曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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24.深夜にて

 

「…………あの、先程から私の翼をじっと見ていますが、何か……?」

 

「…………」

 

「えっと……?」

 

「うーん……」

 

 

 相変わらず大きくて白い、立派な翼である。しかも強そうに見える。空を飛ぶためにありますって顔してるだろ。ウソみたいだろ。飛べないんだぜ、それで……

 

 

「……何を考えているのかは判断しかねますが、女性の容姿を不躾に見続けるのは失礼に当たりますよ。私はともかくとして、他の方にはそういった事がない様にしてください」

 

「へへ、すみません。ナギサ様の寛大な御心に感謝しまーす。実はつい先日、正義実現委員会の委員長さんが背中に生えた翼?で、かっ飛んで行くのを見たんですよ。ナギサ様も立派な翼をお持ちですし、やっぱり飛べるのではないかと思いまして」

 

「以前もお伝えしましたが、私は空を飛べませんよ」

 

「と、見せ掛けて実は?」

 

「 飛 べ ま せ ん 。より正確に表現するなら、飛ぼうとした事すらもありませんが。まあミカさんならあるいは、とも思いますけど」

 

「いやー、ミカさんが飛ぶのは空じゃなくて、首ではないですかねぇ」

 

「ま、まだ決まった訳ではありませんから……」

 

 

 まあエデン条約の彼是と並行して、水面下で必死に足掻いている所だから。ナギサ様の立場上、表立って他派のトップを助けようと動くのは、当然内外からの批判を招く可能性が高い。実際は、二人の関係性は普通に知れ渡っているので、正直今更だろうがそれでも体裁がよろしくない。だから必然的に内密に事を運ぶしかないが、そうなると時間も労力も相応に大きく掛かってくると。

 

 これでミカさんの周囲からの好感度が高かったらまだ手を打ちやすかったのだが、まあお察しの通り。暴君とまでは言わないが、割と傍若無人な振る舞いをしていたので、よく言って毀誉褒貶相半ばする評判だった。だから協力者が、人手がまるで足りない……。

 

 現状としては一応、目前に迫ったエデン条約を優先すると言う名目で、詳しい処遇が定まっていない言わば宙ぶらりんの状態となっている。フィリウス分派として今の状況に誘導したのもあるが、何より独りで生徒会長を務めているのが大きかった。ただでさえ歴史的な条約の前で忙しいのに、大派閥のトップの処分内容の決定と言う弩級の責任問題を裁くのは無理です。更に追い打ちを掛けるかのように、投獄によるティーパーティー全体の信用の失墜から、自治区内の治安が悪化しているのだが?幾ら何でもここまでされる謂れはないぞ。

 

 延期確定前の惨状たるや、昼夜問わず現場と執務室の往復する日々だったから。いやまあ、あの時は雇用主側の方が限界だったろうし、待遇に文句を言うのも流石に可哀想だったと言うか……。最早ティーパーティーのホストの座って罰ゲームみたいなものでは?そもそも、どうして三頭政治体制なのにワンオペする必要があるんですか?

 

 

「ナギサ様を持ち上げれば、少しぐらいは滑空できたりしません?*1

 

「…………試してみますか?*2

 

「うーん……滑空するだけなら別の方法でいいような気がしますね……」

 

「そうですか。一応お聞きしますが、空を飛べるような魔法はないのですか?」

 

「当然あります。頑張れば乾電池よりは高く浮けます」

 

「乾電池……」

 

「ま、まあ目標に向けた大きな一歩ですから」

 

「一歩どころか半歩より小さいようですね……」

 

「そこはほら、これでも浮くのは得意ですから!まだまだここからですよ!」

 

「確かに……トマリさんはいつも周囲から浮いていますしね」

 

「今日のお嬢は辛口ですねぇ」

 

 

 別に多少辛辣な物言いをする程度では特に何とも思わないが。自身の普段の態度が態度だから、受け入れるしか選択の余地がなかったとも言う。デリカシー?何それ?美味しいの?まあ思い当たる節は何もないが……ああ、調印式直前だからか?確かによくよく考えてみれば、学園全体がピリピリしていた様な気もする。

 

 

 

 

 

「この前あった出来事なのですが、シスターマリーが近くの花壇の所にあるベンチでお昼寝していましたよ」

 

「確かにあの辺りは日当たりも良いので、眠たくなる気持ちも分かります」

 

 

 傍らにジョウロが置かれていたので、水やり後の休憩中だったと思われる。生憎ながらマジックを持っていなかったので、着ていた上着を膝に掛けるだけで済ませてあげた。中々運のいい奴め、命拾いしたな。すっかり忘れていたが、まだ上着返してもらってない……。

 

 

「一緒にラーメンを食べた時も、ずっと息を吹き掛けて冷ましていましたし」

 

「明らかに猫舌ですね」

 

「偶に部屋の片隅を見詰めていますし」

 

「一体何が見えているのでしょうね」

 

「時々舌をしまい忘れていますし」

 

「ええ、そういう子もいますよね」

 

「持ち上げたら伸びるんですかね?」

 

「……流石に行動に移すのはダメですよ?」

 

「胡瓜を背後に置くのは……怪我するかもしれないのでやりません」

 

 

 胡瓜を見て飛び上がるシスターマリーを見たくないと言ったら嘘になる。が、笑って済ませられる範囲を見誤ってはいけない。悪ノリにも限度はある。

 

 

「……ところで何故その方のお話をしたのですか?」

 

「あー、猫には癒し効果があるじゃないですか?」

 

「そうですね」

 

「ですが最近は猫と触れ合っていないので。代わりにそれっぽい仕草をしていた人の話をしてみました。効果はありましたか?」

 

「……正直に申し上げますと、微妙ですね*3

 

 

 やっぱり実際に触れ合わないと厳しいか。ストレス対策と言えば好きな物でも食べる事か?ナギサ様の場合、常に紅茶を飲んでいるが。彼女の身体の大部分は紅茶で構成されていると言っても過言ではないのだ*4

 

 

 

「……トマリさんの苦手なものは何ですか?」

 

「真面目な話ですね」

 

「即答ですか、まあ今更驚きませんが……では、その他には何かありますか?」

 

「実はヴァンパイアが苦手でして……。あ、ここだけの話にしておいてくださいね?」

 

「了解いたしました。ヴァンパイアって吸血鬼のことですよね。差し支えなければ理由をお聞きしてもよろしいですか?」

 

「やはり血生臭くて……羽もゴムみたいな食感ですし……」

 

「……え?食べたことがあるのですか?吸血鬼を?」

 

「ある訳ないじゃないですか」

 

「判別し難い嘘を吐くのをやめてくださいね」

 

「寧ろ人型生物を食すと思われている方が酷くないですか?」

 

「いえ、流石にありえないとは思いましたけど……でもトマリさんなら否定し切れない部分もありますので……」

 

「失礼な。カニバリズムなんて齧った程度の知識しかないです」

 

 

 食べ物は粗末にしない主義ではあるが、人型生物を抵抗なく食べられる程の如何物食いではない。普通に食べないし食べたいとも思わない。そこまで特殊な趣味嗜好は持ってないぞ。ちなみに俗説では乳幼児が好まれるとされているが、柔らかすぎるだとか脂が多過ぎるなど意見が割れているらしく、その辺りは個人の好みなんだとか。

 

 それと奴に苦手意識があるのは、寧ろこちらが食糧にされていたからなんだよなぁ。平気な顔で街中に現れては血を要求するのが質が悪い。一応その取引にさえ応じれば、暴れたりせずに素直に引き下がるのでまだマシな方だが、不定期かつ突発的に注射させられるとか誰でも嫌だろ。

 

 

「ではナギサ様の嫌いなものをお聞きしても?」

 

「終わらない業務ですかね」

 

「あっ……いつもお疲れ様です。それでは俺はこれで」

 

「心優しいトマリさんなら、手伝っていただけますよね」

 

 

To Be Continued

 

*1
唐突なニワトリ扱い

*2
ナギサ様ご乱心

*3
そもそも面識があるか怪しい

*4
過言

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