えば警備員のお世話になる羽目に。特に抵抗する事なく受け入れ、連行されたのはまさかの監獄だった。色々と段階をすっ飛ばしている様な気がするのだが?

 

 

「アハハッ!お揃いだね☆」

 

「この並びは納得いかないのですが?」

 

 

 仮に俺が犯罪者だとしても、凶悪犯の隣になるレベルの罪じゃないだろ。建造物侵入罪がクーデターと同等な訳がない。

 

 

「確かにトマリさんをここに連れて来るように伝えたのは私ですが、牢屋に入れる様に指示した覚えはありません。……どうやら何か誤解があったみたいですね」

 

「誤解で牢屋行きになることあります?」

 

「やっぱり普段の行いだよね!トマリはいつも、変なことばっかりしてるから」

 

「失礼な。そんな筈ありませんよね?ナギサ様。……ちょっと、目を逸らさないで頂けます?」

 

「……それはさておき、今回の件に関しては、呼び出したタイミングが悪かっただけです。不法侵入についてはまあ、正直に言うと何故そうなったか、理解に苦しみますが…」

 

「トマリのおバカな話を信じるなら、調子に乗って図書館の奥に行き過ぎただけじゃない?ほら、あそこって凄く広いし死角も多いから、警備員も見落としがありそうだし」

 

 

 コイツ、ちょこちょこ俺の事馬鹿にしてくるよな。意見自体は現実的だと思うけど。

 

 

「うーん……本当にそんなこと、あり得るのでしょうか…?」

 

「まあ本当の事を言ってないだけかもしれないけどね!だってトマリは嘘吐きだからっ」

 

「そんな仕様もない嘘なんて……割と吐きますね」

 

「確かにそれはそうですね」

 

 

 笑えないような致命的な嘘は吐いた事がない*2からセーフ。寧ろオーディエンスを沸き立たせるユーモアに溢れているから。そこのところ、お間違いなく。

 

 

 

 

「煽るしか能がないお転婆姫とは訳が違うってことですね」

 

「ジョーダンのセンスなんてないじゃん。ギャグは自分の顔だけにしておきなよ☆」

 

「どうやら知性が足りないせいで、ユーモアも理解できないらしい。流石、体育館の壁を素手で壊す脳筋です。やはり言う事が別格ですね」

 

「トマリが弱すぎるからそう見えるだけじゃない?だって、女の子のパンチ一発だけで退場しちゃうもんね!」

 

「…?女の子なんて、ナギサ様しかいませんけど…?」

 

「へえ、トマリは目を開けたまま寝てるのかな?こんなに可愛い女の子が近くにいるのに見えないなんて、眼科に行って来た方がいいよ?あ、それより先に頭を治してもらう必要があるね!」

 

「どっちもどっちですね、これは……」

 

 

 とりあえずビールと言わんばかりに煽ってくる聖園さんが悪い。俺は悪くねぇっ!だが敢えて受け流さずに、乗ってあげるのが甲斐性であろう。残念な性格の持ち主にも紳士的な対応。気遣いの鬼と言っても過言ではない。

 

 

 呆れ顔のナギサ様だが、引き合わせたのは貴女ですからね?更に付け加えると、今俺が檻の中にいるのも、ナギサ様の発言の仕業らしいし。何時までもこんな所に居たくないので、こちらから話を振ることにした。

 

 

「それで結局、何故俺はここに呼ばれたのですか?」

 

「ええと、それはですね……」

 

「私がナギちゃんにお願いしたの」

 

「えぇ……」

 

「露骨に面倒そうな顔するじゃん。ちょっと、私も傷付くんだよ?」

 

 

 面倒に決まっているだろ、常識的に考えて。うわ、顔怖っ。ハイライトが消えた目でこっち見ないでもらえる?ナギサ様もこの空気で退室しないで、と言うか牢屋の鍵閉まったままなんですが?

 

 

*1
彼は武士ではありません。

*2
当者比





私は時間が怖いです。

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