結局ヒフミさんの拘束からは逃れることができず、大聖堂まで来る羽目になった。いつか絶対に仕返しする事を心に決めた。さて、大聖堂では浦和さんがシスターフッドの指揮を取っており、どうにかしてトリニティ全体の暴走を食い止めようと奔走している所だった。
現場の混乱を治めるためにも正確な情報が必要不可欠という事で、俺が古聖堂で見聞きした情報は包み隠さず伝えた。自分を呼び出した主な理由はこれらしい。復旧させた現場周辺のカメラ映像で一部は確認できたらしいが、全く情報が足りていないとの事。
「……ミサイルは間隔を空けて二度、目撃情報があります。一度目のミサイルは突然消えてなくなりました。サクラコさんから古聖堂に出入りする許可を取っていたことや周辺での目撃情報から、トマリさんがどうにかしたということでほぼ間違いないでしょう」
「ま、待ってください!それならどうして事前にミサイルが来るのが分かったというのですか!?」
「恐らくですが、セイアちゃんの『予知夢』を聞いていたのではないでしょうか?」
「おお、その通りですね」
あっさり言い当ててくるのは流石としか言いようがない。上手く使えばミサイルであろうと無効化できる破格の性能を有する超技術。今回は予知夢と組み合わせる事で運用したが、まさしくハマれば強い技の典型例である。
ただし、そう簡単に使用できるような代物ではないのだ。技術面を度外視しても、準備には莫大な時間と労力を要する癖に、効果時間は極僅かと使い勝手が悪すぎる。更に言えば、いつでも使えるようにするにはメンテナンスも必須である。そもそも複数人で手分けして運用するものであって、間違ってもソロで実行するものではない。
「調印式の会場を制圧するだけなら、ミサイルは一発で十分です。いくら何でも二発は過剰です。用意するのも大変なミサイルをわざわざ二発も撃ったのは、トマリさんへの挑発でもあるんでしょうね。もしもトマリさんが何をしようとしていたかが分かっていたなら、こんなに回りくどい方法をとる必要なんてありませんから」
「まあ挑発とかそう言う事は正直どうでもいい事ですが……ナギサ様について、何か情報は入ってきていますか?」
「いえ、まだ何も入ってきていません」
「まあそうでしょうね。では負傷者の捜索に乗り出せそうなのは、いつ頃だと考えていますか?」
「どれだけ早くとも日が沈んでからになると思いますが、確証はありません。この襲撃がいつまで続くのか、混乱が落ち着くのにどれぐらいの時間を要するか、現在の情報だけでは目処が立ちませんから。まずは指揮体系を構築して、各地で起きている交戦を止めて、その後から捜索に着手することになります。それでなんですが、トマリさんは学園内の騒動の仲裁を担当していただきたいのです。もちろん十分に休憩を取ってからで……」
「あの、トマリさんならお話の途中でどこかに向かわれました……ごめんなさい、ハナコさん。あまりにも突然だったので止められず……」
「……いえ、マリーちゃんは何も悪くありませんよ。トマリさんの行き先は古聖堂でしょうね。元々、協力を得られない可能性は考えていました。ですが、せめてもう少し仮眠を取られた方がいいと思うのですが……」
「本人から応急処置は実施済みであるとは聞いていますが、それでもボロボロになっていましたからね。とても心配です……」
聞きたい事は既に聞けたので、話の途中ではあったが抜け出させて貰った。まあ一応最低限の役割は果たしたからセーフの筈。離席したからと言って、別に浦和さんの方針に対して文句があった訳ではない。負傷者の捜索に取り掛かるまでに時間が必要なのは、至極当然のことである。ただ、出ていく直前に見たシスターマリーの泣きそうな表情は割と心に来た。誰だ伊落を泣かせようとした奴、許せねぇ……!
混雑している学園のゲートを潜り抜け、現在の目標地点は古聖堂。路面の状態を踏まえるなら、乗り物を調達するよりも走った方が早いので、覚えている限りの近道を利用して駆け抜けていく。
確かに浦和さんの言いたい事も分かる。だが、俺とは優先事項が違うのだと感じた。彼女が指示しようとしているのは、恐らくだがトリニティ全体で考えた時の最適解だろう。そちらの意見の方が正しい、正しいとは思うが……。そもそも俺がどのような内容でナギサ様と契約したかに立ち返ろう。契約内容は意外と多いので、現状において重要なポイントを二つ挙げる。
まず、契約者は桐藤ナギサ個人であること。トリニティでもティーパーティーでもなく、あくまでも個人間の契約である。立場や所属は関係ない。もう一つは、護衛対象はティーパーティーで、その中でも最優先はナギサ様
基本的に金持ちや権力者は気に入らない上に、如何にも厄介そうな仕事だったので、元々は仕事を引き受ける気はなかった。それを翻したのは、幼馴染みを何としてでも護りたいという揺るぎない想いを受け取ったから。大切なもののために身命を賭す姿には懐かしいものを感じたし、何よりそこまで覚悟している人に手を貸さないと言う道理はない。あの場でナギサ様が俺に対して本心を語っていなければ、エデン条約に関わることはなかった。
それに加えて最初の契約内容では、護衛対象をミカさんだけに指定しようとしていたので、少なくともあの時点では、ナギサ様は自身の命を半ば諦めていたのだろう。流石に覚悟決まりすぎじゃないか?まあ契約する以上はそんな事を通すつもりは一切ないので、護衛対象の範囲をティーパーティーまで広げたが。
長々と振り返ったが、一人でもナギサ様の捜索を始めると言うのが自分の結論である。契約云々関係なく、元々ヘイローの破壊を狙われていた立場なんだから、落ち着いてからとか悠長なこと言ってる場合ではないだろ。まあ動ける人員がいないから、こればかりはどうしようもないが。
当然だが、古聖堂に近付くに連れて戦闘は激しくなっている。トリニティもゲヘナもユスティナ聖徒会もそれぞれの勢力が対立している乱戦状態であり、普段なら絶対に近寄らない有様となっている。無闇矢鱈に探し回るのも効率が悪いので、ここで事前に準備していた秘密兵器を解禁する。
「こんな事もあろうかと、GPSがあると」
通称いつでもどこでもGPS3、お値段なんと『モモフレンズ』コラボパフェ7杯分。相場は分からないが万が一の事態に備えて、店頭に並んでいた物の中では一番高価で、性能が良さそうなものを選択しておいた。デザインが子供向けだったのでかなり微妙そうな顔をされたが、めげずに押し付けた甲斐があったぜ。
「では早速、スイッチON」
端末で確認した結果──応答なし。……まあそうなるだろうとは思っていたけどさ!ミサイルの突破を許した時点で結末は分かっていたけどさぁ、もう少し現実も俺に対して優しくなっていいんじゃない?期待だけ大きくなるから、GPSを持っている事を今まで誰にも言ってなかったんだよ。仕方ないので関係者に渡されている席次表から大体の居場所を割り出す。
「…………まあ、そうなるな」
現在地と建造物の残骸から考えると、今もなお激戦の中心地と化しているエリアが最有力候補に挙がった。そうなるだろうとは予想していたが行きたくねぇ……。小規模な爆発が随所で起きている鉄火場に単身で飛び込めとな?世界が俺を殺しに来てないか?至る所で銃弾が飛び交っているのが余計にタチが悪い。
どの勢力であっても見つかれば厄介な事になるだろうが、幸いにして隠れ場所には困らない状況である。スニーキングミッションなんて久々だが、潜入任務の必需品たるダンボール箱がないことが悔やまれる。目標を達成するだけなら、運が良ければすぐに終わるだろう。俺には分かるぞ。『運が良ければ』は大体良くない方向に行くって事を。
そして案の定、ナギサ様を発見した頃にはすっかり日も暮れていた。そもそも戦場で行方不明者を探す事が無茶だろ。傷だらけで気を失ってはいるが、呼吸は確認出来たので一安心である。
Q. どうしてナギちゃんは契約時に主人公へ本音を喋ったの?
A. 本音をバラしたところで特にリスクもなく、味方にできる可能性も高いと予想したから