曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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32.犬も歩けば

 

 時間は食ったものの、無事にナギサ様を探し出したのでミッションコンプリート。瓦礫の山の中でもかなり下の方に埋もれていた。相も変わらず薄幸なお姿に合掌。どうかその不幸が俺にも降り掛かるなんてことがありませんように、くわばらくわばら。

 

 ちなみに捜索中に見つけた行方不明者の方々については、呼吸の確認と目印だけ付けて一旦そのままの状態である。救出に割く労力を惜しんでいる訳ではなく、野晒しよりも瓦礫の山に埋まっていた方が安全だろうから。流石に全員を安全圏まで移動させるのは不可能である。

 

 いざ出発と言うタイミングで、突然目の前にユスティナ聖徒がポップした。

 

 

「…………」

 

「えぇ……そんなのあり?」

 

 

 逃げ隠れする猶予はないので迷わず手榴弾で爆破する。いい爆発でしょう。余裕の迫力だ、火薬が違いますよ。現在、トリニティとゲヘナの両陣営が引いたので古聖堂周辺における戦火は落ち着きつつあるが、それでも散発的に爆発は起きている。だから、この程度の騒音なら別に不自然でもないだろう。

 

 

「くにへかえるんだな。おまえにもかぞくがいるだろう…」

 

 

 おまじないを唱えてすぐに“(ハード)(ラック)”と“(ダンス)”っちまうとは幸先が悪い。気を取り直してナギサ様を運び出そうと振り返ると、そこには何人ものご家族の方々(ユスティナ聖徒)がいらっしゃった。もしかしたら、ついさっき吹っ飛ばした彼女?の帰る国はここだったのかもしれない。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「あっ、ナマ言ってすみませんでした。負け犬らしく、国に帰らせて頂きますね。へへ……」

 

「…………」

 

「よいしょっと。いやー、やっぱりユスティナの皆様には敵いませんね!まさに天下無双で唯一抜きん出て並ぶ者なし!完璧で究極の、わんっ!?」

 

 

 か、掠った!銃弾が肩に掠ったぞ、今!?飛び道具の撃ち合いで勝てる訳ないだろ!?不利相性に慄きつつも、ナギサ様の回収は間に合ったので尻尾巻いて逃げ出した。

 

 だが、そのまま逃げるには相手との距離が近過ぎるので、牽制のために手榴弾を複数取り出す。当然ターゲットは追手……ではなく瓦礫の山の下の辺り!相手にダメージを与える事よりも、撹乱を目的としている。

 

 

「痛っ……頭に直撃ってのもついてない」

 

 

 飛び散った小さな破片が頭に当たって地味に痛い。まあ敵方はもっと痛いだろうけど。巻き上がった砂煙で視界が悪い内に移動を開始する。増援の可能性も考えられるので、もたもたしている暇はない。

 

 要救助者を抱えている現状、普段以上に会敵を避けるべきである。しかし、いつどこでポップするか法則が読めないのがネックとなる。結局運任せじゃないですか!どうせ時間掛けたらまた俺の目の前にポップするんだろ。この選択肢は却下だ。見えてる地雷を踏みに行く趣味はないぞ。

 

 だが心配する必要はない。逆境を跳ね返して来たこの頭脳明晰・英名果敢たる叡智を以て、全て華麗に解決して見せようではないか。俯仰之間であみだした神機妙算の一手とは……。

 

 

「……………………突っ切るしかない……!」

 

 

 この手に限る*1

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、犬も歩けば棒に当たると言う有名な諺がある。犬があちこち歩き回っていると、棒で打つ人間が出没すると言う生類憐みの令に中指を立てている話だ。ただ歩いているだけでも異常者から打たれるのに、走っているとどうなるか。

 

 

「多くない!?一人に対して差し向ける人数多くないか!?」

 

「「「…………」」」

 

 

 答えは数十人規模からの集団リンチである。血も涙もねえ。だが少しだけ待って頂きたい。今は脱兎の如く逃走しているのだから、犬じゃなくてほぼ兎みたいなものと思われる。すなわち俺には当てはまらないのではなかろうか。犬は犬でも負け犬だから関係ない?ハァ…ハァ…敗北者……?

 

 

「「「…………」」」

 

「取り消せよ……!!!今の言葉……!!!*2 危なっ!?やっぱり取り消さなくていいので、見逃してください!」

 

 

 プライドとかどうでもいいので本当に勘弁して欲しい。退却戦は慣れているが、現状は普通にピンチである。前方からも敵群が接近している事を確認したので、一旦建物の近くに停められていた車の上に飛び乗る。そのまま窓ガラスの割れた箇所からビル内へ侵入した。ガラスをぶち破った訳ではないので多分セーフ。追手が来れない内にまた別の場所から飛び降りて逃走を再開する。

 

 

「まだ追い掛けてくるって……しつこいなぁ」

 

 

 執拗に追い掛け回されているので、中々思うように進めていない。いい加減埒が開かないが、打開策が思い付かないでいた。何かの拍子に事故が起きたら拙いので、早々に解決したいが……。

 

 

「言った側から事故ったんだが?」

 

「「「…………」」」

 

 

 原理は知らないが、突如として進行方向にポップしたユスティナ聖徒。またしても挟撃を受ける形になった。問題はさっきと違って敵との距離が殆ど離れていない事だ。考え得る限り、一番駄目なパターンを引いてないか?

 

 

「どうすっかなぁ……これ」

 

「…………」

 

 

 逃げ場がないので取り敢えず大楯を構える。自分だけなら無理も利くんだがなぁ……。一人で逃げる?却下。約束も守ろうとしない俺に生きてる価値ないだろ。考えを巡らせていると、不意にユスティナ聖徒が倒れた。これは……なるほど。

 

 

「遂に俺も特別な力に目覚めたのか……」

 

「なワケないでしょうが。どう見てもマシロの援護射撃っすよ。あれ?トマリだったら特別な力ってのは、ある意味正しいっちゃ正しいんすかね?……まあいいっす。ピンチっぽかったんで、応援に来たっすよ!」

 

 

 まあ逆境で覚醒するようなタイプではない事は分かっていたけど。イチカさんが正義実現委員会を率いて救援に来てくれた模様。まさに地獄に仏、渡りに船である。

 

 

「かたじけない」

 

「礼には及ばぬ、ってとこっすかね。あー……ナギサ様の運び方、なんて言うか……」

 

「いいでしょう?皆から評判がいいんですよ。お礼と言っては何ですが、この騒動が落ち着いたらやって差し上げますよ?俺以外の誰かが」

 

「あっ、そこはトマリがやる訳じゃないんすね。まあ確かにジェットコースターみたいで小さい子とかは好きそうっすけど……」

 

 

 よくチビ共にせがまれたものである。一応背中と両脇に抱える事で、体重にもよるが3人ぐらいは運べるぞ。だから何だと言う話ではあるが。

 

 横抱きは両手が塞がるし、ファイアーマンキャリーは腹部に負荷が掛かってしまう。故に脇に抱えるのが最適解だと判断した。見た目が悪い?むしろ見方が悪いのでは?

 

 

「フゥ……援軍も到着しましたし、やっと肩の荷が降ろせますね。肩と言うか脇ですが。これにて一件落着ですね」

 

「ははっ、何言ってるんすか。あんな大人数を数人で相手できるわけないじゃないっすか」

 

「へー、そうなんですね。それで、回収部隊的な人員は何処に居るんですか?」

 

「…………」

 

「急に黙ったまま俺の方を見ていますが、どうかしました?」

 

 

 糸目なのも関係しているのか分からないが、無言でニコニコしていると怪しい雰囲気になる。そのまま見詰め合うこと数秒。俺は察しが良いので、何となく意図を理解できた。

 

 

「あっちの方から来るって事ですね!」

 

「来ないっす」

 

「なら装甲車とかは?」

 

「ないっす」

 

「まさかのワープ装置が?」

 

「往生際が悪いっすね!?アンタが連れていくんすよ!?」

 

「俺はあきらめの悪い男……」

 

「ついでに耳まで悪くなったんすか?」

 

「婆さn「ぶっ飛ばしますよ?」すみませんでした」

 

 

 開眼してノータイムで切り返してくるの怖すぎるだろ。そんなに怒ったら皺が……とんでもねぇ圧を感じたので閉口する*3。俺もまだ命は惜しい。

 

 

「全く……バカ話は嫌いじゃないっすけど、TPOは弁えてほしいっすね」

 

ってやるよ……

 

「……え?何すか?あ、あの、なんで私の手を掴んでるんすか?」

 

「ああ分かったよ!連れてってやるよ!どうせ後戻りはできねぇんだ、連れてきゃいいんだろ!途中にどんな地獄が待っていようとお前を……俺が連れてってやるよ!」

 

「……いや、私じゃなくてナギサ様を連れてくんすよ!?ちゃんと話聞いてたんすか!?」

 

「痛たたたっ折れる折れる!手から出ちゃ駄目な音が出てますって!?」

 

「はぁ……。本当にこの人に任せて大丈夫なのでしょうか……?」

 

 

 通信機越しから、マシロさんの呆れ声が虚しく木霊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そこのお前、止まれ!」

 

「んげっ、ゲヘナの……」

 

 道を急ぐ最中、ゲヘナの風紀委員会が行く手を阻んだ。

*1
この手しか知りません

*2
何も言ってません。

*3
危機回避◯




主人公のヒミツ
実は、子どもや動物から舐められ好かれやすい。
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