曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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36.見知った天井

 

 目を覚ます。長い間眠っていたとき特有の何とも言えない倦怠感こそ残っているものの、体を動かすには支障はないレベルだ。カタコンベで逃げている間にも結構やられた気がしたが、中々どうして傷が多少できた程度で済んでいるみたいだ。途中でちびっ子達が河原で石を積んでいる夢を見たのは気のせいに違いない。

 

 最後の記憶は確か…………古聖堂で急に倒れた様な? 結局あの後どうなったかとか、諸々の問題が解決したかは少々気がかりではあるが……まあ五体満足で無事に生きているなら何でもいいや。事件の後始末? 知らね。そんな瑣末な事より、ここはお決まりの台詞を言うべきだろう。

 

 

「知らない天井だ……」

 

「知ってる天井の間違いでしょう……?」

 

「そうとも言う……ヴェッ!? セリナさん、いつの間にそこに?」

 

「トマリさんが起きてから、ずっと居ましたが……?」

 

 

 居なかったぞ。絶対に居なかったぞ。少なくとも俺の真横には、さっきまで誰も居なかった事は断言できるぞ。最早ナースと言うより、ニンジャでは? ……いや待て、セリナさんが『ナースである事』と『ニンジャである事』は両立する! つまるところ、彼女の正体はニンジャナースではなかろうか。また一つ、世界の謎を解明してしまったぜ……。

 

 

「トマリさんがまたおバカなことを考えている気がします……」

 

「ドーモ、セリナ=サン。トマリです」

 

「言った直後から変なことを……まあでも、それでこそトマリさんって感じはしますね……」

 

 

 感慨深そうに呟いているけど、中々失礼な事を言われている様な気がするんだが? 釈然としない物言いに多少のわだかまりを持ったが、直後に入り口の扉が爆速で開いたのを見て、口を閉ざさざるを得なかった。ノックしてから戸を開くまでが早すぎるんだよなぁ。

 

 

 

「失礼します! トマリが目を覚ましたと連絡を受けたので、救護に参りました」

 

「団長!? 何やってんだよ、団長!?」

 

「救護ですが?」

 

「アッハイ。流石団長、全くブレない……」

 

「あっ、ミネ団長は私がお呼びしました」

 

 

 いつの間に連絡したのかはもうこの際置いておくとして、到着までがあまりにも早すぎないか? 俺が起きてから、多分まだ3分も経ってないんだが? 当たり前の様に此処に居るけど、そもそもセーフハウスに封印、もとい隠れていたはずでは? 何故ここに居るんだ……?

 

 

「セーフハウスの方はよろしかったので……?」

 

「ええ。セイア様も無事に回復されたことですし。それに、いつまでも引きこもっている訳にはいきませんから」

 

「あれっ? まるで知り合いのようにお話されてますけど、トマリさんって団長やセイア様とはどういったご関係なんですか?」

 

「そうですね……私とトマリの関係を一言で表すなら、救護の道を共に邁進する同志、と言ったところでしょうか。セイア様を通じて出会いました」

 

「言ったかナー? 本当にそんなこと言ったっけかナー? 言ってないと思うナー?」

 

「何か?」

 

「小生は、言ってないと思う所存であります」

 

「…………」

 

「「…………」」

 

「えっ? えっ?? ふ、二人して無言で見詰め合っていますが、どういう状況ですか、これ……? なんで一触即発みたいな雰囲気になっているんですか……?」

 

「「…………」」

 

「ひ、ひょっとして私、不味いことをしちゃったのでは……」

 

「「…………」」

 

 

 外野が騒ごうとも関係ない。目を離した方が『呑まれる』、至って単純な理である。互いに静止していたのは数十秒、もしかするともっと短かったかもしれない。その間彼女は、決して目を逸さなかったのだ。その誇り高い所作に敬意を評して、無言で握手を交わす。

 

 

「団長、マイフレンド。ミネ、ベストフレンド」

 

「フッ……光栄です」

 

「え、えぇ……。ほ、本当に何なんですか〜!? 意味がわかりませんよ!?」

 

「へへ、何と言いますか……ノリと勢い? ライブ感で生きています」

 

「ごめんなさい、少しからかいすぎましたね」

 

「本当ですよ、もうっ! ミネ団長はともかく、トマリさんは次やったら何か一つ言う事を聞いてもらいますからねっ」

 

 

 揶揄われた事に気付いて、セリナさんが抗議の声を上げた。団長と共謀してやった事なのに、俺にだけペナルティが課せられているのは理不尽では? これが司法の救護割か? 不当な差別を受けたとして、出る所に出た方がいいのか?

 

 

「…………」

 

「何ですか、突然フリップボードなんて取り出して。もうこの際、それをどこから取り出したかは聞きませんが……『遺』? どういう意味……ってもしかして、遺憾の『遺』ってことですか?」

 

「誠に遺憾です」

 

「こ、この人、舌の根も乾かない内にボケてくるじゃないですか……」

 

「待ってください! 『遺憾の意を示す』とおっしゃりたいのであれば、『遺』ではなく『意』にするべきではないでしょうか!」

 

「な、なんだってー!? 確かに、一理あるやも。ぐっ、不覚っ……分かりました。セリナさんの言う事聞きます」

 

「あはは……トマリさんの戯言に真っ向から立ち向かうのは、流石はミネ団長と言いますか……。と言うかボードの文字をわざわざ『敗訴』に変えているのも、無駄に芸が細かいですね……」

 

 

 団長は頭救護だが、割と機転が利くお方である。ただ、頭救護で心に薩摩を飼っているだけで。そんなもの飼うぐらいなら、ギャルとかプリキュアでも飼った方がいいんじゃないかな。それでも団長なら何も変わらなさそうなのは気のせいか?

 

 

 

 

 

 そのままどうでもいい事をだらだら駄弁っていると、病室の扉がノックされた。ノックは規則正しく、しかもキチンとこちらの返答を待ってからドアが開けられた。これが普通なんだよなぁ。

 

 

「失礼します。起きられたのですね、トマリさん。ご無事……ではないかもしれませんが、大事に至っていないようで何よりです。……あら、既に先客がいらっしゃるようですね」

 

「まあそうですね。五体満足です。後、気付いたら救護騎士団の方々が来ていました」

 

「それはそれは……てっきり私が一番だと思っていたのですが、流石は救護騎士団と言ったところでしょうか」

 

「ええ。救護が必要とされているならば、すぐに駆けつけますので。ナギサ様の方こそ、随分とお早い到着ですね」

 

「ふふっ、偶々こちらの病室の近くに居ましたので。タイミングが良かったと言えます」

 

「それにしては菓子折りまで持っていらして。大変用意がよろしいようですね」

 

「あはは……」

 

 

 まあ実際、起きてから今までで、恐らく10分も経っていないだろう。一連のやり取りを見るに、ナギサ様と団長の相性って、あまりよろしくないのでは? やはり立場か? お互いの立場がそうさせるのか? まあシンプルに性格が合わないのもあるだろう。

 

 

「そんな事よりも救護騎士団のお二方、ご覧になりましたか? ナギサ様の入室までの流れを」

 

「もちろん見ていましたが……」

 

「それが何か?」

 

「アレが模範なんですよ。いいですか? 他人の部屋に入る際は、間違っても急に真横に現れたり、ノックした直後に爆速で戸を開いたりするものじゃないんですよね。お二人も見習って下さい」

 

「「?」」

 

「首を傾げる場面じゃないんですよ」

 

 

 救護騎士団のお二人は顔を見合わせて、何を言っているか丸で分からない、とでも言いたげな顔をしていた。何で分からないんだよ。団長はノックしている分まだマシな方だが、セリナさんに至っては当然の如く不法侵入である。と言うかこの人、若干ストーカー気質な気がして怖い。

 

 

「仰っている意味がわかりませんね……」

 

「速やかな救護のためには、むしろノックも不必要だと思いますが」

 

「えぇ、本当に何でそうなるかねぇ……。あっ、ほら見て下さいよ、あのナギサ様の反応を。ドン引きですよ、ドン引き。あんな顔にもなりますよ。やっぱり可笑しいですって」

 

「……私もノックしない方が良かったのでしょうか……?」

 

「そんな訳ないですから。今まで通り、普通に、常識的に入室して下さい」

 

 

 悪い方に足並みを揃えないで頂きたい。寧ろ何も反省してなさそうなそっちの二人組が悔い改めるべきだろ。やってる事、プライバシーの侵害じゃないか。俺自身は別にあまり気にする方じゃないが、着替え中とかに入られるとセクハラになりそうだからなあ。

 

 そもそも病室をフリースペースであるかの様に進入してくる方々と、ナギサ様みたいに常識的な手順で入室する面々が半々ぐらいなのは割とどうかと思うぞ。

 




セリナも団長も、原作ではもう少し良識的と言いますか、お淑やかと言いますか……
あ、でも団長は原作の方が酷いえ、何でもないです。
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