目を覚ました先生が、バラバラになっていた生徒達を取りなして。それから、トリニティ学園の校門前でアズサを除く補修授業部と決起した頃。出発直前になってから、ヒフミがとある疑問を投げかけた。
「そう言えば、トマリさんを見かけませんね。電話も繋がりませんでしたし。ナギサ様を連れ帰ってからは、てっきり救護室に居るものだと思っていましたが……」
「どこかに出掛けたってことだけはセリナから聞いているんだけど、誰にも場所を伝えていないらしくて……。できればトマリの協力も得たかったんだけどね」
「今この場にいない人のことを、言っても仕方ないでしょ? アイツに限ってトリニティから逃げ出すなんてそんなことは…………いやでも……ちょっとありえるかもしれない、けど……」
「あはは……。まあ普段の態度がアレですからね……。確かにちょっと否定しづらいところはあるとは思いますが……」
コハルの正直な発言に苦笑いするその場の面々。本人の身から出た錆なので、ヒフミのフォローする声も尻窄みになっていた。
「……ちなみにハナコはトマリから、何か聞いてないかな?」
「私も皆さんと同じで、特に何も聞いていませんね。ただ、彼の過去のお話から考えても、そんなことはしないと思いますよ?」
「どういうこと……?」
「その過去のお話って……?」
「トマリさんって、あんまりご自分の話をなさらないような気がするのですが……」
「あら……?」
聞き覚えのない話を耳にして首を傾げるハナコ以外の全員。そして、その光景を見て首を傾げるハナコ。何故か全員が揃いも揃って頭の上に疑問符を浮かべていた。
「これは…………うーん、そうですね……」
「何か知ってるの?」
「まあ別に本人も隠しているわけではないようですし……。実は、トマリさんのお話の内容と一致する歴史書が存在していまして」
「えぇっ!?」
「……それは本当?」
「はい♡確信したのは水着パーティーのときですね。内容は多少暈していましたが、非常に特徴的で興味深いお話でしたので覚えていました♡」
「よく気づいたね……」
「そう言えばあのときって、過去の体験談みたいな話もしていたわね……」
「まあでも、その書籍にもトマリさんのことは、そこまで詳しく記述されている訳でもないんですけどね……。うふふ♡それはさておき、また補修授業部のみんなで集まって水着パーティーしましょうね♡」
「エッチなのはダメよ! 大体なんで水着に拘るワケ!? 意味わかんないったら!」
「その時はもちろん、アズサちゃんも一緒ですよ♡」
「あはは……えっと、水着パーティーをするかどうかはともかくっ、また補修授業部の4人全員が揃って過ごせるように。みんなでアズサちゃんを助けに行きましょう!」
ヒフミの号令で、補修授業部は動き出した。
トリニティの地下にあるカタコンベにて。古びた棺桶の前に、コートを纏った首から上が存在しない人物が佇んでいた。その人物は何故か、シルクハットを被った男性が後ろを向いている写真を腕に抱えていた。
「『かつてとある小さな村を、大小様々な異形の怪物が襲いかかりました。怪物の数は百を優に超えており、多くの者が絶望して膝をつきました。一部の村人は、それでもなお生きるために抵抗し続けましたが、多数に無勢でした』」
「『しかし、神は彼等を決して見放しませんでした。偶然近くを通りかかった勇者一行が駆け付け、怪物の大群を見事に撃退したのです。人々は、この小さな村に訪れた大きな幸運を、トバリ村の奇跡と呼びました』」
「『また、勇者一行の偉業に感動した村の少年が、勇者の同行者になることを決めました。そして、この少年が今代の勇者一行が認めた、最初で最後の同行者でした』」
「……彼のものはこの物語の当人なのか、それともただ肖ってそのように名乗っているだけなのか。何れの解釈にせよ、名前の中にテクストが含まれていると捉えるのが妥当でしょう。まあこちらの書物から、全てを読み取るということは叶いませんが」
「さて、話は変わりますが。古今東西、吸血鬼伝説は様々な形式で語り継がれてきました。それはキヴォトスでも同様であるらしく、その内の一つはこの墓地にも根源があると耳にしています」
「そういうこった!」
「貴方の宿敵とも言える存在をご用意させていただきました。まあ、私達の方で手を加えたので少々役不足かもしれませんが……それでも私達の目的は滞りなく果たせると考えていますので」
「あの記号からは、貴方に限っては、ここの全ての者達と全く異なるテキストを読み取ることでしょう」
「そういうこったぁ!!」
「是非とも一度、お会いしてみたいものですが……今お姿が見えないと言うことは、まだ私達が相見える時ではなかったのかもしれませんね。またの機会の楽しみとさせていただきましょうか」
「それではこの辺りで帰らせていただきましょう。貴方の健闘をお祈りいたします」
昼夜関係なく薄暗いカタコンベ。この暗さがそのまま自分の先行きを表しているような気がして微妙に癪に触ったので、手持ち花火を両手で振り回しながら歩を進めていく。壁面が多彩な光で染まる事で、何となく誇らしげな気分になった。
カタコンベとは地下墓地を指すらしいが、幽霊やその類いの存在は未だ見掛けていない。生憎、掃除機は準備していないので出会した際は、この花火を押し付けてやろうとどうでもいい事を考えながら進んでいると、とある事実に気付いた。
「ここ、どこ?」
普通に道に迷った。セイアさんから『カタコンベの奥地で過去の因縁が君の行手を阻むだろう』とは聞いていた。ついでにどの入り口を使うべきかも事前に聞き出してはいた。だが迷ったのだ。ヒントがなさすぎる。因縁がどうとか宣うなら、普通は迷わず辿り着けるものじゃないのか?運命力が足りないのか?
過去の因縁が何を示しているかは見当が付かないが、要は自分が蒔いた種と言う話だろう。それならば自分で刈るのが道理である。まあ仮に誰かを頼るにしても、現状では難しいと言わざるを得ない。だから一人で来た訳だが。
暫く歩き続けていると、漸く開けた場所に出た。今現在に至るまで、誰にも出会わずにいるのが不気味だが、立ち止まっていても何も始まらない。寝不足で若干鈍った思考を一旦落ち着かせ、更に警戒して前に進む。
「棺桶? …………げっ……」
目の前には、見たことのある紋章が入った古びた棺桶が。外道集団の目印を発見してしまったので、中身も確認せずに爆破を……とは考えたものの、爆発物やら危険物が入っている可能性を考慮して、一応開けてみる事にした。
棺桶に近付き重厚な蓋を開ける。その直前で大きく後方に飛び退いた。つい先程まで俺が居た場所に、何者かが上から降って来た。
うーわ、やっぱり見覚えしかないカスの吸血鬼じゃん。上から急襲とか、如何にもチスイコウモリらしい行動である。無駄にプライドが高い癖にやることが奇襲とか恥ずかしくないのか?
「…………」
「よっす、久しぶり。元気してた? じゃあ死ね」
錆びた聖剣(3/2スケールレプリカ)で吸血鬼の頭を斬り飛ばし、ついでに突っ立っていた胴体も蹴り飛ばした。ちなみに聖剣は錆びません。錆びたのは剣の腕前の方だった。そして何事もなかったかのように再生する頭。知ってた。
「キッショ、なんで生えてくるんだよ……」
「…………」
「危なっ、相変わらず身体能力が化け物なんだよなぁ……」
だが、言ってしまえばそれだけの話である。今回は厄介な眷属も居なければ、どこぞの主人公が持っていそうな魅了チートも俺には効果がない。なお、魅了に対する抵抗がなければ、武力で勝っていても為す術もなく敗北する模様。非常にタチが悪い。その能力を悪用して無辜の民を弄んでいたこと、俺は忘れてないからな?
因縁の敵とは言っているが、相手視点では相性最悪の敵である。そもそも精神干渉系が効かないので、それが主体の敵に対しては特効がある様なものだ。それでも身体スペックそのものが高いので、油断はできないが。
「掛かってこいよ腐れ外道。ひん曲がった性根ごと叩き斬ってやる」
何度も繰り返した攻防、性懲りもなく突撃してきた吸血鬼をいなして斬り伏せる。身体能力任せで攻撃が単調だから、対処も楽なものである。奴の移動先を予測して手榴弾を投げ込んだ。無駄に端正だった顔立ちや衣服は汚れ、今や見る影もない。
「汚い心に相応しい顔になったじゃん。お前の最期を飾る死化粧にはピッタリだな」
聖剣(レプリカ)で何度も切り捨てられた影響により、再生速度が落ちてきた所で、とっておきの銃を取り出す。あんまり使わないけど、一応俺も銃は使えるのだ。
「お前が何故こんな所に存在しているかは知らないが、これでおしまい」
装填したのは銀の弾丸。それを心臓に2発撃ち込んだ。吸血鬼は少しの間踠いた後、灰になって風にさらわれていった。喋れなかったのか、もしくは喋らなかったのかは知る由もないが、静かな戦いは呆気なく幕を下ろした。
ちなみに、銀の弾丸はシスターフッドからお守り代わりに頂いたものだ。シスターフッドが何故そんなものを提供しているかは知らないが、貰っていて大正解だったのは間違いない。今回のMVPはシスターフッドのお二人である。
「はぁ……やっと終わった……」
俺の役目はこれで全てだろう。後の事は誰かに任せて、長めの休養を取らせて貰いたい。草臥れた体に鞭打って帰路に着く。そのために振り返ると、ユスティナ聖徒がいた。それも大量に。
「世界が……世界が俺を虐めてきやがる……!」
当然、相手をするつもりはないので逃げます。と言うか、何で急に現れ始めたの君達?
銀の弾丸:渡すこと=暗殺命令らしい
聖剣(レプリカ):レプリカであっても、魔を滅する力は本物である。
P.S. 節分の日にこの説明を入れたかった。