「ハーッハッハッハッハッ!おはようございますっ!!素晴らしい朝ですねぇ!!!シスターサクラコォッ!!!!」
「え……えぇ、おはようございます。……ちょっと、ナギサさん。これは一体どうしたと言うのですか?」
「お、恐らくですが、昨晩から今まで私と一緒にトラブル対応にあたっていたので、少々寝不足気味なのかと……。それを見越して、昨日の午後からは休養を取って頂いたはずなのですが……」
「……その時間帯なら、トマリさんは古聖堂の見回りをした後、そのままどこかに出掛けられていたようですが……」
「一昨日はミカさんからの呼び出しで、徹夜でゲームをしていたとお聞きしています。つまり……」
「「…………」」
「朝だ朝〜だ〜よっゴホッ!?ケホッ、ケホッ!?」
「ああ、もうっ背中摩ってあげますから、しっかりしてくださいっ!?」
「こほっ……ごべんなざい」
「ご迷惑をお掛けして、申し訳ありません……」
「ナギサさんも苦労されているのですね……」
昨晩はまあいつも通り自治区内でいざこざが起きた。エデン条約直前と言う事で、余計な心配を掛けないようにするためにも内密に処理する必要があったのだが、今回に限って無駄に規模が大きかった。そして猫の手も借りたいと言う現場からの悲鳴が上がった結果、非常召集によって叩き起こされる事になったと。俺に何の恨みがあるって言うんだよ。
聖園ミカについては、イマイチ意図がつかめない謝罪を受けた日以来、本当に3日に1回は会っている。詳細は知らないが、メンタルヘルスケアの制度がどうだとかで指名が入っているとか何とか。恐らく奴は俺の事を雑用とか召使いか何かだと勘違いしていると思われる。会う度に元気に煽り散らかして無茶振りしてくるぞ?素で『私とおしゃべりできるなんてご褒美でしょ☆』と宣う自信超過剰な輩にメンタルケアなんて絶対いらないだろ。
そんな状況から逃れるためにも相手役として先生に押し付け……推薦したのだが、先生には迷惑を掛けられないからと敢えなく却下された。やっぱりどう考えても喧嘩売ってるだろ。それに何が合わせる顔がないだ。先生の前でカマトト振っても今更だよ今更。その思いやりを雀の涙程でも俺に向けて頂きたいものだ。
「オ…オレ…この仕事が終わったら、長めの休暇を取ります……サボリって他のヤツにバカにされてもいいです……アツアツのラーメンも食いてえ!大将が手づから作った屋台の特製のラーメンだ!煮卵ものっけてもらおう!」
「至極真っ当な願望を言っているだけのはずですが、そこはかとなく嫌な予感がしてしまうのは何故でしょうか……?」
「……………………大変申し上げにくいのですが、もう暫くの間はお手伝いして頂きたいと思っています」
「まあ条約締結直後は今と同じかそれ以上には忙しくなりますからね」
「鬼!悪魔!サクラコ!こんな横暴が罷り通ってもいいと思っていらっしゃるのですか!」
「ちょっと、なんでそうなるんですか!?それに人の名前を一体何だと思っているんですか!?」
「斯くなる上は……シスターフッドのネガティブキャンペーン、始まります」
「だからなんで!?そんなこと始めないでくださいよっ!?トマリさんは割と顔が広いので、本当にやめてくださいねっ!?」
「まあそんな事しなくても手遅れみたいですがね、ふへへ」
「えっ」
シスターフッドと言うよりシスターサクラコについての世論だが、方々でのイメージ調査の結果、無事怖がられている事が確定してしまった。何ならシスターフッド内からもしっかり怖がられている模様。勿論全員に聞いた訳ではないが、名前を出しただけで震え出す人も見られたので筋金入りだと思われる。
呆然としているシスターサクラコ、澄ました顔だがティーカップを持つ手がカタカタと揺れているナギサ様と現場は中々に混沌としていた。調印式はまだ始まってすらいないと言うのに、全く先が思いやられる話である。
「し、失礼しますっ!緊急でご報告させていただきますっ!現在、ゲヘナとトリニティの境界付近で不良が暴れている模様です!」
「「…………」」
「ハハハッ……スゥー、フゥー……………………ヤロォ、ぶっ飛ばしてやる*1」
「ひっ……!?」
「気持ちは理解できますが、少し落ち着きましょう」
「直ぐに正義実現委員会に連絡してください。非常用に動かせる戦力は十分準備してあるはずです」
「は、はいっ!」
「離せ!この短期間に何回トラブル起こしてやがるんだアイツら!無礼くさりやがって……!土手っ腹に手榴弾でもぶち込んで、汚ねぇ花火にしてくれる!!」
「ちょっ、どこからその量の手榴弾を!?暴れないでくださ、このっ……いい加減にしないとロールケーキをぶち込みますよっ!?」
「早く連絡を!」
「はっ、はいっ!」
「ふぅ……事態も沈静化しましたし、一息入れましょうか」
「馬乗りでトマリさんの口にロールケーキを突っ込んだままでですか!?」
「平常運転ですので、どうぞお構いなく」
「あの、先程からピクリとも動いていないんですが……」
「平常運転です」
(えぇ……。トマリさんが来てから、ナギサさんも随分と逞しくなられたような気がしますね……。特に図太くなったと言うか、微妙に性格が似てきたような……」
「…………一応、褒め言葉として受け取っておきます」
「私としたことが声に出ていましたか。これは失礼いたしました」
「はぁ、はぁ……死ぬ。甘味に埋もれて窒息する……」
普段はひ弱な方なのにお菓子を口にぶち込む時に限り、ナギサ様は異様なパワーを発揮する。そのため、戦績は驚異の全戦全敗である。その情熱は何処から来るんだ……?
「あら、目が覚めましたか。おはようございます。いい朝ですね」
「朝と言うより、まだ明け方なんですけど……。時間に余裕があるのでしたら、俺としては仮眠を取りたいのですが?」
「ふふっ……トマリさんも面白い冗談を言うようになりましたね。分かっています。仮眠なんて必要ありませんよね。だってついさっきまでここで
「……*2」
「トマリさんが見たことないような何とも言えない顔をしていますね……」
先日デパートで出会った子が、俺が話す度にそんな表情になっていたのを思い出す。あの何かを訴えているかのような目が非常に印象深かった。知り合いらしき4人組に簀巻きにされて連れてかれていたが、あの子は無事だったのだろうか。
「ナギサ様、訂正して下さい。その言い方だと丸で、俺がつまらない冗談しか言っていないみたいじゃないですか。いくら温厚な俺でも、それは看過できませんね」
「訂正を求めるのはその部分でいいんですか……?」
「なるほど、それでは訂正させていただきます。いつも通り味のある冗談でしたね」
「ならヨシ!」
「えっ、本当にいいんですか?」
「寧ろこれ以上に大事なことがありましょうか」
「あの……得意げな顔でそう仰られていますが、ナギサさんにマウントポジションを取られた状態で言われても……」
「あら、これは失礼しました」
「しっかりして下さいよ。大体お二方共、うっかりミスがあまりにも多すぎるんですよねぇ。本当にトップがこれで大丈夫なんですかねぇ。先が思いやられますよ。やれやれ」
「サクラコさん、そこにあるマカロンを皿ごと取ってください」
「ええ。よろしければこちらのマドレーヌもどうぞ」
調印式、始まらない
※この小説のナギサ様はイメージです。原作ナギサ様はもっと優雅ですので、ご安心ください。