曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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18.加害者面

 

 

 願いも虚しく依然として、壁を素手で破壊する危険人物の近くに収容されたままである。今度ナギサ様に紅茶を淹れる時には、ペットボトルの紅茶とすり替えておく事を心に決め、据わった目で此の方を見詰める件の人物と対話を試みる。

 

 

「それで、態々ナギサ様に頼んでまで、俺に話したい事って何ですか?」

 

「え〜?もうちょっとアイスブレイクとかいらないの?」

 

「俺はさっさとブレイクアウトしたいので」

 

「何でそんなこと言うの?」

 

 

 だって怖いじゃないですか。鉄格子ぐらいなら軽く捻じ曲げてきそうだし。気分はさながら、今にも壊れそうな動物園の檻の前で、猛獣と対峙している様なものである。おい、聖園さんの手元から、何かミシミシ鳴ってないか?頼む、俺の気のせいであってくれ。

 

 

 

 

「あーあ、トマリも意地悪するんだね。はあ……つまんないなあ。もー、ちょっとぐらい優しくしてくれたっていいじゃん……」

 

「寧ろこれ以上ない程優しく対応していますが?」

 

 

 爆発されると目も当てられないし。分かりやすく拗ねるんじゃない。さっきから感情の浮き沈みが激しいが、情緒不安定か?と言うか以前の態度と比べると、妙に馴れ馴れしい様な気がするのは気のせいか?もしかして同類だと思われてる?

 

 

「ふーん、そうなんだ。……ねえ、それなら罰としてさ。何か面白いことしてよ」

 

「えぇ……何の罰ですか?あー……ある所に真っ白な犬がいましt「しっぽも白いって話なら、つまんないからトマリをぶっ飛ばすね☆」作戦タイムを希求する!」

 

「へえー?別にいいけど、そう言われると待った分だけハードル上がっちゃうよね。トマリが何してくれるか、楽しみだなー☆」

 

 

 何が罰としてだよ。寧ろこの状況が既に罰ゲームみたいなものだろう。大体、貴女のぶっ飛ばす発言はシャレになってないんですよ。人が悩む姿を見てニコニコするんじゃない。穏やかで心優しい性格とは何だったのか。

 

 面白いこと?何を期待しているのか、まるで分からない。いっその事、聖園さんの目の前を真っ白にしてやろうか。駄目だ、閃光玉を使うと余計に暴れるのは、聡明なベテランハンター諸君なら知っている事だろう。ただの自滅行為でしかない。

 

 対話で解決する路線は既に諦めた。自分のトークスキルでは、面白い話なんて難易度があまりにも高過ぎる。だから、ちょっとしたものを披露してやろうじゃないか。方針は決まった。

 

 

 

「仕方ないですね。取って置きを見せてあげます」

 

「へえ、やっとやる気に……待って、まずその瓶は何処から取り出したの?」

 

「懐です。深い懐を持っています故……よし、ここからは目逸らし厳禁ですよ?」

 

「深い懐?むしろ考えは浅そうだけどね!」

 

「これは綺麗なブーメラン発言」

 

 

 恐らく自覚があったからだろう、俄に檻の中が五月蝿くなった。此処は一つ、胸でも叩いて落ち着けばいいんじゃないか?

 

 不穏な事を口走る聖園さんを努めて無視して、取り出した瓶の中身を口に含む。念の為、もう一度周囲の安全確認をしてから、口内の液体を霧状にして吹き出す。

 

 すると忽ち火の手が上がり、周囲を赤く染め上げた。

 

 

「ゴオォ……」

 

「うわわ!?火なんて吹けるの!?あ、でも何か思っていたより、勢いはないんだね」

 

「ケホッ……俺に触れるとヤケドするぜ?」

 

「そのセリフを実際に言った人、初めて見たよ。て言うか、言った本人が火傷してるし。……あの、大丈夫?」

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 

 披露したのは火吹き芸、いわゆる火炎放射である。ドラゴンに憧れるお兄さん(4⚪︎歳)から教わった一発芸であり、彼曰く、最高にして最強の技らしい。種火が必要ない点が、普通の火吹き芸と明確に異なる点だろう。代わりに火の勢いが弱いため、インパクトに欠けるのが難点。

 

 ちなみに正式名称はアルティメットドラゴンブレス。何時までも少年の心を忘れないお兄さんのセンスが遺憾無く発揮されたネーミングである。

 

 

「トマリのその芸人根性は一体何なの?大道芸人でも目指してるの?」

 

「目指してないですけど…?けどまあ折角なら、一泡吹かせてやろうと思いまして。それで、そろそろ本題に入りませんか?」

 

「ああ、うん。そうだね、えっと……」

 

 

 面食らった様子で、何やら口籠もる聖園さん。普段の態度からは考えると、中々珍しい反応だ。

 

 

 

「はあ……初めて会った時の事を思い出しちゃって。もしもの話なんだけどさ。あの時にトマリを味方に付けていたら、話はこんなに拗れなかったのかなって」

 

「あんまり変わらなかったように思いますけど…?」

 

「…………それもそうだねっ!味方にトマリが増えた程度じゃ何も変わらないよね☆私の考えすぎだから忘れて?」

 

「急に喧嘩吹っ掛けて来るじゃないですか?俺じゃなきゃ今頃顔面殴られてましたよ?当然グーで」

 

「その時は返り討ちにしてあげるよ!」

 

 

 もうこれ暴力の化身だろ。トリニティのトップの姿か?いやまあ、確かに暴力で統治するのは、キヴォトスではある意味正しい姿な気もするけど。お嬢様学校とは一体?

 

 

 

「ねえ、トマリはさ……セイアちゃんと会ってるんだよね?セイアちゃんの様子はどうなの…?元気にしてる?」

 

「まだまだ寝込みがちではありますけど、最初と比べれば多少はマシになった方ですね」

 

「そっか、それでも生きててくれて良かった……あっ」

 

 

 何か致命的なミスをやらかした、とその表情が物語っていた。

 

 

「はあ……私のせいでトマリも死にかけたんだよね?散々迷惑掛けてきた人殺しが、何言ってるのかなって感じだよね。今更良い子ぶっちゃってさ、人殺しの癖に。あはは……あれ?え?ああ、もう!訳わかんない!ごめん、忘れて!!」

 

「いやまあ、自分が殺されかけたとか、そう言う事は別に気にしていませんけど」

 

 

 身体を張る事が仕事でしたし、生命の危険がある事なんて当たり前ですし。そもそも俺が言う資格は無い。正直、セイアさんについては兎も角、俺に関しては全然気にしないで頂きたい。生命の殺り取りに性的興奮を覚える戦闘狂(キ⚫︎ガイ)だったり、大好きだから貴方を食べたい*1食欲魔人だったり、おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?を大真面目に発言したりする碌でなし共が跳梁跋扈していないだけ、人の生死に対する倫理観は良い方だと思います。何が殺し愛だよ。ありえないだろ。俺の居ないところで勝手に殺っててくれ。

 

 

 

「ああ、そう言えば違和感があったんですよ。聖園さんに一発食らわされた時、明らかに『ダメージを軽減された』って感覚があった筈なんですよ。得物もグローブもない、素手の殴打なら絶対に。追い打ち掛けられてもおかしくなかったのです。体育館の壁の強度から考えると、その上で手加減されていた様ですし」

 

「……手加減していたから何?人殺しには変わらないよ?」

 

「ええー?ほんとにござるかぁ?」

 

「……!!」

 

「待て待て待て、落ち着け!?うわぁ、鉄格子が思いっ切り揺れてる!?」

 

 

 やばいやばい煽りすぎた!?本物の人殺しになる前に落ち着いてくれ!?

 

 聖園さんは少しして若干冷静になったが、鉄格子はかなり曲がっていた。多分このまま続けていたら、脱獄成功していたんじゃないか?牢獄の意味なくない?

 

 

「フゥー……それにしても、やはり手加減していたんですね」

 

「……鎌をかけたの?性格悪いね」

 

「確信はあったのですが、確証はなかったので。まあ此処まで上手く引っ掛かってくれるとは思いませんでしたが。だから、えっと何でしたっけ?……ああ、だから聖園さんもあの時、本気で殺そうとはしていなかったって事ですね、はい」

 

「だけどそれは、手加減していたからって貴方の生命を奪おうとした『行動』は変わらないよ」

 

「つまりもう聖園さんは赦されているんですよね」

 

「え…?」

 

「さっき言ったじゃないですか、気にしていないって。聖園さんが言う『行動』はどうあれ、被害者が赦しているので、この話はお仕舞いです。おまけにその『行動』自体、手加減していたなら結局あってない様なものです」

 

 

 感情の話ならば、被害者側が赦した時点で和解が成立しているから、解決したと言えるだろう。例え加害者側が自分を赦せなかったとしても。聖園さんが自分を赦せないなら、自身の信条の話なのでまた別問題だ。ええい面倒くさい奴め。後、微妙に突き崩しにくい自虐やめてもらえる?

 

 

 

「トマリは、あんな事をした私を赦してくれるの?」

 

「赦します。はい、この話終わりです!解決!こんな所にいられるか!俺は帰る!」

 

「ちょっと、強引すぎない!?」

 

 

 真面目な会話が多過ぎる所為で、もう頭がパンク寸前だから。大体、こんな話はナギサ様とか先生の管轄だろう。どう考えても人選ミスである。誰だ俺を指定した奴は。

 

 

「……ん?」

 

「あれ?どうしたのって、まさか」

 

「 鍵 が 開 か な い 」

 

「アハハッ!コントかな?そう言えばナギちゃん、鍵の事何にも解決せずに帰って行ったね!」

 

「貴様等、俺に対しては何しても許されると思ってませんか?」

 

「私達は同じ穴の狢なんだから、遠慮する必要がないじゃん?あ、トマリはこれから3日に1回は遊びに来てね!檻の中って何もすることなくて、暇なんだよねー。それと、来るときはお土産もよろしくね☆」

 

「同じ穴の狢?全然違いますけど?」

 

「えっ?」

 

 

 まるで梯子を外されたかのような驚愕の表情を浮かべているが、逆に俺の方が吃驚なんだが?何か勘違いでもしているのだろう。これだから世間知らずのお嬢様は、とは思ったが俺は優しいので現実を教えてあげよう。

 

 

 

「狢って言うのは、狸みたいなものですよ?決してゴリラではありませんが?」

 

「……アハッ☆」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 後に、第一発見者の桐藤ナギサは語る。

 

 

「あの時、そろそろお話が終わるかもしれないと考えた私は、お二方の居る監獄に入りました。すると突然、部屋の奥から大きな音がしたのです。ですので私もただ事ではないと思い、音のした方へ駆け付けました。そこには…………地獄の様な光景が広がっていました」

 

 

 

 

 

 

 

*1
食的な意味で





若干曇っていたミカが赦されたお話でした。
なお、被害者本人は全く気にしていないし、謝罪するなんて意外と律儀な所があるんだな、程度にしか思っていなかった模様。

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