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会議は未だに続いていた。なお、話が一区切りしたので解散を提案したが、敢えなく却下されている模様。
「カタコンベは全体図さえ判明していない巨大な迷路です。毎回変わる経路を探るのは確かに難しいですね……」
「発想を逆転させましょう。それならば、通路を把握している人物に聞くのはどうでしょうか?」
「そんな人物がいるのですか……?」
「ええ。襲撃を主導したアリウススクワッドのリーダーである錠前サオリ。彼女は確実に通路を熟知しているはずです」
「錠前、サオリ……!?」
「そっか。トマリにとっては、ある意味では因縁の相手だから……」
「誰でしたっけ? 少なくとも俺の脳内ファイルにはヒットしませんでしたが」
「本体の容量が小さすぎるせいじゃない?」
「解凍するためにも温かい紅茶でもいかがですか?」
「電化製品なら叩けば直りますが……試してみましょうか?」
「精密機器は丁重に扱うべきでは?」
言いたい放題過ぎるだろ。それにここはトリニティだぞ。そんな叩いて直すなんて、野蛮人の発想ではないのだから。一応お嬢様学校なんだろ。すぐバイオレンスな方向に話が進むのはキヴォトス人の悪い癖ではないだろうか。
「精密、機器……? トマリの頭がですか……?」
「可哀想に……シスターサクラコは、精密機器を存じ上げないご様子です。時代に取り残され、彷徨うお姿は迷える子羊のようで……何か子羊にしては図体も態度もデカいっすね。あ、でも大体いつもお独りで居るので、群れからはぐれて迷っていると言えなくもない……?」
「言えませんがっ!? ……全く、話が二転三転する上に、その全てで失礼な物言いをされるのはいかがなものかと思います」
それにしても、本当にアリウススクワッドって誰だったっけ……? あー……聞いたことは恐らくあるのかもしれないが、他人の名前を覚えるのが苦手な身からすると、どうにもうろ覚えな記憶である。端的に言えば、あまり興味がない。
「で? 何処の誰かは知りませんが、そいつを探せばいいんですか?」
「えぇ……対面したこともあるのに知らないって、嘘でしょ……?」
「ところがどっこい……嘘じゃありません……! これが現実……!」
「なんでこんなときに自信満々なんですか……?」
「本当に覚えていないのですか?」
「目と耳が二つあって、鼻と口が一つずつあることは辛うじて……。後は足腰が強そうだなって印象ぐらいで……」
「ここまで欠片も覚えていないことある?」
だって興味ないし。そもそも戦闘中に相手の顔面をマジマジと見るかと言われれば、ねぇ……? まあガスマスク着けてたら大体アリウスじゃないか?
「そう言えば、これは関係ない話なのですが、カタコンベを抜けた先で廃墟みたいなエリアに辿り着きましたが」
「どう考えても喫緊の話題ですよね? トマリさんは何故、そのような大事な事をすぐに報告しなかったのですか……?」
「いやー、本当にアリウス自治区か確証がなかったので。一応写真も撮って来たので、良ければ見てみます?」
この場の全員に画像を送ろうとしたが、端末自体を要求されたのでナギサ様に手渡した。ナギサ様は手早く写真を確認すると、そのまま対面に座る団長に端末を回した。画像を共有すればいいだけじゃ……まあシスターサクラコには難しいかもしれないからこれでいいか。
「…………」
「素知らぬ顔をして、翼でペシペシするの止めて頂けます? 報告を後回しにしたのはまあ……雀の涙程には反省していますので。……あ痛っ」
「あはは……流石にこれは擁護できないよね」
元々擁護する気もなかっただろ。白々しい事を言いよる。カタコンベの先の謎空間が写った画像を表示した端末が一周回って、漸く俺の手元に戻ってきた。
「それにしても、また根本から話を引っ繰り返してきたね……。いや、懸念事項の一つが無事に解決していいことなんだけど、なんか釈然としない……」
「トマリはどのようにしてこの場所を見つけたのですか?」
「俺が日課のデイリー周回をしていた頃に話は遡ります」
「なんで急にソシャゲの話になるの……?」
「えー……ここ。このエリアです。カタコンベの入り口が比較的密集しているので、ここ最近は一日一回走破していました。これをデイリー周回と呼んでいます」
「思っていたより脳筋な方法だね!?」
仕方ないだろ。じゃあ他に方法があるのかって話になるからな。一応通路を知っていそうなアズサさんやミカさんにも尋ねたが空振りだったし。今回の難題に対する解なんて、求められるなら別に何でもいいだろ。解法に拘るのはナンセンスな話だ。
「……カタコンベはそんなに簡単に調査できるものではなかったのでは?」
「まあ世界を救った勇者パーティーの斥候担当からすれば、カタコンベの探索なんて朝飯前ってことなのかな……」
「はあ……? 朝食は食べるべきですよ?」
「輝かしい来歴と現在の言動の落差が激しすぎないですか?」
「後者の方が遥か高みに居ると言う点ではその通りですね」
「ここまでポジティブなら人生楽しいだろうね」
当然の評価だろ。それと朝食に限らずだが、ご飯は三食しっかり食べるべきである。まあそれ以上に優先したい事があるなら無理に勧めはしないが、ご飯を抜くのは推奨はしない。団長も、そうだそうだと言っています。
「それで、偶然デイリー中にアリウスの生徒を見つけたので拳で解決……」
「…………」
「する事なく跡をつけました。当然ですよね。……何ですか、その表情は? 何でもかんでも暴力で解決する訳ないじゃないですか。皆さんもご存知の通り、俺は平和主義者ですので」
「うーん…………まあ……平和主義なのはある意味間違ってはいない、のかな……?」
「何故そこに疑念を持たれているのですか?」
微妙そうな顔してるけど、何か文句あるのか? 言いたい事があるならはっきり言うべきだぞ。俺の判断が妥当過ぎて面白味がないのが悪いのかね? つまり、皆に『夢』を見せる事を期待されてるってワケだな。やれやれ、人気者ってのは大変だなぁ!
「ギミックを突破した訳ではないので、アリウス自治区に行くには再現性に欠けます。一応マッピングはしてありますが、多分あんまり役に立たないんじゃないですかね」
「……やはり、そう上手く事は進まないものですね」
「それでも、ゴールが存在することを確定できたのは一歩前進とも言えますね」
やっぱり今現在分かっているカタコンベの入り口を、数に任せて調査するしかない? いや、迷子になられて混乱するから難しいか? 今は情報を集めるしかない?
「消息のわからないスクワッド以外にも、通路を熟知している生徒がいるのではありませんか?」
「ええと……どなたのことでしょうか……?」
「アズサさんには既に聞きましたが?」
「いえ、アズサさんではなく、聖園ミカさんのことです」
「えっ!? そ、そんなことは……ミカさんはアリウス自治区の位置だけは知らないと仰って……」
「……彼女は長い間、アリウスと内通してきました。それなのにアリウスの位置を知らないと言うのは、少し不自然ではないでしょうか?」
「…………」
「……確か、ミカ様はアリウスの生徒に対して、補給品を手渡した記録が残っています。クーデターを起こすための布石と考えるのが自然でしょう」
「ですが……」
「じゃあなんすか。ミカさんは聞き取りを行った俺に対して、嘘を吐いたってことっすか?」
態々嘘を吐いて、アリウス側を庇って自分の立場を悪くする必要があるのか? 奴は意外と頭が回るから、そんな益のない真似はしないと思うが。それなら何の為に? 嫌がらせか? ピンポイントで俺に対する嫌がらせなのか?
「や、奴ならやりかねない……!」
「トマリのミカに対する評価は、かなり偏見が入ってそうだから当てにならないとして」
「まあでも知っていたと仮定しても、ミカさんがそれを隠すメリットは特にないと思いますが」
「私たちの知り得ない事情がある可能性も捨てきれません」
「うーん……自分の立場を悪くしてまで優先する事情ですか……? あの人、考えなしですけど阿呆ではないので、そんな行動しない様な気が……お、シマエナガくん」
開いていた窓からやって来たシマエナガくんは俺の頭の上で止まった。このメンバーの中から俺を選ぶとは、中々センスのある鳥さんである。可愛い奴め。
「かわいい……」
「その小鳥はセイアの……?」
「シマエナガくんです。そしてシマエナガくんこそが、セイアさんの本体と言っても過言ではありません」
「また与太話し始めた……」
「あの、トマリさん。お願いがあるのですが……。その……シマエナガくんに触れさせてもらったりはできないでしょうか……?」
「大丈夫ですよ団長。シマエナガくんは賢いので問題なく、あっ」
逃げた。しかももう用はないと言わんばかりに、入って来た窓から何処かへ飛び立って行った。まあ別に団長を避けた訳ではなく、早くセイアさんの下へ向かえと言うメッセージなんだろうけど。……うわ、気不味い雰囲気とか本当に苦手なんだよな。
上着を脱いで、テーブルの空いたスペースに掛ける。突然の行動に団長達は怪訝な顔をしているが気にしない。そして置いた上着を引き払うとそこには……。
「花が出てきた!? 流石は手品師だね」
「手品師ではないのですが」
「ふむ……この花は確か、ベルフラワーでしたね」
「流石ナギサ様。正解です。よければ皆さんに差し上げましょう。まあ造花ですけど」
正直これぐらいなら難易度は高くないから。『夢』を見せる事を期待されてる身としてはお茶の子さいさいである。これにて解決! と言う事で、シマエナガくんの導きに従う事にした。
シマエナガ:シマエナガの「シマ」は縞模様のシマではなく、島が由来である。