「ちわー、古聖堂の調査結果の報告に来ましたー」
扉をノックして了承を得てから入室する。当たり前の行動に思えるかもしれないが、できない大人もいるマナーである。全く、世の中にはとんでもない大人も居たものだ。入室を許可する声も聞こえたので、普通に部屋に入った。
「失礼します。シスターサクラコは、げっ……」
「あっ、トマリだ」
「あら、珍しいお客さんが来ましたね♡」
「お取り込み中っぽいので、後で書類だけ確認しておいて下さい。失礼しました」
「ちょっと!?まだ何も報告を受けていませんよ!?」
「えー、いかがでしたか?今回の調査の結果、何もわかりませんでした!今後の動向に目が離せませんね!それでは!」
「検索妨害やめてくれる?」
「ちょっとした調べ物をするときに出てくると困るブログですね……」
そう言うブログに限って、検索結果の上位に来る欠陥仕様。散々広告を載せておいて、何もわかりませんでした!で済ます時間泥棒も平気で罷り通っている闇の深い界隈である。いや、闇と言うより欲深いが正しいかもしれない。
シスターサクラコが五月蝿いので仕方なく部屋の中に入る。浦和ハナコから一番遠い位置かつ、シスターマリーの隣なら安地だろう。
「トマリって、シスターフッドでも仕事しているんだね」
「違いますよ。今回の修繕工事では……おっと、これって先生達に話してもいい内容でしたっけ?」
「ええ、構いませんよ」
「じゃあ簡単に説明を。調印式の会場である通功の古聖堂の修理に関連する報告でして」
「通功の古聖堂?」
「あー……シスターマリー、通功の古聖堂についての説明をお願いしていいですか?」
「はい、大丈夫ですよ。先程トマリさんが言っていたように、今回のエデン条約の調印式の会場に決まったのが通功の古聖堂です。そこはトリニティの歴史でとても大切な意味を持つ『第一回公会議』が開催された場所でもあります。長い間手付かずのままになっていたのですが、現在は調印式に向けて大規模な修繕工事がされている状態でして……。トマリさんはその工事の報告のために来てくれているんだと思います」
「ありがとう、マリー。よく分かったよ」
しっかり分かりやすくまとめてくれている。俺は歴史的に重要な場所ぐらいの認識だったので、説明をシスターマリーに頼んで正解だったと思う。正直歴史とか興味ないので、説明して貰ったのかもしれないが全然覚えていない。記憶力が悪いだけだとかそう言う正論は言ってはいけない。
そのまま今回行っている工事に関して、詳しい事情をシスターサクラコが引き継いで説明してくれるようだ。
「そして現在ですが、古聖堂の構造に詳しい私達シスターフッドが、ティーパーティーと連携して修繕工事に当たっています。ただ、大規模かつ短期間の工事のため、修理するのは調印が行われる場所のみとなっています。既に工事自体はほとんど完了しているのですが、問題はその下の空間にあります」
「地下があるんだ?」
「はい。下の空間が工事を進める上で問題ない事は事前に確認済みです。ですが、できる限り調査はしておきたかったのです」
「あ、それで地下の調査をトマリが担当したんだね」
「……いえ、トマリさんは調査員に含まれていなかったと記憶しています。元々はティーパーティーとシスターフッドそれぞれで人員を出して調査していたはずですが……?」
「シスターサクラコの言う通り、本当は別のチームが担当する予定だったんですけどねぇ……」
「何があったのですか?」
「あー……何と言いますか。皆さんは地下のカタコンベの噂をご存知ですか?」
「あの辺りの地下には墓地があって、夜になるとお化けが出るといったありふれた内容の噂でしたね。よく耳にする有名な噂の一つです」
「ええ。第一回公会議の際の内容でも、言及されていますね。その大きさは終わりが見えないほどだったとか」
迷ったら二度と戻ってこれないだとか、行方不明になったら皆の記憶からも消えるだとか、不穏な噂が後を絶たない曰くつきの場所である。そして今回、調査した場所でもある。
「調査を担当していた人達が軒並み体調を崩したり、怖気付いたりしたようでして。紆余曲折あって、俺が調査することになりました」
「……担当を外れた方々は大丈夫ですか?」
「今は症状が落ち着いているとは聞いています」
唯でさえ誰もやりたがらないので、後任探しは難航した。と言うか結局俺一人で調査することになった。ちなみに引き継ぎのために前任者達と顔合わせしたが、本当に全員顔色が悪かったので、嘘をついている様には見えなかった。
「その辺りの経緯も報告書に載っているので、後で確認をお願いします。今回の調査ですが、古聖堂近辺の通路しか調べていません」
地下に繋がる入り口はトリニティ各地で発見されている。無数に存在しているので、全部調査するのはどう考えても無理がある。まあ古聖堂の近くのものに限定しても、片手では数えられないほどあるんだが。依頼されていたのはその内の幾つかだけなのでそこは問題ない。
内部構造についても視界が悪い、似たような景色が続く、無駄に広いと迷う要素しかない。探索に慣れていなかったら、高確率で迷子になるだろう。安易な肝試しはお勧めできない。
今回は時間の都合であまり深くまでは調べていないが、入り口付近の地図だけでも作ったのでどうか勘弁して欲しい。
「粛正は……粛正は勘弁して下さい……!」
「ちょっと!?そんなことしませんよ!?」
「シスターサクラコに刃向かうと地下施設で一生強制労働なんですよね?」
「トマリさんは一体、私のことをなんだと思っているんですか!?」
「シスター服を着たリアクション芸人」
「リアクション、芸人……?」
「サクラコさんの事をそう言えるのはトマリさんぐらいでしょうね」
恐らく価値観の違いだと思われる。宗教組織なんて何処も彼処も胡散臭いものだが、シスターフッドは比較的マシな方な気がする。邪神召喚とか、異教徒の弾圧はそこまでしていないはず。
ここに来て静観していた浦和ハナコが口を開いた。
「トマリさんと言えば、頻繁にミカさんの所に通っているようですが」
「暇潰しに付き合わせられているだけですね。誰か代わっていただけます?」
「うーん……その役割はトマリさんが適任そうなので、そのまま頑張ってください♡」
「確かに話しやすい雰囲気はあるからね」
それにしたって限度があるだろ。暇だからと言って業務用の端末にスタンプ爆撃するのも、真夜中に電話でだる絡みするのもやめろ。俺の連絡先を勝手に教えた人、怒らないから出てきてほしい。ちょっと俺の代わりに飼育係をしてもらうだけで許すから。
「ミカとトマリって煽り合ってるイメージしかないけど、どんな事話をしているの?」
「どうでもいい事ばかり話していますよ。先生は息災かとか、今何しているかとか」
「あらあら」
「先生が玩具の買い過ぎで生徒に家計簿つけて貰っている事とか」
「うん?」
「頭を撫でたせいでシャーレのコンビニの女の子に警戒されていたり、生徒の背中に乗ってにお「それは言ってはダメだよ」……えー、ここからが面白いのに」
「あらあら♡」
先生については頻繁に色々な生徒から聞かれる。やったね先生、モテモテの人気者だ!先生冥利に尽きますね!……え?俺のことについて聞かれるか?基本的にノータッチに決まっているだろ、言わせんな恥ずかしい。
「あまりにも暇暇って五月蠅かったので、テイルズ・サガ・クロニクルを勧めました。こう言う時こそ、知り合いのゲームを勧めてあげるのが優しさかと思いまして」
「……テイルズ・サガ・クロニクル2を?」
「勿論無印ですが?」
「鬼畜かな?」
「何て事をおっしゃるのか」
勧めた責任を取れだとか言い掛かりを付けられた結果、夜通し稚拙なゲーム実況を見る羽目になったが。何故俺まで地獄に付き合わされたのか。可哀想だと思わんのか?
カタコンベの入り口なんて古聖堂周りにしかないやろw
→判明しているだけでも約300ヶ所()