曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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39.ハッピーセット

 

「紙で作られた檻に果たして意味はあるのでしょうか?」

 

「急に何なの? て言うか、せっかく久しぶりに会えたのに、第一声がそれなの?」

 

「1週間ぐらいなら、別に久しくないと思いますが……。そんな事はさておき、檻の中にライオンを入れたところで、ライオンが檻を壊せるなら無意味じゃないですか」

 

「それって憲法とかのお話だったっけ? そう言う小難しいお話はセイアちゃんとして来たらいいんじゃない? それとも何? 今の私のことで何か言いたいのかな?」

 

「意外と賢いな……」

 

「ちょっと?」

 

「サーセン」

 

 

 考えなしではあるものの、普通に頭とついでに口も回る女こと聖園ミカ。いや、本当に考えなしなのか? 短慮に思えるが、意外と考えて行動している様にも見えるな……。真相は山の中、もとい藪の中である。暇なら俺以外の誰かを呼べば良いのに、何故面会謝絶にしているのか。

 

 

「そもそも考えなしとか、トマリにだけは言われたくないんだけど?」

 

「ミカさんもこちら側と言う事ですね。歓迎しますよ?」

 

「それはちょっと不名誉すぎないかな?」

 

「寧ろ俺に対して無礼すぎないですか? まあアレですね。さっきの発言については、特に深い意味はありません。ただ正直な話、ミカさんからしてみればこんな鉄格子なんて、そうめんみたいなものでは? と疑問に思っただけです」

 

「そうめん……? さすがに言い過ぎじゃないかなあ。まあでもちょっと曲げるぐらいなら、私ならそんなに難しくはないとは思うけどね?」

 

「何だ、それなら普通か……ん?」

 

 

 可笑しいな……今の発言には何か違和感があるような? ……まあ、世の中には気付かない方が幸せな事があると思うんだ。ふとした時に感じた引っ掛かりを、全力で考えないようにするのが長生きのコツだと、ギャンブラーのビューさん(享年33)から聞いたような気がするので、適当に話を変える事に決めた。いいんだ、俺は過去を振り返らない。

 

 

 

 

 

「へへ、ミカの姉貴ィ……例のブツ、用意致しやしたぜ」

 

「なんでトマリは三下ムーブがそこまで板についているの……? 全く違和感がないんだけど……。例のブツって言ってるけど、ただの差し入れのことだよね? 私が言ったのは確か、駅前に新しくできたお店のこだわりたまごの……」

 

「こちらになりますぜ」

 

「わぁ、嬉し……へ? ま、待って待って!? 大きすぎない!?」

 

 

 用意したのは黄色の甘い太山。またの名をバケツプリンとも呼ぶ。夢が大きい程良いと言うのならば、プリンもまた大きい程幸福度が高くなるのはもはや自明の理。『こんなんなんぼ大きくてもええですからね』のキャッチコピーの下で自作した力作である。

 

 

「何勘違いしているんだ」

 

「え?」

 

「まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ」

 

「何を変なことを言ってるの? 急にどうしたの……っていつものことだったね」

 

「こちらに上へ乗せるのに丁度いいサイズのプリンがあります」

 

「しかもクラシックタイプのプリンじゃん」

 

「更にもう一段ございます」

 

「プリンの上に二つもプリンを乗せてる……」

 

「追加のカラメルソースも用意してあります」

 

「力を入れるところを間違っているんじゃないかなぁ……。トマリって、頭が悪いってよく言われるでしょ?」

 

「失礼な。俺はよく考えて行動してますよ」

 

「よく考えた結果がこれならもう救いようがないよ」

 

 

 重ね重ね無礼な奴だな。プリンがあればハッピー、大きければ更にハッピー、数が増えれば輪をかけてハッピーだろ。園児でも分かる単純な理屈じゃないか。頭ハッピーセットかよ。

 

 

 

 

 

「なんて言うか、食に対しての執着がすごいね」

 

「腹が一杯なら、取り敢えず状況は最低ではありませんので。食うに困ったら、人としていよいよ終わりに近づきますから」

 

「……なんかやけに実感が籠ってない?」

 

「ミカさんにとっては意外に思うかもしれませんが、食い詰める事って別に珍しくありませんしねぇ……」

 

「おぉ……トマリが遠い目をしてる……」

 

「ですので、これは俺が食べていいですか?」

 

「お話の着地点がおかしくない?」

 

 

 遭難とか食糧ロストした場合とか、現地調達できればいいけど世の中そんなに甘くない。ついでに金欠にも気を付けるべきだ。やっぱり食事は摂れる時に摂った方がいいんじゃないかな。

 

 

「えー、別にいいじゃないですか。食べ掛けみたいですけど、そちらには立派なロールケーキがあるようですし」

 

「確かに美味しいけど、ずっと食べてたら流石に飽きるよ!」

 

「具体的にはどれぐらいの頻度でロールケーキを?」

 

「ここ最近はナギちゃんの指示で毎食ロールケーキなんだよ!? トマリも酷いと思わない!?」

 

「何をやらかしたらそんな状況になるのですか?」

 

 

 ナギサ様の性格的に悪戯でそんな事するとは思えないので、まあミカさんの方が怒らせたと考えるのが妥当だろう。何かあるとお菓子を食べさせようとすると言う珍妙な生態とも合致するし。

 

 

「ちょっとお部屋のこととかでお願いをしただけだよ!」

 

「どうせ碌なお願いでもなかったのでは? 例えば俺にしてくる無茶振りみたいな奴とか」

 

「いくら何でもそんな無茶なお願いなんてしてないよ!? それに三食ロールケーキはちょっとやりすぎじゃない!?」

 

「今俺に無茶振りしてる事認めましたよね?」

 

「トマリなら別に無茶振りでも聞いてくれるんだから、どうでもいいことじゃん! そんなことよりも、三食ロールケーキ生活の方を何とかしてきてよ! ナギちゃんと仲良いんでしょ?」

 

「全くどうでも良くないのだが?」

 

 

 お願いを聞かなかった時の方が、色々と後が面倒だから聞いてるだけだぞ。それと、ナギサ様と仲良しなのはアンタの方だろ。幼馴染みとか言ってたし。我が儘言ってないで、さっさと仲直りすれば良いものを。何だこの手の掛かるめんどくさい奴は? 河原で殴り合いしないと仲直りできないタイプの人? だとすれば仲直りは諦める他ない。流石に死人が出るのは拙い。

 

 

「一先ず落ち着いて、そこのケーキでも食べればいいんじゃないですか?」

 

「だから、もう食べ飽きたって言ってるでしょ! ああ、私のプリン!?」

 

「いや知りませんし。悔しかったらナギサ様と仲直りを、うわなにをするくぁwせdrftgyふじこlp」

 

 

 

 

 

 自信作のプリンを分捕られた代わりに、ロールケーキを押し付けられた後のこと。揺れるプリンを眺めていると、突然ミカさんは問い掛けてきた。

 

 

「……ねえ。もしもの話なんだけどさ。私をここから連れ出してって言ったらどうする?」

 

「どうするも何も……アナタはそんな事しなくても、ついさっきやったみたいに普通に脱獄できるじゃないですか」

 

「そうなんだけど、そうじゃないよ……。それじゃあ、もしも私が何か悪いことをしたとしても、トマリは今みたいに私の味方でいてくれる?」

 

「何ですかその仮定は。フラグにしか見えなくて、怖いんですけど……」

 

「いいから答えて」

 

「はぁー……分かってない。何も分かっていないですねぇ。そもそも俺は、ミカさんの味方だとは一言も言っていませんよ?」

 

「…………」

 

「いいですか? 俺は強い者の味方なんですよ。そこの所、お間違いなく」

 

「え? それなら私の味方ってことだよね?」

 

「……確かに」

 

 

 これは一本取られた。質問の意図がどうであれ、そう言われてしまうとこちらも味方であると認めざるを得ないなぁ。

 

 まあ実際の話、俺がちまちま風を起こすよりも、ミカさんがバットでも振り回していた方が強いのは間違いない。ここまでパワーが違いすぎると負けて悔しいとか、そう言う次元の話にすらならない。自然災害と力比べしても無意味だから。

 

 

「それで、味方を集めて何をするつもりですか? やっぱりリコールですか?」

 

「そんなこと考えてもいなかったんだけど……と言うかそれだとトマリなんて、何の役にも立たないじゃん」

 

「なら倒幕ですか? トリニティの夜明けは近いぜよ?」

 

「なんでナギちゃんを倒す方向で考えてるの……? しないよ。そんなこと」

 

「えー、流石にクーデターは二番煎じと言いますか」

 

「トマリはナギちゃんに何か恨みでもあるの?」

 

「え? 特に無いですけど」

 

「……まあ、トマリだからなぁ。何も考えてなさそう……」

 

「いやいや、案外考えている可能性も「ないね」……真顔で断言するレベルのことですか??」

 

「そんなことよりも、今日のお夕飯に何食べるかを考えてる可能性の方がまだ高いでしょ」

 

「コイツ、エスパーか……?」

 

「おバカさんすぎない??」

 

 




主人公:甘いものも割と食べる。実は、天気に詳しい。
ミカ:独りはやっぱり退屈で寂しいロンリーガール。カラオケでは積極的にマイクを握るタイプ。歌うのが非常に上手。

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