曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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28.確執の再現

 

 煙が濛々と立ち込める中、空崎ヒナは先生の安全を確保しながら懸命に前へ進んでいた。ゲヘナの風紀委員長たる彼女は、最強とまで謳われる実力者であり、その小柄な体躯に似つかわしくない貫禄の持ち主である。

 

 対するはユスティナ聖徒会。攻撃を受けると元から存在していなかったかのように消滅しては、再び何処からともなく出現する。何度も繰り返されるその光景は、少し不気味な容姿も相俟って亡者を連想させ、現世に地獄が顕現したかの様にすら錯覚させる。

 

 

「しつこいっ!」

 

 

 鎧袖一触。ヒナと対峙したユスティナ聖徒会達の姿は、苛烈な銃撃に身を晒されて数秒保たずに掻き消えていく。轟音と共に放たれる銃弾は地形さえも歪めており、その十分過ぎる破壊力を世界に知らしめ続けている。しかし……

 

 

「はあ、はあ………くっ……」

 

「ヒナっ!!」

 

 

 殆ど無傷で佇む四人組を前にして、遂に限界を迎えてしまったヒナ。倒れ込む彼女を見ていることしかできなかったと悔いる先生の悲痛な叫びが響き渡る。

 

 元々巡航ミサイルにより痛手を負っていた事に加え、連戦に次ぐ連戦を強いられていたのだ。休む間もなく、更には先生の護衛まで一人で熟し続けていた彼女の負担は計り知れない。無理が祟り立ち上がれなくなってしまったが、キヴォトス最強の一角であるヒナでなければ、そもそもユスティナ聖徒会による包囲を突破する事すら困難だっただろう。

 

 

「ゲヘナの風紀委員長、ようやく倒れた」

 

「や、やっとですか……痛かったですよねぇ、よくあの傷でここまで……」

 

「……」

 

「トリニティとゲヘナの主要人物、ついでに目障りなイレギュラーも全部片付いた。残りは貴様だけだ、シャーレの先生」

 

「……君たちが、アリウススクワッド?」

 

 

 先生は自身の目の前に現れた、白を基調とした服を着込んだ四人組にそう問い掛けた。陽の光も砂煙に隠された最中、少し間を空けてリーダー格の少女は応える。

 

 

「…………ああ、そうだ。私たちが『アリウススクワッド』。ようやく会えたな、先生」

 

「……!」

 

「アズサが世話になったと聞いた。あいつには今から会いに行く予定だ。……我々はトリニティに代わり、この『通功の古聖堂』で条約に調印した。これをもって私たち『アリウススクワッド』が、楽園の名の下に条約を新たな守護する武力集団である『エデン条約機構(E T O)*1』になった」

 

 

 エデン条約機構。それはトリニティとゲヘナの間で紛争が起きた場合に介入し、その解決を担うとされる中立機構である。二つの学園間における全面戦争の阻止を願って設立される筈のETOが、皮肉にもテロを行うための手段として利用されていた。

 

 

「本来ならば第一回公会議の時点で私たちが行使する当然の権利。それをトリニティが踏み躙り、私たちのことを紛争の原因、いわば『鎮圧対象』として定義して、徹底的に弾圧を行なった。だがこれからは『アリウススクワッド』がETOとしての権限を行使し、『鎮圧対象』をゲヘナ、及びトリニティへと定義し直す」

 

「それはつまり……」

 

「ゲヘナとトリニティをキヴォトスから消し去るということだ。貴様らは第一回公会議以来、数百年に渡って積み上げられてきた私たちの憎悪を確認することになるだろう」

 

 

 アリウススクワッドとしての主張が終わり、銃口が先生の方を向いた。既に先生を守る者は誰も居らず、遮る物は何もなかった。

 

 

「だがその前に、貴様を処理しておくとしようか。シャーレの先生……貴様が計画の一番の障害になりそうだと、彼女は言っていたからな」

 

「ああぁあぁぁっ!!!!」

 

 

 銃声の鳴り響いたその刹那、ヒナが斜線に割って入った。疾うの昔からボロボロになっていた体で、それでも身を挺して先生を庇った。

 

 

「っ!?まだ動けるのか、空崎ヒナ!」

 

「くっ……ぅ……」

 

「……だけど、流石のヒナもここまでみたいだね」

 

「ヒ、ヒナさんはどうしてあそこまで……?そんなことをしても、苦しくなって……辛くなるだけなのに……」

 

「…………」

 

「……!全員、下がれっ!!」

 

「ひぃっ!?」

 

「何っ!?」

 

 

 突如、ヒナ達とアリウススクワッドの周辺で、幾つもの小規模爆発が発生した。強烈な風に煽られ、閃光が目を焼く。対応の遅れた者から巻き込まれ、次々と彼方に吹き飛ばされていく。直ちに状況を把握したヒナは、先生を爆風から守るために身を構えた。

 

 しかし、いつまで経っても衝撃は襲って来ず、混乱が収束するまでの間に終ぞ爆発に身を焼かれることはなかった。ヒナがその事実に違和感を覚えて目を開けると、そこには自分達を守るかの様に大楯を構えた少年の後ろ姿が見えた。

 

 

「オォオオオオォッ!!」

 

「っ!?」

 

 

 派手に咆哮を上げた少年に対して、敵味方問わず、否が応でも注目が集まった。そして未だ混乱が収まらない中、見計らったかのようなタイミングで緊急車両が突っ込んで来た。車両は先生達の目の前で急停止すると、直様中から人が飛び出して来た。

 

 

「先生!委員長!手を!」

 

「セナっ!」

 

「逃すかっ!くっ……邪魔だ!」

 

「厄介な……」

 

「他人の足を引っ張るのは得意なんで、ねっ!」

 

 

 急いで車両に乗り込ませようとするヒナ達に追撃の手が伸びる。しかし、地面から這い出て来た手に足を取られて、追撃者達は軒並み妨害された。その隙にセナは、先生を支えながら懸命に伸ばされたヒナの手を掴み、強引に二人纏めて車内へと引き込んだ。

 

 

「ヘッ……いい気味夢気分だなぁ、オイッ!テロリスト共の悔しがる顔を見るってのはよぉ!」

 

「チッ!この死に損ないがっ!!」

 

「ハハッ、死に損ないも仕留め切れない出来損ないが何か言ってらぁ!」

 

「せ、性格が悪すぎませんか!?あの人っ!?」

 

「…………」

 

「まあまあ、そうカッカしなさんなって。特別席からいいもの見させてやるからさぁ!」

 

 

 そう言いながら懐から取り出した大量の何かを辺り一帯にばら撒いた。それは地面に落ちた瞬間、けたたましい音と共に激しい火花を周囲に撒き散らしていく。一つ一つはそこまででもないが、数十個もの物量だったため、忽ち火花と煙が全てを覆い尽くした。

 

 

「……!?」

 

「ゲホッ、ゲホッ……煙が、鬱陶しいっ」

 

「熱っ!?うぅぅ……」

 

「うおぉっ!?何か思ってたのと違うんだが!?熱っ!火花の勢いが苛烈過ぎるって!?そう言う事か、しまった!?火薬の量がキヴォトス基準なのは考慮してなかった!?痛ってぇ!!」

 

「何で仕掛けた本人が苦しんでるのっ!?」

 

 

 最早阿鼻叫喚の地獄絵図である。弧を描いて閃き続けるネズミ花火が、空間を火花で埋め尽くしていく。煙で何も見えず、騒々しい破裂音で耳は使い物にならず、花火由来の硝煙の匂いが充満する。車内に引っ込んだ先生達以外、例外なく被害に遭っていた。尚、ネズミ花火をブチ撒けた当人も漏れなく苦しんでいる模様。

 

 

「無理無理、撤退!車に帰らせて頂きます!……おい待てって、何で発進してんだよ!?熱っ、俺まだ乗ってないんだが!?何やってんだセナァ!?」

 

「ぐっ……待てっ!熱っ!?」

 

「ゴホッ、ゴホッ……」

 

「ひぃ〜ん……人生ってやっぱり苦しすぎます……熱い!?」

 

 

 付き合い切れないと言わんばかりに少年を置き去りにして、緊急車両11号は急発進した。

 

 

*1
Eden Treaty Organization




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