感謝の気持ちを伝えるにはどうすればよいか。その命題の答えは誠意を示す事だと考えている。では、肝心の誠意の示し方はと言えば、やはり言葉ではなく金額であろう。世の中の出来事は大体金を積めば解決できる。まあそれが全てだとまでは言わないが。
誠意は金額である事は間違いない。だがしかし、金銭の遣り取りには何かとトラブルが付き纏うのが相場である。そう言った諸々の面倒事を避けるための一つの対策として、直接お金を渡す事を避けて発展したのが贈り物文化と言うものでは無いだろうか?
「なるほど。確かにお金絡みのトラブルって、後を絶ちませんからね。原因になりやすいお金は、どうしても正義と切り離せない関係だと言えるかもしれません」
「うーん、そうっすねー……。まあ、一つの意見としては間違っていないんじゃないっすか? 流石にちょっと極端すぎるような気もするっすけど」
「後、お礼にお金を渡すと言われましても、正直何か怖くないですか?」
関係性の薄い奴に金をあげます! と言われても普通に怪しいだろ。何も疑わずに着いて行く奴、ガチで危機感持った方がいいと思う。まあそんな警戒心カカポ*1と同レベルの奴なんて、早々いないだろうけど。
「そもそも私たちも、報酬のために救援に行ったワケでもないと言うか。だからお礼とか全然気にしないで欲しいんすけど……」
「そう言うと思って用意したのがあちらになります」
「人数に対して、ケーキが多すぎませんか? ……あっ、つまり私達も食べないと駄目なように仕向けたってことですか。もしそうだったとしても、多すぎるような気がしますが……」
「なんでそう変な方向にばかり思い切りがいいんすか??」
「ご安心を。きちんと切り分けてありますので」
「私が突っ込んでるのはそこじゃないんすよね」
打ち上げと言う訳ではないが、エデン条約の騒動の際にお世話になった面々にケーキを振る舞う事にした。決して一人ひとりに対して、訪問して回るのが面倒だったとか、そう言った事実はございません。
既に8号のスクエアケーキ十台とプラスアルファを手配済みである。まあ現状では十人前後しかいないので、マシロさんの懸念についてはごもっともであるが、仮に余ったとしても適当な場所に持っていけばヨシ! の精神でいる。
「失礼します。トマリに呼ばれて来たのですが……まあ」
「あっ、ツルギ先輩にハスミ先輩!」
「あー……なるほど。そう言うことならこの量は正しいかもしれないっすねー……」
「……この量のケーキを全て一人で用意したのか?」
「当然。俺は約束を守る男ですので」
口約束でも約束は約束。だから、できる限り破らないようにはする。シスターヒナタだけはどうしても予定が合わなかったので、また後日にはなるが。
ツルギさん達が来てから、少し室内がざわめき始めた。まあ正義実現委員会のツートップがこんな辺鄙な所に現れたら、多少の反響はあるのかもしれない。
「私は端っこにいる……」
「あっ、ツルギ先輩! えっと、こう言うときはハスミ先輩に……って思ったんすけど、肝心のハスミ先輩はどちらへ……」
「ハスミ先輩ならあちらでケーキを食べていますね」
「早っ」
「現実はそんなに甘くはないという事ですね。まあ本当に甘いのは、ハスミさんが今食べているチョコケーキですが」
「やかましいっすよ! 考えの甘いトマリに言われたくないっす! 無駄にボケてないで、トマリもフォローを考えてほしいっす!」
それにしても少人数なら大丈夫かと思ったが、これでも遠慮してしまうのか。部屋の端へ向かっていったツルギさんに関しては、下手に触れすぎずにそっとしておくのがいいのかもしれない。そう言う繊細さを必要とするコミュニケーションは俺には向いていないから。
「あの状態のハスミ先輩に頼むのもアレですし、ツルギ先輩から注意を逸らせれば、少しはツルギ先輩も気が休まるかもしれませんが」
「おお! いいアイデアかもしれないっす! しかもトマリの得意分野じゃないっすか!」
「やっちゃいますか〜? 人間キャンプファイヤーを」
「もうちょっと穏便そうなヤツはないんすか? それだと部屋中でパニックになるっすよね?」
「人間は火を見ると落ち着く生き物ですが」
「人間は火事が起きたら慌てる生き物っすよ??」
「私は少し見てみたいかもしれません……」
インパクトはバッチリだが却下と。『爪先の火』を応用した『火達磨』ではあるが、遠目から見ればキャンプファイヤーには見えるぞ。全身を拘束された際など、一応使い道もある。ちなみに火に関連する技術は、俺はコイツらぐらいしか持ち合わせていない。
「もっとできればこう、それっぽいヤツをお願いしたいっすけど……」
「後は投げナイフか虹をつくるぐらいしかできませんが……」
「二択が極端すぎる……絶対に虹の方がいいっすよね?」
「私は投げナイフも興味がありますが……」
「では虹に向かって投げナイフを「虹だけにするっす」了解です」
これはナイフを用意し忘れただけで、決してイチカさんの目力に屈した訳ではないのだ。まあ虹をつくるだけなら得意なのですぐにできる。手早く完成させると、会場から驚嘆の声が上がった。ここで爆発をひとつまみ「止めるっすよ?」はい。
「全くもう……」
「でもキヴォトス基準であれば、爆発ぐらいはさせるべきでは?」
「まあ否定はできないっすけど……」
「色々ありましたが、ツルギ先輩も満足そうで何よりです」
「万事解決ですね! それに然しものハスミさんでもこの量は食べきれまい! 勝ったなガハハ!」
「だといいっすけど……」
このタイミングでナギサ様から、モモトークの通知が入った。何でも次の会議の書記が、体調不良で欠席になったから参加してほしいとのこと。連絡先間違ってますよ? と返信した筈なのに、いつの間にか出席する事になっていた。な……何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……
「まあいいか。えー……恐らく1、2時間程席を外します。片付けの段取りもしてあるので、飽きたら気にせず帰ってください」
「もしかしてトマリって、意外と忙しい人なんですか?」
「もしかしなくても忙しいですが? それとそこで噴き出してるのバレてますからね? だからその翼でバシバシするの止めろ」
「フフッ、だって鏡見てきてほしいっすよ。何で変顔してるんすか」
「これは真顔だっつってんだろ。そのきれいな羽、毟ってやろうか?」
「そんなきれいだなんて。照れるっす」
「バシバシ止めろ。それと照れる場面じゃないから」
「ところで呼び出しの方はよかったんすか? 何か重要な案件っぽいっすけど」
「人の携帯勝手に覗くな。何だ貴様、やりたい放題か」
その糸目引っ張り上げて、強制開眼させてやろうか。
会議用の記録用紙で手裏剣を量産していたら、ナギサ様にエクレアをぶち込まれたが、お勤めは無事に終了した。記録自体はしっかり取っていたからギリギリセーフらしい。セーフの対応でこれなら、アウトだったらどうなっていたんだ?
部屋に戻ると、ツルギさんとイチカさん以外は既にいなくなっており、そしてケーキは一つもなくなっていた。……はて?
「おっ、戻ったんすか。他のメンバーは予定が入っているらしいんで、空いてた私たち二人で片付け始めるところだったんすけど」
「片付けは本当に気にしなくても良かったのですが、厚意には感謝します。それよりも、あの大量のケーキを全部平らげたのですか?」
「ははは。ハスミ先輩を舐めちゃダメっすよ」
「トマリか。ケーキの代金はいくらかこっちで持つ」
「いや、別にいいですよ。一応約束していましたから。それにトリニティに来るまでは素寒貧でしたけど、今はあまり困っていないので」
「やっぱりいっぱい報酬貰ってるんすね! 良かったじゃないっすかー!」
「いいでしょう? 気付けば増えてる残高と身に覚えのない入金。最近はもう残高を見るのを放棄し始めました」
「いや、あの……それはちょっと怖くないっすか?」
「フフフ、怖いか?」
俺は怖い。ナギサ様に確認すると、報酬に色を付けておきました、だとか平然と言っていたが、追加報酬が元の報酬より明らかに多いんだよなぁ。色を付けると言うより最早、塗り潰しにきているレベルである。誰がそこまでやれと言った。
財力の恐ろしさを三人で駄弁りつつも、後片付けはスムーズに終わった。
まさかのお菓子の話三連弾
主人公:最近、新しい通帳とキャッシュカードを手渡された。
マシロ:正義の体現者を志すストイックガール。歩き方が大変可愛い。
イチカ:ルックス⚪︎社交性⚪︎要領⚪︎の才女。鋭い観察眼は糸目によるものだと噂されていない。
ハスミ:冷静沈着生真面目ガール。団長と殴り合えるポテンシャルを持っているかもしれない。
ツルギ:戦略兵器乙女。礼儀正しい戦闘狂で恥ずかしがり屋。