曇り時々銃弾、所により爆弾   作:Aベル

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平和です。




a.貫き徹する

 

 おじさん救出作戦を終えて間も無い頃、先生が俺を訪ねて来た。曰く、事の顛末を説明するためだとか。てっきり忘れられていたのかと思っていたが、律儀な所もあるものだ。

 

 今回の一件では、そもそもアビドス対策委員会が公的な認証を得ていなかったことが原因の一つだった。それに関しては、先生が手を回したことで無事解決されたと。更に、先生が顧問として所属するシャーレの上位組織である『連邦生徒会』も、重い腰を上げてカイザーローンを捜査するとのこと。うん、その辺の政治的な話には首を突っ込まないぞ。どうせ大企業との癒着だとか、不祥事が腐るほど出てくるんだろ。

 

 アビドス高校の借金については、相変わらず9億のままではあるが、不当に引き上げられていた利子が大幅に下がったらしい。これで一安心……いや、それでも厳しくない?寧ろ今まで、どうやって返済していたんだ?

 

 序でにカイザーコーポレーションの理事は全ての責任を負わされて、大権力者から一転、今ではすっかりお尋ね者に成り果てたのだとか。分かり易すぎるスケープゴート。いやー、怖い怖い。

 

 で、先生は今、先日の救出作戦でお世話になった人達へのお礼の最中だとか。基本的には手紙でも報告しているみたいだが、俺については居場所がこれだから直接訪問することにしたらしい。こんな辺鄙な場所まで、わざわざご足労様である。

 

 

「それで、報酬については…」

 

「現金!キャッシュ!現ナマでお願いしまーす!」

 

「うん、そう言うとは思ってたよ」

 

 

 今の所持金は、驚異の無一文である。そもそも稼ぐ当てなぞない。更に言えば戸籍すらないので、そう言う仕事をするかグレーな商売しか選択肢がない。改めて考えても酷い。

 

 

「もしトマリが良ければ、シャーレに来ない?今、人手が足りなくて」

 

「え、嫌です」

 

「あらら、残念…振られちゃったなあ。理由を聞いてもいい?」

 

「立場ができると面倒だからです」

 

 

 なんやかんやあって一人で行動する期間が長過ぎたせいで、所属とか考えるのが億劫になってしまった。それと、俺は俺でしたいことがあるから、と言うのも理由の一つだ。いついなくなるかも分からないし。身分の保証だとか、安定性を考えるとこれ以上ない提案なのは間違いないが。

 

 

「そっか……無理強いはできないね。でも、気が変わったらいつでも来てね。大歓迎だよ」

 

「ありがとうございます。その時はよろしくお願いします」

 

「あ、でもまた何かあったら頼ってもいいかな?」

 

「そこはまあ、報酬を貰えれば」

 

「じゃあ早速お願いしようかな!」

 

「え?今からですか?」

 

 

 どうやら本気のようだ。いやまあそれは別にいいんだが、先生が必死すぎて怖い。掴まれた手からは絶対に逃さないと言わんばかりに力が込められており、ヒシヒシとした圧を感じる。

 

 

「ちなみに何の仕事ですか?」

 

「それはもちろん、今回の騒動の事後処理を兼ねた関係各所への報告書とお礼と留守にしていた分溜まっているだろう書類仕事と……」

 

 

 これから行うであろう仕事内容を語る先生は遠い目をしていた。目が死んでいるとも言う。もしかして判断を早まったか?

 

 

「とにかく、オフィスに行こっか!」

 

「何その笑顔、恐いんスけど」

 

「ふふふ」

 

「いやなんか答えてくださいよ」

 

 

 

 

 

 

 

 先生に連れられてやって来たシャーレの部室であるオフィスビルは、想像以上に立派だった。外観に見合った広々とした間取りに充実しすぎている設備、更にはコンビニまで営業している。何故か人は全然いないが。

 

 

「それで、ここが執務室だよ」

 

「うわぁ……」

 

 

 思わず声が漏れる。案内された部屋は、外の景色が一望できる開放感に溢れた内装となっている。が、その風景について感動したわけではない。そんなことより、執務机に堆く積まれた未処理であろう書類達が存在を主張しているのだから。つまり感嘆の声ではなく、ただただドン引きしているだけである。

 

 

「あっ、お疲れ様でしたー」

 

「逃さないよ?」

 

「すみません、思わず帰りそうになりました。もう大丈夫です。それで、その他の人員は何処にいらっしゃるので?」

 

「まず私、あとトマリ。以上、精鋭メンバーです」

 

「」

 

「二人っきりで嬉しそうにしているところ悪いけど、早速してもらいたいことを説明するからそこに座って?」

 

「あっ自分、書類仕事はできない頭なので……」

 

「流石に往生際が悪いよ?」

 

 

 こんなもの見せられたら逃げ癖が発動しても普通なんだよなあ。ちょっとしたお手伝い感覚で来たら、とんでもねえ爆弾が飛んできたんだが?何この罰ゲーム?俺なんか悪いことした?

 

 

「それじゃあ、一緒に頑張って逝こう!」

 

 

 

 

 

 

 

 それから確か、太陽と2回こんにちわして、3回目のお別れをするぐらいの頃だったように思う、多分。先生への報告のために席を立った。

 

 

「先生。書類仕分けたので、ここに置いときます。後に回せるものは一旦置いときましょう」

 

「……」

 

「あ、データ入力はまだ終わってないので、これからします」

 

「Zzz…」

 

 

 なんか静かですねえ…?違和感はあったが、気にせず報告する。と言っても、俺に割り振られたのは数だけは多い簡単な仕事ばかりのため、報告も大した内容ではないが。

 

 

「ちょっ、あなた、どこにしゃべっているの!?先生はそこにいないわよ!?」

 

「?」

 

 

 いっけね。よく見たらこれ先生じゃなくて観葉植物だったわ。あれ、今日は水やりしたっけ?恐らくした、きっと。

 

 

「ひどい顔色ね。少し休んだ方がいいわよ。そっちの方が効率的だわ」

 

「うぉっ、知らん人が居る!?敵襲!?」

 

「相当重症みたいね……」

 

 

 突然現れた菫色の髪をツーサイドアップにした少女が、心配そうな表情で溜息を吐く。まさか俺がここまで接近に気付かないとは。

 

 

「さてはお主、相当やりおるな?」

 

「いや何の話よ!?」

 

「うぅん……あ、おはようユウカにトマリ。あれ?私は何をしていたんだっけ?」

 

「おはようございますというか、もうこんばんはの時間ですよ。もう、また仕事溜め込んで……」

 

「あ、だから寒かったのですね」

 

 

 先生に掛けていた上着を回収しようと手を伸ばしたところで改めて、先生にユウカと呼ばれていた少女が口を開いた。……おい、無駄な抵抗はやめろ。俺も肌寒いから早く返して頂きたい。

 

 

「あなたが噂の人ね。初めまして、私は早瀬ユウカ。ミレニアムサイエンススクール所属、セミナーの会計をしているわ」

 

「あ、早瀬さんですね。これはご丁寧にどうも。その噂の人物かは知りませんけど、トマリです。所属とかは特にない、少し変わった術が使えるだけの一般人です」

 

「それは一般人の括りに入らないんじゃ…?まあいいわ。それと年齢も近そうだから、私のことはユウカでいいし、敬語もいらないわ」

 

 

 ミレニアムサイエンススクールね。また初めて聞く学園が出て来たが、サイエンススクールと名がつくなら、まあ当然理系の学校だろう。お互いに自己紹介も終え、落ち着いたところで現況を振り返る。

 

 

「うん……トマリ、ありがとね。急ぎの分はほとんど片付いたみたい。今日のところは一旦これで終わりにして、ご飯でも食べに行こうか」

 

「ラッキー!先生の奢りで焼き肉だって。ユウカさんも一緒に行って先生の財布にダイレクトアタック仕掛けるべ」

 

「まだ奢るとも言ってないし、トマリはもう少し私に遠慮した方がいいんじゃない?」

 

「へえ、先生はブーメランが得意なんですね!」

 

「せ、先生?トマリ君はこう言ってるけどいいんですか?」

 

「うん、まあお世話になっているのは本当のことだからね。親睦会ってことで、ユウカも来てくれると嬉しいな」

 

「そういう事なら、是非参加させてください」

 

 

 宣言通り、先生の奢りでしっかり焼き肉を頂いた。同席したユウカさんからも面白い話が聞けた。話を聞いてると、この人結構上の立場の人なのでは?と言う疑いが浮上したが気にしない。割と愉快な性格してたし。やっぱり、人の金で食う焼肉は最高だな!

 

 

 





トマリ君はすぐに元居た世界に帰れると思い込んでいます。見通しがキャンディーより甘い。

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