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セイアさんの病室から退室する頃には、辺りはすっかり夕暮れ時になっていた。本日の予定は全て終了したので帰宅……の前に某有名ハンバーガーチェーン店に訪れていた。ちなみに今回のセットメニューのおまけは、宙返りする忍者のおもちゃだった。成る程、いらない。
ナギサ様の余計なご厚意により腹の中が潤いすぎているので固形物を摂取したい。そう言った思いで注文を済ませてから、外が見えるカウンター席を陣取っていると、近くのテーブル席から学生の談笑する声が聞こえてきた。
「トリプルステップとかローレライもいいんだけどさぁ……やっぱベロニカなんだよねぇ」
「一周回ってって感じ? ま、ウチはココデビル一択やけど」
「アンタはずっとそれじゃん! たまには他のにしてみんの?」
「ないわー。つーかさっきから電話の着信音うるさくね?」
「それなー!」
何の話をしているかは俺にはさっぱり分からないけど、至って普通の日常会話であろう。まあ明日の聴聞会さえ乗り切ってしまえば、一先ずはミカさんの退学は阻止できる筈、恐らく。そして、ゆくゆくはあのテーブル席の二人組の様に談笑できる様にもなるだろう。そのための先生である。ミカさんは助かるし、ナギサ様も頑張ってたし、先生にも頑張って貰わないと。
今回の騒動でティーパーティー三人組の関係には亀裂が入ったが、それは時間が解決してくれる問題であろう。あくまで私見であるが、三人ともお互いを嫌い合っている風には見えないし、腹を割って話し合う機会さえあれば、元の鞘に収まる様な気はする。多分。
それなりに賑わっている道路を眺めていると、不意に肩を叩かれる感覚がした。はて、最近のファストフード店では注文品を届けてくれる様になったのか?
「ねー、お兄さんってば! スマホ鳴ってるよー? 出なくていいのー?」
「歌い出したい気分なんでしょう。そっとしておいてあげましょう」
「そっか! 歌いたくなるときもあるもんね!」
「その通りです」
「ちょっとキミ、ウチの子に変なこと吹き込まんといてくれる?」
「優しい子に育って、親として鼻が高いですね」
「そっちの意味じゃなくて、ツレって意味やからな? わかってるとは思うけど。ボケんのは顔だけにしとき」
「どう考えても顔はボケていませんが?」
千歩譲ってボケていたとしても、顔ではなく頭だろ。いや、もちろん頭もボケていないが。結構な人からボケた顔とか惚けているとか誹謗中傷を受けているが甚だ心外である。むしろ諸君の視界がボケているのではないかね? 俺の曇りなき眼を見習って欲しいものである。
「それよりもいいのー? 電話に出なくって」
「モノを食べる時はね。誰にも邪魔されず自由で、なんというか救われてな「うわっ、めんどいなコイツ」 まさかの途中ツッコミ」
意見を主張する時も邪魔されない様になるべきだと思いました。と言うかこの人、初対面の相手に結構容赦なく突っ込むのな。最近の学生とは、恐れを知らぬ者よ。
「あっ、通話中になったよっ」
「何で?」
『トマリさんっ! 今どこにいますかっ!?』
「お掛けになった電話は『今はそれどころではありませんから!』 へーい」
「ほぼノータイムで音声案内のフリすんなよアンタ……」
「あはは! 似てる〜!」
ケラケラ笑っているが、こっちは笑い事ではないんだが? まあそんな事はさておき、ナギサ様は焦っているご様子なので、一応何があったか聞いておく事にする。何故なら俺は心が広いから。
「それで、何があったんです?」
『セイアさんが突然倒れたのです! 私は既に病院に向かっていますので、トマリさんも急行してください!』
「了解です」
「…………なあ、一向に動く気配もないけど、駆け付けなくていいんか? なんかよう分からんけど、友人が倒れたんやろ?」
「え? まあ慌てた所で仕方ないですから。それに、まだ頼んだハンバーガーも来ていませんし」
「嘘やろコイツ……」
有り体に言えば、俺が急いでも無意味だから。いや、無意味ではないのか? 予知夢関連だったとしても、身体的な不調についてはその手の専門家に任せるしかないからやっぱり無意味か。まあ正直な話、最近では頻度が減っていたとは言え、セイアさんの体調が悪くなるのはそこまで珍しくはないから。
注文したハンバーガーが来るのを待っていると、またしてもスマホに着信が来た。今度はセイアさんかららしい。君は倒れたのではなかったのか? 俺は慈悲深いので出てあげる事にした。
「お電話あr『せん、せぃを……た、け…てく、ぇ……』 うおっ、切れた」
何だこれ、遺言か? 声が掠れていて聞き取りにくかったが、まあ『先生を助けてくれ』で合っているだろう。俺が今からセイアさんの元へ行ってもできる事は特になさそうだから、今回に関してはセイアさんのお願いの方を聞く事にした。
ナギサ様に一報入れ、取り敢えず件の先生に電話してみたが応答なし。何処に居るか、見当も付かないので後は待機で問題なし! 居場所が分からないならどうしようもないな。残念ダナー。やる気はあるのにナー。仕方ない仕方ない。スマホをしまおうとした直後に着信があった。
『もしもし、トマリ? ちょうどよかった。私から掛けようとしていたところなんだ「人違いです。私はそのトマリとやらではありません」 はいはい。それでなんだけど、今から位置情報を送信するから、その場所に来てほしいんだ』
「面倒なのでパスします……と、言いたい所ですが、今回は行って差し上げましょう。なんて寛大な心の持ち主なんだ……」
『自分から電話掛けて来ておいて、ワン切りしてきた輩の宣うセリフじゃないよね』
それを言い始めてしまうと、もう夜に差し掛かっている様な遅い時刻に、街から離れた人気のない地点に他人を呼び出す先生も大概アレな事に言及せざるを得ないが? でも俺はしない。聖人君子は此処に居た。慈悲深過ぎるぜ……。
「ちなみにその用件は何ですか?」
『それなんだけど……。ちょっと複雑な事情があるから、また会ってから説明するね。それじゃあ、悪いけどよろしくね』
「へーい。…………はぁー、やれやれ。人使いが荒い」
電話口で理由が話せない時点で厄ネタ臭しかしない。また一部の生徒に見せられない
「と言うかハンバーガーはまだ『ピリリリリ!』……これでよし、と」
「……なんと言うかまあ、お疲れさん」
「おおー! 人気者だねー!」
「いや、あれはどっちかって言うと、なんかの仕事振られてるだけやろ……」
着信画面に映った名前を見て即座にマナーモードを決行した。それでも尚、携帯がしつこく振動しているが放置。今はアンタの我儘に構っている暇はない。そうこうしている内に漸く注文していたハンバーガーができあがった様だ。
「このポテトをお前に預ける」
「えっ! くれるの!? ありがとー!」
「預けるって言っただろ。食べるの早っ。おい保護者、 教育はどうなってんだ教育は」
「ウチの子がえらい迷惑を掛けて、ってウチは保護者ちゃうわ。まあそんなに言うならこっちのナゲットあげるわ」
「1ピースしか入っていませんが?」
「ポテトなんて移動しながら食えるもんでもないのに、ケツの穴の小さい男や」
「なんだァ? てめェ……」
まあいいや。指摘自体はその通りだし、俺は心が広いので、ポテトの一つや二つぐらいは奢ってあげようではないか。バファリンよりも優しい対応である。最終的にクーポン券を渡そうとして来たが、固辞して店を後にした。
主人公:『確かにボケているときもあるが、そこまで言われるほどでもないだろ』程度の自認